第20話 後遺症
魔人となったカルロにマジックドレインを使い人間に戻した後、俺とテレール先生でカルロをその両親であるフェブロス侯爵夫妻のもとに運んできた。
そして、事の経緯を説明したわけだが、最後にカルロがもう意識を取り戻さないかもしれないと言ったことで夫妻は絶句したというわけだ。
「もう、カルロは、カルロは、あの元気な姿を見せてはくれないというのですか」
フェブロス夫人は俺に食って掛かってきた。本来ならありえない行動だが、気持ちはわかるので甘んじて受けていた。
大切な人を失う気持ち、それは、俺も痛いほどよくわかる。あれは二度と味わいたくないものだ。
「これ、やめないか」
フェブロス侯爵も夫人の行動に止めようと動こうとしたが俺がそれを制した。
「以前、この方法で魔人化を解かれたものがいます」
俺は静かに過去の話を始めた。
それは今から大体60年ぐらい前、ある村に変わり者で、周囲から理解されない男がいた。この男、最初こそなぜ受け入れらないのかと必死に悩んでいた。周囲に聞こうとしたが、誰も答えてくれない、なぜだ、なぜなんだと、本当に悩んでいた。しかし、悩みに悩んだ挙句、あることに気が付いた、男は自身の考えがそこに住む者たちと違うからだと、彼らは自分たちと違うもの、異物を忌み嫌ったというだけの話だった。
それだけで、村人たちは男をのけ者にし、理解しようともせず、仲間外れにしていたということだ。
男は、なぜ自分を理解しないのかと、なぜ、考えが違うというだけで、自分を外すのか、なぜ、と、そのものたちを恨みながら森の奥に引っ込んでいったという。そこで1人静かに村人達への恨みを持ったまま暮らしていた。
そんな時だった、その彼が住んでいた場所が偶然魔素だまりとなっていた。
彼は運がよかったのか、悪かったのか、魔素に対する耐性が強かった。そのため、大量の魔素を浴びても体に異変が少しあるぐらいで全く気が付かなかった。
そして、ある日、彼は魔人となった。
そうなると、もはやだれにも止められない、魔人となった彼は自身を理解しなかった村を襲撃したのだ。
村は滅びたが、彼は止まらない、そのまま別の村もまた襲撃したのだった。
「その話は、聞いたことがあります。ですが、冒険者によって討伐されたと聞きましたが」
そう、この男の話は有名で多くの者が知っている話だ。でも、それは真実ではない。
「真実ではないというのは、どういうことです」
ここで、テレール先生が食いついた。
「実は、男を討伐した冒険者というのが母の先祖でして」
母さんの先祖、つまりは母さんの爺さんの話だ。
当時、テイルミットの話をまとめるために冒険者として旅を続けていた爺さんは依頼を受けてその村に訪れていた。
そこで、魔人となった男と遭遇したのだ。
そして、爺さんは、過去更なる先祖が対魔人用に開発していた魔法マジックドレインを使ったというわけだ。
「そのご先祖様がなぜ、そのような魔法を開発されたのでしょうか」
ここで、テレール先生が疑問を投げかけてきた。
「そうですね、母によると、その先祖、友人が魔人となったようです。ですが、その時はまだ開発されていませんでしたから、泣く泣くその友人を討伐したということです。その先祖はその友人を助けられたのではないかという思いでこの魔法を開発したそうですよ」
俺はそういって説明した。
「それで、その男の人はどうなったのですか」
夫人がつづきを尋ねてきた。
それは男がどうなたのかということだろう、ということで話を続ける。
爺さんが放ったマジックドレインは見事男の魔人化を解くことができた。
しかし、男はその後生涯意識を取り戻すことなかったという。
「……そ、そんな、カルロ」
それを聞いた夫人は涙を流し始めた。
「ですが」
俺はそこで、ある希望を言うことにした。
「男は、当時すでに50過ぎ、生きていたのも数十年でした。対してご子息はいまだ10代と若い、まだこれから何十年もあります。その間に精神が回復すればあるいは……希望は捨てるべきではないかと思います。これは、聞いた話ですが、数十年と意識がもどらなかったものがある日、意識を取り戻したという話を聞いたことがあります」
これは前世の記憶だ。前世でそんな話をテレビで聞いたことがあった。
「ほ、本当ですか」
これにはフェブロス侯爵も食いついた。やはり、息子のこと気が気じゃなかったのだろう。
「はい、ですので、希望は捨てずに、とにかく話しかけてやってください、人は、意識がない時でも耳は聞こえているといいますから」
「わかりました。そうしますわ」
「ありがとうございます。カペリオン殿」
その後、夫人はカルロに話しかけ始めたために、俺たちは退室した。
「それでは、これで失礼します」
「ええ、本当にありがとうございます。カペリオン殿に言われた通り、今後も息子に話しかけて行こうと思います」
「そうしてあげてください。話しかける内容は、何でもいいと思います」
「うむ、そうします」
そうして、俺と手レール先生はフェブロス侯爵の屋敷を後にしたのだった。




