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そのまま、一同は第一領館へ戻った。
第二領館に避難させたアマリリスとクレソンに殿下は無事という伝言付きの手紙で呼ぶと
「デンファレ、あなたにケガはないのよね⁉」
想像していなかった剣幕でアマリリスに詰め寄られ、一歩後ろにたじろいでしまう。
「え、ええ、問題ないわ。全くケガはしなかったし、今回は戦闘にはならなかったもの。」
「…そう、ならいいのだけど、わたくしだけ先に戦線から離脱させられ、その後の報告もなく、だた殿下はご無事とだけの手紙をもらって、怒るに決まっているでしょう。」
どこかで落ち着こうと移動を始める。
「ごめんなさい。会えばどうにでもなると思っていたわ。あなたの気持ちも考えるべきだったわね。」
「いいえ、あなたの性格は昨日までの五日間でも十分なほどわかっていたからもういいわ。」
心労で目まいがするというアマリリスに苦笑いを返し、今日はもう休むことになった。
明日には帰るのだから今日の見学はもともと午前のみで、午後は帰宅準備としていたこともあり、皆それぞれの部屋に何事もなく戻っていった。
アマリリスが帰宅準備の間、私は第二領館で仕事をしていたローマンを呼び戻し、状況報告後に執務室にはいった。
「こんなに問題しか起きない時期が今まであったかしら?」
「領地内での問題なんてのは些細な物が多く、長期スパンで見ればデンファレ様が領地を買った頃から始まっていたといえばそうではありませんか?」
「自分が拾われたのも些細な問題になるわよ。」
「その些細な問題で殿下に何かがなくて本当によかったですね。」
「そうね。でも」
目の前の緑茶を口に運ぶ。
「ドラゴン飛来で領地が破産すること、領地から宝石が取れることはゲームの中にあったわ。でもね、ゲーム内では女王は殿下に付いて、卵はなかったし、マロニエが殺されかけていたにしても問題なく学園に通っていたわ。それを踏まえると誰かが意図的に動いているとしか思えない。」
「誰かとは?」
「神様とか?」
ローマンは黙って書類に目を向ける。
だって仕方ないじゃないか。
人為的にここまで手を加えることは難しいだろう。
いくら権力のある王でもドラゴンを操ったり、ダンジョンを出現させたりはできないはずだ。
「王都にもまた魔獣が出ることがあるようよ。それも貴族街に」
アマリリスの話だ。
私の誕生日に現れた魔獣や、ダンジョンから戻った際にいた魔獣よりも程度は低いものの、魔獣討伐の経験のない、ただレベルの高いだけの貴族では相手にすることも大変だろう魔獣が出没するのだ。
さらに、
「貴族街の泥棒ですが、度々オーキッド家も侵入しようと試みているようですよ。奥様により、返り討ちにされては衛兵の隙を見て逃げ出しているようです。」
「お母様って何をしているの?」
GPSといい、お母様の魔法はゲームでは一切出てこなかった分、未知である。
「アップル家は尋問や裁判、軍指揮に長けた家系ですから何かスキルをお持ちなのかもしれません。」
実はお母様って最強なのではないだろうか。
レベルが見て見たいが見るのが怖い気もする。
「侵入の目的は?」
「今のところは不明ですが、どうやら方向からして、子供部屋を目指していたようだということです。」
「私か、バンダか、デンドロが狙い。もしくはその持ち物か。私が狙いならここに来るはずだから、それはないとして、バニラを狙う理由はユッカ様関連ね。でも、バニラはまだお母様のお部屋だし、バンダが狙われるのならば、もっと殺意のある刺客が来てもおかしくないと思うのよね。」
「そうなるとデンドロ様でしょうか? ですが狙いは何でしょう。その命ならば、貴族街ではなく、今現在のこの場を狙うべきでしょう。使用人を付けて街に出ることも多いと聞きますし、不自然ですね。」
「警告かしら?」
「一体何の?」
「んー…。」
答えが出ない。
答えを出すにも材料が少なすぎる。
腕を組み、悩むように椅子の背もたれに体を預ける。
「でも、他の家にも侵入しているんだから、もしかしたら子供が狙いってだけかもしれないよ。」
この部屋でずっと何か作業をしているバンダが顔を上げて言う。
「子供が狙いで幼児誘拐ってこと?」
「もしくは兄さんを攫った奴って可能性もあるんじゃない?」
デンドロ誘拐犯は捕まっていない。
そう考えると一理ある話だ。
もともと身代金などの目的がなく誘拐され、孤児院の前で発見されている。
