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桜の下で  作者: 海星
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桜花と蘇芳の再会2(蘇芳SIDE)

中途半端ですがまた長くなったのでここで切ります。

よろしくお願いします。

 蘇芳は思わず桜花を凝視した。そして桜花の言葉を反芻(はんすう)する。


 嘘だと言ったのは何故なのかと思う以前に、桜花に対する怒りが湧いてきた。言ってもいい冗談と悪い冗談がある。


「桜花! どうしてそんな嘘をつくんだ! 俺がどんな思いで……!」


 蘇芳はまだボロボロと涙を零し、桜花の肩を掴む。その手には力がこもっていた。そのくらい蘇芳にはショックだったのだ。


 桜花は痛みに顔を歪めながらも、蘇芳の好きにさせていた。そして桜花は蘇芳の問いに答える。


「こうでもしないと蘇芳は鈍いから気がつかないでしょう? 私にこだわってばかりで、ちゃんと千恵と向き合おうとしない。千恵は私の生まれ変わりかもしれないけど、私とは育ち方も、考え方も違うの。そうやって千恵という一人の人を無視しないで欲しかった」

「無視なんて……」

「してたでしょう? 千恵はね、学校でも否定され、蘇芳にも無視されて、自分はいなくてもいい存在なんじゃないかって思ってる」

「そんな訳ないだろう! 俺は千恵が好きだって伝えたぞ」


 蘇芳は涙で顔をぐしゃぐしゃにして必死で桜花に訴える。桜花はじろじろと蘇芳を見てから溜息を吐いた。


「桜花の魂だから、でしょう。あれじゃ、千恵は信じないわよ。それじゃあ聞くけど、蘇芳は千恵のどんなところが好きなの?」


 聞かれて蘇芳は考えた。

 千恵は最初は自分を拒絶していたが、結局は受け入れてくれたこと、名前を呼ばれて嬉しくなったこと、桜花の思い出を聞いてくれたこと、人間という弱い存在なのに鬼の自分を体を張って守ろうとしてくれたこと。どれか一つが印象に残っているんじゃない。千恵がしてくれたこと全てが蘇芳にとっては印象的で、千恵という存在に惹かれたのだ。蘇芳の答えは決まっていた。


「全部」

「それってどういう意味なの?」

「どういう意味って、どういう意味だ?」


 蘇芳には桜花が何を聞きたいのかわからなかった。好きになるのに意味が必要なのだろうか。

 蘇芳は首を捻る。桜花は質問を変えた。


「ああ、聞き方を間違えたわ。あなたにとって千恵はどんな存在?」

「どんな存在……千恵は親でもないし、姉でもない。じゃあ何なんだ?」


 余計にわからなくなってきたと頭を抱える蘇芳に、桜花は呆れている。


「本当に手がかかる子ね。千恵も苦労する訳だわ。とりあえず、蘇芳が千恵に対してどう思うか言ってみて」

「そうだな……桜花と違って臆病で繊細だから守ってやらないとって思う」

「蘇芳、あなた私に喧嘩を売ってるのね?」


 桜花は引きつった笑顔を浮かべているが、蘇芳は頓着(とんちゃく)することなく続ける。


「それに優しい。自分が傷つけられても、他人を庇おうとする。そういうところは桜花と似ている。だが、千恵はやっぱり桜花と違うんだ。うまく言えないが、千恵を見ていると、馬鹿だなって思って胸が苦しくなる」

「私と千恵は違うって、ちゃんとわかってるんじゃないの。そうね、千恵は不器用だから放っておけないっていうのはわかるわ。そういうところはあなたと似てる。だからこそ、惹かれ合うのかもしれないわね」

「惹かれ、合う……?」

「これ以上は私が言うべきことではないわ。直接本人に聞いて。そんなことよりも、蒼! ちょっとこっちに来て!」


 桜花は黙って成り行きを見守っていた蒼を呼び寄せる。蒼は神妙な顔で近寄り、頭を下げた。


「桜花、俺は亜矢を守れなかった……本当にすまない」

「それはあなたのせいではないわ。自分を責めるのはやめなさい。だけど、あなたも蘇芳と同じでどうしようもないわね。蘇芳を殺したところで亜矢が戻ってくるの? あなたの気はおさまるかもしれないけど、大切な人を失う悲しみはあなたも知っているでしょう? 蘇芳を大切に思う人もいるの。その人にあなたと同じ思いをさせて満足?」

「それは……」

「私は置いていってしまった方だから、復讐の是非を問うことなんて出来ない。それでも、私も千恵と同じように蘇芳を大切に思う身よ。だから、あなたが蘇芳を傷つけるというのなら容赦はしない」


 桜花は目を眇めて蒼を見ている。今は千恵の姿だというのに、やっぱり千恵とは違う。蘇芳は千恵だったらきっと弱々しく抗議するだろうと、苦笑した。


 蒼は桜花の射抜くような視線に耐えられず、目を伏せた。


「……すまなかった。蘇芳を殺したところで解決する問題じゃないとはわかっていた。それでも、蘇芳が幸せそうに桜花の生まれ変わりと過ごしていると小夜から聞いて、どうしても許せなかった」

「そうしてあなたは千恵の幸せを奪おうとした。ねえ、千恵があなたに何をしたのか教えてくれる? 小夜さん、だったかしら。あなたもよ。寄ってたかって千恵をいたぶって満足かしら?」


 桜花は蒼から、小夜に目を向けた。責めるような視線に小夜の体がびくっと動いた。小夜はそれでも負けずに桜花を睨み返す。


「わたしは谷原さんの幸せなんてどうでもいいの。蒼の方が大切だから。わたしは恩人である蒼のためなら何だってするわ。それが例え間違っていても後悔なんてしない」

「言ってくれるじゃないの、小娘が。だけど、あなたがそうやって蒼のためにあれこれしても、蒼には届かないわよ。蒼にとって大切なのは亜矢だから」


 桜花は小夜にとって辛い事実を突きつける。桜花はやりたくてやっている訳ではないのだろう。きつい言葉とは反対に、表情は曇っている。

 小夜は悔しそうに唇を噛み締めて俯いた後、桜花に向かって叫んだ。


「そんなのわかってるわよ! あなたみたいに誰からも愛される人になんてわかる訳がないでしょうね! わたしは親からも気味が悪いって暴力を振るわれて、学校でもいじめられて……どこにも居場所なんてなかった! 蒼だけだったの。わたしを見てくれるのは」

「小夜……」


 蒼は痛ましそうに小夜を見ている。蒼にも小夜を利用した罪悪感があるのかもしれない。

 桜花は小さく嘆息して、小夜に話しかける。


「私は千恵の記憶を見たからわかるけど、あなたは一人じゃなかった。友だちがたくさんいたと思うのだけど」

「あんなの友だちなんかじゃないわよ。一人になりたくないからつるんでいただけ。みんなそう思ってるはずよ」

「あなたがそう思ってる限り、本当の友だちなんてできないでしょうね。だからって蒼に依存するの? あなたは現実から目をそらすために蒼を利用しているだけじゃないの? そんなのは愛じゃないわ。ただの逃避よ」

読んでいただき、ありがとうございました。

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