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それから一時間ほどで第一領館前の駅に到着。
出迎えたローマンはマロニエを見て
「ローマン・カミツレと申します。失礼ですがどなた様でしょうか?」
服装は貴族というより、少し金持ちの商家の息子といったあたりだろうか。
伯爵への正当な跡取りとは思えない。
「私はマロニエ・ホースチェスナットと申します。突然の訪問で申し訳ありません。」
儀兄妹の前とは打って変わり、礼儀正しい姿は見繕った物ではない。
それなりの教育をきちんと受けているか、見本となる人物が近くにいるのだろう。
「いいえ、デンファレ様のお客様はいつでも大歓迎ですよ。デンファレ様、バンダ様が待ちくたびれていましたよ。」
「あら、マロニエを紹介したらきっともっとふてくされそうね。」
面白くなってにやけてしまう。
仮面を外して私室へ向かう。
部屋をのぞき込むと使用人の女性の膝に頭を乗せて寝ているようだった。
「ベッドに寝かせましょう。悪いのだけどマロニエ様、布団をめくっていただけます?」
「え、あ、うん。わかった。」
素直にベッドへ向かったマロニエとは別に私は使用人と微笑み合い、バンダを抱き上げる。
一年でだいぶ重くなったが、その分自分も重くなったのかと思うとベッドに運び終わった後に横っ腹を摘まんでみるが、コルセットで解らなかった。
「見た目に寄らず、力持ち…なんですね……。」
何となく言いにくいといった様子で聞いてくるため
「人体作用の魔法よ。身体強化は常時発動にしているの。万が一何か起きたときに発動できなかったら意味がないものね。」
先ほどの話につながっているのかと眉間にしわが少し寄っている。
「夕食までここでお茶をしているわ。急ぎの執務があったら遠慮なく持ってきて、後、エキナセアの手が空いているようなら呼んで頂戴。」
「かしこまりました。」
使用人に下がってもらい、ひとまず落ち着いて座って話そうとマロニエをソファーに座らせ、自分も向かいに座った。
さて、どこから聞こうかと思っているとマロニエが落ち着かない様子で辺りを見渡していた。
「レディの部屋をじろじろ見るものではないわよ。」
「あ、すみません。なんだか視線が多いので」
そりゃあ、多いだろう。
でも、よく気が付いたものだ。
私以外で感知できるとなると相当感が良いか、気配に敏感なのだろう。
それと、なんだか話し方が急に委縮したように思えるが気にしないことにしよう。
マロニエが気にする視線、それは領地拡大で出会ったとある一族をまとめて雇い入れたためだ。
元は海の向こうの国から奴隷としてやってきたが、海で難破したことで領地にたどり着き、ひっそりと海辺の洞窟でもう十年も暮らしていたという一族は隠密機動に長け、魔法が使えない分、闇夜に姿を暗ます能力にたけている。
つまりは忍者だ。
気配の遮断も得意で、相手に気が付かれることなく背後に立ち、暗殺なんてことを生業にしていたらしいが、雇い主を裏切り、その命を失わせたとして国から追放と同時に奴隷として売られたという。
だが、その真実は異なり、雇い主に国王暗殺を命じられ、拒否したことで戦闘になったという。
国王と表現したがその血は国土創造の神の血を引く一族だということで何となく懐かしく思えた。
一族は五十人ほど、追放の際は二百人いたというから難破やこの十年の暮らしで多くの仲間を失ったようだ。
彼らの長と話を付け、衣食住と家族の安全の保障、給金の取り決めを組み、私と私の関係者専属の隠密部隊となった。
私の事情もゲームのことは抜きに話をしてあるため、彼らの母国で起きた王を裏切るようなことはしたくなく、主君には自分よりももっとふさわしい人がいるから協力してほしいということにしてある。
「気にしないで、婚約者なんてモノになってしまったからにはこういうこともあるわ。」
「…そうなんだ……」
監視を受けていると思ったのだろう。
私の顔を見て気の毒だという顔をされるが
「あなたにだって、ずっと見張りが付いているじゃないの。暗殺者だけど」
「‼……いつから気づいた。俺も親戚のパーティーで知り合った貴族に言われるまで気が付かなかったのに」
