宮辺が楊を唾棄するのは!
髙自身は、死人事件など滅多に起きないから楽ができると思ったからと楊に嘯いているが、発足から連続して死人事件が特対課に襲い掛かり、気がついたら楊を筆頭に、部下達全員が嫌な位に死人事件のベテランになっていた。
楊はこの結果に、髙が自分が暴れたいから、あるいは死人達の反乱を事前察知していたからこそ、特対課を作ったのだと邪推してしまったほどである。
そんな特殊な課であるのだから、死人を知っている専門の鑑識班も必要だと、やはり髙が作り上げたのが宮辺が率いる鑑識班だ。
しかしながら、宮辺は楊に協力するどころか、楊が恋敵だと辛く当たるのである。
玄人には山口という公認の恋人がいるのであるが、宮辺が当たるのは不可解な事に楊ばかりなのである。
当たるだけならまだいいが、宮辺は楊と同じ空気を吸う事も厭っている感じだ。
最初の頃はいい関係だったのにと、楊は寂しく考えながら同行者の主任を追いかけ追いつき、楊に追いつかれても目線を寄越すどころか完全無視の敵対者を横目で見ながら大きく溜息をついた。
「百目鬼の口癖じゃないが、世界は狂っているよ。」
ところがその言葉に宮辺は噛み付いた。
「狂っているのはかわさんでしょう。婚約者のいる男が、婚約者のいない隙に無防備なクロちゃんを誑し込んで一緒にベッドに入っているって、汚らわしい。」
「ど、どどど、どうして、一緒にベッドに入っていたって断言するのさ。君が深夜に、ついさっきの我が家の呼び鈴を鳴らした時は、叩き起された俺もちびもリビングで宮っちに友好的だったよね。俺たち全然、ぜんぜーん普通だったよね。何よ、その言いがかり。」
「その慌てぶりが何よりの証拠でしょうが。鑑識官として事実を突きつけさせていただきますが、あんたと一緒に俺を出迎えてくれたクロちゃんから、あんたの濃厚な臭いがしたんですよ。それも首筋どころか胸元からも。」
「え?」
宮辺の言葉に虚を突かれた楊は、玄人の首筋から胸元を思い出してしまい、芋づるの如く玄人との人に言えない映像が甦ってしまったのだ。
ほんの二時間前。楊が作ったブランデートリュフを口にした玄人は、白い肌を桃色に染めただけでなく、酩酊して屋根に転がってしまったのである。
一パーセント程度のアルコールで、普段であったらここまで酔わない彼が完全に酩酊してしまった事に驚いた楊は、慌てて彼を抱きかかえて自室に連れて行くと、すぐさま目の前のベッドに転がした。
通常、楊の家に玄人が泊まる時には、楊の自室にあるサブベッドに彼を寝かすのだが、慌てていたからか、楊は自分のベッドに玄人を転がしてしまうという失態をまず犯した。
「あぁ、俺の寝るベッドに屋根の汚れがついてしまう。しまった。おい、ちょっとちび、起きて!着替えようよ。」
「うん。」
返事だけして玄人はごろりと転がった。
「あぁ、もう。」
一六〇センチの身長でも細く軽い玄人は、人命救助や被疑者の制圧など人の体の扱いに慣れている楊には小さな人形みたいなもので、楊の手によって次々と彼の衣服は剥ぎ取られていった。
そして、自分が作ってしまった光景に楊が気づいた時には、玄人はグレーのタンクトップに同色のフィット系のボクサーパンツだけのしどけない姿となっていたのである。
その時点の玄人の姿に楊は欲情などはしていない。
玄人の姿に罪悪感と哀れみだけが湧いて出ただけである。
玄人が着用しているタンクトップは、女性化して胸が出たことで百目鬼に買い与えられたカップ付きのものだ。
その形はシンプルだが、玄人がそれを着用するまではかなり抵抗したと楊は百目鬼から聞いていた。
XXYの遺伝子の体を受け入れて生きていたが、肉体が女性化することまでも受け入れていなかった哀れな子供。
楊が守りきれなかったから殺されかけ、自らを守るために変化した体であるのだ。
「俺のパジャマでいいか?すぐに着せてやるからな。」
「う……ん。このままでいい。」
再びごろりと転がったせいか、タンクトップの裾は持ち上がってちいさな臍を楊に見せ付けた。
おまけに、あろうことか左腕を上げて光から顔を隠した仕草で、隠されなかった唇が男を誘うような輝きを帯び、あまつさえ、つんとつった布地に素晴らしい体の曲線を浮かび上がらせたのである。
その寝姿がかなり扇情的で、楊の婚約者どころか今まで彼が女性に感じたことが無かった劣情を身の内に掻き起こしたのだと、楊は自分に仕方が無いのだと言い訳をした。
初めての感覚に突き動かされた彼は、何も考えられないまま自然と玄人に引き寄せられ、彼のぷっくりとした水蜜桃を思わせる唇に自らの唇を重ねてしまったのである。
最初は軽く、次第に熱を帯びた深いものに。