エピローグ・それぞれの未来へ
これで完結です。
期待外れだったらすみません。
よろしくお願いします。
千恵と蘇芳が皆の元へ戻ると、泣き腫らした目の小夜、成実、蒼が迎えてくれた。
そこでこれからのことを話すことになった。
「おれはこのままここに残ろうと思う。亜矢はまだ力がなくて成長までどれだけ時間がかかるかわからないが、傍にいてやりたい」
そう話す蒼の隣で俯く小夜。そんな小夜を心配そうに見ながらも成実が続く。
「私は気持ちの整理も兼ねて来たから帰るわ。塾もあるし」
「私も帰る。桜花さんに故郷を見せてあげることができたもの」
「俺も帰るぞ。これからも千恵と一緒にいるからな」
千恵、蘇芳と続き、小夜が重い口を開いた。
「……わたしも、帰る。あそこにしか、わたしの居場所はないもの……」
「鷹村さん……」
何と言っていいかわからず、千恵は黙り込んだ。すると、成実が小夜に言葉をかける。
「鷹村さん。居場所って自分で頑張って作るものだと思う。誰かに与えてもらうものじゃないの。あなたがそこにしかないと思ってる居場所は、あなたが頑張って作った居場所だと思うの。帰るしかないとか、後ろ向きなこと言っちゃダメよ」
「そう、ね。そうだった。わたしもあそこにしがみついてたくせに、何言ってるのかしら。嫌になるわ」
小夜が苦く笑う。千恵は首を振る。
「そんなことない。しがみつくことの何が悪いの? 居場所が欲しいのは誰だって同じよ」
「そうよ。だから一緒に帰りましょう。私たちの居場所へ」
「みんな……ありがとう」
小夜は瞳を潤ませる。そんなやりとりを蒼は優しい目で見ていた。
「小夜、お前は一人じゃない。こうして友人もできた。だからこそおれはお前と離れても大丈夫だと思った。お前も幸せになれ。行き詰まった時はまた会いにくればいい。おれはここにいるから」
「蒼……うん、ありがとう。でも、向こうで頑張ってみる。もう蒼がいなくても平気だから」
「それはそれで寂しいと思うのは、おれのわがままだな。子どもが自立するのは寂しいものだ」
「わたしはもう大人なの。子ども扱いする方がおかしいんだから。見てなさいよ。蒼が見惚れるくらいのいい女になってやるんだから」
「ああ。楽しみにしている」
小夜はくるっと踵を返した。
「みんな、もう行きましょう」
「え、もういいの?」
「長くいればいるほど辛くなりそうだから……」
小夜は目を伏せる。千恵と成実は頷いた。
「……もう、行こうか」
「それじゃあ、蒼さん。元気で……」
「ああ、お前たちもな。また遊びに来るといい」
「はい」
そうして四人は蒼に別れを告げ、小旅行は楽しい思い出と共に、寂しさを残して終わった。
◇
それから三人はそれぞれの道を歩き始めた。
小夜は自立した女性を目指すと言って法学部に入り、司法試験に合格し、弁護士になった。自分自身が弱い立場だったから、同じような弱い立場の人を救いたいと頑張っている。
その中で知り合った男性から猛烈なアプローチを受けていて、秘密を知れば離れていくだろうと思って話したが、離れていくどころか親身になって聞いてくれた彼に、少しずつ惹かれているそうだ。
そのうちに嬉しい報告が聞けると、千恵は期待している。
そして、成実は前世の記憶が戻ったことで教育に興味を持ち、特に子どもを幼い頃に亡くした経験から、保育士という道へ進んだ。厳しくも優しい先生として頑張っているようだ。
成実は大学の先輩と成実の卒業を機に結婚した。今では二人の子を持つ母親でもある。前世の子どもを思い出すこともあるようだが、今の子どもたちの成長と共に、前世の子どもの幸せを願っていると話していた。
そして千恵は──
◇
「蘇芳、お願い。桜を見てて!」
千恵は洗い物をしながら叫ぶ。
「ちゃんと見てるぞ。なあ桜?」
「あー」
蘇芳は一歳の娘を抱いてあやしている。顔の造形は蘇芳似だが、髪と目の色は千恵譲りで黒い。
生まれるまでは蘇芳が自分に似ていない方が幸せになれるだなんだと悲観的になっていたが、いざ生まれると、自分の面影を残す我が子にメロメロだった。
ちなみに娘には角がない。一見すると普通の人に見える。だが千恵に似て、人ではないものが見える。現に今の蘇芳も妖術は使っていない。
それならそれでいいと今の千恵は思える。父親の姿が見えないのは、蘇芳にとっても桜にとっても辛いことだからだ。
