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驚きをそのまま口にしてしまうが、
「デンファレ様、武器を!」
王宮内は外部から武器の持ち込みができない。
そのためクレソンも置いてきている。
それなのに私が武器を持っていると知り、アマリリスににらまれる。
「デンファレ、僕の分も!」
「ええ、すぐ出すわ!」
アイテムから剣を二本取り出す。
王宮内でも気が付いた者がいたようで遠くから悲鳴が聞こえる。
「殿下は至急陛下へ報告を、ここは私が、お兄様、リコリス御姉弟を中へ」
「解った。」
殿下たちをデンドロが中へ背中を押して入る。
その間、ずっと何かをしゃべっていた殿下だが、ふらつきと耳鳴りでよく聞こえない。
「デンファレ、大丈夫?」
「さっきふらついたよね?」
バンダとクレソンが心配気に聞いてくるが、
「今はそんなことよりドラゴンよ。保護区からだいぶ距離のある王宮上空を通るなんて、このタイミング、方角は隣国から」
「そんなわけない!」
クレソンが大声を出す。
バンダに虎を、クレソンに鶏をだし、私は背に鳥の翼を生やし、ドラゴンの飛び去った方角を目指す。
「クレソン、隣国にはドラゴンは住み着いていないことが解っているわ。捕獲しようにも、南の方の国まで行かないと成体の捕獲は難しいの。国内でも幼体以外では生息を確認していない以上、隣国からの戦線布告とは思われないでしょうけど、ナスターシャム当主は忙しくなりそうね。」
「そんなのんきなこと言わないでよ!」
クレソンがスピードを上げて先に進んでいく。
その姿が風圧により、よろめいた。
「ドラゴンが王宮正面広間に着地!」
すっかり討伐で慣れた状況報告をこなすクレソンに
「会話を試みます。二人は周辺に手を出さないように伝えて!」
ドラゴン飛来よりも前から馬車で逃げようとする貴族でごった返していた正面広間では騎士や兵士が貴族の保護に当たっている。
「対竜武器はどうした⁉」
「ここは王宮だぞ! 王族と同じ血を持つドラゴンを倒す武器があるわけないだろ!」
そんな兵士のやり取りが聞こえる一方で、
「ドラゴンなんて装飾で乱獲されるほど弱い生き物だろ!」
なんて、おかしな持論で魔法を展開しようとしている、服装からしてせいぜい子爵位程度の学生がいる。
私はその者を囲むように結界を張ると、結界の中で暴発した。
直後、ドラゴンの尾が結界に当たるが、その程度の衝撃、防ぐ強度はある。
「止まりなさい。何が目的でこんな人の多い場に飛来したのです。」
『小娘が、我々の言葉を話すだと……』
「これ以上の被害を出す前に、あなたを殺そうする者もいるこの場から離れなさい。すぐに案内のドラゴンを呼ぶわ。」
『人間の指図なんぞ、受けるものか!』
火炎が一体に広がる前に結界で上空へ流す。
それでも熱気が肌を焼く。
「デンファレ様!」
ローマンが駆け寄ってくる。
「すぐにエキナセアの元へ、クロを呼んで」
「ドラゴンを呼ぶのですか?」
「このドラゴンが好戦的であるのは言うまでもないわ。ドラゴンは年功序列、クロの年齢ならば言うことを聞くかもしれない――っ‼」
結界が砕けた。
外部の攻撃で結界を破られたのは初めてだ。
内部に閉じ込めた魔獣を、結界を圧縮することで退治した際に硬質な鎧を持つ魔獣には砕かれることがあるが、打撃でもない間接技で砕けるとは、ドラゴンのレベルはいくつだろうかと鑑定をする。
ドラゴン LV,2800
これは、まずい……。
私のレベルは2836、全く上がることのなくなったこのレベルと大差ないとなると厄介だ。
ここからドラゴンを引き離す方法を、被害を出さないで終わらせる方法は何かないだろうか。
「デンファレ!」
今度は誰だ!
ローマンはもういないこの場、私の服は熱気で焦げている。
そんな姿の女に気安く話しかけるな!
