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殿下と結婚したくないので男装して破滅ルート回避したい  作者: くるねこ
4、私は聖女にはならないし、私に黙って急な予定を立てないでほしい。
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 午後は鉱山地区に戻り、ローマンとスターチスと合流する。


「彼は鉱山夫をまとめる夫長のスターチス、昨日紹介いたしました食品商会のビレアの夫ですわ。」

「ご紹介賜りましたスターチスです。」

「今日は先日見つけて手を付けていない新たな坑道の掘削作業を見学していただきます。」


足元に気を付けてと言いながら山道を登る。

アマリリスはクレソンとともに干支の馬を呼び出し、背中に乗っている。


「この子は見たことのない馬ね?」

「北の方には少数生息しているらしい馬力の強い馬ですわ。私たちがよく見る足の速い馬とは違い、歩みはそこまで早くはないのですが足元の悪い場でも安定して乗ることのできる馬です。」

「契約召喚に思えたが、魔獣なのか?」


殿下に聞かれそう言えば、この子たちは魔獣なのだろうか? と考えだす。

いや、魔力があるため魔獣なのだろう。


「おそらく魔獣だと思いますわ。ほかの馬と違い、いうことには従順ですし、言葉も理解していますので」

「知らなかったのか?」


ネリネに聞かれる。

馬はもともとネリネが契約する神獣だった。

あれ? 私と契約召喚となるとあのイベントは起きないのだろうか。

まあ、ヒロインと密接になるためのイベントだからいいのだが


「詳しくは解りませんわ。なんせ、産まれたときから契約しておりますので」

「産まれたときから……」


そんなはずないだろという顔をされる。

そうなのだから仕方ない。

そう言えば、ゲーム内の馬はちゃんとしたサラブレッドだった。

この領地内では非常に助かる姿をしているが、やはり主人の違いで馬の姿も変わるのだろうか?

それとも、別の個体と契約するのだろうか?


