22
殿下到着後、騎士に指示を出してきぱきと乗組員は別の船に乗せられオーキッド領へ向かうことになる。
難破船も結界を張ったまま他の船に引率され、軍用基地のあるオーキッドで向かうことになった。
今更だが、エキノプス領は悪役令嬢シスル・エキノプスの住まいがある領地で、その際の攻略対象はレベル百を超えていることを隠す魔獣の血を引くゲスキャラと士爵の息子であることをひけらかしで育ったキャラ男ルートの悪役令嬢で、さらに本名を隠してゲスの婚約者でありながらキャラ男の彼女もしているこちらも十分ゲスい彼女である。
今の内に接触をして性格が捻じ曲がる前に何とかするか、婚約の有無を確認してからにするか。
先に接触しておいた方が早いだろうか。
「殿下」
「如何したデンファレ?」
ここは殿下と長時間一緒になるという事態よりも優先すべきことだろう。
「エキノプス領へ行かれるご予定は?」
「今回のことはおそらく陛下も僕任せにするだろう。何事も経験だと口にはするが、自分が王宮から動かない口実にされている気がしてならない。」
「そうですわね。」
適当に返事をし、本題へ
「私も気になることがございまして、その際はご一緒してもよろしいでしょうか? すべて殿下のご都合に合わせますわ。」
「……え、あ、ああ、わかった。」
あれ? なぜそんなに歯切れが悪い?
「殿下、どうなさいました?」
「ああ、いや、デンファレから誘われるとは思わず、驚いてしまった。」
お泊り会中はすっかりチューベローズの顔ではあったが、殿下としての顔の間に突拍子もないことを言われ、驚いたと行ったところだろうか。
「それで、気になることとは?」
「それはおいおい、お父様にお手紙を出してまいりますわ。」
「そうか…」
ことは殿下により終息、商会へ戻るかと思ったが、
「お兄様たちは置いてきたんですか?」
「ああ、ネリネが子供が大勢では邪魔になると言ってな。」
「そうでしたか。気を使わせてしまったようですね。」
「いや、たぶん違う。」
何が違うのだろうかと思いつつ、騎士と警察を引き連れ、先にシャワーを浴びに戻っているコスモスがアマリリスたちの暇の相手をしてくれていることだろう。
想像通り、貿易船と海賊船の見分け方、対処方法を身振り手振りで教えている。
コスモスの仕事はとても丁寧で優秀だが、人に教えるのはへたくそだ。
「大変お待たせいたしましたわ。コスモスもありがとう。」
「デンファレ様、事後処理をお願いしてしまって申し訳ありません。」
「いいのよ。これは私の管轄だもの。気になることもできたし。」
「何かあったの?」
バンダは領内のことをよく見てくれる分、気になることも多いのだろう。
「話がしたい人を見つけたのよ。」
「ラッキーじゃん。」
たまに言われるがゲーム関係では私は悪い顔をしているらしい。
そのゲームの登場人物に会うきっかけができたのだと気が付いたようだ。。
「だから今度殿下と出かけるかもしれないわ。」
「……ガンバ!」
こいつ行く気がないらしい。
もう一人で行くからいいわよ。
港がごたついているため午前中いっぱい座学を行うことになり、早々にバンダは撃沈、クレソンはアマリリスがいるためか頑張って聞いているが頭はパンクしそうな様子だ。
マロニエはというとメモを取り、時々質問もしている。
そう言えば、ホースチェスナット領も海に面した小さな領地、海側は崖で小型船しか付けられないため漁は盛んだったはずだ。
貿易の他、漁業との提携の話となり、一段と真剣に聞いている様子だった。
「この講義はゼラフィランサスにも受けさせたいですわ。」
「そうだな。」
殿下の側妃候補となったことで領地経営が終了したアマリリスはこれから領地に使っていた時間を王妃教育に移る。
