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殿下と結婚したくないので男装して破滅ルート回避したい  作者: くるねこ
3、領地拡大って簡単に言わないでください。しかもドラゴンまでいるなんて…
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 リコリス家へ一時帰宅すると


「スカミゲラ、クレソンをやめさせて!」


なんて声が聞こえ何事かと視線を向けると五歳のクレソンに十歳のアマリリスが肩に担がれている。


「クレソン、それは女性にすることじゃないよ。」

「だって、足ひねっちゃったっていうから」


だからって俵抱きは無いだろう。

五歳の割には身長が高い。

アマリリスと僕では二十センチ近く違う。

僕もそこまで高くはないのだがアマリリスは長身だし、ヒールを履いている。

そんなアマリリスより五センチほど小さいクレソンは同年代が集まるととても眼立つ。

ゲームでは小柄で泣き虫の可愛い系眼鏡少年だったことを思うと泣き虫克服でこんなに変化するものかと思ってしまう。

魔獣討伐で勝手に鍛えられた肉体が縦に伸びるなんて誰も思わないだろう。


「両足ひねっていないならいったんおろそう。」


少しかがむだけでアマリリスの足は床につく。

右足をひねったようで左に重心をかけている。


「それでね、背中と膝の裏に手を添えて持ちあげる。」

「え⁉」


アマリリスの驚きの声なんて無視してクレソンは再度持ちあげる。

だが、その体制は横抱き、お姫様抱っこである。


「スカミゲラ、これも恥ずかしいわ!」

「ですが担がれるよりはいいと思いますよ。」

「どちらも恥ずかしいわ!」


このままアマリリスの部屋へ運んでもらう。


 ソファーに座らせ、治癒魔法を使うと


「あなたそんなこともできるの?」

「僕ではなくデンファレ様ができるんです。いろいろと付与をいただいていますから」

「僕ももらったよ。」


クレソンは葉っぱの形が揺れるペンダントを取り出す。

だが、一緒に通された赤い花を僕は知らない。


「それは?」

「あ、違う、これは…」


百合にも似ているその花を見てアマリリスは頬を赤くする。

ああ、アマリリスの花か。

ネリネ同様、アマリリスも青い髪をしている。

その青に映える真っ赤や白のアマリリスの花を彼女は髪飾りやコサージュでよくつけている。


 一瞬で鑑定を行うとガラス製の花だとわかる。

正式な婚約成立の贈り物はこれにするかと決める。



 夕食前に戻ってきたネリネは何やら書類の束を持っていた。


「それは何ですか兄上?」

「ああ、殿下がデンファレ嬢の刺激を受け領地経営を学びたいと言い出してな。土地候補の選定中だ。」

「そんなことまで兄上のやることなのですか?」


お目付け役って礼儀マナーで悪いところを指示したり、補佐や勉強面のサポートをしたりするものだという認識をしていた。

確かに勉強も兼ねた領地の経営だろうが、その候補地を決めるのに年のそんなに変わらない子供に任せる物だろうか。


「先日公爵の元へ伺った話は聞いているか?」

「領地の一部をデンファレ様が売却したいという領地ですね。兄上と殿下、あとデンファレ様の兄上もご一緒だったとか?」

「ああ、現在三人で共同経営の予定もしている。公爵領は広いからな。」

どうやら公爵領の一部で勉強を行う用だ。

そうなるととしを重ねるごとにだんだんと近隣地区も任されるようになり、最終的には殿下の土地となる予定なのだろう。

その初期の土地をどこにするかでネリネは悩んでいるようだ。


「公爵ももう高齢ですし、お子さんもいらっしゃらない。王家としてのつながりと安定性を求めると妥当でしょうか?」

「そうだろうが、殿下は王家と関係ない場所で、実力でやりたいという意思もある。」


ため息を漏らす。

その視線、見上げる先を思うとクレソンとあまり変わらない身長なんだと思う。


 「殿下も兄上と同じくらいですか?」

「ん?」


急な話題変換にネリネは困った顔の後、理解したのか口を開く


「殿下は僕より三センチ低い。デンドロは五センチ低い。スカミゲラは――」

「僕は良いです!」


年齢的に低いのは解っている。

ネリネがだんだんゲームのネリネに性格が近づいている。

どこで二重人格設定になるのだろう。

あと十年。

長いようで短い十年だ。






 誕生日です。


憂鬱です。


「デンファレ、少しバニラを見ていてもらえる?」

「解りましたわ。」


今日も磁器の仮面で出席中、バニラはバーティ―用のベビーベッドでご機嫌に笑っている。

早いもので寝返りを打ち、手足をばたつかせていることも多くなった。

赤子を育てたことはないがこんなにも成長が早く、会うたびに顔が変わっていくものなのかと毎度驚かされる。

数日前から実家に帰り、こうしてバニラの様子を見ている日も多い。

お母様はお父様との時間も大事だし、バンダやデンドロとの時間も大事にしている。

母親として赤子を優先すべきな事は解っているが同じくらい大切な夫と息子たちがいるのだ。

もちろん乳母もいるためほかの貴族に比べ赤子と一緒にいる時間が短いわけではない。

私の目からして、前世の記憶が後引き、母親としてどうなのだろうと思ってしまうがこの世界の貴族としてはいたって当たり前のこと、産後体系が戻り次第夜会に出席し始めるのが夫人の仕事でもある。


 お母様はあいさつ回りへ、私の元へは勝手に人が来てくれるため動く必要もない。

バニラがいるため長く話をする人もいない。


 そういえば、バンダは今日もどこへ行ったのだろうか? 