ゲームのあらすじではまだ家に戻ってきていないはずのデンドロが戻っていることで犯人たちの計画に支障をきたし、再び誘拐しようと画策している可能性もある。
「子供狙いっていうのは?」
「貴族は隠したがる話、どこの家に侵入されたかなんて話は早々に出回らないだけど、クレソンが言うにはクレソンの従兄の住むタウンハウスにも侵入されて、危うく捕まりそうになったのを隣国から警備に着ている人外の兵士が返り討ちにしたんだって」
「人外は差別用語よ。やめなさい。私たちの血にだってドラゴンの血は流れているのよ。」
「そうじゃなくて、純粋な魔獣が人と同じ暮らしをして、騎士になったから人外兵士って隣国では言うんだって教えてもらった。向こうでは差別用語じゃないからね。」
魔獣との混血も珍しくなっている昨今で、純粋な魔獣の人型とは珍しい。
もともと、人と混ざるには人に近い姿でないと傷つけ、力の差で最悪殺してしまうことだってある。
何かと我慢をするのは魔獣の方だ。
現在に残る濃い魔獣の血を持つ一族は吸血鬼、狼人間、サキュバス、ジンと呼ばれる精霊の一族で、彼らは人数が多いことから一族間での婚姻にこだわり、領主を務めながらその血を守っている。
もしも、隣国の兵士がこの国でも人民権を取り、家庭を持てば、その魔力の高さから男爵入りは間違いないだろう。
そして一族を増やすために何十人という妻を国からあてがわれ、領地に引きこもらされる。
貴重ではあるが、その分、一般人からしたら恐怖の対象でしかない。
近々でことが起こるのならばエキノプス領をあてがわれることだろう。
三方が海、接するのは二つの領地と対岸の領地がしばらく臨戦態勢となるだけで王都に害はない位置だ。
そのまま領地内の薬物関連の摘発を任せ、成果が出れば子爵にすぐに上げられ、クレソンの従兄が当主にでもなれば、推薦で伯爵にもなれる。
おいしい話の分、この先百年は確実にこき使われる立ち位置だろう。
「あの人も子供好きなんだよね。」
「あの人ってクレソンの従兄の兵士の方?」
「そう。学校じゃ、従兄が授業中に下の学年の子の面倒を見ているらしい。貴族は魔獣をペットにしている家が多いから、怖がられないし、ただの兵士だから運動不足には調度いいんだって」
「運動不足の発散で泥棒をされてはかなわないわ。わかる限りでいいから侵入された家とそのルート、盗難品についてリストを頂戴。」
天井に向かって言えば二人ほど気配が消える。
「泥棒を返り討ちにした方だよ…。」
ドアがノックされ、話をやめ、
「どうぞ」
と、言えば、予想通りの人物が入ってくる。
「お疲れ様ですデンファレ様、ラピスラズリのアクセサリーの件はこちらでよろしかったでしょうか?」
クルクマが完成品が机に置かれる。
私とアマリリスの分、そして、余ったラピスラズリで作られたクローバーたちが置かれる。
「一、二、三、四、五、六枚か。丁度いいわね。バンダは何が良い?」
「何かくれるの?」
ソファーから執務机に向かって歩いてくると机に両肘をついて、ひょっこり顔を出す。
「私とアマリリスだけのお揃いだといった時に一瞬残念そうな顔を殿下がしたから、余ったら何か送ろうと思っていたのよ。同じ石の同じデザインの物をね。」
「じゃあ、髪紐は?」
「髪を伸ばしているのはお兄様とクレソンぐらいじゃない。」
「じゃあ、無難にブローチ。」
「そうね。ブローチにしましょうか。お兄様とクレソンには髪紐に引っ掛けられるように金具を付けておきましょうか。」
「では、タイが良いのではないですか? デンファレ様もたまに付けている。」
クルクマも今現在タイを愛用している。
どうやら恋人からの贈り物の様だがその恋人が誰なのかは知らない。
宝石職人に送るぐらいだ。
職人の一人かもしれない。
「確かに、タイにもブローチにもなるというのは良いわね。」
「ばね式のブローチでしたらピンタイプのように高さが出てしまう心配もありませんし」
「そうね。この国ではピンが主流だからと我慢していたけど、丁度いいわね。」
一度ポケットに入れた材料で、再び手元に戻るときにはラピスラズリのプレートクローバーの後ろにタイの紐を通す穴の付いた金具とばね式のブローチの金具が取り付けられた状態になっている。
紐は何にしようかと引き出しを開け、いろいろ漁ると輸入品にあった光沢のある糸で作られた組みひもがあった。
太さががあるためタイに回そう。
髪紐には太すぎるため、また漁っていると奥からいつから入っているのかわからない紐が出てくる。
