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薄暗い洞窟には異臭がしており、これがゲームではなくリアルなのだと実感する。
進むにつれ、数匹の魔獣が飛び出してくるためレーザーで打ち抜き、回収。
それをポケットに入る。
こんな物ポケットには入らないサイズなのだ……が、チートの私のポケットは四次元ポケットなのだから便利なものだ。
しばらくすると奥から振動が伝わってくる。
「お気を付けください。来ますよ。」
いつでも放てるように指で拳銃を作り、構える。
光る眼が近づいてくるのを確認し、距離があったがレーザーを発射する。
すると簡単に動きが止まった。
「レベル十五の魔獣ですね。」
猪のでかいバージョンが額から血を流している。
「なぜわかるの?」
「デンファレ様も鑑定のスキルがありましたからできるはずですよ。」
ステータスから鑑定を選ぶと目の前が情報であふれる。
ローマンのステータスもバンダのステータスも魔獣のレベルや持ち物も、奥に潜む子供の魔獣も、情報が多くてすぐに閉じる。
「初めてにしてはすごい情報量ですね。」
いや、これは鑑定ではなく、画面の両サイドに味方と敵のHPなどが見られる小ウィンドウと同じだ。
相手のレベルも同じ表示がされた。
どこまでもゲームだなと思ってしまう。
ひとまず、案内人と依頼人に討伐の魔獣を見せるためいったんポケットへしまい、子供魔獣も倒して根こそぎしまう。
洞窟を出ると早すぎると驚かれるが魔獣を取り出すと驚かれる。
依頼人への報告も済ませ、魔獣の処理も受け持ち、報酬をもらう。
意気揚々とギルドへ移動魔法で転移する。
「え、もう終わったんですか?」
報告のため私たちもついて行ったら受付のお姉さんにそういわれる。
「捕まえた魔獣の買い取りもしてもらえるのでしょう?」
カウンターに背を伸ばしても届かないためローマンに持ちあげてもらい、聞く。
「もちろん……ですがその魔獣は?」
「ここで出すとギルドを壊してしまうわ。外でもいいかしら?」
お姉さんを連れて外に出る。
そこでポケットの中身をすべて出す。
ミギュ以外のマジックアイテムもすべて出すと
「い…急いで計算します!」
と、ギルドの奥へ行ってしまった。
「計算中にもう一つ依頼を受けたかったんだけど……」
「いいじゃん。昼ごはんにしよう。」
バンダはそう言うため噴水広場でサンドイッチをほおばり、待つことにした。
一時間ほど時間をつぶすとお姉さんがやってきた。
「お、お待たせしました。」
なぜかびくついている。
たかがレベル十五の魔獣とその子供を倒しただけでこれとはどういうことかと思っている。
お姉さんについて行くとギルドの奥、マスターの部屋へ通された。
「初日で大捕り物になったようだな。」
楽しそうに笑う老人がこの国で最大のギルドを束ねるマスター。
国王陛下とも交友があり、騎士団や軍との連携も取れる優れた人だ。
魔獣討伐は問題なく、問題だったのは持ち帰ってきた量だという。
こんなにどうやって持って来たのかといわれ、素直に答えるか悩む。
「特殊な魔法を使える物は冒険者には多い。特別な事情もあるのだろう。陛下へ報告する場合と本人の希望でしない場合もある。」
そう言われたため、ギルドマスターはゲーム内でも信用できる人物だった。
陛下へ言わないのならいいかとローマンと眼で会話する。
念話が使えるといいのにな。
なんて思っていると
『あれ、デンファレ様の声が聞こえる。』
できちゃったよ。
『これは念話ね。また後で説明するわ。あなたは反対、それとも話してもいい?』
『判断は任せます。』
とのこと、では、
「私のスキルで目に入った物をしまうことができるんです。」
マスターはそれを聞くと嬉しそうに笑い。
「素直に話してくれてありがとう。稀にその力をもつ冒険者がいる。異世界から転移してきたと言う。君もか?」
「いいえ、私は転移はしていません。」
転生はしているが、
お金が欲しいという話をすると買い取り金額の高い魔獣の討伐依頼を進めてくれた。
魔獣討伐をコツコツ重ねて半年、ついに目標金額達成です。
一番の功績は討伐途中で消えたバンダが大きな魔石の化石を発見してくれたことにあり、その買い取り金額が領地売却金額の三分の一を占めていたのが大きかった。
さらに半年でまた金額が下がったこともあり、あとはお父様の許可を取るだけだ。
私の名前で買い取るためお父様に知らせておかないといけない。
とはいえ、もう買い取りの書類はできており、三歳の子供相手のため出品者は血縁のサインを求めてきただけなのだが、
夕食の席、お母様は今日は気分が良いからと一緒の食事だ。
「お父様、お願いがございます。」
「何か欲しいのか?」
今までの人生、特にほしい物をねだったことはない。
少し前にシャンシャボが欲しい、アザレアが欲しいというお願いはしているが
「実はバンダとお金を貯めていまして、欲しい物が手に入ることになったのです。」
