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殿下と結婚したくないので男装して破滅ルート回避したい  作者: くるねこ
3、領地拡大って簡単に言わないでください。しかもドラゴンまでいるなんて…
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8






 街では出店準備をしている店もいくつかある。

案内所に入り、


「久しぶり、お姉さん。」

「あら、スカミゲラ君。全くギルドに来てくれないと思ったらこんなところで会うなんてね。」

「本当だね。お姉さんはここの担当になったの?」


王都のギルドにいた受付のお姉さんがなぜか案内所にいた。

出張所ならまだしも、案内所にいるのはなぜだろう。


「そうなの。ここはシンビジュウム領とギルドの共同経営だから家賃は無い分、人員はギルドからの派遣になったのよ。」


そうだったのか。

ローマンにそのあたりは聞いていなかった。

いや、エキナセアに任せている書類にはあったかもしれない。

僕の元まで上げる必要はないと思ったのだろう。

お金の発生しない問題だ。

その可能性もある。

一か月分のまとめた報告には記載してあるだろうか。

それは明日当たりに上がってくることになっている。


「領地で解らないことがあればデンファレの花のアクセサリーをしている人に聞くといいよ。彼らはみんな公務員だから」

「公務員?」


名称をどうするか迷い、公務員にしたが、あまりしっくりこない。


「領で雇っている人物のことだよ。ブローチやピアス、ネックレス、髪留めって色々種類があるんだけど全員必ず赤の花をつけているからわかりやすいはずだよ。」

「解った。何かあったら頼るわ。それよりも、これ受けてくれない?」


 そう言って渡されたのは一枚の依頼書。


王都から北に数キロ行ったところにあるリーキ領でダンジョンから魔獣があふれ出す事態が続いているらしい。

レベルからして受ける人手は無いのだろう。


「解った。殿下の生誕祭があるからそれまでには戻ってこないと」

「七歳になられるのよね。早いものね。でも、まだ弟殿下は卵から出てこられないのでしょう? 大丈夫かしら?」


ダンジョンにいる間も誕生の報告はなく、戻ってきてからもお母様のバニラ誕生の話しか来なかった。

母子ともに健康で予定通りに戻ってくるらしい。

デンドロから手紙があった。


「卵だから弟殿下は大丈夫だろうけど、側妃様の方が心配だよね。精神的な面もある。」

「そうね。もう長いこと公務に出ておられないし、心配ね。」


 お姉さんに別れを告げて案内所を出る。

依頼の内容を確認する。

ダンジョンからの魔獣の流出を防ぐぐらいなら二~三日で終わるが脱走した魔獣を探すことまで含まれると面倒だ。


一週間で予定を組んで父上に報告しよう。

転移魔法で王妃教育の日だけタウンハウスへ戻って、その時報告書も見ればいい。

領館に戻り、ローマンに声をかけてリコリス家へ帰った。






 やって来ましたリーキ領。

玉葱の花が年中咲いているらしいこの領はネギ臭い。

リコリス家の親戚筋に当たり、陛下の年の離れた姉王女を娶ったほか、数名の妻を持つ辺境伯はすでに他界しており、姉王女も領地経営にはかかわっていないことから息子たちが主に経営を分担している。

