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桜の下で  作者: 海星
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千恵の苦悩

今日は調子が良かったので、サクサクと書けました。よろしくお願いします。

 結局あの話は、父が帰宅する前に終わった。父親の前でするような話でもないので千恵はほっとした。

 だが、蘇芳はこの先の二人の関係をどう考えているのかわからない。そして、その未来に蘇芳の幸せはあるのだろうか。


 ずっと一緒にいるという約束はしていない。ただ、蘇芳は桜花から離れないだろうから、ずっとつきまとわれると思っていた。だが、恋人になった今、この先のことを昨日の会話で考えるようになった。


 蘇芳は鬼で、常識の通じない世界の住人だ。そして、千恵はこれから歳をとっていく。おそらく大学に進学するだろうし、卒業したら就職するだろう。


 そして千恵には寿命がある。蘇芳とは結婚もできないし、昨日の話から子どもも望んでいないとわかった。

 それなら、千恵がいなくなったあと、蘇芳はまた長い年月孤独に耐えなければならない。それは千恵には想像がつかないほどに辛いのではないか。


 そんなモヤモヤを抱えたまま、翌日の授業は集中できずに放課後を迎えてしまった。


 ◇


「谷原さん、大丈夫?」


 ぼうっとしている千恵の前で、小夜の手が上下に振られてようやく気がついた。


「あれ、授業は?」

「何言ってるのよ。とっくに終わったじゃない」


 小夜が呆れたように言う。ぼうっとしていた割にはちゃんと終礼を終えていたらしい。無意識に染み付いた習慣はすごいと千恵は苦笑した。


「それで? 今日は一体何を悩んでるの? 蘇芳さんが心配してわたしを呼びに来たのよ」


 小夜の視線を追って蘇芳を見ると、蘇芳は真剣な表情で千恵を見ていた。小夜なら千恵の相談に乗ってくれそうだが、蘇芳のいる前で話をしてもいいのかと千恵は逡巡する。


 ちらちらと蘇芳を気にする様子で察してくれた小夜は、蘇芳に席を外すように言ってくれた。

 名残惜しそうな蘇芳が廊下に出た後、千恵は小さな声で言った。


「……私と蘇芳に未来ってあると思う?」

「は? 急にどうしたの?」


 小夜は目を丸くしている。

 それはそうだろう。つい先日恋人になったばかりなのに、もうその先を考えているのは千恵もどうかと思う。


 それでも不安になるのだ。

 今はいいとしてその先はどうなるのか。

 いつか千恵は蘇芳を置いて逝ってしまう。千恵は蘇芳に対して残酷なことをしているのではないだろうかと。


 小夜はしばらく千恵を見て考え込んでいた。千恵があまりにも悲壮な表情を浮かべていたからだろう。嘆息すると困ったように自分の考えを話し始めた。


「……まあ、悩むだろうとは思ってたわ。蘇芳さんは姿が変わらないのに、谷原さんは老いていくんだもの。それに蘇芳さんと結婚はできないし。突き放すようで悪いけど、それは谷原さんが決めるしかないのよ。あなたに蘇芳さんとずっと一緒にいる覚悟があればいればいいし、蘇芳さんと別れて別の男の人を選ぶっていう選択肢だってあると思う。わたしにはあなたの人生を背負う覚悟なんてないから、これ以上は言えない」

「……そうだよね。ごめんなさい」

「だけど、一人で悩んで結論を出すよりも、蘇芳さんとちゃんと話した方がいいと思うわ。あなたが勝手に突っ走ったら、蘇芳さんがどうなるかわからないから」


 確かに心配性で、予想外の行動をとる蘇芳のことだ。後々大変なことになるかもしれない。向き合うのは怖いが、ちゃんと話そうと決めた。


「ありがとう、鷹村さん」

「いいえ。蘇芳さんが暴走するとわたしも巻き込まれそうだもの。ちゃんと手綱は握っておいてね」

「鷹村さん。それだと蘇芳が動物みたいなんだけど……」

「あら? 立派な番犬だと思ったけど」


 小夜の言葉に、叱られて見えない犬耳と尻尾を下げる蘇芳が思い浮かんで、千恵は吹き出した。


「ぴったりだわ」

「でしょう?」


 二人で顔を見合わせて笑う。


「もう大丈夫ね?」


 小夜は笑みを浮かべたまま確認する。千恵も表情を緩めて頷いた。


「ありがとう、鷹村さん。ちゃんと話すわ」

「それじゃあ、蘇芳さんを呼びましょうか」

「えっ、今?」

「善は急げって言うでしょう? 気が変わらないうちに話す方がいいと思うし」

「そう、かもしれない」

「それじゃあ、ちょっと呼んでくるわね」


 千恵の返事を聞くなり、小夜は教室を出て行った。

 だが、すぐに帰ってくると思っていた小夜と蘇芳がなかなか帰ってこない。

 一体どうしたのだろうか。


 その時、ガラッと教室のドアが開く音がして千恵はそちらを向いた。


「おかえりなさい、鷹村さん、すお、う……?」


 入って来たのは二人ではなく、河邑成実だった。いつもは千恵を睨みつけるのに、珍しく笑顔を浮かべた彼女に千恵は違和感を覚えた。


「谷原さん、どうしてそんな顔をするの? ()()私は何もしてないのに」

「どういうこと……?」


 これから何かをするような成実の言葉に、千恵の頭で警鐘が鳴る。思わず後ずさりをする千恵へ成実がゆっくりと近づいてくる。


「どうして逃げるの?」

「河邑さんこそ、どうして近づいてくるの? それより鷹村さんはどこに行ったの?」

「ああ。職員室で先生が待ってるって言ったからしばらく帰ってこないと思うわ」


 蘇芳はと聞きたくなったが、成実には蘇芳が見えないのだ。困った千恵が黙り込むと、成実が楽しそうに言った。


「さっき呼んだ蘇芳さんは、向こうで問題があったみたいだからそっちの対応に困ってるんじゃない?」

「な……ん、で……」


 掠れた声で問う千恵に、成実は可笑しそうに嗤う。


「さっき自分が言ったくせに。それともどうして見えるのか、って言いたいのかしら。残念だけど見えないのよね。見えてたら楽だったんだけど。階段から突き落とすのも苦労したのよ。仕方ないから鷹村さんを利用させてもらったんだけどね」

「何であなたがそんなこと……蘇芳は犯人はあなたじゃないって言ってたわ。あなたからは悪いものは感じないって」

「まあ、そうでしょうね。私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あなたに恨みはないの」

「え?」

「前世の因縁に振り回されるのは、あなたたちだけじゃないってことよ」

読んでいただき、ありがとうございました。

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