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疑うらくは是、命が九天より落つるかと(馬終話)  作者: 蔵前
一 大事なものは二つあるといいね
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僕達はけものを持っている

 僕は生還した事を喜びながらも、体の変化にやはり人並みに落ち込んだ。

 しかし、そんな僕と反対に、周りが完全に「どうでもいい。」扱いをしてくれるのは仕方がないとも言える。

 何しろ、体が変化する前から精通が無いどころか髭も生えず、生まれた時に男性器らしきものをぶら下げているからと戸籍上は男とされていただけの生き物でもあるのだから、体が女性体に変化していない時であっても、僕はどちらでもあるがどちらでもないという存在であったのだ。


「ちゃんと願い事をしたか?」


 真横から囁く楊の声に、僕は再び横に転がる彼に目を向けた。

 楊は魅力的な目元に笑いジワを寄せて、一層魅力的な顔立ちにして僕に微笑む。


「早過ぎてお願いなんて。」


「お願いするなら何だ?言ってみろ。」


 眉毛を軽く、でも大げさに上下させて楊は僕の言葉を誘う。

 そしてそんな彼の周りで、白い生き物三匹がぴょんぴょんと跳ねて纏わり憑いていた。

 その生き物はオコジョ。

 本当は生き物ではなくお化けの部類だ。


 僕の実家の姓は武本。

 昔は百貨店経営。現在は通販と訪問販売に絞って展開している武本物産の一族は、オコジョを使役する飯綱使いの一族でもある。

 使い魔のオコジョを商品に憑けて客に飛ばすと、客に欲しいものが出来た時にオコジョが主人の元に舞い戻るのだ。


 ズルの様でもあるが武本はそうやって栄えてきた。

 そして、そうやって栄えてきたからこそ、妬みそねみと呪いの類も数多く受けている。

 それで当主である僕は殺されかけたのであり、苗字を変えるという良純和尚の機転が、その時には「武本玄人の死」という限定された呪いだったからこそ有効だったのだろう。


 しかし、その後の僕が百目鬼姓となったから安泰かといえばそうでもない。

 染色体異常で生まれた僕には既に寿命などなく、気力か体力が落ちればあの世行きだ。

 僕が生き永らえているのは、ひとえに「武本家の呪い」があるからだ。

 武本家は短命の一族であるがゆえに、人間五十年の時代に「当主は五十歳まで生き長らえさせて下さい。」という願をどこぞの神様にかけたのである。


 その願いは受け入れられ、とてもとても強固に武本家に干渉し、人生百年の時代においても武本家の当主は五十歳までしか生きられない呪いにと変わってしまったというものだ。

 従って、当主の僕は五十歳くらいまでしか生きれないが、前述したとおり、実際の僕は二十歳までの寿命しか持たずに生まれてきたのであるから、これは僕にとっては福音でしかないだろう。


「ほら、言いなさいよ。」


 ギュッと頭をつかんで引き寄せられた。

 楊の体に上ってきたオコジョが、そのまま僕の胸元にぴょんっと乗った。

 僕のオコジョであった三匹は楊を気に入り過ぎて、彼が見えることを良い事に彼の持ち物となった裏切り者だ。


 だが、僕には露天風呂を一杯に出来るほどのオコジョがいるのだから特にかまわない。

 可愛がられて浄化する彼らが、可愛がられたいと楊に媚を売るのは当たり前だ。

 僕自身彼が大好きで堪らないのだから。


 楊の胸の上に乗る鳥も僕の内心に同意するように、僕達にしか聞こえない声でカエルのような叫びを上げた。


 ピンク色のガラスのような大きな目に真っ赤な平べったい嘴を持ち、正面顔がカエルのような間抜けという真っ黒な不細工鳥なのだが、楊は「ガマグチヨタカさんの姿をした可愛い子。」と絶賛している。

 どうでもいい、が、僕の本意なのは楊には内緒だが。


 さて、何でも燃やすこの恐ろしい鳥は、式神という僕のオコジョのような「使い魔的」なものでもあるが、オコジョのように死んだ魂から作られたものではなく、楊自身の能力が具現化したものであるのだ。

 それなのに、寝てばっかりで命令が上手く届かない面倒臭く扱い辛い性質であるので、楊はヨタカを能力として扱うことを諦めて、愛玩動物として可愛がることに決めてしまったようである。

 自分の能力であったものなのに放棄せざる得ないとは、悲しいがそれも仕方がないであろう。


 楊の責任ではないのだ。


 このヨタカは楊が自分で作り上げたものではなく、楊が知らぬ間にどこぞの悪魔に勝手に能力を奪われて、勝手に具現化した鳥にされ、適当な時に悪魔に騙されて手渡された代物であるのだから。


 けれど、使い魔など見えない時代から落ちている生き物は何でも拾う男であった楊にはそれくらいはたいしたことは無いらしく、生きている元々のペットのワカケホンセイインコの乙女と二羽の文鳥と同じくらい化け物鳥に愛情を注いでいるから驚きだ。

 コールタールのようにぐしゃっと楊の胸の上につぶれて寝なおし始めたヨタカに少々の嫉妬を覚えつつ、僕はそっと横に動いて楊の肩に頭をくっつける。


 期待通り、楊は僕の頭をそっと指先で撫でた。

 ほんのちょっと、風がくすぐるぐらい。


「ほら、ちび、お願いを言ってごらんよ。」

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