家庭の事情を知る者か、単にマロニエを哀れに思った偽善者か、忠告だけでなく手を差し伸べるなんてことができない辺り、偽善者だ。
「暗殺者に気が付いたわけではないわ。でも、あなたの義兄はとてもあなたを不要視しているように思えたから結界を張って様子を見ていたのよ。」
「結界?」
「私の周囲で私に脅威を向けた際に反応するように設定した結界よ。結果五人が引っかかったわ。」
「五人⁉ 三人じゃなくて?」
「急遽呼んだにしては早いから本来ならここで始末するつもりだったのではないかしら。そこに丁度良く私が現れて良いこと思いついたのでしょうね。」
「良いこと?」
簡単に説明すれば、預けた家で死んだとなれば、責任問題を追及、結果良ければ金まで手に入る。
しかもそれが異例の婚約者となったデンファレの元となれば罪を問われ婚約解消からの、側妃候補にライチを入れられると考えているのだろう。
「そこまでわかっていてなぜ俺を屋敷に入れた。」
「こちらにもそれなりの理由があるからあなたを迎え入れたに過ぎないわ。明日から私の従者のスカミゲラがこちらに来るからともに行動して頂戴。」
そこでノックの音と同時にドアが開かれた。
「お呼びでしょうかデンファレ様。」
紅茶のワゴンとともにエキナセア入ってくる。
「マロニエが所要でこちらにしばらく滞在するわ。部屋の用意をお願い。」
「かしこまりました。ですがデンファレ様、男性を泊めるというのは婚約者の殿下がおられる以上、控えるべきことでございます。」
貴族というのは面倒くさい。
たった七歳といえど婚約者の有無は問わず、男女二人切の環境は許されない。
もちろん、従者や兄弟、家族は別だが、婚約者とも完全な二人きりという環境は良しとはされない。
「ああ、それもそうね。私はタウンハウスへ戻って、すぐにスカミゲラを寄越すわ。早めに解決させてしまわないといけない案件よ。」
「かしこまりました。」
紅茶と軽食を机に並べ、すぐにエキナセアは下がっていった。
「あいつの顔はデンファレ様と一緒…ですか?」
「そうなの、このケガを負った時に偶然近くにいてね。巻き込んでしまったよ。生活のサポートをすると言ったら、私の従者になるといってくれたのよ。今では領には欠かせない人材よ。」
猫舌がばれないように飲んでいるフリをして紅茶のカップに口を付ける。
「うらやましい。仲間がいるんだな。」
「あの子だけじゃないわ。私には仲間がたくさんいる。だから、あなたもその中に入れたいと思っているわ。」
「俺は何も役に立たない。」
「伯爵家当主ともなれば、話は別よ。」
「当主は義父だ。実父じゃない。」
そこだ。
それが気になっていた。
「あなたの実母が元領主ならば、実父は誰なの?」
「わからない。義父は自分ではないと決めつけていて、使用人たちも把握していないようだった。ほかに男の姫夫はいないから使用人か、娼館か、まあ、義父はよその血だから俺のことはホースチェスナット家の子じゃないと思っているみたいだ。」
「その発想は湾曲させ過ぎよ。あなたがお母様から産まれたことは屋敷の多くの者が見ているはず、その後にお亡くなりになられたならば、なおさら入れ替えるなんてできないでしょう。自分たちに都合が悪い者を排除するための精神攻撃よ。うまく利用して、爵位を返してもらいましょう、正統な後継者に」
顔の幻覚を緩め、その下の素顔をチラッと見せると怪訝な顔から困惑に変わる。
エキナセアがクレソンによく使わせる客室の準備ができたと呼びに来たため着替えをさせようと部屋へ向かわせる。
アバターから服を選び、エキナセアに渡す。
今までは手をつないで相手に着せることしかできなかったが、たたまれた衣服を想像しながらアイテムを引き出す感覚で服を出せば手元に現れることが解った。
誰かデンファレステータス攻略本を作ってくれ。
わからないことが多すぎる。
自分も着替えようとアバターから楽なワンピースを選び、腹部がコルセットから解放されるとバンダがむくりと、起き上がった。
「あいつ誰?」
「起きていたなら声をかければいいじゃない。人見知りね。」
寝ていてしわになった部分をはたいて直しながら、バンダは先ほどまでマロニエが座っていた位置に座りなおす。
そこに、黒く、装飾が一切ない、詰襟の制服の男が三人影から現れた。