「こんなにたくさん、どうされたんです?」
「…確か貿易の品の見本としてもらったはいいのだけど、その後しっかりとした本の形にして、見本を見比べやすくしてもらったのよ。その時の物ね。これでいいわ。」
またアイテムから箱を作りだし、タイと髪紐を収める。
「あら、こっちの箱は?」
アマリリスに送るのはネックレスにペンダント、ビアス、指輪、ブレスレッド。
それが私とアマリリスの分、金属は違えど、同じデザインで二箱に収まっているのだが、それぞれの箱の下にもう一つある。
「ティアラまで行きませんが髪飾りも作りました。金具をアマリリス様は金で統一、デンファレ様は銀にしてあります。」
おそらく一番大きく切れただろう部分を使った髪飾りは大人の耳よりも大きいかもしれない。
何とも贅沢だ。
「びっくりしました?」
「ええ、びっくりよ。こんなの見たことないもの。」
子供の間なら華美ではないだろう。
大人になったら他の物に加工して直してもいい。
「ありがとう。これは喜んでくれるわ。」
「気に入っていただき良かったです。昨日もたくさん取れたのでクローバーを量産しているところです。」
「加工は見習いに任せて、金属も最小限、丈夫な糸でつないで、少し安価に売りましょうか。原石の量も十分に確保できそうだしね。」
今日の午前だけの採掘量の報告書に目を通しながらいう。
「いいんですか? ラピスラズリなんて貴族夫人の大好物ではありませんか?」
「だからよ。子爵位程度の夫人でも手が届く価格にしておけば貴族以外でも買い手は山のようにいるわ。それに、ラピスラズリは以前のゴテゴテな派手派手ジュエリーの代表格でもあったから安価で回して、今は時代じゃないと見せた方がいい。それでも、伯爵位以上で欲しがるのは私の領地産出品であることやあなたたちの腕がいいことを知っている確かな目を持つ人たちだわ。特に王妃様は一番に食らいつくでしょうね。」
殿下が付けて帰るのが一番の宣伝効果になるだろう。
王室御用達は何もファレノプシスブランドだけではない。
デザイナーとして私がかかわった物すべてに付いている。
「あと、殿下方が集めた魔石、組み合わせが良い物でブレスレッドにしておきました。トリトマが渾身のできだと言っていましたよ。」
「あの子はいつもそういうじゃない。渾身じゃない時があるのかしら?」
人数分の巾着を受け取り、タイの箱に一緒に詰めて置く。
夕食の時間も近づき、クルクマが帰った後、アマリリスをバンダに呼んできてもらった。
現れたのはアマリリスのみで、バンダはどうしたのかと思えば
「クレソンの髪で遊んでいたわ。ほんとに仲が良いのね。」
まるで母親が自分の子とよその子が仲良くしているのをほほえましく見ているかのように言うため
「アマリリスはクレソンに勝手に触れられて、どうも思わないの?」
と聞いて見た。
「どう、と、言われても……ねえ」
「独占欲がまだ薄いみたいね。初等教育が始まれば姫夫の姫夫の座を狙う人だって現れるわ。」
「…そうね。そういう人に勝手に触れられるのは不愉快だわ。でも、バンダ様は以前から親しい友人と伺っているし、あの子に対する独占欲は特に起きないわ。」
他人に対してあるのならまあいいだろう。
現在この場にいる者に対する嫉妬がないのもまあいいか。
「そうそう、呼びつけてしまったのはこれのことなの。」
「まあ! きれい。可愛いわ。もらっていいの?」
「もちろん。お友達の印よ。」
「ありがとう。」
この部屋にはローマンもいるのだが、すっかり存在を消して、声に花が咲いてそうな歓喜を上げる私たちを横目に仕事をしている。
「明日のドレスは何色かしら? 合わないようならこちらでドレスをご用意いたしますので側妃様に一緒に自慢いたしましょう。」
「そうね。ドレスは確か緑の予定だったから合わないかしら?」
「なら、青と紺と白の組み合わせに金のボタンやレースの付いたドレスがありますからそれにしましょう。私は銀のボタンとレースの物を着る予定なの。」
「お揃いね。」
「ええ、少しだけデザインが違うのだけど、それもまたわざとらしくていいでしょ。」
アバターの衣装から選択したドレスの色を創造で変更してから手元に出す。
アマリリスのドレスはデコルテや肩がでているが私のは詰襟にタイを結ぶ作り、肩は少し出るが袖があるため露出度は低い。
「また殿下のうらやましがる顔が見れるわ。」
なんだか、アマリリス楽しんでいるのではないだろうか?
