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殿下と結婚したくないので男装して破滅ルート回避したい  作者: くるねこ
4、私は聖女にはならないし、私に黙って急な予定を立てないでほしい。
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 それからあっという間の殿下領地訪問の日。

朝からフクシアとモルセラ、ネモフィラに着せ替えにされ、アバターのドレスをすべて衣裳部屋に並べる羽目になった。


「殿下のお好みではこちらはいかがでしょうか?」

「それだと領館内を歩くのに華美だわ。ここは来てもらった時に見たでしょうが公務員の寮も兼ねているの。華美な物なんて着られる場所じゃないのよ。アザレア、いつもの」


ネモフィラが選んだのが夜会に着ていくようなドレスで、七歳の体に合わせたサイズだが肩も背中も開いている。

殿下の趣味とはいったいどのあたりなのか気になりつつ、アザレアにいつも着ているようなドレスの中から少し良い物を選んでもらうと先日数時間も着なかったお母様にもらったお揃いのドレスを持って来た。


「そうね。それにしましょう。着てしまわないとサイズが合わなくなるわ。」

「では、アクセサリーも先日の物にいたしますか?」

「そうね。でも、髪飾りは少し落ち着いた物にしましょう。」

「かしこまりました。」


モルセラが衣裳部屋とは別のアクセサリーの部屋からいくつか持ってくる。

陛下の生誕祭があった日に始めてローマンと入って以来となるだろうがもう荷物を把握しているようだ。


「こちらでよろしかったでしょうか?」

「ありがとう。髪はまとめないで」

「かしこまりました。今日は少しお化粧をいたしましょう。せっかく、七歳を迎えられたというに」

「でも、仮面で隠れるわ。」

「傷の無い範囲だけでも、いかがですか?」


この国の貴族令嬢は七歳の誕生日に化粧品一式を買ってもらうのがステータスで、同年齢で集まると自慢大会となり、自分が持っていない物を自慢され、親にせがんで怒られるなんてこともよくある話。

ゲームのデンファレの回想シーンでも大きな化粧箱に使いきれないほどの化粧品を詰め込み、さらに毎週何かしら買い足し、挙句金箔入りの化粧水やプラチナ入りのアイシャドウなど、贅を尽くした物をお父様におねだりしていた。

ゲーム中のお父様との関係は希薄と言っていいが、お金の使い方には特に何も言ってこなかったことからやはりお母様の忘れ形見とその容姿の酷似から、邪険にはできなかったのだろう。


「…じゃあ、少しだけ」


お母様の贈り物を全く使わないわけにはいかない。

それに、ここではっきり断っては令嬢としてのたしなみがないとネモフィラからぐちぐち言われてしまうだろう。




 支度に珍しく時間がかかっていると覗きに来たバンダが追い出されたのは数時間前、間もなく、リコリス領経由の列車で殿下たちが到着する。


「三人はロッジでお出迎えの準備に回って、アザレアは厨房で料理の確認、私はローマンと執務室にいるから、何かあったら声をかけて頂戴。」


解散し、やっと部屋に入れたバンダの引っ付き虫を引きずりながら執務室に入る。


「手土産の準備が整いました。」

「急に一人増やしてしまったけれど原石があってよかったわ。」

「結局デンファレ様がポットセット一式ご自分で作られた方が早かったですがね。」


執務室のローテーブルの上には五つの若草色の袋がある。

中にティーポット、カップとソーサーのセットが家族の人数分、ブレンドティー三種類とお菓子の詰め合わせ。

お菓子は最終日に作り、持たせる予定だ。

バンダのお土産は必要ないし、デンドロも兄妹のため不要。

ネリネとアマリリスに同じ物を持たせると一家に二つも同じポットがあることになるが個人で使うことも考え、三つずつ、カップのセットを入れることにした。

実家には後日同じデザインのダイヤモンドあたりで作った物を送ろう。

お菓子はクッキーやラングドシャ、パウンドケーキの定番とパティシエも知らなかったと聞き驚いたマカロンにした。

マカロンは今日の茶菓子でもだす。


「側妃様の分もカップのセットの内容に間違いはないか確認を」

「…大丈夫そうね。」


側妃様方と姫夫の方々、王妃様と陛下も集まってのお茶会は月に数回行われているとお母様から聞いている。

人数分となると多いためローマンの机の上にはさらに薄紫の袋が三つ置かれている。

殿下は個人使用と来客用で四つセットにした。


「化粧箱も可愛いわね。生活雑貨の方でファレノプシスブランドとのコラボ製品として置けるように調整しましょうか。」

「新しい物を女性は好みますね。」

「誰のことを行っているの?」


知っているぞ。

ローマンにも春が着ているらしいということは!