 そうこうしている間に目印を付けて置いた坑道の入り口に到着した。


「では皆さん、こちらで耳をふさいでください。」


見た目ただの耳当てだが、鉱山夫全員に配った爆発音のみを遮断する耳当て。

社外秘に付き生産ラインは限られている。

と、いうことにしているが私オリジナルである。


「では、ここからを火をつけて、約十秒後に爆発しますので、クレソンはアマリリスをちゃんと支えているのよ。」

「解った!」


返事が簡素だと本当に脳筋に足を踏み入れているようだからもう少ししゃべってほしい。

ヴィオラが脳筋ではないらしい以上、キャラ被りはないにしても私の予定通りに動いてもらうにはもう少し頭が良くなってほしい。


「では火を付けます。」


そこから皆が心の中でカウントし、予定通りに十秒後爆発が起きる。

が、皆その音がしないことにきょとんとしている。


「この耳当てはいいな。」


はじめに口を開いたのはバイオレット隊長で


「騎士が爆発に巻き込まれることなんてあるの?」


と、聞いてしまう。


「軍部の訓練場が近いからな。会議中に爆発なんてよくあることでそのたびに会議が一回止まってしまう。」

「でしたらいくつかお持ちください。追加注文お待ちしておりますわ。」


帰るときに持たせるということでこの話は終わり、爆発ででたがれきを片していく。

もう少し掘らないと原石は出てこないかと爆発はもう十分なため、結界で一気に切り取ると


「そっちの方が早いじゃん。」


と、マロニエに言われてしまう。

それもそうなのだが、


「せっかく採掘の見学なのですから私の方法では何も楽しくありませんでしょ?」

「デンファレの結界の使い方が多岐にわたっていることが良く分かった。」


なんて、殿下に言われる。

そう言いながらも、目線はぽっかりあいた洞窟の中で、


「先に進みましょう。スターチス、ランプを」

「はいお嬢…じゃなかったデンファレ様。」

「いつも通りでいいわよ。ここから採掘用のクワやノミ、スコップで掘り進めていきます。」


原石がある位置を透視で確認すると丁度良く少しノミを刺せば出てくる位置にあった。


「殿下、よろしかったらこの辺りとこちらで突いてみてください。」

「何かあるんだな。わかった。」


数回、岩盤をノミで突くとぽろっと塊が落ちる。壁にも色のついた石が見える。


「お見事です殿下。こちらはラピスラズリですね。」

「ラピスラズリって、輸入するととても高い顔料よね?」


アマリリスに聞かれ、返事を返す。


「王妃様もアイシャドウに使われていることもありますあの青い顔料の元ですね。」

「なんだかキラキラしているな。」

「どれ?」


殿下の手元をデンドロが覗き込むとバンダも同じようにのぞき込んできた。


「絵具以外には使えないの?」

「そんなことないわ。宝石として加工し、その端材を顔料に加工することもできるわ。アマリリスの髪の色に近い、深い青ですから工房で何か加工させましょう。」

「本当! では、デンファレとお揃いの物が良いわ。」

「姉上…」


殿下を差し置いて何を言っているのかというネリネの視線だが、


「そうですね。皆さんにはお土産にお揃いの物をご用意いたしましたので、ここは女性同士で用意させましょう。」

「やった!」


嬉しそうにはしゃぐアマリリスにネリネは呆れた顔をする。

殿下が発掘したのはほんの一部で、空間一つを丸々取り除くと両手で持つのも大変なサイズのラピスラズリが出てきた。

さすがゲームの世界。

ちょっと掘っただけでこのサイズか。




 そのほか近場の採掘場を見て回り、いくつか原石を見せては殿下のコレクションに加わり、三日目も何事もなく終了した。

領館に戻り、コテージを任せている使用人にマロニエの就前の飲み物に睡眠薬を混ぜるように伝えておく。




 夕食後、アマリリスがお風呂の間にバイオレット隊長を捕まえる。


「そちらで不届き者がいたなどはありませんか?」

「こちらは何も、領内では?」

「酔っ払いの喧嘩とスリ、万引きといったところで、殿下やほかの皆さまへ危害を加えようとする者は見つかっいないわ。ヴィオラも特に気が付いたことなど報告は?」

「あいつの感は良いが、今回は何も」