そう思いながら振り返ると
「殿下! 出てきてはなりません‼」
建物から殿下が走ってきた。
「聖女様を呼んだ。聖女の祝福でドラゴンを抑え込めるかもしれない。」
「それがありました!」
変身の翼をしまい込み、両手を祈るように組む。
「デンファレ、無防備だ!」
バンダと虎が私の前に立ち、ドラゴンのつめから私を守った。
「バンダ、クレソン、十二支を仕舞います。殿下を連れて下がりなさい。」
「でも!」
「いいから下がって、使ったことはないけれど、同レベルの祝福ならば無効化はたやすいはずよ!」
ゲームではそうだった。
だいたい、HPはレベル×120ほどだったはずだ。
つまり三十万はあるはず、そんなの何人が束になろうと、人間に相手できるわけがない。
祝福はレベル×80ほどだったから、私のレベルなら一回で約二十万の攻撃となる。
この世界で自分以外にHPやMPはバンダの物ぐらいしか見たことはないため正確ではないし、祝福も今回が初めてで、ゲームと同じ仕様がどうかは解らない。
でも、やるしかない!
私の周りに白い魔法陣が浮かび上がる。
いつもならば属性に構わず金色をしていることが多いのだが、やはり光属性は特別なのだろうか。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた後、ドラゴンに目を向ける。
その瞬間、魔法陣が大きく展開され、ドラゴンを包み込む。
『な、なんだこれは⁉』
困惑した声なんて無視をして、魔力を一気に練り上げ、
「“聖女の祝福”」
吐息のように告げれば、魔法陣の中を白い光と金の粒子が舞い上がり、大きな渦を作り出す。
周りでは何事かと、騎士のうろたえる声が聞こえる。
そこに
「デンファレ様」
エキナセアが建物から現れる。
「…はあ、はあ、…はあ。クロは?」
「私を乗せると落とすからと先に転移術で、もう間もなく到着です。大丈夫ですか? 皮膚がとても冷たい。」
私の体を支えようとするエキナセアの手は逆にとても熱く感じる。
これは体調不良に一気に魔力を使ってしまったことでの枯渇、HP;無限を良いことに少々無理をしすぎただろうかと、その場に座り込んでしまった。
「デンファレ!」
殿下の声が頭の中で響き、頭痛がする。
「エキナセア、クロが到着し次第、ドラゴンを連れて保護区へ」
「かしこまりました。」
明らかに不機嫌な声だが、すぐに観衆がざわめいたことでクロの到着が分かった。
『そんなふらふらで何やってんだ?』
「慣れないことをしただけよ。その子、連れて帰れるわね?」
『問題ない。こんなガキにやられるとは、お前も弱いな。さすがに人間か…』
クロが少し寂しそうな声を出すため視線を上げるとすぐそこに顔があった。
鼻先に額をくっつけ、口元をなでる。
『早く元気になれよ。こいつは俺らに任せとけ』
「ええ、お願い。」
『そこの女王の騎士もよろしくな。』
「女王の騎士?」
聞き返したのは殿下だった。
「女王とは、デンファレのことか?」
『お嬢は女王じゃねえよ。じゃあな。』
クロはエキナセアを咥えて自分の背中へ放り投げる。
エキナセアも慣れた様子で着地し、クロはまだ完全に倒したわけではないドラゴンに抵抗されつつ、両手両足でしっかり抱え込み、空へ飛んでいった。
やはり、クロの方が年上だったのだろう。
クロが到着後からは攻撃を一切してこなかった。
疲れ果て、下を向くと髪から何かが落ちた。
ぼやけ始めた視界で見たものはデンファレの花だった。
王都にドラゴン飛来のニュースとそれを撃退したのがオーキッド家の長女だったという話はすぐに広がり、姫の竜退治という演目まで作られたと殿下が見舞いがてら教えてくれた。
公演は半年後ということで一緒に見に行こうと誘われたその場では返事をせず、体調を見てとだけ答えた。
漆喰の壁はどこまでも白く、カーテンに大理石まで白で、シーツや天蓋も真っ白で全く落ち着かないここはどこだろうと思ったところ、目の前に赤い鱗が見えた。
目が覚めた直後に目の前にいたのはなぜかユッカ様で、
『痛い痛いない?』
なんて可愛く尋ねられた。
ドラゴンの姿のままのユッカ様は人間の言葉を話すことはできない。
ギャウギャウ、グルルルルなど、獣のような声は出せるのだが、やはり人間の姿でない以上は難しいのだろう。
