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桜の下で  作者: 海星
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昼休みに

よろしくお願いします。

 それから蘇芳と蒼は千恵に恨みを持つ人間がいるということで、調べてくると言ってどこかに行ってしまった。どうして蒼が動くのかと千恵は不思議だったが、今千恵に何かあれば一緒に桜花の生家に行けなくなるからと言われ、納得した。


 静かに授業を受け、休み時間は小夜やクラスメイトと過ごして昼休みになった。


「それじゃあ、行きましょう」


 小夜に誘われて教室を後にする。今日はいつものメンバーに二人で食べると断った。蒼や蘇芳と合流するためだ。


 小夜は蒼と落ち合う場所を決めていたらしく、迷いのない足取りで進む。千恵は戸惑いながらもついていく。


「いたわ」


 階段の下で二人は待っていた。まだ人通りがあるから話しかけられないが、蒼がこちらに気づいて頷いた。


 そのまま小夜の後を三人はついていく。そして立入禁止になっている屋上前の階段に着いた。


「ここなら大丈夫。それじゃあお昼ご飯を食べながら話の続きをしましょうか」


 小夜に言われて並んで階段に腰掛けると、千恵は母の手作りサンドイッチを取り出した。厚焼き玉子やレタスとトマト、キュウリとハムなどのサンドイッチが一口サイズにカットされ、爪楊枝で刺してある。


「谷原さん、それ美味しそうね」

「ありがとう。お母さんの手作りなの」

「これと交換しない?」


 そう言って、小夜は箸でつまんだ唐揚げを千恵の前に出す。受け取ろうと容器を差し出そうとしたら小夜が口を開けるように言う。


「はい、あーん」


 拒否権はないようで、渋々千恵は口を開けた。そのまま一口サイズの唐揚げを頬張る。


「ありがとう、美味しかった。それじゃあこれ」


 千恵がサンドイッチを差し出すと、小夜が口を開ける。そのまま口に入れて、小夜も頬張る。


「美味しい。お母さん、料理上手ね」

「それ、お母さんが聞いたら喜ぶと思う。ありがとう」


 二人で感想を言い合った後、小夜は蘇芳を見て意味ありげに笑う。


「こうしてると、わたしと谷原さんって恋人みたいじゃない?」

「なんだと? 千恵、どういうことだ?」


 蘇芳が単語に反応して千恵に詰め寄る。どうして小夜はこんなことを、と思って小夜を見ると、小夜はニヤニヤしていた。小夜は狙ってやったのだ。


「恋人っていうのはこうやって食べさせあうものだからな」


 さらに蒼が面白がって蘇芳に教える。蘇芳の反応が怖い。恐る恐る蘇芳の様子をうかがうと、案の定蘇芳はその気になってしまった。


「千恵、ほら口を開けろ」


 蘇芳はサンドイッチを千恵に突きつける。

 何か違う。恋人というよりも、親鳥が雛に餌を与えているようで雰囲気がない。もっともそれを蘇芳に求めるのは難しいかもしれないが。


 渋々千恵は口を開けた。途端に蘇芳がサンドイッチを放り込み、千恵の息が詰まる。笑顔で見守る蘇芳に心配かけまいと、千恵は頑張って咀嚼した。

 引きつった笑顔で蘇芳に告げる。


「ありがとう、蘇芳」

「気にするな。うまいか?」

「うん……」

「これで恋人らしく見えるのか? 不思議だな」


 ぶほっと吹き出す音がして、そちらを見ると蒼が俯いて肩を震わせている。小夜はどうかと見ると、こちらは顔を引きつらせて必死に笑いを堪えている。


 やっぱり遊ばれている。気がついていない蘇芳は千恵の腕を叩いて促す。


「ほら、今度は千恵の番だ」

「……というか、蘇芳は食べなくても平気じゃない」

「食べなくても平気だが、食べられるんだから食べる。ほら」


 そう言って蘇芳は口を開ける。本当に餌付けをしているようだ。諦めて千恵は蘇芳の口にサンドイッチを入れた。咀嚼して飲み込んだ蘇芳は笑顔で千恵に礼を言う。


「ありがとう、千恵。美味かった」

「どういたしまして」


 蘇芳の曇りのない笑顔が眩しい。本気で信じているのだ。嘘ではないが変なことを教えた小夜と蒼を千恵は睨む。

 小夜は誤魔化すように笑みを浮かべ、話題を変える。


「そういえば、蒼。結局どういうことなのかわかった?」

「ああ。嫌な気を放つ奴はいるにはいるんだが、それが千恵に対するものなのか、はっきりとはわからなかった」


 蒼の言葉に蘇芳も頷く。


「俺もわからなかった。だが、俺はもう千恵から離れないから大丈夫だ。俺が守る」

「蘇芳……」


 千恵と蘇芳は見つめ合う。蘇芳の気持ちは嬉しいが、やり過ぎないか、危ないことをしないかと千恵は心配になった。


「はいはい、二人の世界はそれくらいにして」

「何だろうな。この空気は。背中が痒くなりそうだ」


 小夜と蒼が呆れたように言う。

 そう言われても、千恵にもわからないのだ。初めての恋人の上、相手は精神的にお子様だ。


「そんなつもりはないんだけど……」

「結局、谷原さんと蘇芳さんってどういう関係なの?」


 小夜の問いにいち早く蘇芳が胸を張って答える。


「恋人だ」

「……って蘇芳は言ってるけど、よくわからない」


 千恵が付け足すと、蘇芳は悲しそうな顔をする。


「千恵は俺を恋人だと思ってくれない……」

「そうじゃなくて、恋人が何なのかわからないの。蘇芳だって恋が何かわかってないくせに」

「なるほど。お子様同士がくっつくとこうなるんだな」


 蒼はしたり顔で頷いている。だが、千恵には納得がいかず、思わず呟いた。


「お子様なのは蘇芳だけなのに……」

「いやいや。谷原さんも充分お子様だと思うわよ。蘇芳さんがお子様なんだから谷原さんがリードしないと。キスもしてないんでしょう?」

「ちょっ……! 鷹村さん!」


 千恵は真っ赤になって慌てる。それを蘇芳は不思議そうに見ているだけだ。わかってないのならよかったと思っていたら、また蒼が余計なことを教える。


「蘇芳、キスというのは接吻のことだ」

「蒼さんまで! もうやめてー!」


 結局、誰が犯人なのかということはわからず、蘇芳と千恵が遊ばれて昼休みが終わってしまった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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