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殿下と結婚したくないので男装して破滅ルート回避したい  作者: くるねこ
3、領地拡大って簡単に言わないでください。しかもドラゴンまでいるなんて…
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7






 結界内で燃え尽き、結界自体を縮小しながら手元へ来るように動かす。


「なかなか良い物が残りましたね。」


魔術団長と鑑定を使って観察する。


「防御力が高いですね。」

「そうですね。でも攻撃力もあるということは攻撃を反射できるということでしょうか。」

「加工の使用によってはその効果は損なわれそうですね。実に惜しい。」

「うちの職人でも難しいかしら?」

「王宮の者ならいけるでしょうな。」

「では差し上げるわ。宝の持ち腐れもいいところですもの。」


魔石を魔術団長にわたしてしまう。


 「では、私はダンジョンに戻ります。」

「あとのことはバイオレットに任せてあります。期日内には必ずダンジョンを出るように」

「伝えますわ。では、地図の作成隊もお願いしますね。」


アイテムから扇子をだし、仮面で隠れた口元を覆う。





 それから数日、ダンジョンの第一回調査が終了した。


「バイオレット隊長、お疲れ様でした。」

「お疲れさまですデンファレ様。いろいろと助けていただくことも多く、大変助かりました。」

「私の方こそ、ヘレボルス達には特に助けてもらいました。地図も半分近く出来上がりましたし、ダンジョンの奥の立ち入り禁止の結界も手伝っていただきましたし」


ああ、会話がにこやかでいい。

無口な騎士団長と厭味ったらしい魔術団長に比べ、バイオレット隊長は雰囲気が柔らかくて和やかな会話が続く。

そこに


「呼びましたか?」


駆け足でヘレボルスが来る。


「ヘレボルスもお疲れ様。第二陣も二人が来てくれることは聞いているのだけど、家族は大丈夫なの?」


そういうと二人は顔を合わせ、苦笑いをする。


「無理しているのならば、私は王宮で声を出しますよ。家族に寂しい思いをさせてはいけません。それがいくら仕事の命令でも私は家族をないがしろにする者へは声を張って言いますよ。」


ふふふッと笑うと肩をすくめられた。


「王宮に戻ってから相談してみます。」


一か月近くも仕事をしていたのだ。

最低でも一週間は休みが必要だろう。



 ダンジョンを出た。

皆疲れがある中、その足で王都へ戻るというためそのまま転移魔法で王都の王宮前まで送ってしまった。

私はスカミゲラに戻り、リコリス家へ向かう。



 ただいま戻りました。

そういうとメイドたちが出迎える。


「旦那様がとても心配されておられましたよ。」

「では、夕食前に伺うと伝えてください。きれいなイヤリングですね。良く似合っています。」


そういうと頬を軽く染めたメイドは微笑む。


 部屋に戻り、ローマンから届いている書類に目を通し、返却。

ほとんどをエキナセアが済ませているため僕はチェックのみ。

楽になった。


 さて、溜まっている勉強も進めなくてはならない。

王妃教育が先送りで進んでいることもあり、家庭教師の宿題は楽勝で終わる。

そう思っていると廊下をヒールで歩く足音が耳に届く。

まあ、来ると思っていた。


「スカミゲラ!」


ノックもなしでドアを開けたのはアマリリス。


「戻りました姉上。ですが淑女がノックもなしに、いくら姉弟と言っても――」

「一か月も音信不通とはどういうことですか!」


両肩をつかまれ前後に降らされる。

首がゴキゴキ音をさせる。

揺れる頭を支えられた。

開けられたドアから母上とネリネも入ってきたようで、頭を支えられている僕に


「父上が食事は外でするから支度するようにと」

「解りました。」


 「お帰りなさい。怪我はないわね。」

「僕は領館で執務の手伝いをしていましたので」


それだけ聞くと母上はアマリリスの腕を引いて出ていく。

なんだろうか。

ここ半年ほど、母上はなんだかピリピリしている。

間もなく殿下七歳の誕生日もある。

そうなるとネリネは本格的にお目付け役になり、デンドロが親友枠につく。

母上はそれが少し気に食わないらしい。

年齢、陛下や王妃様との関係性もあり、周りが本人たちの意思関係なくしこむこと、姫夫候補には変わりないのだが、なにが気に食わないのかわからない。


 候補になると婚約者が立てられない。

結婚も王家の管理になる。

そのことが気に食わないのだろうか。

そんな話をネリネとしたのがダンジョン出現前だった。


「母上はお前も候補にいることで余計に機嫌が悪い。」

「僕は候補になりたくない。」

「それを決めるのは殿下だ。なんでもデンファレ嬢との婚約のために候補を早めに決めてしまいたいらしいが、母上はそんなことせずに姉上を候補に上げたいようだ。」


ん? 