結構年下だが、まんざらでもなく、よく好かれている少女というか女性というか。

お爺様の元から来た使用人の中には家族でのちに領地へ移住してきた者もおり、その中でローマンより少し年上の夫妻の娘がすっかりローマンに懐いていると思ったらお菓子の試作品を作っている際に農夫の奥様方の会話を聞いてしまった。


「マルメロもあきらめないわね。娘ぐらい離れているっていうのに」

「本当ね。でも、本気になっちゃえばもう止められないわよ。」

「ローマンさんって、気づいているんかしら? なんだかわざと気づいてないように思えるわ。」

「絶対そうよ。若い子がおじさん一歩手前の自分なんてって、きっと一時の恋煩い程度にしか思ってないって」

「マルメロも不憫だね。ローマンさんの仕事量を考えると結婚まで気が回らないだけだろうけどさ」


原因は私か? と、パティシエに目で聞いてみたが


「夫人の噂なんてあてにならない。」


と、こんなところで子供扱いをされ、真相はわからない。


 「デンファレ様のことではありませんよ。あなたは新しい物を作る側でしょう。前の領主の奥様はお金もないのに貴族のたしなみと言って目新しい高い物をよくねだっていたのもですから」

「そんなところと比べないでよ!」

「ですから、デンファレ様のことではありませんと言ったでしょう。それより、バンダ様、そろそろ離れませんと服にしわが付きますよ。」

「はーい。」


半分寝ていたのか、眠たそうに目を擦る。


「そもそも今日はバンダが主催なのだから、しっかりしなさい。」

「え、そうなの?」

「他に誰がいるの?」

「……デンファレ?」

「私が殿下を呼ぶわけないでしょ。こんなに苦労して準備しているんだから!」


バンダはどこ吹く風で怒られているなんて全く思っていない顔をする。


 ため息をつきつつ、執務机に座り、片付ける仕事は終わらせておこう。


「そうだわローマン、各商会の名前は決まったのかしら?」

「バーベナ様のお話から皆デンファレ様に任せたいとのことですよ。」

「こっちがお願いしたのに返ってくるなんて思わなかったわ。」

「まずは母体の商会から名前を決めて関連名の方が皆わかりやすいでしょう。」

「種類が多くて、わかりやすい物は植物だと名前と被るから、宝石にしましょうか。」


宝石となるとひっくるめてなんといえばいいだろうか。

加工品はジュエリーだが、それでは食品関連もあるためなじみがない。

種類が多いとなると水晶か。

商会ごとにカラーがあるとさらにわかりやすいかもしれない。


「母体はクォーツ商会。そうね、グリンバードやグラマトフィラムは緑の印象が強いからグリーンクォーツ商会にしましょうか。」


服飾関係のバーベナの商会はグリーンクォーツ商会。

端的に貿易は海だから青で、コスモスのところはブルークォーツ商会。

名前が可愛いし同じ食べ物だからスターチスの妻ビレアの食品商会はミルキークォーツ商会。

生活用品商会は代表のカモミールの妻がレモンだし、レモンクォーツ商会でいいか。

宝飾品商会は金属と宝石を使うからルチルクォーツ商会にしよう、パンパスに上げたブレスレッドにも入れてある。

冒険者商会は何が良いだろうか、カッコいいからレッドクォーツ商会としておこう。

魔法道具商会は後何が産出されていたかな? スモーキークォーツ商会としておいて、代表は誰だっけ? あれ? 結局代理のローマンのままだった。


「ローマン大変、魔法道具商会の代表を決めていないわ。魔石の利用や工房製品、生活道具でも重要なのに」

「お声はかけているのですがなかなかよい返事をもらえていないのですよ。本人は王都で魔法道具の学校にも通っているのですが、まだ生徒の身でそんなことはできないと言われましたが、発想や着眼点はデンファレ様にも劣らないでしょう。技術が足りていないだけなので、そこは大人たち職人が何とかできるといったのですが」

