第16話 家に帰るまでが遠足です
士官学園新入生恒例行事、親睦旅行に来たわけだけど、そこでは何とかクラスメイト達との親睦を深めることができたと思う。その証拠に一夜を共にした同室の者たち、昨日ともに馬車に乗った者たち、同じ班となった者たちとは、会話をすることができている。といっても、やはり俺に対しては様付けで、敬語という壁はあるが、それはまぁ、仕方ないだろう。俺としてはおいおいそれらが取れてくれればいいと思っている。
というわけで、親睦旅行も終わり学園へ帰るために馬車に乗り込んだ。
「楽しかったですね。テイル様」
馬車に乗り込んでさっそくエレンが話しかけてきた。
「そうだな。みんなも、思っていた以上に打ち解けてくれたしな」
そう、その証拠に行きの馬車内は誰一人話そうとしなかったし、ちょっと緊張からピリッとしたものがあった。しかし、今は馬車に乗り込むなりそれぞれが会話をしている。これは、少なくともこの10人が俺になれたということだろう。
「テイル様が、思っていた以上に気さくな方だったからだと思います。私もそうですけど、みんなやっぱり、貴族様にはどうしたらいいかわからないですから」
「そうですよ。貴族生徒はともかく俺たち平民生徒に至っては、下手したら不敬罪を食らいますからね」
バルドがソニヤータの言葉に同意した。
「そんな、ことはしないんだけどな」
俺としては、不本意なことである。
と、こんな風に平民生徒も貴族生徒も気軽に話してくれる。まぁ、敬語なのは仕方ないだろうとあきらめるか、これからの付き合い方次第だろう。
それから、俺たちを乗せた馬車は順調に走り出した。その中といえば、話をするもの、昨夜の疲れからか居眠りをするものなどとリラックスムードとなった。
そんな風に進んでいると、不意に前方に大きな魔力反応を感知。
「んっ、なんだ」
「どうしまし……えっ、なに」
俺が異変に気が付いていると、隣にいたエレンも俺に尋ねようとして途中で気が付いたようだ。
「なんだよ、これ、魔物か」
「それにしても、かなり強力なものよ」
馬車の中がざわついてきた。
「どうした」
俺は馬車から顔を出して、近くにいた護衛の兵士に尋ねた。
「はっ、申し訳ありません、今、確認してまいります」
俺が乗っている馬車は特に一番前というわけではないために、前方で何が起きたかというものは見えない、そこでその兵士は確認のために走った。
そして、戻ってきたわけだが、その顔は真っ青だった。
「何があった」
俺はただならぬことと考え、兵士に尋ねた。
「ま、魔人、です。魔人が現れました」
!!!!!
魔人、そう聞いた瞬間馬車の中が凍り付いた。
魔人とは、簡単に言えば人間が魔物化した存在だ。
どういうことかというと、もともと魔物というものは、魔素だまりから生まれるか、魔物から生まれるか、動物が魔素だまりにとどまって大量の魔素を浴びることによって変異するわけだが、この中の魔素を大量に浴びた人間がなるものだといわれている。
この世界の生物はみんな、この魔素を空気中から体内に取り込み、それを魔力に変換して魔法を使う。しかし、この魔素は生物にとっては猛毒で、自身が持つ許容量を超えるとたちまち死に至るという危険なものだ。(通常は、限界まで達したところで魔素を吸収しなくなる)
そんな中でも動物の場合低い確率ではあるが生き延び魔物化する。
人間も同じ生物だし、同じことが起きるかというと、人間の場合少し違う、人間が魔物化する条件は、まず潜在魔力量が膨大であること、基準としては大魔獣を討伐できるような英雄並みであればいいといわれている。それから、強い恨みや怒り、それらを持った状態で魔素だまりなどに長時間居続け、魔素を大量に取り込まなければならない。実際、これは現実的ではないだろう。そもそもそこまでして魔人になりたいものはいないし、何より確率で考えると、ほとんどの場合魔素の毒で魔人となる前に死亡するからだ。
そんなことを考えながら馬車を降りて、現場へと向かった。
「来たのね。テイル」
現場につくとそこには先生方とウレサたち生徒会役員たちが集まっていた。
「魔人が出たって」
俺はウレサに聞いた。
「ええ、しかも、最悪よ」
ウレサがそういって指をさしたので、その方を見て俺は目を見開いた。
「カルロ、だよな」
そう、魔人はフェブロス侯爵の元嫡男であったカルロだった。
「そうなのよ。でも、なんで、彼が……」
俺もそれは思う、カルロは俺が見た限り多少は魔力量は多いが、魔人化できるほど多いとは思えなかった。というか、そもそも、魔人化するためには少なくとも魔素だまりに数日はとどまっていないとならない。でも、カルロは昨日、俺たちが親睦旅行に出かけてすぐ、教会に向けて王都を発ったはずだ。
だから、そんな短期間で魔人となるなんて普通ならありえない。
「ありえないよな」
「って、おいおい、魔人かよ」
とここでダレスがやって来た。
「ひぃ」
そんなダレスと一緒にやって来たスズをはじめとしたほかの者たちは、魔人を見て悲鳴を上げている。
「とにかく、お前ら、下がれ、侯爵様、お下がりください」
そんな様子を見ていた、ヘーゲル先生がそういった。
「どうしますか、先生」
ウレサがヘーゲル先生に尋ねた。
「何とか、時間を稼ぐ。お前たちはすぐに離脱しろ」
ヘーゲル先生は、死を覚悟したような顔をしながら、先生らしく俺たちを逃がすことを第一に考えたようだ。
だが、俺としては、この先生を死なせるわけにはいかない、士官学園の生徒として、この国の貴族として、何より元特Sランク冒険者であり、大魔獣を討伐したテイルミットの末裔たる母さんの息子としてもだ。
「いえ、下がるのは先生もです。この場は俺が何とかします」
そういって俺は先生の前に立った。
「いやいや、侯爵様、危険です」
そんな俺の行動にヘーゲル先生は慌てふためいて止めようとしてきた。
「問題ありません。俺にはカルロを止める手段がありますから」
「テイル、あれをやるの」
俺の言葉にウレサが反応した。
「ああ、やるしかないだろ」
少々危険なことだけど、この場を何とか収めるには、これしか方法がない。いや、正確にはあることはあるが、その方法は、あまりやりたくない。
なにせ、その方法はカルロを殺すことになるからだ。
俺がやろうとしているのは、それ以外、つまりカルロを生かす方法だ。
まぁ、最も、それが生きているかは別問題だけどな。
というわけで、はじめようと思う。
「頼むぞ、ウレサ、ダレス」
「おう、任せろ」
「任せて」
そういって、2人は構えた。