あたりを見渡しているとアマリリスをエスコートしているクレソンが目につく。

でも、近くにバンダの姿は無い。

一緒に魔獣討伐をすることから仲が良いのだが、他へ目をやるとネリネはデンドロと話をしているようで目が合う。

その勢いか、こちらへ歩いてくる。


「デンファレ嬢、お誕生日おめでとうございます。毎年、スカミゲラ経由での贈り物をいただきまして、アマリリスともどもありがとうございます。」

「いいえ、パーティーにも参加しない者からの贈り物で申し訳ないとは思うのですが大事なスカミゲラの大好きな兄上と姉上ですから、何か送りたくて」


にこやかに話をしているが年々ネリネの顔が鉄仮面になりつつある。

スカミゲラとして家にいない間に何かあったのだろうか?


 毎年恒例、王妃様が側妃様方と殿下を連れて現れた。

側妃様の一人は我が子であるユッカ様を抱いている。

人前へ母子で現れるのは初めてではないだろうか。


「デンファレ様、お誕生日おめでとうございます。」

「ありがとうございます。」


王妃様がお母様の元へ先に向かったようで、ベビーベッドへバニラの様子を側妃様が見に来た。


「バニラ様は今日もご機嫌ね。」

「ユッカ様はお眠の様ですね。」


バニラを少し端に寄せ、ユッカ様を寝かせるように促す。

二人並ぶと大きさの差はあるが同じ赤子なのだなと思う。

バニラも隣に眠っているユッカ様にご機嫌だが、だんだん眠気がやってきたのか瞼が落ちてきた。


 パーティーは順調に進み、殿下がやっとの思いでたどり着いたという顔でネリネとデンドロとそろって現れた。


「おめでとうデンファレ嬢。あと一年で君も社交界に出られるな。」

「出席する意欲はありませんが、お誘いがあれば吟味しますわ。」


決して出席するとは言いたくない。


 軽い談笑をしていると殿下の視線が急に他へ移る。

何かと思い隣を見るとベビーベッドで寝ていたユッカ様がパタパタと小さな翼を羽ばたかせている。

でも、その顔は寝ているようだ。


「やだ、この子ったら、寝ぼけているのね。」


側妃様が抱きしめ、ベッドへ戻す。


だが、


「バニラ?」


デンドロの声に妹を見るとその背中にも小さな翼がある。

ユッカ様と同じドラゴン特融の皮膜のある翼は可愛らしいクリーム色だ。


なぜ?


「お兄様お母様を!」

「あ、ああ!」


駆け足でお母様の元へ行くデンドロと急ぎバニラを抱きかかえる私に殿下もネリネも驚いた顔で止まっている。


 慌てた様子でやってきたお母様とお父様は私の抱くバニラの背を見て驚きつつ、王妃様が先に口を開いた。


「オーキッドもランの名を持つ通り王家の血筋、何もおかしなことは無いでしょう。デンファレもドラゴンと話ができると伺っていますよ。」


なぜ知っている。

どこから情報が漏れたのだろうか。

報告書などには書いていない。

保護区を持つにあたる経緯は報告しているものの、竜の寵愛などに関することがうまく働いたということにしてある。


「バニラは早々にユッカの妃候補に上げましょう。」


それを聞き、ネリネの顔が曇る。


「さすがにまだ早いのではありませんか? それに姉妹そろってなんて前代未聞です。私のことで殿下とのお約束もありますが、早急過ぎませんか?」


殿下との婚約に当たっての条件、三十人以上の候補を持つこと、今のところデンドロとネリネ以外いない。

スカミゲラは断っているも同然、ネリネからも伝わっているはずだ。


 こんな状況で妹までも弟殿下の婚約者候補なんてオーキッド家に敵を増やしてつぶす気だろうか。

いや、確かにオーキッド家は大きくなりすぎている。

このままバンダも候補に入った場合、当主になるべきデンドロに婚約者は立てられない以上、王家の指示がない限り途絶えたも同じこと、何を企んでいるのかと、王妃様を見上げる。


「そんな目を向けなくとも、我々にも考えがあります。あなたは領地経営に尽力しなさい。」


 王妃様は今年も鉄の扇子をくださった。

足早に帰っていく王妃様と連れていかれる形で殿下も馬車へ乗り込むのを見送り、側妃様はもう少しおしゃべりをした後に帰っていった。



 パーティーが今年も終わり、シンビジュウムのタウンハウスから呼び寄せてあったカルミアにお風呂の準備をしてもらっている間、パーティー中ずっといなかったバンダにどこに行っていたのかと聞いていると


「どこでもいいじゃん。デンファレだって好きに暮らしているんだから」


確かに好き勝手している。


「初めの話とだいぶ違ってきている。僕が手を出さなくても問題なさそうだし」

「そうだけど、ダンジョンに入ったきり出てこないって聞くし、ほかのダンジョンにも入っているのでしょう。さすがに六歳が単独でダンジョンなんて心配よ。今日何していたかはもう聞かないけど、行動はお父様にぐらい報告なさい。」


つい最近までは甘えん坊でどこへ行くにもついて行こうとしてきたバンダが急に単独行動へ移った理由が知りたいが、そうは行かないようだ。








これにて三章終了です。

一年分飛んで次回は七歳からになります。

腱鞘炎のため更新は亀になりそうですが長くお付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマーク、評価などありがとうございます。

できるだけ早く更新できるよう頑張ります!

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