「そういえば、アマリリスの領地はゼラフィランサス様が引き継がれるということでしたわね。」
「そうなの。もっと早く聞いて置けばよかったわ。侵略害獣や植物があるなんて」
「検疫も大事ですわ。港地区から出る際は結界を通るので探知しますが、ほかの領地ではそうはいきません。この国にはない疫病が流行ってしまっては責任問題になります。」
「相変わらずデンファレの発想や行動には驚かされるな。」
「恐れ入りますわ。」
アマリリスとネリネ、殿下は最後まで聞き続けたが、マロニエとデンドロは途中でギブアップした。
数字の羅列が続いたことが原因だろう。
お昼ご飯は取り立ての魚を塩とオリーブオイルで食べてもらう。
幸いにも魚介類を生食する文化がかろうじてあるため、苦手な人も多いがこの国ではお刺身が食べられる。
塩や特性ソースを付けて食べている。
「部位でこんなに味が変わるんだな。」
殿下たちに食べてもらっているのはマグロに似た魚の魔獣。
頭は煮つけにし、出汁と塩で味付けされているため少し物足りない。
先ほどコスモスから醤油や味噌などは問題なく輸入され、検査を順調にクリアしたとのこと、あと少しの辛抱だ。
その頃には殿下も帰るし、領館で影たちとお疲れ様会がしたい。
港が落ち着いたのを確認し、食後の休憩もそこそこに準備していた貿易船に乗り込む。
「この規模の船では乗組員は百人ほど、旅路は一か月から半年ほどですかね。」
「半年も食料はどうするんだ?」
殿下は船に乗ったことがないようで足元の不思議な感覚に楽しいの半分、怖さ半分。
もう少し乗っていると船酔いになるかもしれないため、早く説明しないといけない。
「魚を釣って食べたり、保存食を食べたり、途中の国で物資の補給をしたり」
「補給できるのか?」
「はい。貿易をしている国に事前に補給をお願いし、数日停泊するのですが、その際も少し荷物は降ろします。」
満タンに荷物を積んでいても降ろした分だけ補給できる。
「そうなのか。船内へはどこから入るんだ?」
「こちらです。」
船の縦輪切りの図面を見せながら話をする。
船底近くにはもう荷物を積んでいるし、乗組員の荷物もあるため船内の細かいところまでは見せられない。
船上の舵室とすぐ下の食堂などを見せ、保存食の話となった。
「お肉はベーコンや燻製肉など、長持ちするような状態にしたの他、塩漬けの干し肉も積んであります。」
「野菜は船上では腐りやすいですが、どうされているの?」
食料庫に肉、野菜、魚と書かれた箱があり、それを見つけてアマリリスが聞いてくる。
「こちらも乾燥させて積んでいます。干し肉と合わせてスープにして食べてもらっています。」
「野菜の乾燥した物とはどうなっているんだ?」
ネリネが気になったのか現物が見たいというため、クレソンに目配せすると
「これです。」
クレソンのポケットから干し肉と乾燥野菜が取り出される。
他のダンジョンの中では食料庫につながる巾着が使えないため保存食を持たせている。
「でも、僕はこっちの方がよく飲みます。」
「それは何?」
四角いカサカサした塊をクレソンは取り出して見せた。
「フリーズドライタイプの保存食でマグカップなどに入れて、お湯を注ぎ、軽く混ぜるだけでスープが出来上がります。」
「便利ですね。」
バイオレット隊長ものぞき込んで実物を見る。
騎士は遠征が多少はあるらしく、その際の食事は大変なのだという。
「ダンジョン前の街で冒険者向けに販売もしている物です。そのほかにお弁当型で、水と混ぜることで発熱する成分がお弁当の下に仕掛けてあり、食べたいときに温めることもできます。保存は冷所で、食べるときは暖かい、衛生面でも安全な物になります。」
「仕組みは?」
殿下は一生使わないと思うのだか、そんなに気になるか?