「何?」
今まで食べながらの会話だったがお父様の手も、黙って聞いていたお母様の手も止まる。
「デンファレ、お金を稼ぐとはどういうこと?」
お母様が心配気に聞いてくる。
「はい。実はここ半年、お屋敷を抜け出してギルドへ行っていました。」
「なんだと⁉」
驚くお父様の反動で机が少し浮いた。
「庭師の小屋に協力してくれた方を隠しておりまして、その方の協力で領地を一つ、買い取るための資金が貯まりましたの。あとはお父様のサインをいただくだけなのです。お願い、聞いていただけますか?」
首を傾げた勢いでメインディッシュに髪が入りそうになるのをカルミアが阻止してくれた。
「……食後執務室へ、その男も連れてこい。」
「ありがとうございますお父様。」
バンダと顔を合わせにっこりすると
「その方は信頼できる方なの? 騙されていたりしない?」
子供が心配なのはわかるがお母様、三歳児に騙されていないか確認するのは遅いぞ。
「問題ありません。ステータスも包み隠さず見せてくれるような方で庭師のおじいちゃんも一緒に暮らしていていい人だと言ってくれます。エリカもカルミアも使用人としての振る舞いを聞いたり、シャンシャボもまだわからないこの国の知識を教わっています。」
「あいつらが欲しいというのはそういうことだったんだな。」
急に専属の人数を増やしたいなんて言ったためどうしたのかと心配されていたようだ。
さらにロドデンドロ一家ばかり部屋に出入りしていればさらに心配になるだろう。
「まだこの家になれていない使用人を使ってアリバイ工作とはやられたな。」
にこやかに言うため怒られはしないだろう。
食後、ローマンを連れて執務室へ行く。
お父様の仕事は主に城の財政管理。
現在正妃の他三人の側妃、そして同性の妃・姫夫も表向きは三人いる。
この国には昔から姫と呼ばれる役職はなく、産まれた王の娘は王女と呼ばれる。
そのため同性の妃に姫の称号を付けるようになり、姫は王の子という文化が入ってきた際にでは主君の夫であるため姫夫と呼ばれるようになり、そのまま定着した。
同性の妻(夫)も姫夫と呼ぶようになったのはここ三十年の話らしい。
姫夫のほとんどが大臣などの重要職につくことが多くその出身はほとんどが貴族。
特に陛下の学友が多い。
お父様も昔は姫夫だったという設定がある。
王位継承と同時に正妃のご懐妊があり、姫夫の称号を返上したという設定だ。
もともと王太子殿下時代の遊び相手から姫夫に昇格したこともある。
殿下の遊び相手は姫夫候補といわれている。
子供ができたのなら自分も結婚しようと幼馴染のお母様と結婚したらしいという話は古参のメイドから聞いたことがある。
幼いころから陛下を挟んで知り合ったのだから候補は皆幼馴染だろう。
だが、正妃が初めて身ごもった子は流産。
当時の側妃が原因という噂で、その後数年はご懐妊の報告なく、オーキッド家にも子供はできていない。
その側妃はすぐに離縁された。
父と陛下で何かしらの約束でもあったのか。
正妃のご懐妊発表とお母様がデンドロお兄様を妊娠したのは同時期だった。
それなのに産まれて三か月で誘拐されてしまうとは待ちに待った我が子というお母様の精神的な疲労は大きかっただろう。
執務室へ到着した。
三回ノックし
「お父様、デンファレですわ。」
「入れ」
呼ばれている以上は名乗る。
突然の訪問なら返事を待つ。
それぐらいはできる。
三歳でも
中に入ると机に肘をつき、手を固く握ったお父様がいた。
「先ほどお話いたしました、協力していただいたローマン・カミツレです。」
「ご紹介賜りましたローマン・カミツレです。大切なご子息ご令嬢を無断で連れ出してしまったこと大変申し訳なく、どんな処罰でも受けます。」
ちょっと待て、ローマンよ。
処罰を望むとはどういうことだ。
『ちょっとローマン、勝手に話を進めないでくださいな。』
『いいえ、こういったことは先手必勝です。』
『いったい何と戦っているの?』
ローマンの言葉にお父様は立ち上がり、ローマンの前に立つ。
「娘たちはギルドの仕事でケガをしたことは?」
「ありません。」
「賊に狙われたことは?」
「ありません。」
「おかしな奴に声をかけられたことは?」
「ありません。」
「どれも全部ローマンのおかげよ。怪しい依頼はすべて断るし、変なやつがいたら違う道を行くなり、私たちを隠すなりしてくれたわ。」
「デンファレ様」
まだ口をはさむなと顔に書いてある。
念話無しでも伝わる。
「…いいだろう。領地の話を聞こう。しっかり利益の出る土地なんだろうな。」
「それなのですが、以前の土地持ち主は私の前の主人でして、ルドベキア男爵は領地を賜ってすぐ、経営に困窮し借金で没落いたしました。私としてはなぜこの土地をデンファレ様がご所望されるのか不思議で…」
ここでやっと話していいぞという顔をされる。
どっちが主人か解った物じゃないが話が進みやすいよう、一度聞いた説明も私にさせてくれるらしい。