「若い子なの?」

「マルメロですよ。日中に自分の転移魔法で学校に通っていると報告しましたでしょう。」


そう言えば、昨年の春から通うことになったと報告をもらったが学校までは知らなかった。

ローマン、わざとではないだろうか。


「じゃあ、代理の代表とマルメロにお願いするのはどう? 工房長のタラクサカムが妥当だと思うわ。」

「なるほど、二人でならばさらにいい案が出るかもしれませんね。」

「交渉をお願いしていい?」

「もちろんです。」


これで商会が動き出すことに問題はないだろうか。

あとはロゴマークか。

手紙でのやり取りも多いため封蝋印や荷物につけるタグやスタンプにも使うためロゴマークは重要だ。

商品にも付けたい。


 「デンファレ様、殿下方が駅に到着されました。この領館に案内することに変更はありませんか?」

「無いわ。殿下たちをここでもてなしている間にコテージに荷物を運び入れて」

「かしこまりました。」


元村人の使用人が予定の確認に来た。

礼儀作法もきちんとしていることから今回コテージ付きの使用人の臨時長になってもらっている。


 間もなくお昼、領館で昼食後、バンダのコレクションルームのある第二領館へ移動、そこで領の物産展の準備もできているためお茶をしながら初日は旅の疲れもあるため予定は終了。

事前に日程表を警備に渡してあるため殿下たちも把握しているだろう。


 駅から第一領館までは距離はあまりなく、徒歩での移動となる。


「そろそろ下に降りましょうか。」

「そうね。」


イスから立ち上がりドレスを整えるとアザレアが入ってきた。


「アマリリス様はお嬢様のお部屋に滞在されるということですがお食事の際はどうされるのですか?」

「仮面を取って普通に取るわ。この顔が偽物だと話せるかどうかはしばらく一緒に生活して見て決めるわ。」


ドレスを整え終わり、髪に櫛が数回通る。


「味方を増やすのは良いことですが、味方も敵になることもございます。ネモフィラさんに知られればすぐに殿下や王妃様の耳に入ってしまいます。」

「そうね。注意深く進めるわ。信頼した人に裏切られてはかなわないからね。」


執務室を出て階段を下りているとドアが開いた。


 「ようこそお越しくださいました殿下、ネリネ様、アマリリス様。デンドロお兄様も来られるのは初めてですわね。」

「お招きいただき、感謝する。」


殿下の前まで行き、頭を下げる。

使用人たちに皆の荷物預け、


「さあ、裏庭へどうぞ。王宮ほどではございませんが素敵な庭がございますの。」


コランダムに無理を言って整えてもらった今までなかった裏庭に


「裏庭なんてあったっけ?」


と、クレソンが言う。

バンダが連なって歩く後ろでクレソンの肩を掴み口に人差し指を添えた。

それ以上しゃべるとデンファレが怒ると無言で伝えるとクレソンも黙った。

それを見ていたマロニエも何も言わないようにしようとついて行く。


 裏庭には大きな木を生やし、その木陰にテーブルを設置した。


「あまり慣れないかと思いますが、ここではバイキング形式での食事をしておりまして」

「好きな物が好きなだけとは夢があるな。」

「殿下、食べすぎにご注意ください。」


ネリネに注意を受けつつ、席につく。

机に並べられた料理を使用人に指示して取ってもらう。

いつもは自分で取るのだが、今日はそうは行かない。

マロニエに目配せすると小さくうなずかれる。

全くしゃべらないが、どうしたのだろうか?