側妻たちは子供とともに王都もしくは夫無き今は実家に帰ったり、再婚していたりする。


「よくぞお越しくださいました。」


出迎えたのは姉王女、ここでは女主人と行ったところだろう。

主に客人の出迎えをしているぐらいだろう。

元の性格上、経営にかかわれないという設定があったが癖があるようには見えない。

姉王女ということだが、だいぶ陛下とは年が離れている。

陛下の上には五人の姉がいるということで、

長女は帝国へ、

次女は国内の侯爵家・リコリス家の先代当主の妻になり、

三女は隣国へ、

そして四女がリーキ家へ嫁いだということは設定で知っている。

ちなみに五女は現在未婚だが義母である聖女の元で女神官をしている。

全員側妃の子であり、陛下のみ、正妃である聖女の息子だと言われているが真意は解らない。

聖女が処女を失うということにはリスクがあり、力が劣ると言われている。

出産となればさらに落ちるという噂がある。

今までの歴史で聖女の立ち位置を考えての噂の可能性もあるがゲームのヒロインが聖女にならず攻略キャラと結婚していることもあるためあながちすべてが嘘ではないだろう。


 ダンジョンの位置を聞き、すぐに出発しようとしたが


「案内が間もなく戻ります。今しばらくお待ちください。」


そう言ったその顔はこんな子供がダンジョンなんかに一人で入って大丈夫だろうかという心配が滲んでいる。


 お茶を出され、しばらくサロンで待たされる。

その間、女主人からは王都の様子などを聞かれた。

辺境伯の領地であるここは当然ながら国境だ。

いくら隣国に姉妹が渡っていても警戒は怠れず、彼女は陛下の生誕祭以外で領地を離れることはしない。

王都には次男と三男、四男が、領地には長男がいる。

四男以下の兄弟はそれぞれの意思で領地なり王都なりにいるのだとゲーム内で説明されていた。


「失礼いたします。アリウム坊ちゃまが戻られました。」


アリウム⁉


「すぐに通しなさい。」


今はまだ学生であり、現在は学校一学期期間。

長期休暇でもないのに領地に戻ることは難しいだろうし、そもそも、今日は平日。

学校の規則で平日は寮生活、休日はタウンハウスに戻ることもできる。

生徒とは言え、デンファレやアマリリスのように領地経営を学生でも続けている生徒や婚約者との時間、貴族のつながりである社交界への参加もあり、帰宅する生徒は多い。

平日の帰宅はそれなりの理由が必要なはずだがどうやって帰ってきたのだろうか。


「ただいま戻りました母上。」

「遅いですよアリウム。お客様を待たせるなんて」

「申し訳ありません。途中の関所であまりに身長が伸びていたことで別人に疑われまして」

「変装するにしてもおざなりですね。さあ、親戚ですがお互い顔を合わせるのは初めてでしょう。ご挨拶なさい。」


そう言われた人物は視線を僕へ向ける。

ゲームよりも幼いその顔ではあるがほかの攻略キャラよりもゲームに近いその姿。


 「お初にお目にかかる。アリウム・ラン・リーキです。」

「スカミゲラ・ラン・リコリスです。よろしくお願いします。」


立ち上がり、頭を軽く下げた。

相手も同じように頭を下げていたのを上げたところで目が合う。

ゲームよりも短く、肩上で切りそろえられた髪に親し気な笑みをたたえている。


「お急ぎの様ですしさっそくダンジョンへ向かいましょう。お話は道中で」

「お気遣いありがとうございます。では夫人、行ってまいります。」


一礼して屋敷を出た。



 道中説明という説明はなかったその分、


「いやぁ、噂で聞く美少年とこうして話せるとは思わなかったよ。あ、ため口だけどいい?」

「お気になさらず、僕の方が年下ですし」


それより


「噂って何ですか?」

「気になるかい?」


ダンジョンのことが聞きたいのだが、噂も気になる。


「殿下お気に入りの美少年がいるというのはずいぶんと前からの噂でね。それがリコリス家の次男だということは周知の事実なのに公の場には一切出てこない。貴族としての勉強よりもギルドへ行くことに興味を持ち、将来をデンファレ様の従者になることが決めている。その魔法はデンファレ様からの付与と類まれなる魔力とセンスにより多種多様な魔法が使える希代の魔術師候補。興味がわかないわけがない。一番下の弟がアマリリス様の婚約者候補となれば会う機会もありそうだが血が近すぎるからないだろうし、君に会えるとは思っていなかったよ。」


つらつらと並べられた言葉だが、ずいぶんと念入りに調べられているようだ。

警戒はした方がいい。

ゲームでも教師という立場もあり、情報を仕入れるという部分に関してはほかのキャラよりも突出していた。

それが学生時代からだったという話は聞かないが家の環境からしたら普通なことにも思える。


「なんだか、噂が独り歩きしているようですね。僕は確かにデンファレ様の従者になりたいですが公の場に出ないのは父上の判断ですし、魔法はデンファレ様が生活に困らない程度に下さった物、僕の実力ではありません。」