ユッカ様と母親の側妃様の報告で陛下にお会いしたのがその日の夕方、魔力は無限のため回復が必要なわけではなく、HP関係なく体にかかった負担を治療するためここ、聖女のお住まいである神殿でしばらく療養を取るように勧められた。
つまりは、お父様からHPとMPが無限であることが陛下の知るところとなり、なんとも居心地が悪かった。
陛下のご訪問とあり、聖女様も姿を現したが、その姿は陛下という子供がいるとは思えない、若々しいというか、お母様よりも若いのではないかと思うほどの美しい姿で、聖女は皆、美しいのかと、ヒロインの姿を思い出し考えてしまった。
「初めましてデンファレ、突然で驚くかもしれないけれど、あなたを聖女として育てたいと思っているわ。私以上、いいえ、歴代でも稀にみる素質の持ち主だと思うわ。今現在、何も学んでいなくても聖女候補のどの子たちよりも強い光属性に、民を守ろうとするその意志を感じます。」
陛下の視線がさらに刺さる。
光属性は国内でも少なく、メイン属性に持つ者はほとんどが神殿に幼いころから入る。
中では貴族平民関係なく、神に祈り続け、民の安全を願い、国を守る結界を交代で張り続けているらしいと、貴族の基礎教育で学んだ。
「七年ほど前の話です。魔力の高い者を集め、聖女召喚の儀を急遽行うこととなりました。ですが、結果は失敗。誰も呼び寄せることはできず、大きな光の玉が南へ飛んでいっただけでした。」
ゲームではこの聖女召喚の儀は桜吹雪の起こる春に施行され、その日に産まれたヒロインが聖女の魂をもって生産まれたとされている。
光の玉が飛んでいった方向について、詳細は無かったが孤児院があったのは西、南ではない。
ヒロインの産まれが南だったのかもしれないが、出生は不明だ。
ゲーム内では養父以外に実父母の詳細は語られなかった。
「聖女様、私には領地がございます。王都に縛られるわけにはいきません。王都ほどではありませんが私には多くの民が、私の国の民がおります。こう言っては不敬に当たるでしょうが、シンビジュウム領は私の国です。私は国の民を守るべき義務がございます。」
「そうですね。ですが、聖女の存在はこの国には必要不可欠、民の平和の象徴です。私が全く動けなくなった際の後継者を育てなくてはなりません。聖女候補たちはたくさんいますが、皆、あなた以上にずば抜けた才はなく、あなた以上にふさわしい存在は居りません。」
「私以上なんて、探せば次期に現れます。どうかもう少し、気長に考えていただけないでしょうか。私は最終手段として、頭の片隅において置いてもらう程度が良いのですが」
「……そうですか。そうですね。振られてしまいました。もし、聖女になる道を選ばれたらいつでも神殿は戸を開けてお待ちしております。では、失礼いたします。陛下もお体にご自愛を」
短く返事を返した陛下に微笑みながら、聖女様は退室していった。
陛下の顔を見ると、丁度ため息をついたタイミングで見なかったことにして、視線をほかにそらす。
親子とは言え、他人行儀な会話、陛下と殿下はもう少し距離が近い気がしたが時代で関係性は違う。
これは王妃教育で教わったが、子供と適度な距離を取らないといけないとは、王族とはその血が守られれば親子の縁なんてどうでもいいのだろうか。
「母が突然失礼したな。」
陛下は私の頭に手を乗せる。
その顔はどこか安堵したようにも見える。
聖女教育とはそんなに忙しいのだろうか。
「ところで、どうして自分よりも強い光属性が今後現れると断言できる。デンファレ嬢は兄のデンドロを見つけ出したというが、それに近い方法か?」
おっと…、墓穴を掘り進めてあらぬ場所に出てしまっただろうか。
さて、ヒロインの所在をつかむのに、利用してもいいだろうか。
「実はお兄様を見つけた際、とてもきれいなオーラをまとった少女を見つけたのです。この顔…、あら、仮面がない!」
目が覚めて数分後の訪問だったためすっかり気が付かなかったが、仮面がなかった。
思えば当たり前だが、服も違う。
「恥ずかしいかもしれないが私の前ではできるだけ外していろ。王妃はああ見えて心配性だからな。彼女の前では付けていても構わない。」
「お心遣い痛み入りますわ。恥ずかしいという気持ちよりも不快ではございませんか?」
あえて不快になることをしているのに、そうではないといわれると不服だ。
「私も王位継承前にドラゴンに遭遇し、顔以外の前面の皮膚が似たようになっている。カトレアの腕や肩にも同じ痣があるが、見たことないか?」