「明日は港へ行きます。今まで以上に働く者が多く、異国人が目立ちますので、警備の方、よろしくね。」

「もちろん。一部は予定通り、昼間から向かわせておりますし、不審者の報告も今のところは」

「ならよかった。呼び出してしまってごめんなさい。良く休んでくださいね。」

「デンファレ様もですよ。……エキナセア君は何を探しているんです?」


その話になるか。

でも、警備の都合上、お父様に報告していることでもあるし、伝えておかなくてはならないか。

もう、領内に潜伏している可能性は低いのだが


 「王宮に侵入をしたドラゴンは覚えていますか?」

「あいにく遠目で確認したのみで、それもデンファレ様により、退治される前の一瞬だけで」

「そう…。その個体が監視の目を潜り抜け、保護区から脱走したようなの。エキナセアに捜索をさせているけど見つからず、おそらく国外に出ている物と思われるわ。」

「…そうでしたか。あのドラゴンはずいぶんと暴れたようですし、心配ですね。」

「そうね。でも、これは領内の問題、あなたたちは発見してもそのままでいいわ。近づいても危ない子だし」

「解りました。ほかの隊士にも伝えます。では、おやすみなさいませ」

「おやすみなさい。引き留めてしまってごめんなさいね。」


バイオレット隊長を見送り、部屋に戻るとアマリリスが丁度お風呂から戻ったところだった。






 お泊り会四日目。

精神的な疲労は睡眠で回復せず、疲れが残っている。

HPやMP以外にも気力も表してほしい。


「おはようデンファレ。あなた、一切寝返りを打たないの?」


朝食はガレットということで、食材の準備は料理人に任せ、少し長めに寝ようかと思ったらアマリリスと同じ時間の起床となってしまった。


「バンダも一緒に寝ることが多いから、寝返りを打つとぶつかってしまうことがあるのよ。あの子、寝相が悪くて」

「いつまで同じベッドで寝るの?」

「いつまでかしら? あの子用の部屋も用意してあるのに使っていない物だから、だんだん物置になってきたわ。」


主にダンジョンからの戦利品だが


「クレソンは?」

「クレソンは泊るとなると客間かバンダの部屋を使っているから、クレソンの部屋といってもいいかもしれないわ。」


 「デンファレ様、そろそろお仕度されませんと朝食のお時間ですよ。」


アザレアが未だベッドの上でしゃべる私たちを急かす。


 少し遅れて食堂に入ると殿下たちは着席しており、私は急いでエプロンを付ける。


「遅れて申し訳ありません。蕎麦粉を使ったガレットを急いで作りますね。」

「ああ、楽しみだ。」


殿下の分は私が作るがバンダやクレソンの食べなれている二人には料理人が作る。

食事ガレットのため生地をフライパンに流し込み、程よく焼けてきたところでひっくり返し、ベーコン、チーズを並べ、丸を四角くなるように四辺を折る。

そこに卵を入れ、蓋をして火が通るのを待つ。


「ミモザ様が料理を趣味にしていて、よく勉強中に持ってくるよね。」


デンドロが作業をしている私を微笑みながら見つめて告げる。

あまり見られるとミスってしまうからやめてほしい。


「ああ、ガレッドばっかり続いた日もあったな。」

「少々苦かったですがね。」


どうやら側妃のミモザ様のお話のようだが、今はそれよりも手元である。


「あの方は昔から何ですか?」


アップル領のお隣、アカシア領の次女でお母様とは幼馴染だったらしく、産まれは伯爵だが王家とのつながりは今までなかったため、候補に選ばれた際はお母様の話し相手だと噂されていた。

そんなミモザ様の趣味はお料理とのことだが、あまり上手ではないようだ。

殿下たちは試食係なのだろう。


「出来上がりました。私のは焦げていませんよ。」

「デンファレが料理下手とは思っていない。それに、あの黒焦げとは比べてはいけないと思う。」


そんなにひどいのか。

お母様はあまり料理をされないからわからないが、貴族の女性とはそんなものなのだろうな。

だれもまずいと言えない。


ネリネやアマリリスの分を焼き、デンドロの分を焼き始めたところでマロニエの分を作るまでに時間がかかってしまうと思っていると


「焦らなくていいよ。前も食べたし、料理人に作ってもらう。」

「そう、ごめんなさいね。」


そう言えば、マロニエにも作っていたっけ?

