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桜の下で  作者: 海星
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新しい友人

真冬に夏の話を書いていることに微妙な気分になっています……

それでも文字数にもよりますが、完結まで多分あと3話くらいです。

年内に終わらせられるように頑張ります。

よろしくお願いします。

「おはよう」


 いつものようにクラスメイトたちに挨拶をして蘇芳と一緒に教室に入り、千恵は自分の席に着く。七月になり、暑さも本格的になってきた。鞄から団扇を取り出し扇いでいると、恐る恐る成実が近づいてきた。


「あの、おはよう」

「あ、おはよう。河邑さん。今日も朝から暑いね」

「うん……あの、昨日はごめんなさい」


 唐突に頭をさげられ、千恵の団扇を扇ぐ手が止まる。


「それはもう済んだ話。それよりも体調は大丈夫? 混乱してたみたいだけど」

「うん。昔の私はずっと自分を許せなかったから、谷原さんの言葉で救われたみたい。本当にありがとう」


 成実の言葉に千恵は苦笑いしか出てこない。


「お礼なんてやめて。私は綺麗事ばかりで現実をわかってないから簡単に口にしてただけ。本当の意味であなたの辛さをわかってる訳じゃないの」

「それでもよ。あなたが第三者だから私は楽になれたのかもしれない。私は家族に赦すと言われても、納得できなかった。家族だから優しくしてくれるんだって余計に罪悪感で辛くなったかもって思う」

「難しいね……」


 優しさは人を救うこともあるが、反対に傷つけることもあるということか。成実が少しでも楽になれたのならよかったが。


「それで……蘇芳さんにも悪いことをしちゃって、ごめんなさい。今は冷静になれたから、逆恨みだってわかるの。先に手を出したのは私たちの方だった。あの時の私に止められるだけの力があれば……」


 悔しそうな成実に蘇芳が答える。もちろん成実には聞こえない。だから、蘇芳の言葉を千恵が通訳する。


「どっちが先かは問題じゃない。お互いに大切な人を失った悲しみに駆られてのことだ。それだけお前の子どもがお前たち夫婦にとって大切な存在だったということだろう? 俺も悪かった。すまない……って」

「ここにいるの?」


 成実は不思議そうに周囲を見回した。

 今正に目の前にいるのだが。蘇芳と千恵は顔を見合わせて苦笑する。周囲を見回して、成実に手招きする。顔を寄せた成実の耳元で千恵は囁く。


「うん。目の前で謝ってる。でも他の人には見えないから内緒ね」

「それはいいけど、やっぱり変な感じ。何度も姿を見てるから」

「……私が言ったの。独り言言ってるみたいだから、見えるようにしてって。でも、そのせいで河邑さんを苦しめてごめんなさい」


 成実には蘇芳が見えない。本来なら前世など忘れて幸せになっていたはずで、思い出させてしまったのは千恵が蘇芳に言ったせいだ。千恵は成実に頭を下げる。


「ちょっ……それはやめて」


 成実が慌てて千恵の頭を上げさせようとする。そこで、登校してきた小夜が加わる。


「おはよう。朝から何してるの?」

「あ、鷹村さん。おはよう。谷原さんが私に謝るの。悪いのは私なのに」

「違う。私が」

「はいはい! もうその話は昨日終わったんじゃないの? 蒸し返してたら話がいつまで経っても終わらないわよ」


 謝り合戦の二人を小夜が呆れた様子で仲裁する。それから小夜は成実に向けて話す。


「……実は夏休みに、谷原さん、蘇芳さん、蒼と桜花さんの生まれた場所に行こうかって話をしてるの。そこってあなたの村の近くよね?」

「そうだと思う、けど」


 成実は小夜の言いたいことがわからないのか、怪訝そうに答える。小夜がちらりと千恵を見て千恵は察した。小夜は成実を誘うつもりなのだ。千恵は了解の意を込めて頷く。小夜も頷き返し、成実に提案する。


「あなたも一緒に行かない? 一緒が嫌なら現地集合とかもできるけど。無理にとは言わない」


 誘われると思ってなかった成実は驚きの声を漏らし、逡巡しながら千恵と小夜を交互に見遣る。


「……でも私は今まであなたたちに嫌な態度ばかりだったし、いいの?」

「そんなのわたしだってそうよ。谷原さんには酷いことをしたもの。だけど、谷原さんは許してくれた。面倒臭いからって言うけど、そっちの方が難しいと思うのよ。本当にお人好しよね」

「だから違うの。許す、許さないじゃなくて、お互い様だった。私も酷いことをしたから」


 千恵は自嘲する。

 自分の辛さに囚われて、人に心を開こうとしなかった。こうして小夜や成実、蘇芳や蒼と接することで、自分がいかに傲慢だったかわかったのだ。


 皆それぞれ痛みを抱えながらも生きている。特に蘇芳や蒼は自分よりも遥かに永い時を。


 他人と関わることは怖い。どんなに言葉を尽くしてもわかりあえずに去って行った人がたくさんいたからだ。それでもこうしてわかりあえた人たちがいる。


 千恵は成実に笑いかける。


「だから河邑さんが良ければ、一緒に行きたい。あ、でも、もし思い出して辛いのなら……」

「ううん、私も行きたい。辛い思い出だけじゃなくて、幸せな思い出もいっぱいあるの。私はそのことをずっと忘れてた」


 成実は目を細めて笑う。その顔は何の憂いもないように見えた。

 そこで小夜が笑顔で手を叩いた。


「じゃあ、決まりね! そうと決まれば旅行の準備をしないと。旅館かホテルか、予約とらないとね。あ、あと、山登りに必要なものも揃えないと。交通手段も何なのか調べないと。これから忙しくなるわよ。ちょっと二人とも、聞いてるの?」


 小夜の勢いに圧倒された二人が目を丸くして小夜を見ていると、小夜が文句を言う。

 言われた二人は思わず顔を見合わせて苦笑いだ。


「鷹村さんってすごいね」

「私もそう思う。鷹村さんがいなかったら話がまとまらなかったわ」


 小夜は更に続ける。


「もう旅行まであんまり時間がないんだから、わかってる? これからはちゃんと連絡も取り合って話を詰めましょう」


 そう言って小夜はスマホを取り出す。続いて千恵、成実とスマホを出して連絡先の交換をする。

 新しく登録された番号などを確認して、千恵は不思議な気分になった。これまで家族専用だったのに、これからは違うのだ。

 これが友だちなのか、と口角が緩むのを止められなかった。


 この後、それを見た蘇芳が不服顔で、自分もスマホを持つと言い出すのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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