「お父様のお着替えのタイミングに出くわしたことがありませんので」
「そうか。あいつも恥ずかしがり屋だからな。」
楽しそうに笑う陛下だが
「失礼、話がそれたな。その顔がどうかしたのか?」
それたままでもよかったのに、と思いながら話を進める。
「とてもきれいなオーラの少女が兄とおりまして、母が兄と話をしている間にその子を見つけて、馬車を下りたところ、通り魔に襲われてしまったのです。ですからはっきりと顔を見たわけではないのですが、可愛らしい桜のような髪の毛先が金色でとても神秘的でしたわ。」
「そうか、わかった。探してみよう。」
よし、これでヒロインが見つかる。
これが目を覚ましたドラゴン飛来後四日目の話、気力回復に三日も寝ていたせいで神殿内では自由に歩き回っていいといわれた目覚めた二日目、聖女候補の勉強の様子を見に行ったが、想像とは全く違い、だいぶ偏った教育をしていることに驚いた。
歴史の授業を見学したが歴史の中には腐敗王権はいくつかあった。
それのに、国王は歴代皆すぐれ、平和な時代が長く続き、脅威といわれるのはドラゴンや魔獣。
度々現れる強い魔獣はダンジョンから、ドラゴンは遠い異国の国から飛んでくるという。
おかしいと声を出そうとしても、教えている側の聖女候補も同じ教育を受けているため否定されるだけだろう。
私にはかかわりのない世界と、触れないことにした。
若い候補たちは勉強中、基礎教育が終わると聖女としての能力を上げるための実技授業を受けている。
座学を受けているのはだいたい十歳前後の子供、実技を十五歳以下と行ったところだろうか。
そうなると、結界を交代で張っているというのは十五歳以上だろうか。
だが、ヒロインの修学年齢とあわない。
初等教育もままならず、男爵の元に養子に入ってから学び始めるヒロインは偏った教育を受けることなく、聖女候補となる。
候補のまま終わることもあるが、聖女となる選択肢もある。
その後、ヒロインが受けた教育との格差で、神殿内部が崩壊しないだろうかと、つい、考えていると
「デンファレ嬢」
神殿に入るのには白い服でなくてはならないのか、昨日の陛下も白が多い服だった。
私も現在は白いワンピースだ。
下着のような服装だが、ここではこれが普通の服装、一目見た瞬間の殿下は一瞬視線をそらしたが歩みは止めなかった。
「こうして素顔を見るのはいつ以来だろうか。」
「お恥ずかしいばかりですわ。」
口ではそう言うが、全く行動では現さない。
場所を休んでいた部屋に移動した。
「聖女候補たちを見て驚いただろう。」
「そうですね。教育格差というか、誤認識というか。いったいいつからこのような教育になったのでしょうか?」
「記録にはなく、おばあ様の頃には同じ教育だったらしく、王妃教育を受け始めて初めて違うと知ったようだが、ここは外とは孤立した空間、脅威や迫害があるとは認識させないために、平民にも貴族にも平等であるためにあのような教育をしているらしい。」
「ですが、歴代の聖女の記録では決して皆が平等であったわけではございません。平民に寄りすぎて貴族をないがしろに、貴族に寄りすぎて金の亡者となったり、陛下や殿下に近づき王妃となったり、現聖女様は幼馴染だったというお話ですが、どちらかというとお生まれもあり、貴族よりですわ。」
夫が元国王、唯一の息子が現陛下、孫が殿下。
元国王はお父様の領地にある王宮別邸に暮らしているという話だが、時々神殿で見かけるなども聞く。
退位後は公の場にはまったく姿を見せないため生存しているのかも不確かである。
「おばあ様はアップル領当主の従姉だから、デンファレとも血は近い、あまり責めないでやってほしい。」
「攻めているわけではございませんわ。次期候補という話を昨日されました。私は聖女にはなりたくありませんので、聖女様の間隔は知るところにはありません。私が目を向けているのは平民に安定した衣食住を、貴族にはその存分に蓄えた財を使っていただく製品を作ります。もちろん財力なんて貴族によってまちまち、商家のお家の方が財のあることもございますから庶民向けのブランドも展開していますわ。」
「金が回れば国が潤う。ただ溜めこむだけの老人にも使わせないといけないな。」
「宝飾品よりも身の回りにもっとより上質な物をご用意しないとなりませんね。」
「商会の話は聞いた。正式な始動は冬からだと聞いたが、あの羽毛布団はとても素晴らしい。きっと多くの注文を受けるだろう。」