「デンファレ嬢、外の三人を捕まえましたがどうされますか?」
「暗殺なんて仕事にしている者は処分したいけれど、国法違反になるからね。今回はこっそり消すには雇い主がどう出るかわからない子供な上に親の介入がどこまでかわからないから、きょうは縛って屋根の上にでも吊るしておきなさい。明日には自警団改め警察部隊に引き渡すわ。」
「かしこまりました。」
一人が一瞬で姿を消す。
「オーキッドタウンハウスの方にも侵入者があったと伝令が届いています。」
「向こうはあなたたちが手を出さずとも警備がいるから十分よ。状況報告だけお願い。」
すでにまとめられていた報告書が机の上に置かれた。
「この人たちがお父様の言っていたデンファレの隠密?」
「そうよ。バンダにもデンドロにも護衛でつけてあるけど…、顔をのぞき込まないの!」
顔は布で覆われ、目元も保護用のサングラスでよく見えない。
声も布を通すと皆同じように聞こえるようになっているため、判断は体格や身長だが、同じような背格好は多く、結局誰だかわからない。
「残り二人は警戒され、取り逃がしました。」
「いいわ。屋敷に近づいたら捕まえて、どうせここにマロニエがいれば嫌でも近づかないといけないのだから」
もう冷めただろうかと紅茶を口に付けるがまだ熱く、急いで口から離す。
「マロニエの実父を調べることは可能かしら?」
「伝令を出しましょう。どこまで調べられるかわかりませんが」
「ホースチェスナット家の領館やタウンハウスへ入るには結界を通らないといけないかもしれない。貧乏貴族ですからそこまで手が回せているとは思えないけれど、結界通過の魔具を渡しておくわね。」
アイテムからバンダにも渡している結界通過の魔具を取り出す。
形はただの紫の石が付いたペンダントだが結界を壊すことなく、通過の衝撃で結界を波うたせることもなく、通り抜ける上級アイテム。
下級、中級もあるが、下級は通過の際に結界から電撃などを浴びながらも通り抜けられる程度、中級は水に入るように波紋が立ち、結界の中の人間に知られてしまう。
上級に行くほど隠密に長け、侵入のみ、全くばれることはない。
だが、使えるのは侵入時のみということで、撤退する場合は中級と同じく、波紋がたってしまう。
「ありがたく、使わせていただきます。」
そう言って一人が消える。
残った一人は私に紙面にまとめられた別の報告書を渡される。
「こちら先日言い使わされました孤児院の子供のリストです。スカミゲラの名はありませんでした。」
「そう。ありがとう。誘拐同然で連れてきてしまったし、あの子も何も言わないけれど、あのあたりは孤児院も他にもあるし、浮浪者の子供も多い地域、引き続き調査をお願い。」
「かしこまりました。」
影に戻ったのを確認し、バンダとリストを見る。
スカミゲラの名がないのは本人から孤児院出身ではないと聞いているためわかっていた。
欲しかったのはヒロインの名前だ。
もっと早く思いついてれば、ローマンでも、ロードデンドロン一家でも調べさせることは可能だろう。
影の一人と交際を始めた実家からの使用人カルミアを見て、妹のエリカがなぜか私の面倒を見るという仕事を放棄して影の訓練に加わっている。
まあ、面倒を見てもらうことなんて式典前や謁見前に髪を結ってもらう程度、王妃教育ではモルセラとフクシアが付いているため必要もない。
アマリリスには専属で十人、お母様や母上も二十人近いメイドが付いていることを思うと公の場でメイドがカルミアと母親のアザレアの二人のみというのは格好が付かないがあまり近くに事情を知らない人を置きたくない。
何かあれば実家のメイドを借りればいいか。
話がずれた。
リストで女の子を探し、何度か名前を復唱するがピンとこない。
デフォルトの名前なんて読み上げる前に変更してしまうため全く記憶に出てこない。
「いた?」
「わからないわ。これなら顔写真付きでお願いすればよかったわ。」
目立つピンクと金の髪にさわやかな緑の瞳、学生で美少女ならば幼いころから美少女であったはず、最終手段は
「デンドロにピンクの髪に緑の目の女の子を覚えているか聞いてきて」
「どうだろう。孤児院にいた頃の記憶が屋敷に戻ってから曖昧になっているみたいだったから。」
「記憶がないの?」
そんなことがあるのだろうか?