候補は男女から選ぶはずだ。

十五人前後ずつ選ぶことになっているはずだ。


「なぜ、姉上は候補になれないのですか? デンファレ様の話と違う。」

「殿下はひとまず姫夫候補をそろえたいようだ。側妃候補は話合いで賛同してくれる相手をご所望だ。それなりに年齢が増してから探そうとしている。あくまで妃はデンファレ嬢のみにしたいようだ。」

「……面倒くさいですね。」


そんなことになっていたのか。

最近手紙のやり取りが減っているから飽きたのかと思っていた。

ネリネの話どおりならば本気で側妃を狙っている母上と殿下の意思は相反する。

仕方ないことなのだろう。

息子が選ばれただけでも満足してほしいがそこは貴族。

生まれも育ちも国のためといわれているのならば仕方のないこと、さらに侯爵なんて爵位の家に嫁いだのだからそれなりの志を持っているのだろう。

このままでは成人で家を出るというのも難しくなりかねない。

母上とデンファレの関係を良好にしておきたいがどうしたものかと考えていると


 「まあ、父上と母上では考えが異なる。」


そう言われ顔を上げる。

この数年ですっかりゲームの中のような硬い印象の少年になりつつあるネリネの表情は変わらない。

お目付け役の役割もあり、それに合わせた教育も行われているという話だ。

僕と違ってもっと奥深くまで知っているのだろう。


「父上は姉上が側妃にならなくてもいいとお思いなのですか?」

「ああ、デンファレ嬢と対立することを避けたいのだろう。なんせ膨大な鉱山に今回のダンジョン。将来僕もスカミゲラも近くに行く相手のライバルを作るのは得策ではない。現在の友人関係のままでいてほしいと思っている。そこで、現在婚約者探しが行われている。」

「姉上の婚約者……」


こういった流れで婚約者って決まるんだ。

じゃあ…


「現在の筆頭はクレソン。領地では経営の勉強も始められ、実に真面目に取り組んでいるという話だ。ここに滞在中も父上と話をしているところをよく見る。辺境伯ならば、侯爵が嫁ぐ先としては申し分ない。」


そういえば、勉強のご褒美で魔獣討伐に数週間シンビジュウム領へ遊びに来る許可をもらっていると言っていた。


「…そのほかには?」

「年が離れているがリーキ領の末息子。ここは親戚筋だからな。あとは親友計画がうまくいかなかった場合オーキッド家のデンドロ令息が上がったがまず無理だろうな。」

「…そうですね。」


クレソンに決まったところで現在のあの子は脳筋一歩手前のため泣き虫でもない。

ゲームのストーリー通りには進まないはずだ。

ここは扱いやすいクレソンが候補のままでいてくれることを願おう。

だが、


「なぜ同い年から選ばれないのですか?」


リーキ領の末息子は十歳近く上で、あとは全員年下だ。


「母上と姉上の性格はよく似ている。年上のはずの父上にもはっきりと意見を言う母上の様子と自身の経験から年下の方が合うと思ったのだろう。」


経緯は解った。

ネリネが時計を見る。

急がなくてはこの家の女性陣は支度が早い。






 ダンジョンの地図が完成したのは一緒に入った第一部隊から数えて四つ目の部隊からの報告だった。

さすがにボスレベルを使役したと言ってもその辺にいるただの魔獣ですら三桁近い魔力を持つ地帯ということで武装に付与を施し、魔力増強や結界などで死者が出ることなく完了。

地図はひとまず領館と王宮へ届けられる。

王妃教育のために王宮へ行くというとそのまま送ってほしいといわれるため、お安い御用だといつも通り送り届ける。


 「ダンジョンの地図は私も見させてもらった。なかなか広大な土地の様だな。」

「そうですわね。スカミゲラが度々彼らの先導をしてくれたのでけが人も少なく済みましたわ。」

「弟が世話になっております。」


この場には私と殿下、そしてお目付け役のネリネがいる。

ネリネと殿下は他愛もない話から国の情勢、間もなく行われる殿下の生誕祭についての話をしている。

今日は王妃教育の一環のお茶会だ。

とても面倒くさい。

仮面のこともありお茶が飲めない。



 領地へ戻ってきた。

殿下の都合ですぐに終わらされたお茶会はありがたかったがその後ネリネに掴まった。


「デンファレ嬢はなぜ殿下との結婚を望まないのですか?」

「何度も聞かないでくださいな。こんな顔の妃なんて必要ありますか?」

「頭脳だけでも王妃にはふさわしい。」

「頭脳といわれても王家にかかわることを妃が決定もできません。私は領地の経営に専念したい。」


不毛な会話は何度目だろうかと領地の自室のソファーに座り、仮面を外して思い出す。


 「デンファレ様、だらしないですよ。」


入ってくるローマン、お前もノックをしろよ。

いつものことのため流してしまうが


「街の計画は?」

「順調です。建物は貸出で家賃収入が入ります。各店の経営者にはこの領地での労働基準法の説明をして、従えない者には店を出させないと説明しました。」


労働基準法。

就労者は十五歳から、

最低賃金以下の給金を支払わないこと、

労働時間は休憩一時間を含めた八時間拘束とすること、

一週間に最低二日の休暇を設けること、

人員が不足している場合は案内所に求人を出すこと、

店主は領民登録を必ずすること、

領地に住み込む者も登録をするようになどなど、

いろいろとあったため書類とともに冊子を配った。

ほかの領地よりも厳しい基準であるため辞退も多かったが、店舗のほとんどがうまったようだ。

ローマンの持って来た書類を見る。


「領地からの出店も多いわね。」


アンテナショップの様だ。


「ファレノプシスブランドの店の従業員希望者も多いのですが、どうされますか?」

「教育期間を設けます。ほかの店の店員とは趣向も違いますし、商品の金額も金額ですし。案内所の近くの建物が一つ空いていましたよね?」

「はい。」


資料をめくり確認する。

大きすぎて使う店舗がない建物は二階に個室があり、住み込めるようにしたが丁度いい。


「職業学校を設けましょう。案内所で募集をかけて向いている職場を探すために体験できる施設よ。試しに鉱山夫相手にいくつかの店舗に声をかけてやってみましょう。」

「かしこまりました。」


ローマンはそのまま下がっていった。


 身なりをスカミゲラに戻し、領館を出る。







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