「鉄粉とヒル石、活性炭にカプセルに入れた水を密閉した物に入れてあります。この水のカプセルを割り、混ざることで鉄粉などが発熱し、お弁当を温めます。」
中身は使い捨てカイロと同じだ。
中学の実験を思い出しながら作った。
この領地も王都も南にあるためほとんど必要はない。
そのため、他に活用できないかと、冒険者向けのごはんに利用した。
「凍らせれば遠出でも行けそうですね。」
「残念ながら冷凍した物を解凍させるほどの威力はありませんの。ですから、保冷バッグに入れて二日分程度でしょうか。」
「そうですか。それは残念です。」
「何かいい案が出たら知らせるわ。お父様にも軍部の遠征食について相談を受けておりますの。」
相変わらず財政管理官なのに元軍人として同僚たちから相談をこちらに回してくる。
商品開発の案をもらえるからいいが現在の同僚や部下たちからの相談はないのだろうか?
「気長に待ちます。近場は二泊することも多いので、その際は利用させてください。」
「もちろんよ。王都のギルドでももうすぐ販売を始める契約をしたから、騎士団とも好い取引がしたいわ。」
ふふふッと笑い、皆そろって船を下りる。
「酔った。」
「僕も…」
バンダは船が苦手だ。
海の向こうへ行きたいと言い出さないだけ良いのかもしれない。
そのバンダと同じぐらい酔っているのはデンドロで、その額に手を当てて治癒魔法をかける。
「デンファレ、僕も~」
「はいはい。ヴィオラは大丈夫?」
「……ちょっと無理…」
バイオレット隊長に支えられたヴィオラにも治癒魔法をかけるが、これは気休めで、ケガでも病気でもないため魔法でどうこうなるのは気持ち悪さの緩和だけだ。
「このまま列車に乗るのは危ないので、少し休みましょう。おやつの時間ですし」
商会に戻り、会議室で船酔いした面々を皆で心配しながらも紅茶をふるまうと口を付けた。
私は自分の分を置いて置き、デンドロとヴィオラに水を渡す。
「少し気分は良くなりましたか? 無理でしたらお薬をお持ちしますが」
「いや、もうだいぶ良くなったよ。ありがとう。」
そう言いながら私の頭に手を伸ばす。
ゆっくりと撫でられるときょとんとして、動きが止まった私に
「あ、ごめん。バニラにやる感覚で……」
「いいえ、お気になさらず」
「デンファレ僕にも水」
「はいはい。少し待って」
給湯室に戻り、首を傾げる。
この世界に来てからの人生、ローマンと家族を装ってギルドの仕事をしていた時以来、頭をなでられることはなかった。
あれも、自分の娘ですという紹介の際に肩までがまだ遠く、頭に手が乗っただけで撫でられたと言えるのかは解らない。
そもそも、この世界に来る前でも母親はあまり頭をなでるようなタイプではなかったためもしかしたら人生初かもしれない。
なんてこった。
今日のおやつはこの国ではあまり見かけないプリンにした。
「これもデンファレの手作りか?」
「ええ、昨夜の内に準備しておきました。」
よく見る小分けのカップではなく、四角い耐熱容器に入れて焼き上げた。
大きなスプーンですくい、後からカラメルをかけ、生クリームとフルーツを添える。
目の前で準備をし、殿下たちの前に並べ、冷めた紅茶にやっと口を付ける。
殿下たちが談笑している間にコスモスがそっと近寄り、耳元に口を寄せてきた。
「旦那様から薬物の件で王宮にエキノプス伯爵が呼び出されたとのことです。」
呼び出し。
貴族相手ではある割に、ずいぶんと行動が早い。
王宮に呼び出しとなると伝令は陛下の名だろうか。
公爵相手でも、伯爵位程度ならば何かと用事があるということにて王都へ来られないと断ることはある。
だが、陛下からの呼び出しとなると背くわけにはいかない。
国内の事案である以上、陛下が出てくるのは可笑しなことではない。
「伯爵がかかわっているのかしら?」
「そこは何とも、ですがあの船は伯爵家専用に荷物を下ろす手はずで、市井にはまったく品が回らないようなので」
