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疑うらくは是、命が九天より落つるかと(馬終話)  作者: 蔵前
一 大事なものは二つあるといいね
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屋根の上の二人

「流れ星だ!」


 僕は屋根の上で寝転がって、温かい腕を枕にして春の夜空を眺めていた。

 しかし、僕が枕にしている腕は恋人のものでない。

 恋人の腕ではないが信頼できて大好きな人の腕だ。

 その腕の持ち主は僕の養父でもない。


 養父の親友だ。


 彼の名前はかわやなぎ勝利まさとし

 相模原東署で特定犯罪対策課、通称特対課とくたいかの課長をしている三十一歳の若き警部だ。

 けれど童顔のためか、彼は三十代には確実に見えない。

 それだけでなく、透明感のある色白の肌に太すぎず細すぎない筆で描いたような美しい眉の下に印象的な二重の大きな瞳が輝き、高いがごつごつした感の全くない中性的ともいえる鼻を持ち、完璧な口元がいつも気さくそうに笑っているという、俳優顔負けの美男子でもあるのだ。


 しかし、彼の完璧な外見にも瑕疵は存在する。

 二十代の頃に峠から車ごとダイブという自動車事故を起こし、それによって全身に大なり小なり様々な一生消えない傷跡が残っているのである。

 まるで陶器の人形にひびが入ってしまったかのように。


 だが、本人どころか誰も彼の傷跡を気にしたことがない。

 大きなものは服で見えない部分にあるからかもしれないが、頭部にはミミズのような禿が残っているのに、である。


 理由は単純だ。

 傷跡が寝癖のような変な癖を頭髪に及ぼすことで、彼を悪戯好きな美青年という錯覚を招く小道具になっているのである。


 楊を高校時代から良く知っている僕の養父に言わせれば、楊が「ただでは転ばない男」だかららしい。


 そんな辛辣な言葉を親友に吐ける鬼のような僕の養父の名は、百目鬼とどめき良純りょうじゅん

 良純和尚は僕の実家の菩提寺の住職と同じ宗派の禅僧である。

 つまり、彼はこの繋がりで鬱に罹った僕の相談役となり、「呪い」という非科学的なもので殺されかけた僕を助けるために、「苗字が変わればいいだろう」と僕を養子とした。

 乱暴な行動だが実際に僕は助かり、僕の実家一族連中には「神様」と崇めたてられているといっても過言ではない。


 実家の家業の商売に関してまで、全て、「良純様の仰せの通り」でお伺いを立てるほどなのだ。

 法律にも商売にも詳しい、債権付競売不動産を主に取り扱うやり手の実業家でもあるのだから、僕同様に面倒くさがりの一族には彼に疑いを抱くよりも言いなりになりたいのは当たり前の事だ。

 まぁ、彼が間違える事も殆どあるわけなく、本人的に真っ当な僧侶を目指しているらしいので、「騙して横領する」なんて考えもつかないだろうから、優秀すぎる彼に全部任せでも問題はないのだ。


 ちなみに、良純和尚が本人的に「実践している」と思っているらしき行動は、「真っ当な僧侶」と程遠い気がする。

 彼は「善を通す」ことを一番としているが、その善のために悪行にしか見えないことをやり遂げてしまうのだから、それは「善業だったのだろうか」と後々に楊が頭を抱えていたりするのだ。

 楊に言わせれば、いや、僕こそ心の中でひっそりと考えていたが、良純和尚は「メフィストフェレス」の化身であるようだ。


「あいつは人を惑わせてしたくもなかった筈の契約を結ばせるだろう?」


 楊がそう言い切るには理由がある。

 良純和尚も完璧な外見をしているのである。

 楊が映画俳優のような完璧な美男子であるのに対して、良純和尚は神々を模した彫像のような完璧さなのだ。


 意志の強そうな高い頬骨とまっすぐな鼻梁が、細身で洗練された輪郭と顎のなかに完璧に存在し、一筆書きの流れるような眉が切れ長の奥二重の目元を飾っている。

 口元は「男らしい」の一言に尽きる真一文字だ。

 その上、首の下は引き締まったダンサーのようなしなやかさを持つ八頭身のモデル体型なのである。

 また、百八十を超える大柄な体に見合ったその声は、背骨に深く響く見事なバリトンだ。


 我が一族が絶賛する彼は、楊が言うとおりに彼自身がその外見と声で人を魅了できる男なのである。

 魅了どころか、心胆を寒からしめる声をも使えるとくれば、声だけで人を操れるほどなのだ。

 法的知識もあるのだから、そこらの素人が敵うわけなどいないであろうが。


 そんな男性の子供になって、彼の親友の楊にも弟のように可愛がられて守られている僕の名前は百目鬼とどめき玄人くろと

 二十一歳の誕生日の頃に殺されかけ、生還する引き換えか、少年の体だった肉体の胸が成長し、上半身が少女のような体になってしまったXXYの人間だ。

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