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水色の車と山口

 山口は百目鬼に買い与えられた新車に夢中であった。

 敢えて夢中になっているというべきか。

 山口が運転するには小さいと感じるクーペ型のスポーツカーだが、その玩具みたいな外見が山口の煌びやかな顔立ちをさらに際立たせてもいると楊は感じた。


 車種選びは百目鬼の見立てらしいが、奴は誰が何を持てば最高に見えるのか熟知していると、楊は忌々しく胸のうちで舌打ちをした。


 楊は日産のシルビアという車種の白いスポーツカーが愛車だが、百目鬼はそんな製造中止の中古車をやめて新車を買えと文句を言ってきたのだ。

 そこで百目鬼が楊に薦めて来た車は、現在の山口が乗っているような軽妙な車ではなく、タンドラという名のトヨタの北米仕様のピックアップトラックだった。


 日本の狭い道路事情を百目鬼は知っているのだろうか、あるいは、楊には車を運転するなという意味だろうか、と、楊は悩み中でもある。

 否、百目鬼の単なる揶揄いだとしたらと、それこそ楊は憤慨してもいるのだ。


「ちくしょう。ちっこい俺は、車ぐらいデカい奴を運転しておけという嫌がらせか。」


「何の話ですか?」


 聞き返してきた山口の声が少し明るくなっており、楊はこの話題ならば山口の気がほぐれるのかもしれないと思いながら、百目鬼に言われた事を山口に伝えた。


「この間、あいつにタンドラを買えって言われた事を思い出してね。」


「ああ!良純さんが今欲しがっている車なんですよ。青森で孝彦さんに乗せてもらったら、凄く乗り心地が良かったらしくて。パワーのある車を欲しがるって、あの人らしい。」


「いや、ちょとまて。なんであいつは自分が欲しい車を俺に?」


「え、普通にあれにしたらって薦めているだけでしょう?僕にも最初はあれはどうだって言ってきましたよ。」


「でもこれなんだ?ホンダのS660、だっけ?」


「取りあえず良純さんは新車のパンフを色々持ってきてくれてね、それで、僕がこれが可愛いねって言ったからでしょうか。一緒に見に行って、試乗したら、お前はこれにしろって、言ってくれて。ははは。」


 山口はまた落ち込みに戻った。

 落ち込んだからと運転に集中しだした。

 そして楊は、百目鬼が試乗した時に山口にこの車だと決めさせた理由が良くわかると、運転する山口の横顔を見ながら考えた。


 水色のスポーツカーを運転する山口の姿は実に素晴らしいことこの上なく、楊が知るだけでも三回は反対車線の女性運転手が車の操作を誤りかけ、信号で止まれば横断者が呆けて運転手の彼に見惚れる有様なのだ。


 取り外しの出来る屋根を外してオープンカーにしているから尚更だ、と楊は山口の運転する車を羨ましく思う自分を忌々しく自戒した。


 そんな周囲の賞賛の視線を浴びながらも、一向に周囲が気にならないほど山口が運転に夢中になるのは、彼がその車で向かう先と現在の不幸を忘れたいからかもしれない。


 当初、楊も髙も山口には玄人の意識不明を伝えることをしなかった。

 玄人の意識を失わせたのが長谷であるのならば、玄人に命の危機があるはずがなく、山口の刑事生命が掛かっている研修の方が大事だと判断したからだ。

 しかし、玄人を百目鬼の願いどおりに転院させた後に、楊は山口に玄人の状態を伝える必要に迫られたのである。


 それは、百目鬼に楊が縁を切られたからだ。

 玄人の姿を目にした百目鬼に罵られることは想定内だが、百目鬼は転院した玄人を迎え入れて対面するや、そこで楊に電話をしてきたのだ。


「これがお前の本意か?」


「何言ってんの?」


「玄人はどうした?」


「いや、だから、そこに。」


「お前にはわかねぇならいいよ。」


 ぶつ、ツーツーツーだったと楊は思い出す。

 百目鬼がその電話の後から楊への連絡を一切絶つとは、楊にとっては想定外である。

 そこで楊は玄人の状態の悪化を懸念し、山口に伝えることに踏み切ったのである。



馬最終章を書いた時は、ホンダのS660は、言葉通りの新車という新規モデル販売車でした。

凄く可愛い車だと見惚れた車で、購入も運転も出来ない自分は山口に乗せたいと思いました。

それでも現行車の名前はぼかすべきと思い、設定には山口の車はホンダのS660と記載していましたが、文上では車種名もメーカー名も書いていませんでした。

ホンダのS660、2022年に廃番になってしまうのですね。

だったらと、メーカー名と車種名を載せました。

シルビアS13もS15も廃番車で、当時では車両保険が一番高くなるのに人気があるという事で、車大好き楊の愛車にしましたが、今は現役で走っている車はあるのでしょうか。

自分は車を乗る機会がなくとも、名車と呼ばれる車が消えていくのは悲しいものがありますね。

おにふすべで東野が軽のSUV車にぶつけた車は、私の脳内では、ロールスロイスファントムです。

東野の霊力を使っての突撃なので、まさにファントムアターックという感じです。

ぶつけられる軽のSUV車とは、スズキのハスラーです。

嫌いなんじゃなくて、ハスラーの外見もマニュアル車でもあるという点が大好きだからこその登場ですが、壊される車として、それも霊力を使っての衝撃だとしてもひどくひしゃげてしまう描写は申し訳なくて車名は出せなかったです。

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