「ないわけではないみたいだけど、戻ってからの当主教育や勉強、殿下と時間で目まぐるしすぎて忘れているんじゃないかな?」
「まあ、幼少期の記憶なんて曖昧な部分が多いでしょうけど、それでもまだ八つよ。数年前のことも覚えていないなんて、頭に何か問題があったりしないといいのだけど」
周りの貴族に私の頭はおかしいと思われていることを棚に上げ、デンドロの心配をする。
夕食の時間になり、マロニエは使用人も一緒の食事に何度も瞬きをしていた。
「ここではこれが普通よ。タウンハウスではさすがにできないけれど、領館である以上はなんでも自由よ。」
「……そう」
相変わらず、この国の私の世代の貴族は子供らしくない。
マロニエも動揺している様子だが、一瞬顔に出ただけですぐにポーカーフェイスに戻った。
何がきっかけでゲームのようにニコニコドMキャラになったのだろうか?
席に着いたマロニエにコースではなく、大皿料理で出せばさらに驚かれる。
座った状態のバイキングと思ってもらえばいいのだが、バイキングも慣れないのだろう。
この館では鉱山夫たちや工房、工場員たちの食事は栄養面を考え、栄養士の管理の元、全員健康的な食事をとるようにさせているがお菓子やお酒は自由のため少し太ってきた者もいる。
「そうそう、私はこのままタウンハウスに戻るわ。朝にはスカミゲラが到着しているから」
「解った。でも、俺はここで何をしていればいいんだ? 特になにもできないけど」
「そうね…」
さて、どうしたものか。
領内ならば自由にさせてもいいが、貴族として勉強も必要か。
「午前中はお勉強、午後は自由だけどバンダかエキナセアと行動をして頂戴。」
「…解った。」
返事を渋った辺り、ゲームでも成績は良くなかったことを考えると勉強が苦手なのだろう。
バンダもそろって嫌な顔をするため
「一日のカリキュラムが予定よりも早く終わればなにかご褒美を出すわ。考えておいてね。」
「頑張る!」
バンダの急な返事にマロニエは不安な顔をまた一瞬作った後で隠した。
列車運行時間が終了し、次々と報告書が転送ボックスから届けられる。
本部や車掌、貨物担当者、そして、貴族席を担当していた人物から、
「問題なく王都前駅で下車したようね。私たちが離れてからマロニエなんて死ねばいいという会話があったようだけど、この調子じゃ、まず殺せはしないわね。」
甘い考えしか持たない子供たちにそうそう時間は割かない。
影に報告書を渡し、要観察と告げる。
翌朝、スカミゲラの姿で第一領館に入った僕の前で、マロニエはバンダと家庭教師の教えを受けていたがその顔は心ここにあらずといった様子だった。
採掘量の表を見ながら二人の勉強の様子を見ていると先生の話を聞いているだけでメモを取るわけもなく、質問を受けても答えられない。
「ご褒美」
ボソッとつぶやくとバンダの姿勢が急激に良くなり、マロニエが引いた目で見る。
そこにひらりと紙が一枚天井付近から降りてきた。
昨日頼んだマロニエの実父についての調査記録だった。
魔法の属性は決して遺伝百パーセントではない。
デンファレとデンドロ、バンダで属性は異なる。
だが、稀に兄弟全員が同じ属性を持つ場合、多くは父親からの遺伝である可能性が高い。
これは王家に多くみられる属性遺伝で、殿下と陛下の属性は同じである。
おそらく、ユッカ殿下も同じ属性だと思われる。
これに当てはまるのがマロニエとマロニエ兄妹である。
つまりは、
「マロニエの義父は実父であると……」
「え?」
マロニエが振り返る。
その顔は困惑の色しか見せない。
「勉強に集中してください。知りたければご褒美でねだってください。」
