第02話 穏やかな5年間
俺がこの村にやって来たあの日から5年の月日が経った。
「テイル、ちょっとこっち来て―」
「なにー」
母さんが俺を呼んだ。
そう、俺はこの村でテイル・リップという名をつけられた。名をつけたのは母さんで、5年前俺を見るなりかわいいといった人だ。
この名前、俺としてはどうしても英語の尻尾をイメージしてしまうが、この世界ではそうではない。その由来は、かつていたとされる英雄テイルミット・エルスペールから来ている。ちなみに、母さんの名前も俺と同じテイルミットからミットの部分を取り、ミントとという名前だ。
それと、俺の苗字に当たるリップの意味は、この村の名前となる。
だから、この村出身の人間ならだれもが、リップの名がついている。
ここで、少し俺が保護された後の話をする。俺に何があったのかを調べるために、母さんと数人の村人たちでスベンがやって来た方角へと向かった。
すると、しばらく行った場所に馬車の残骸と、2人の魔熊という熊の魔物に襲われた遺体、それを襲撃したと思われる魔熊がいたそうだ。
それで、何があったのかを察知し、魔熊を討伐した後、両親の遺体とともに村に引き返してきたという。
そうして、両親の遺体は村人たちで共同墓地に丁寧に火葬された後、埋葬された。
この世界では、遺体を放置するとアンデッド化する可能性がある。それは土葬しても同じという。そこで、一般として火葬するそうだ。まぁ、時の権力者や英雄と呼ばれる人の中には保存の魔法をかけてそのままの状態で安置されることもあるそうだ。
それから、引き取り手のない俺をどうするかとなったわけだが、その時母さんが俺を育てると立候補してくれたというわけだ。
そんな経緯で俺はこの5年、このリップ村で育った。
「ちょっと、これをサディのところにもっていってくれる」
そういって母さんから渡されたのは薬草だ。
「うん、わかった」
母さんは、元冒険者、そのため薬草なども詳しく医者や薬師などがいないこの村では重宝されている。
というわけで、俺はサディおばさんのもとへとやって来た。
サディおばさんは母さんの幼馴染で、冒険者になった母さんに対してこの村にずっといた。それで村のガレウスおじさんと結婚したそうだ。
実は2人ともまだ20代なのでおじさんやおばさんというのにはまだおかしいが、母さんと年が近いしというわけで本人たちがそれを求めてきたのでそういうことにしている。
そして、その2人子供がいるわけだけど、名前はウレサといい俺の2つ上だそうだ。
そんなウレサが今風邪をひき母さんに薬草を頼んだというわけだ。
「サディおばさん、テイルだよ」
俺は、家の前に立ちそういった。
「あらあら、テイル、悪いわね。ちょっと待って、今開けるから」
「はい、これ、母さんから」
「ありがとう、ミントにもお礼言っておいて」
ミントというのは、俺の母さんの名前だ。
「わかった。それで、おばさん、ウレサ、どう」
ウレサというのは、今風邪をひいているサディおばさんの娘だ。
「ありがとう、でも、大丈夫よ。ミントの薬草はよく効くからね。すぐによくなるわ」
そういって、サディおばさんは笑った。まぁ、実際母さんの薬草はよく効く、その代わりものすごく苦い。
「そっか、それじゃ、僕帰るね」
そういって俺はその場を後にした。
「ただいま。サディおばさんお礼言ってたよ」
「そう、ありがとう。ウレサは大丈夫だって」
「うん、おばさんそういってたよ」
「そう、ならよかったわ。じゃあ、ご飯にしましょう」
「うん」
それから、俺と母さんは家の食卓で向かい合って昼ご飯を食べた。
転生した俺は異世界でこうして母さんに育てられ、母さんと同じように冒険者として生きて行くのだろうと思っていた。
そう、それは、突然やって来たのだった。
その日、俺はいつものように、命の恩人でもあるスベンの体を洗い、櫛でその毛を解かしていた。
「スベンは、本当にいい毛並みだなぁ」
「ヒヒーン」
スベンは嬉しそうに一鳴きした。
「テイル、あら、スベンの手入れ。本当に仲がいいわね」
「まぁね」
「ヒヒーン」
何やらスベンが不思議そうに鳴いている。
俺はふとそのスベンが見ている方を見た。
「どうしたんだ、スベン」
俺がその方向を見るとそこには大きくて立派な馬車と、それを引く複数の馬の姿だった。
そして、その馬車の周りにはたくさんのロバに乗った騎士だった。
ちなみに、この世界では馬だけではなくロバまで違う、なんかこの世界のロバは姿がかっこいい、顔がりりしいし、何より4足歩行ではあるが、結構早いらしい。
そのため、この世界では騎馬といえばロバを指す。まぁ、スベンのような馬は2足歩行だから乗りにくいからな、基本馬車を引くなどとなる。
「村長はおるか」
村に入るなり偉そうにロバに乗った男が村長を呼んだ。
「はい、お待ちを、あっ、村長!」
村の入り口に付近に立っていた。カザラスおじさんが慌てて村長を呼びに行こうとしたが、騒ぎを聞きつけて村長がとんできた。
「はぁ、はぁ、わ、私が村長のドレイクです。リップ村にどのようなご用件でしょうか」
「それは、ワシから説明しよう。しかし、少々込み入った話となる」
そういって馬車から1人の身なりのいい爺さんが降りてきた。
「はぁ、でしたら、私の家におこしください」
それから、村長に案内されて爺さんと数人の男女と騎士が数名、村長の家に入っていった。
「一体、何だろうな」
「そうだよね」
「あれって、貴族様だよね」
俺たち子供組は陰からその様子をうかがっていた。
それから少しして、俺もとに母さんがやって来た。
「テイル、ちょっとこっち来なさい」
「なに」
何か突然呼ばれた俺は何だろうと思いながら母さんの者とへと向かった。
そうして、母さんに連れられて村長宅へと足を踏み入れると、先ほど中に入った人たちが一斉に俺を見てきた。
「えっ、なに」
「この子が、先ほど話したテイルです」
困惑した俺をよそに母さんが俺を紹介した。
「えっと、なに、一体」
「おお、そなたが、ああっ、確かに、似ている。その目元、まさに生き写しだ」
なぜかそういって身なりがいい爺さんが俺に抱き着いてきた。
えっと、何だこれ。
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