長く感じたお泊り会も今日で最後。
朝食には見慣れないものと見たことがあるものが並ぶ。
「一日目にお話しいたしました極東の国からの輸入品が検疫を通りましたので、本日は極東の国の一般的な朝食を再現いたしました。お口に合うとよろしいのですが」
白米にわかめと豆腐の味噌汁、アイテムに入れて作った切り干し大根を煮物にし、ホウレンソウの胡麻和え、お新香と一汁三菜とメインの焼き魚を用意した。
焼き魚は一夜干しで影にお願いして作り方を料理人たちにメモ伝えで教えてもらった。
朝からともに仕入れた七輪で焼き目が付くまでジッと待っている間に何度唾を飲み込んだことかと喜びをかみしめる。
「デンファレのところに来て、お箸の使い方も大分なれたな。」
「ええ、ですがまだ難しいですわ。」
デンドロとアマリリスがそういいながらも器用に魚の身をほぐしている。
もともと一匹丸々のムニエルなどの料理があるため魚の骨はそこまで気にすることはなく、使用人が目の前で身から離していく。
本当ならばその骨の隙間に残っている身が食べたいのだが、ここは一人ではないためできない。
今日は我慢だ。
「うん、うまい。このスープは何で味が付いているんだ?」
殿下に聞かれ、皆も味噌汁に口を付ける。
「味噌と呼ばれる調味料になります。あとは魚や昆布から取った出汁ですね。味噌は塩と麹という炊いたお米を一定温度に置いて、発酵させた物でして、さらに大豆をすった物と合わせて、約一年保温しながら置いておいたものです。」
「この魚にかけてあった黒いソースは?」
「そちらは醤油です。こちらも大豆と塩、麹が原料でして、違う工程をすることで醤油になります。」
「デンファレはなんでも知っているな。」
「何でもというわけではありませんよ。知らないことも山のようにございます。」
すべてゲームの片手間おばあちゃんを手伝っていたから知っていることだ。
三世帯で住んでいたため共働きの両親に替わり、祖父母によく面倒を見てもらい、昔ながらの遊びもよくやった。
食事の間、荷物は先に使用人たちが王都へ運ぶため、お土産も一緒に持って行ってもらった。
朝から山のようにお菓子を作り、すでにもう脱力気味だ。
食後は時間まで自由行動とし、私は会議室にいる。
「側妃様の到着はお昼でしたわね。」
「ええ、何度も言っているではありませんか?」
「最終確認の場よ。ここは」
見慣れた騎士団や魔術師団の面々はまたかと苦笑い、警察部隊は見慣れてはいないものの、いつもの私の様子と疲れが出ていることから少し口が悪くなっている程度の認識かもしれない。
「昨日のドラゴンはその後?」
「エキナセアの報告では女王の元でお説教の後、クロとともに行動をしているとのことです。今後は経過を見て、保護区から出せるかどうか決めます。」
「殿下に危害を加えた以上は抹消が妥当でしょうが、殿下はお望みでないなら仕方がないことですね。」
「そうね。それで、今日の予定に戻るけど」
予定の確認後、バイオレット隊長に声をかけ、
「これを持って帰って、耳当てを騎士が使う用にデザインした物とこっちは非常食、保存食もろもろが入っているから、中の説明書を必ず読んでね。」
「いやあ、助かる。遠征には日持ちするパンと水と干し肉程度しか持って行けないから」
「火が起こせるのならば、いくらでも改善する余地はあるわよね?」
王都の方が非常食に関しては思いつく人がいてもおかしくない。
遠方の住民は保存食でもそれが日常のため遠征に適しているとは思いつかない場合もある。
「そうなんだが、どうも味が悪い、調理が手間、荷物が多いといった理由で採用されません。」
「なんですかそれは?」
ドラセナ魔術師団長も興味があったのか、私の持っている袋をのぞき込む。
「ドラセナ隊長も遠征がおありでしたらいかがですか? お試しで今、保存食を提供しているのですよ。冒険者には特に人気で、それ以外にも家の災害備蓄にするために購入される民も多いですよ。味は保証します。」
「ほお、珍しい物を作りましたね。軽くてコンパクトだが、これは何です?」
フリーズドライのキューブを片手に聞かれ、
「お湯を注いでかき混ぜるだけでスープになります。遠征先ではもう少し食べ応えがある方がいいというお話でしたので、今回干し肉入りも作ってみました。お湯のしみこみもよくしたので、かき混ぜてすぐ食べても硬くないと思います。」
「なるほど、魔術師団の方にもいただけますか?」
「もちろんです。」
ドラセナ隊長はすぐにヘレボルスに話を聞いておくように言い、離れていった。
そんなに私と話をしたくないのだろうか?