「ん…」
苦虫を嚙み潰したような顔をするが今はそんな顔になるタイミングではないし、勉強に集中してほしい。
座学は八時から十時まで、その後馬術を一時間、剣術を一時間でバンダは終了だが、マロニエはピアノがあるためさらに一時間レッスンが待っている。
ストレートなたてがみの白馬にまたがるバンダだが、七歳の誕生日から始めたばかりの馬術はあまり得意ではない。
口で命令して動く十二支とは違い、意思疎通がうまくできない馬は苦手なのだと昨夜ぼやいていた。
それに比べ、マロニエは馬術が得意な様子でデンファレの愛馬であるウェーブの長いたてがみを持つ黒馬と相性が良かった。
駆け足から足踏みまでうまく操っている。
その後の剣術では実戦の多いバンダが優勢でマロニエは何度かしりもちをついたり、ケガをしたりしていた。
広間にピアノをアイテムの家具から取り出し、楽譜を街でいくつか午前中の内に買ってきてもらっていた。
特に課題を与えられて練習しているわけではないというため、初歩から中級編辺りの楽譜を用意した。
マロニエが自分で楽譜を選び、屋敷の使用人の一人がピアノの演奏ができるため教師として付いた。
それを離れた位置に椅子を置いて見学すること十分、
「僕も何かしたい。」
「何かって何がしたいの?」
「なんだろう…」
アイテムの家具から楽器を探すとマリンバやドラム、サックス、バイオリンにコントラバス、ティンパニなど、様々な楽器があった。
これは王家主催学生オーケストラ演奏会というイベントの産物で、殿下がコントラバス、ネリネがバイオリン、デンドロがフルートなどなど、攻略キャラは固定の楽器があり、誰から教わるかでヒロインの楽器も異なる。
マロニエはもちろんピアノで、デンファレはハープ、誰も使わない楽器はマリンバやティンパニ、クラリネットあたりだろうか。
イベント中のガチャでオーケストラの一通りの楽器はコンプリート、シークレットアイテムのチェンバロやゴングなんかもある。
「これが良い」
バンダがタッチしたことで彼の手元にクラリネットが現れる。
「クラリネットなんて誰にならうの?」
「お爺様が吹いているのを見たことあるから大丈夫。」
大丈夫といわれても教える人間を探さなくてはならないし、楽譜も用意しなくてはならない。
「大丈夫だってば」
そう言って口にクラリネットを当てる。
普通ならばリードと呼ばれる振動源を使って音を奏でるのだが、この世界ではその手間がないのか、簡単に音を鳴らす。
変なところで天才マンを発揮する。
結果、リコリス家で習っているチェロを用意し、小さな演奏会となった。
「貴族として、音楽の手習いがあるのは普通なことだろ?」
マロニエがさも当たり前に言うため、バンダはジトッとした視線を送るが、
「オーキッド家は楽器よりも剣技や馬術に方針を置き、芸術関係はダンスと、聖女に捧げる舞はあるけど、伯爵家以上はどの家にもあるでしょ?」
舞は十歳を越えないと体の成長に追いつかない動きをするためまだ手習いには含まれない。
「スカミゲラもチェロをそれなりにできているんだから貴族のたしなみぐらいの教養は持つべきだろう。」
貴族の中でもそれなりに地位のある家の子らしいこと言う。
さすがに伯爵の血統を持つだけはある。
「でも、楽器なんて誰かの前で吹くことないし…」
珍しくバンダが押されている。
「今後は誕生会などで演奏の機会はあるだろうから、バンダはしっかり練習しなよ。」
僕がそういうとクラリネットを持ったまま、チェロごと抱きしめられるため
「壊れるだろ馬鹿!」
なんて、声を荒げてしまった。