日常の食事なんて数日分は覚えていても一か月以上前となると思い出せない。




 あわただしく食事をおわらせ、今日も列車に乗り出発する。


 到着した港地区の駅から学校とは違う方向に進み、貿易商会の建物に入る。


「申し訳ありません。なんだから忙しそうだわ。」

「何かあったのかしら?」


アマリリスとともに見慣れた光景に担当のコスモスを探すが見当たらず、そこに


「あ、ダリア。コスモスはどこかしら? 忙しい?」


見つけたのは忙しそうに資料を運ぶモスモスの新妻ダリア。

ローマンがコスモスに王都での仕事を任せていたことで領地と王都を往復していた頃に出会ったらしい。

結婚と同時に領民となり、教会で式を挙げた際は私も参加した。


「お嬢様、申し訳ありません。うちの港に着く船ではないのですが沖合で強風にあおられ難破した船がございまして、皆そちらに向かってしまっているのです。」

「風……ドラゴンかしら?」


前領主時代はよくあったことだろ記録にあった。


「いいえ、時々海上で竜巻が起こるお話は聞いていますでしょうか? それがどうやらピンポイントで船の上空で現れまして、すぐに消えたのですが、乗組員の救助で」

「竜巻の話は聞いているけれど、もっと沖合だって聞いていたわ。救助の方は人手が足りているのかしら?」

「それが、皆出勤したばかりで何とも…」


彼女も状況把握ができていないようだ。

では私が行くか。

バンダに目配せをすると


「チューべローズ、会議室で少し待って行って、デンファレは状況確認に行ってくるって」


言わなくとも通じるからそこだけはほめてあげよう。


 私は転移で貿易港へ向かう。


「お嬢さん」

「状況は聞けるかしら?」


近くの漁業組合長を捕まえ、話を聞く。

内容はダリアの話と同じだった。


「急ぎ毛布と暖を取る火の用意を、暖かいスープも用意しておいて」

「解りました。皆で分担させます。」


背中に翼を生やし、沖合の斜めになっている船へ急ぐ。


 「お嬢さん、船の中にまだ人が残っている!」


避難に当たっていた領民が私に気付き教えてくれる。


「解ったわ。転移させるから救助に出ている船を下がらせて、これ以上傾けば沈むわ。」


貿易船の近くにいる船を遠ざけ、船全体を透視する。

水はすでに侵入し、荷物も傾き重さで元には戻れないようだ。


「一気に転移させるわ。船が揺れるでしょうから気を付けて!」


後方の救助船に声をかけ、結界を張る。

これで沈むことは抑えられたが水の侵入は止まらない。

中にある生体反応を選別し、一気に救助船に人を転移させる。




 「はっくしょん!」


毛布にくるまり、焚火の前で団子になるのはオーキッドやシンビジウム、アガベ、リコリス領を素通りし、国内で唯一の半島となっているエキノプス領へ荷物を運ぶ予定だった船ではあるが、乗組員の様子はどうもおかしい。

これから船の引き揚げ作業を行うと言っているのに誰も喜んではいない。

私物に商品もたくさん乗っているように見えたが、口先だけの感謝で早く解放してほしいように見え、事後処理のために警察部隊と騎士を数名呼びつけた。


「荷物の詳細を聞き出してほしいのと、水にぬれると危ない物は無いかの確認をしたいのだとこれじゃあ、全く話が進まないのよ。」

「解りました。こちらで行いましょう。」


警察の者は慣れた様子で私のいうことに従う。

だが、騎士はとても興味深そうに


「水にぬれて危険な物って何ですか?」


と、聞いてくる。

この世界にあるのどうかは知らないが濡れたことで爆発を起こす火薬などの噂があるとして、難破船引き上げには慎重にならなくてはならないと伝える。


 「デンファレ様、お手を煩わせました。」

「コスモス、あなたずぶ濡れよ。」


海に落ちたことは明らかな風貌のコスモスの手を持ち、アバターから衣類を着せる。

髪も風の魔法で乾かすが、塩や匂いは残る。


「ありがとうございます。」

「早く近くの宿ででもシャワーを借りるといいわ。」

「そうしたいのですが、報告が…」


そう言ってポケットから取り出したのは緑の葉っぱがワックスペーパーで丁寧に包まれたものだった。

鑑定を発動させ、葉っぱが何か確認すると大麻と出た。


「さすがコスモス、経験者でないと薬草かと思うわね。」

「もう二度と見たくなかったのですがね。」


乾いた笑いをするコスモスも罪人だった。

大麻の取引を行ったことから王都で拘束、使用していたのは若いころで仕入れすべて流すようにしていたため重症ではなかったためすぐに釈放された。

その直後に私が求人募集をかけたためそれに乗り、それからは全うな人生を送っている。


「中に入ったの?」

「乗組員の救助でですが、これを見つけ、さらにケシの実らしき物を見つけたところで数名に拘束され、海に落とされました。」

「あらやだ、どこにいたの? 気が付かなかったわ。」

「仲間に助けてもらった時は気を失っていましたので、情けない。」

「ダリアが心配するわ。無理はしないでね。」


とはいえ、薬物の輸入船とは困ったものだ。

騎士に目配せをすると


「バイオレット隊長を呼んでも構わないのですが、ここは殿下に判断していただいた方が」

「そうよね。シンビジウムに卸す船ではない以上、エキノプス領の問題。いったい誰に買い取らせるのかもわからない以上、陛下の判断も仰ぎたい。」

「では、呼んでまいります。」


騎士は走っていってしまう。

殿下を呼べば必然的に全員こちらに来ることになるだろう。


「コスモス、薬物の量はどのくらい?」

「船室一つ分、もしくはそれ以上でしょうか。」

「本当、厄介ね。天罰かしら?」

「女神もここにデンファレ様や殿下がいることを知って竜巻をぶつけたのかもしれませんね。」


そこまで見ているならば殿下との婚約もうまい方向で破棄してほしい物だ。









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