最終確認をしている間、殿下たちはロッジ近辺で剣の稽古や魔法の特訓をしていたらしい。
ダンジョンに入り、アマリリスも魔法を使うことに興味を持ったようで、
「だからって、クレソンの鞭をアマリリスに渡すことはないでしょ。」
「だって、剣は怖いじゃないですか。」
クレソンが唇を尖らせて言うが、私よりも長身の年下がそんなことをしても可愛くもなんともない。
「直接攻撃でなければ、弓や飛びナイフ、銃火器もあるじゃない。」
「そうね。銃だったら、お爺様の狩りで何度か扱ったことがあるわ。今度教えていただきましょう。」
そうしてくれ。
なんて言ったってゲームのアマリリスは泣き虫で言うことを聞かないクレソンに馬鞭で脅す行動をしていた。
形状は違うが長い鞭を器用に使いこなすアマリリスにこれ以上使わせるわけにはいかない。
「魔力を乗せる銃には資格試験があるから、扱いには注意してね。十歳から取れたはずよ。」
「あら、今年取れるね。お誕生日までに勉強しておきましょう。それより、その荷物はどうしたの?」
紙袋を二つ持って現れた私に不思議そうにアマリリスは聞く。
「中でお見せしますわ。」
ひとまずロッジに入ろうと提案し、居間スペースで皆ソファーに座った。
「今日でお泊り会は最後ということで皆様にお土産を用意いたしました。」
「何度か話に出た物だな。でも、こんなにたくさん、ありがとう。感謝する。」
言われながら机の上に荷物を広げていく。
「こちらも営業の一環ですのでお気遣いなく、今回はティーセットとお菓子をメインにしたセットになりまして、ティーセットはポット、カップセットが二組、私が厳選したブレンドティー各種の他、保温カバーと湯沸かしポットです。お菓子はお泊り会中に出させていただいた物を詰めてあります。」
「あの紅茶も入っているんだな。」
殿下と二人で話をした際に出した紅茶の茶葉にはドライのリンゴを添えて、袋に包んでいる。
「はい。あとはクリナム様とゼラフィランサス様、ユッカ様のクレヨンが間に合いましたのでお付けしてあります。お絵描きに最適な紙もはいっていますので」
「ありがとう。クリナムも喜ぶよ。」
ネリネの言葉に笑顔を返しておく。
「保護区でご覧になっていただいた蜂蜜の試食用の小瓶も詰め合わせを入れてあります。パンやお茶に入れてお楽しみください。ご連絡をいただければいつでもお届けいたしますし、今後王都に食品雑貨店をオープンさせる計画がございますのでそちらでもご購入いただけます。」
アマリリスが嬉しそうにほほ笑む横で、マロニエが袋にまとめられた蜂蜜を持ちあげて見ている。
「それとですね。こちらの荷物はこの場で配らせていただきます。ダンジョンで入手した魔石と私とアマリリスが付けているラピスラズリの原石、同一の物から作られたタイです。良かったら身に着けていただけると嬉しいですわ。」
皆にそれぞれ箱をくばり、中身を確認してもらう。
「僕のはタイじゃないな。」
「僕もだ。」
デンドロとクレソンが不思議そうに箱の中身を見る。
「お二人は髪紐にいたしました。作りは同一ですので、タイの紐を通して使っていただくこともできます。」
「この金具はなんですか?」
なぜか自分ももらえたことに驚きつつヴィオラが聞いてくる。
「ブローチにできるようにもしてありますので、今日のシャツに合わないようでしたらブローチでも」
丁度詰襟の服のヴィオラは金具から紐を抜き取り、ばねを開けて服に通す。
「金具を無くさないからいい。」
そういいながらマロニエも服に付けていた。
メーカーごとにピンブローチは留め具の部分のサイズが変わってくるためほかの物を替わりに使うことができないことが多く、いちいち買いなおすのも面倒のため処分や下賜することも多い。
殿下たちはそれぞれブレスレッドも付け、ご満悦な様子だった。
「では、そろそろ移動いたしましょうか。」
「ああ、そんな時間か。」
側妃様が到着されるのはお昼すぎということになっているが王都手前の駅まで迎えに行くことになっている。
そのためここから列車で向かわないとならない。
時間まで特設車両にて待機となっている。
王都前基地を見学してから本部基地に移動し、運行状況などの説明となる予定だ。