 食事はいつもの大皿ではなく、小皿に乗った取り分けやすい状態になっている。

食器洗いを皆に頑張ってもらわないとならない。


「試食は私でよろしいですか?」

「え?」


デンドロが驚いた声を上げる。

試食、それは毒味のことである。

使用人がすることが多いのだが、毒味の作法は教えていない。

王妃教育で習った程度であるが、出かけ先では必ず私から食べるように言われている。

おそらく、デンドロやネリネも同じことを言われているだろう。


「必要ない。私が死んだところでデンファレ嬢には何の得もないだろう。」

「そうとは限りませんよ。」


冗談めいて答える。

殿下が軽く笑うだけでデンドロは不安な顔しかしない。


「まあ、私の得では全くないので、実行しようとは思いません。」


クレソンに目配せをして早く席に着くように促す。

私の隣には殿下とバンダ、それぞれの隣にデンドロとクレソンが座った。

円形のテーブルに座り、私の正面にアマリリスが座った。

クレソンとアマリリスの間にネリネが座り、デンドロとの間にマロニエがいたたまれないといった顔で席に着いた。


 食事が始まり、しばらくは使用人と話をすることが多く、慣れないバンダに着いたローマンが度々自分で取ろうとするのを静止する。

私と殿下の間にはアザレアが入り、


「殿下、どちらからいただきますか?」

「本当に試食するのか?」


先ほどその話は終わったと思っていたのに、と、言う顔をされるが殿下の後ろに控える使用人も試食する気満々といった様子だ。


「もちろんですわ。」

「…では、あの見たことない料理を」


殿下が指さしたのは前菜替わりに置いたカルパッチョ。

トマトときゅうり、パプリカ、ラディッシュ、チーズ、エビ、タコ、サーモンなどをレンゲのようなお皿に花のように盛り付けたものだ。

一皿一皿盛り付けが違うがどれにしようか迷っているアザレアに


『殿下はエビが好きだったはずよ。』


と、念話を送れば素直にエビが乗った皿を取った。

二頭のエビと野菜が乗っている。

私の皿に一度置かれ


「では、試食させていただきます。」


エビ一頭と野菜を少量箸でつまみ、仮面を少し浮かせ、口に運ぶ。

その間、バンダを除いて皆が私を凝視する。


「とてもおいしいわ。」

「ありがとう。では、私もデンファレ嬢の試食をしよう。」

「え?」

「殿下」


ネリネが静止するように声をかけるが席順が殿下の正面のため何もできない。


「ここは私の家ですから試食の必要はございませんよ?」

「ああ、わかっている。一度してみたかったんだ。デンファレ嬢は何が食べたい?」

「では、手前のその料理を」


殿下の目の前には黒いお皿に漬物が乗っている。

大根を薄切りしたもので人参やパプリカ、チャードというカラフルホウレンソウを巻いて塩漬けにしただけの物だ。

殿下の使用人が殿下の前に漬物を置いた。

ちょっと面白い。

巻いた状態で輪切りにしてあるため横に倒してフォークで刺した。

また皆がドキドキした顔で殿下が口に運ぶのを見ている。

私の視界の端で、何食わぬ顔でバンダは一人食事を進める。


「これはうまい。素材の味を生かし、しっかりと味も付いている。」

「極東の国の料理です。現在貿易交渉中でして、今後は調味料や食材を輸入したいと思っております。」

「極東の国ですか?」


今までずっと黙っていたアマリリスが驚きを口にする。


「貿易の担当者が頑張ってくれたの。うちには極東の国の出身者もいるから絶対手に入れたくてね。」


ただ私が食べたかっただけなのだが、

できるだけアマリリスにフレンドリーに接するがハッとした顔をしたあとに黙ってしまった。

この中ではネリネよりも上だというのに、雰囲気はマロニエと変りなく、ここでは新人の様だ。

それはクレソンも変わらないのだが、慣れたシンビジュウム領では気後れすることもないのだろう。

マロニエがなぜこんなに大人しいのかも気になる。


「あれは帝国料理だろう? あちらは隣国の物だ。ここでは他国籍の料理が味わえるのだな。」

「私の周りにはいろんな国、国内でも各領地から仕事で招集してしまいましたから食べなれた物をたまにではあるのですが口にすることができることがうれしいと言っていただいております。私もそう言っていただけることはうれしいですし、いろいろな料理が食べられることは毎日の楽しみです。」

「バンダに聞いたがここでは使用人も一緒に食事をとるそうだな?」


いったいどこからそんな話なったのだろうか?


「ええ、主人である私は家族としてここにいるのはバンダぐらい、バンダも実家に戻っていることが多いですので、食事が一人になってしまいます。なので一日の情報交換も可ね、使用人やギルドの方、最近は工房や商会の者を呼ぶことも多いのです。一人の食事は寂しいので」

「確かに私も朝食は一人が多い。ネリネやデンドロたちが居ない日は昼も一人だ。夕食は王妃たちとともに取るが、これも仕事で欠席も多い。」

「王宮内でもいろいろあるのですね。」


当たり障りなく会話を終わらせ、試食した料理が使用人の手に渡り、私と殿下の前に置かれる。


「では、いただこう。」

「どれも料理人の自信作です。ごゆっくりお召し上がりください。」


これを合図にしたかのようにバンダ以外が一斉に料理を使用人たちに支持する。

おいしいとこぼすのは領地に着たことも、ここで食事をとることもなかったネリネやアマリリス、デンドロであった。


 時々談笑を挟みつつ、マロニエに視線を向ける。









度々すみません。

今後に名前被りが発生したためアスパラガスをタラクサカムに変更しました。

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