殿下と金の話をするとは思わなかった。
領内で回ったお金は王都や周辺にも回っていく。
回れば回るほど経済力は上がっていくため、よそでもうるおいが回っていく。
だが、その仇を受けるのは低収入層だ。
「大変恐縮なのですが、王都の民の中で一日の労働で三日も食べられないような収入の方々を領地で雇いたいと思っております。殿下のおっしゃった布団を作るにも、糸を紡ぎ、布を織り、羽毛は養殖の魔獣を使うにしても育てる人材、羽根の選別を行う人材、そして布団の形に縫い上げる人材といくらいても足りないのです。領民が増えると農業、酪農の人材が不足してしまいます。雇用の面でも、財が回ると必要となりますわ。」
「解った。早急に調べさせ、希望者を向かわせよう。」
「もちろん、王都での人材が減ることになりますので、よくご相談後、面接を行いますので」
「子供の会話じゃないわ。もっと楽しいお話は無いのかしら?」
開けられたままのドアから入ってきたのは聖女様ほどではないが、美しい姿の、オーラも輝く女性。
王家特融のオーラには金の粒子が混ざり、ランの名を持つ家の子にも現れる特徴。
ランの名を継ぐとは、王家の血を受け継ぐという意味の他、遺伝的魔力のオーラも含まれる。
「殿下は婚約者様とずいぶんと仲がよろしいようですが、一人の意見で国を動かすことはあってはなりませんよ。それがいくら定収入者の救済でも、民にはそれぞれの生活水準があります。一度得た富が失われたときに戻ることは難しくなる。」
「姉王女様は私が雇用を増やしても失敗に終わるとお思いですか?」
「子供の経営する領地は、はじめは順調でも次第に悪くなるものです。親がそうなるように調節していますから。あなたも、領民を不幸にしたくなければこれ以上の経営は親にゆだね、王妃教育に専念しなさい。」
この人は陛下のすぐ上の姉で、前陛下の五番目の王女となる。
王位継承は長男が一位、その下に姉だろうと産まれた順番に続く。
王位継承の予兆もない、順調な継承を迎えることが予測できたことから、光属性の魔力を生かし、神殿に入ったのが学園の卒業後、聖女教育を平行していたとは言え、外の世界を知っている分、他の候補よりも常識と博識がある。
だが、現在の外を知らないのだということは明らかだ。
私が実費で領地を買ったという噂はギルドから発信され、貴族の耳にも入るほど、そして陛下からもらった領地もあるため、さらに有名となった。
「私の領地は決してお遊びやお勉強で行っていることではありませんわ。お父様が容易した代理人がいるわけではなく、私の目で選んだ方たちに不在時はお任せしております。広げた領地でももともとあった形態を維持しつつ、新たな開拓を進めております。王家に献上いたしました布団は陛下のご依頼で追加のご用意をいたしまして、聖女様や前陛下のご利用分も急ぎ用意いたしました。その前年に献上いたしました大鏡に関しましては我がブランドにて多くのご注文を受けておりますわ。それらの製造に関する雇用はいくらいても足りない現状、もしも解雇なんてことになった物ならば、その時は領地の予算で就業保証を行っております。」
マシンガンのように言葉が口から出ていったが、ちゃんと聞いていただろうか。
遠巻きに世間知らずと言いたいのだ。
王妃様の耳にも入っている事案は王都で平民から気楽に話しかけられる私はそれこそ引きこもり以外には知られていることだろう。
庶民向けブランドは低収入者の日当の三分の一ほど、一食分程度の値段のシャツや、収入の半分ほどのズボンも用意がある。
新品が買えないと思っていた者へ、新しく丈夫な物を提供したく、石材労働者などの汗をよく掻く仕事の者にプレゼンを行い、大量購入をしてもらったのは半年ほど前のことだ。
それは陛下の耳に入り、兵士の肌着として発注を受けた。
こういった経緯があるのに否定されるのはやるせない。
「伯母上、デンファレ嬢の産業は今やこの国になくてはならなくものになりつつあります。聖女を継がれない伯母上ならば、いつか神殿を出られる日がくるやもしれません。そうなったとき、彼女の商会の大きさを目の当たりにするでしょう。」
なぜか殿下が嬉しそうに私の商会の話をする。
「あの子たちは子供の育て方を間違えたようね。」
姉王女様は怪訝な顔をして部屋を出ていった。
これが目を覚まして二日目のこと。