千恵は事務の仕事に就いた。本当はいずれ蘇芳の子どもが生まれた時のことを考えて、在宅ワークも考えた。だが、そうなると、世間と関わることがなくなってしまう怖さがあり、あえて世間と関わる仕事を選んだ。
それは蘇芳のおかげでもある。
蘇芳は小夜から聞いて、デイトレーダーという仕事があることを知った。それなら自分でもできそうだと、勉強を始めたのだ。これまで勉強をしたことがなかった蘇芳には大変だったようだが、吸収が早く、小夜も舌を巻くほどだった。
そして、蘇芳も在宅で仕事を始めたのだ。
共働きでなんとか生活できるようになった頃に、千恵の妊娠が発覚した。千恵は嬉しかったのだが、蘇芳は不安に苛まれるようになった。千恵が無事に出産できるのか、自分が親になっていいのか、生まれた子どもは鬼なのか、考え出したらキリがないほどだった。
それでも産んでよかったと千恵は思っている。
「なあ、千恵」
「まー」
桜を抱いた蘇芳が、洗い物をする千恵の横にくる。今は蘇芳の食器を洗っていた。蘇芳は食べる必要はないものの、家族だから一緒がいいと、食事をするようにしている。
「んー? どうしたの?」
「いや、桜もだいぶ大きくなったし、蒼のところに行かないか? 家族で旅行も行ってないだろう?」
「そうねえ……有給もあるし、行っちゃおうか。二人目ができたらまた動けなくなるし」
千恵の言葉に蘇芳は目を丸くする。
「おい! 千恵、まさか二人目が……」
「違うわよ。できたら行けないから、その前にってこと」
「だよなあ。驚いたぞ」
「あら? 二人目はもういいってこと?」
「いや、いたら嬉しい。だが、千恵の負担を考えると」
蘇芳の表情が曇る。千恵は蘇芳の不安を笑い飛ばした。
「何言ってるんだか。私はね、蘇芳が私の後を追いたいって思わないくらいに、子どもや孫の世話をさせるつもりなの。覚悟しなさい?」
「千恵はやっぱり強いな」
蘇芳が苦笑する。
だが、千恵には他にも考えていることがあった。
「……それにね、亜矢さんのこともある。亜矢さんはどうして人じゃなく精霊に生まれ変わったのか。もし精霊に生まれ変わることができるのなら、ずっと蘇芳と一緒にいられる。もし亜矢さんと話せるなら、聞いてみたいの。だけど、とりあえずの目標は蘇芳と一緒に幸せを増やしていくことだからね」
「千恵……」
蘇芳の顔が泣き笑いのように歪む。こういう時イケメンは得だ。そんな顔をしてもやっぱり格好いいから。そう思うのは千恵の惚れた欲目なのかもしれないが。
「ありがとう。俺はこんな幸せなんて手に入らないと思っていた。千恵のおかげだ」
「それは違うわ。人ってね、生きていればいいことと悪いことが半々なんだって。蘇芳は辛い時期が長かったからいいこともその分起きるはずなの。私のおかげじゃないわ」
「いや。娘を抱けるのは千恵が産んでくれたからだ。そんな幸せは千恵がいないと成り立たなかった」
「それは私も同じなの。蘇芳がいなければこの子は生まれなかった。だから蘇芳が生まれてきてくれてよかった。私こそ、ありがとう」
「千恵……」
蘇芳が屈んで触れるだけのキスをする。そこで蘇芳は笑って告げる。
「続きは後で、だな。蒼のところに早く行かないと、すぐ二人目ができそうだ」
「ぱー?」
蘇芳はようやく情緒というものを学んだのか、直接的な言葉は言わなくなった。だが、その代わりに不意打ちでこういう誘いをかけてくるのだから困る。
千恵は赤くなりながらも頷くしかなかった。
蘇芳と知り合った頃はこんな生活を送るとは思わなかった。
蘇芳と関わることで、千恵の中の常識はどこかへ消えてしまった。それはそれで幸せだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
可能性は無限大だ。
奇跡を体験した千恵だからこそ思う。
悲観的な未来だけじゃないのだ。また迷うことがあれば、蘇芳と共にあの場所で体験した奇跡を思い出せばいい。
そう、あの桜の木の下での奇跡を──。
これで完結になります。
まだ小説を書き始めて4ヶ月という素人の拙い文章を読んでくださり、本当にありがとうございました。
ブックマーク、評価をしてくださった方々にも心からお礼を申し上げます。
どうもありがとうございました。




