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桜の下で  作者: 海星
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桜花と蘇芳の再会1(蘇芳SIDE)

長くなったので、一旦ここで切ります。

よろしくお願いします。

 蒼や小夜を視界の隅に追いやって、蘇芳は気を失った千恵にひたすら呼びかけていた。


「おい、千恵! しっかりしろ! お前までいなくなったら……!」


 蘇芳の呼びかけに千恵はふっと目を開いた。蘇芳は喜びに涙を浮かべる。


「よかった、千恵!」

「蘇芳……久しぶりね」


 懐かしそうに目を細めて自分を見る千恵に、蘇芳は困惑する。


「何を言ってるんだ、千恵」

「……姿が変わっているからわからなくて当然かもしれないわね。私よ、桜花」

「……本当に? 千恵が俺を喜ばせようとしているだけじゃないのか……?」


 蘇芳はまだ半信半疑だ。

 以前みたいに、千恵は桜花だと思い込んでいたら、素直に信じられたかもしれない。だが、千恵は桜花と違って臆病で繊細だった。桜花とは性格が全く違う。

 千恵は呆れたように蘇芳に言う。


「千恵は私の性格なんて知らないのに、どうやって真似するのよ。でも、そうやって疑うくらいにはあなたが成長しているようで嬉しいわ、蘇芳」

「桜花……本当に桜花、なんだな」

「だからそう言ってるじゃない。あんまりしつこいと怒るわよ」

「桜花!」


 蘇芳は勢いよく千恵の姿をした桜花に抱きついた。その拍子に背中の傷が痛んだのか、桜花の顔が歪んだ。それでも笑顔を浮かべ、蘇芳を抱きしめる。


「いつまで経っても子どもなんだから。それよりも私は蘇芳に言いたいことがあるから、こうして()()()()出てきたの」


 仕方なくを強調して、桜花は蘇芳から体を離すと蘇芳と向き合う。

 桜花は目を眇めて蘇芳を責めるように見ている。そこからは会えて嬉しいという感じは見受けられなかった。


 蘇芳は叱られた犬のように、頭と肩を下げる。


「桜花、何で怒っているんだ? また会えると言ったのは桜花だろう。喜んでくれないのか……?」

「いいえ、嬉しいわよ。あなたが間違えていなければね」


 桜花は目を閉じて深呼吸をする。それから目を開くと、ゆっくり話し始めた。


「私はね、蘇芳。あなたに幸せになって欲しかったのよ。復讐に取り憑かれて、一人で長い間彷徨(さまよ)って欲しかった訳じゃない。だって、私はあなたのことを大切に思っていたから。ここまではわかる?」


 蘇芳は黙って頷く。それを確認した桜花は口元を少し緩ませた。そして更に続ける。


「……だけど、そうさせたのは私の最期の言葉のせいだとも思うから、それについてはごめんなさい」


 桜花は蘇芳に頭を下げる。蘇芳は顔を歪ませて首を振った。


「桜花のせいじゃない。俺自身が招いたことだ。俺は怒りに任せてあいつらを殺した。桜花はやめろと言ったのにな。あいつらは俺を化け物だと言ったが、その通りだと思う。俺はあいつらを殺す時、躊躇わなかったんだ……」

「……私のせいね。私があなたに人の命の尊さを教えられなかったから」

「違う! 桜花は俺にとって大切な人だった。だからこそ許せなかったんだ……」


 桜花はあくまでも自分の責任だと言う。そんな桜花を前に、蘇芳はもどかしさを感じていた。


 そもそもは深く考えもせずに草太に会いたいとわがままを言ったのは蘇芳だ。あの時、桜花は渋っていた。その理由をちゃんと聞きもしなかった。その事をずっと後悔していた。


 草太が死ぬ前に会えたことは嬉しかった。草太の死は辛いことではあったが、草太が精一杯生きたのだと見届けることができたのだ。


 だが、その結果、大切な桜花を失った。いや、失ったなんて生温い言葉では表現出来ない。蘇芳の心をごっそりと奪われたような、酷い喪失感だった。


 鬼になった時に、人としての生は終わった。その時に蘇芳の心も終わったのだと思っていた。千恵に会うまでは。

 そこで蘇芳は気がついた。


「桜花、千恵はどうしたんだ?」

「……消えたわ」


 端的に答えて、桜花は視線を床に落とす。


「え……?」


 消えたとは、どういうことだろうか。死ぬ事は草太や桜花の時に理解できた。だが、消えるという事はわからない。死ぬ事とどう違うのだろうか。


「桜花、消えるってどういうことなんだ? 千恵はここにいるだろう?」

「そうね。確かに姿はここにあるわね。だけど、一つの体に二つの魂は宿らない。今、私がここにいるということは、千恵は消えるしかないのよ。つまり、もう二度と会えないってこと。

 でも、蘇芳は私と一緒にいたいんでしょう? それなら千恵がどうなろうが関係ないのよね?」


 桜花の言葉に蘇芳の頭の中が真っ白になった。遅れて思考が戻ってくる。これから先も千恵とずっと一緒だと思っていた蘇芳は狼狽した。


「……嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ! どうして千恵がいなくならないといけないんだ!」

「蘇芳は私がいればよかったんじゃないの? ずっと桜花、桜花って言ってたじゃない。千恵はずっと傷ついてたわ。だから、私が出てくる代わりに自分が消えるって言ったのよ」

「違う! 俺は千恵も必要なんだ。俺は鬼になった時に、人としての生と一緒に心も失った。だが、千恵が再び俺に心を与えてくれたんだ」

「……蘇芳、それをちゃんと千恵に伝えた? 相手はあなたとは違う人なの。自分一人でわかったつもりでいたって、相手には通じない。失ってから後悔したって遅いのよ?」


 桜花の言葉に愕然(がくぜん)とした。

 失ってから気づいても遅いとわかっていたのに、自分はまた同じことを繰り返している。


 千恵もこんなに蘇芳の心の中を占めているというのに。


 ずっと桜花に囚われていた。自分を愛して育ててくれたのに、死に追いやってしまった人。盲目的に追い求めたのは、愛だけではなく、贖罪(しょくざい)の気持ちがあったからだった。


 だからといって、千恵を(ないがし)ろにしていいはずがない。蘇芳はまた間違えたのだ。

 桜花を失った時のように、心が千切れそうに痛む。何度体験しても慣れる痛みではない。蘇芳の目から滂沱(ぼうだ)の涙が流れ出した。


「千恵……!」


 すると、桜花が嘆息して、静かに告げる。


「蘇芳、ごめんなさい。嘘よ」

「え……」


 溢れる涙を止めることなく桜花を見ると、申し訳なさそうな表情が涙越しにわかった。


「千恵には少しの間、体を借りているだけ。今は私とあなたの過去を見てもらっているわ」

読んでいただき、ありがとうございました。

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