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疑うらくは是、命が九天より落つるかと(馬終話)  作者: 蔵前
二 良純和尚はお山から玄人を思う
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行動一つで全て崩れる

 ろくでなしの玄人は楊に賛同してもらえないと知るや、楊の腕から逃れるとスススと俺の脇に寄って来て座り直した。

 俺は右腕でギュッと彼の腰を抱きしめると、彼はぴたりと俺にくっついた。


「ちょっと、おい。君たちは、いいの?そんな考え方で生きていって、いいの?」


 俺達は顔を合わせ、それから楊を同時に見返した。

 俺達の素振りが寸分たがわずだったからか、楊がほんの少しだけびくっと震えた。


「な、なに?」


「俺の檀家じゃないしいいよ。」

「今から仲良くなるのも面倒だからいいかな。」


 楊はがくっとその場にしゃがみ込んだ。

 まぁ、何時ものことだ。

 彼は数秒しないで立ち直り、俺達に警察官として当たり前の提案を行った。


「でもさ。今回の相手のことはなあなあで済ませちゃ駄目でしょう。また襲われたらどうするのよ!あいつ、俺の事をちびの愛人だと思い込んでいたからね。変な噂を立てられても困るでしょう。」


「あぁ。あいつの言っていた浮気相手の二人って、一人はかわちゃんか。あと一人って誰だろ。良純さんわかります?」


 ぱしんと玄人はいつものように楊に頭を叩かれ、俺は玄人の念頭に無い恋人の山口が哀れで重い腰を上げた。

 ぎゃんぎゃん騒ぐ楊が面倒で、町内会長に苦情を申し立てた方が楽な気がしたのだ。

 しかしそこで相手の身元を洗った際に、「半年前」という言葉を聞いて会長の言うとおりに「穏便に」済ませてやった。

 そこも失敗だった。


 発情中の元井もとい和也かずやは、穏便に済ませてもらったことを玄人が自分を庇ったのだと勝手な勘違いをして妻と離婚騒ぎを起こし、よって、その数日後に、和也と別れたくない妻が雇った別れさせ屋という仕事屋に玄人が誘拐されかけたのである。

 彼らは玄人に接触して話し合おうと考えたが、玄人を目の前にして連れ去りたい気持ちが沸いたのだと証言した。


 気持ちだけでなく、頭も沸いていた模様だ。


 その場は玄人のオコジョが主人以上の良い仕事をした。

 雷獣でもある彼らは、誘拐犯のワンボックスカーの電気系統を破壊したのである。

 エンストを起こした車は発進できず、玄人の叫び声で近所に来ていた山口が必要以上に発奮し、玄人は怪我一つなく無事だが、山口に襲われた誘拐犯全員が病院送りになってしまった大事件となった。


 結果、山口は謹慎と減俸三ヶ月の憂き目に合い、我が町内会は若夫婦を失った。

 元井家は離婚して家を売りに出し、夫妻ともそれぞれの勤務先の会社も辞めての行方不明なのだということだ。


 我が家に怒鳴り込みにきた妻の親族によれば。


 我が家が慰謝料を払うべきとは、妻の親族も大概である。

 俺は僧侶として二度とそんなふざけた考えを起こさないように指導してやったのだが、忘れっぽい人間はこの世には沢山いる。

 逆恨みという感情は弱いものに向かうものだ。

 よって、玄人を一人で町内を歩かせられない状態となっているのである。


「どうして馬鹿は馬鹿を引き寄せるのだろうな。」


 帳簿の数字を読みながら俺は思わず呟いていた。

 金が足りないと会計方が頭を悩ませた割に、どこで金が消えたのかわからない横領事件。

 横領などしたばっかりに、今まで積み上げてきたものを潰すとは馬鹿としか言いようが無い。

 俺はその馬鹿と話し合うべきか、珍しく悩んでしまっていた。


「どうしようかな。」

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