「どこも仲介しないなんて、伯爵ってアホなのかしら?」
それとも慢心か。
今までばれなかったから直通にしたのかもしれない。
「船の運航履歴からもう三十年以上荷物を運んでいることからもう判断能力も衰えているのかもしれませんね。」
衰えか。
「伯爵っておいくつ?」
「間もなく六十だったと思いますよ。」
六十歳。
お父様より上だが、お爺様よりは若い。
それで衰えもあり、私の一つ上の娘がいるのか。
そりゃあ、甘やかされて育ったことだろう。
兄弟の有無はなかったが、ゲーム内ではヒロインと友人になりつつも振り回しているようにも見えた。
「娘がいたと思うけど」
「はい、相手の方が今年七歳ということで間もなく婚約の運びになる予定でしたが、おそらく今回のことでなかったことになるでしょうね。」
それは願ったりかなったりなのでいいや。
「伯爵にもその娘にも聞きたいことがあるから王宮に呼び出したのなら、お父様に引き留めておいてほしいと伝えて」
「かしこまりました。」
コスモスが離れると殿下から視線が刺さる。
「何かあったのか?」
「たいしたことではございません。エキノプス伯爵をお父様が王宮に呼び出したということで、引き留めてもらえないかというご相談です。」
「そうか。そうなるとデンファレとの旅行は無くなってしまったな。」
「そうですわね。残念です。」
心にもない返事をし、おやつを食べ終わると領館に戻った。
「デンファレ、少し二人で話をしないか?」
転移で第一領館に到着し、男性陣はコテージに戻り、女性陣は再びのお茶が定型となりつつあったのに、さあ分かれようという時に殿下に呼び止められた。
デンドロやネリネの顔を見るが特に驚いたり、慌てたりといった様子はないため、あらかじめの予定だったのだろう。
「如何かなされたのですか?」
「少々相談したいことがあるんだ。時間をつくれないだろうか?」
時間をつくる作らないで言うとこの一週間はすべてお泊り会のための時間に費やし、経営関係はローマンに任せている。
予定もアマリリスとおしゃべりするだけで、ネタもそろそろ尽きて着ようとしている。
ここで断るのも不自然か。
「時間でしたらお気になさらないでください。サロンでよろしかったでしょうか?」
「ああ、すまないな。」
二人でサロンに移動する前に、
「アザレア、私の茶葉の棚にある一番端の物とりんごのドライフルーツを持ってきて」
「かしこまりました。」
飲み方を知っているアザレアなら問題のない組み合わせ、他の使用人はなぜ? と、思う組み合わせ。
サロンに入ってソファーに座ると今日の港の様子などの感想を聞くことになった。
その間に紅茶が運ばれてきたため、何喰わぬ顔でカップにりんごのドライフルーツを沈める。
「珍しい飲み方だな。」
「ドライフルーツには砂糖がまぶしてありますので甘くておいしいですわよ。」
殿下も同じようにカップにドライフルーツを入れ、一口ふくむ。
その間、私は冷めるまで混ぜ続けている。
いつもならもう少し冷まして出してくれるのだが、ここは殿下に合わせたのだろう。
「りんごの香り広がるな。この紅茶の味も初めてだ。」
「茶葉自体にりんごの風味を付けてあるものになります。」
「風味を?」
「細かくは企業秘密です。今後食品商会の方で王都にカフェを出す予定でいるのですが皆からはフレーバーティーはこの国に合わないと言われ、ブレンドティーも毛嫌いされてしまったのもですから、こうして自分で楽しむ用の茶葉が増えてしまいました。」
「いや、これは店に出していい物だ。今までに無い風味に程よく酸味がある。」
ぐびぐび行きそうな様子でカップに口を付けている殿下。
私もやっと冷めた頃だろうと仮面をずらして紅茶を飲むが、まだ熱かった。
最近多いな。
「殿下は酸味のあるお茶は苦手だとモルセラから伺ったのですが」
「レモンの酸味は苦手だが、このぐらいなら問題はない。」