「謙遜だな。まあいいよ。もうすぐダンジョンの入り口だ。」


目の前には森があるがここは森まで入ることなく、遺跡がある。

出入り口を考えると縦横三メートル四方と行ったところから体長十メートルのカブトムシが出てきたというのは不思議な物だ。

魔法があればなんでもありなのかと思ってしまう。


 「ダンジョンに入ったことは?」

「シンビジュウム領にダンジョンができたという話は学園でも聞きませんか? 地図やボスの調査で入ったことがありますよ。」


あ、間違えた。

あれはデンファレの姿だったが、まあ、気づかれないだろう。

デンファレ以外にも入った者がいるなんて当たり前のことだし、平気だろう。

表向きにはこの姿でも入ったことがあることになっている。


 ダンジョンへ足を踏み入れる。

シンビジュウム領のダンジョンは入ってすぐに落ちたがここは上り階段だった。

このダンジョンの魔獣は虫が中心で薬草が良く取れる。

医療関係者が度々訪れるが、魔力がそんなに高くなくとも、入り口付近で十分薬草は取れるため魔獣との戦闘は少ない。


 階段を登りきると扉がある。

それを開けた先にあったのはまるで空中庭園のような果てしない空と草木の世界だった。






 ダンジョン内の調査並び、出入り口からの魔獣飛び出し防止の結界は結果としてはすぐに終わり、予定よりも早く、何だったら王妃教育の日程と日程の間で終わらせた。


「助かりました。次は遊びに来てください。」

「お世話になりました夫人。次は儀祖母様も一緒に来ます。」


そういうと嬉しそうに目を細めた。


「さあ、スカミゲラ。出発だよ。」


アリウムはつかみどころのない声で馬車に乗りながら言った。


 別れの挨拶もそこそこに乗り込み、動き出す馬車から手を振った。


 道中の話題はダンジョンへ向かうときと同じく、他愛もない物だったが


「私は現在十七歳だ。そろそろ進路に関して本気で考えなければならない時期ではある。」


十七歳。

デンファレのゲームスタート年齢と同じで二年生だ。


 学校は十六から二十歳まで五年制ではあるが家を継ぐ目的の無い令息は早い段階から就職先探しをしなければならない。

なんだったら十八で中退し、就職を選ぶ者もいる。

この十八というのは結婚可能年齢であり、令嬢の多くはここで中退し、婚約者と結婚することもあり、一つの分岐点ともいえる。

もちろん結婚せずに卒業するという選択肢もあるし、年下の婚約者を持つ令嬢は相手が十八になるまで在学するケースもある。

ちなみに、女性は結婚で中退するが男性は残っていることがほとんどだ。

それもそれぞれの生活的ステータスがマナーや習い事に比べ魔力、剣術、馬術と学校で習うこと、習わないことに分かれることもあるのだろう。

女性の習い事の多くはクラブ活動として存在するがあくまで趣味。

そんなこと家でもできると言われればおしまいだ。


「教員なんかには向かなそうですが、王宮での政務も向かないでしょうね。魔法騎士団なんてどうでしょう?」

「相変わらず変わったことを言うね。私が騎士団に向いていると思うのかい?」

「全く。」

魔法騎士団なんて入ったら速攻隊長側近になりかねないのがアリウムの魔法だ。

ダンジョンの属性の影響を大いに受けたのか木属性の魔法をメインに持ち、さらに土と毒をサブ属性に持つアリウムは毒植物の使い手であり、無毒な薬草から毒を抽出することに成功するのに後一年ほどだろうか。

それにより、学校で教師をすることになる。


 「婚約者にでも相談したらいかがですか?」

「私に婚約者がいるように見えますか?」


あれ? 


確か学生時代からの婚約者がいたはずだ。

ざっくりと学生時代ということもあり、まだなのだろうか。

まあ、結婚せずに卒業後八年も婚約者と同じ職場で働くのだからどういう神経をしているのかとプレイしながら思ったものだが、いないならまあ、いいか。


「辺境伯なんて人気な称号をお持ちですからてっきりいるのかと」

「メイプル家との婚約の話を何とか破断に終わらせたばかりだよ。あの女は性格がきつい。まだ妹の方が従順で扱いやすい。」

「確かメイプル伯爵の末娘は僕と同い年ではありませんか?」

「それが?」


ゲーム内でも年齢差のある恋愛という設定の教師と生徒の関係。

その中でアリウムはメイプル伯爵令嬢の長女エイサーと婚約していた。

エイサーの妹ルブラとヒロインが友人となり、エイサーからの嫌がらせを守る位置にいるのがアリウムで、ヒロインとはそういった経緯で親しくなっていく。

とはいえ、最終的にはルブラにも裏切られるデッドエンドがあるため一概によくやったとは言えない立ち位置にいる。


「まあ、私は異性恋愛にはまったく興味がない。結婚なんて眼中にないんだよ。お母様もわかっていて話を強引に進めるから困ったものだよね。」

「はあ……」


なんか、聞き捨てならないことを言っている。


「まあ、この国には同性のパートナーのみを持たれる方はたくさんいますし、男性同士なら収入も安定していることもあり、問題ないのではないですか?」


こめかみを抑えながらそういうと


「ああ、私が興味あるのは女性同士のほうだ。男にも興味はない。デンファレ様が殿下との婚約を進めてしまったことは実に惜しいと思っているよ。でも、妹君が産まれたという話はもう届いているからね。そっちで期待かな。」

「ちょっと待て」


つい口から出てしまった言葉はもう飲み込めない。


「貴族として結婚する気はないのか?」


ついつい、年上にため口で言ってしまうが相手が気にする人物とは思っていない。


「いや、正妻を持たずに複数の妻が持てるこの国だ。彼女たちの戯れを見て過ごすという選択肢もある。君も一緒に――」

「遠慮します。」


興味はあります! 


そういうゲームだもん。

百合大好きだもん。


 ゲームの進行にそぐわぬアリウムの言動に驚きはしたがこれならばこのルートに問題はなさそうだ。


 これ以上話をすると気力を持って行かれると思い休むと言って目をつむった。








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