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一人がすぐにローマンを呼びに行ってくれたが、それよりも先に
「デンファレ様!」
と、いう声よりも先にバタバタバタッと重みがあるものと、パラパラッと軽く薄い物が落ちる音がした。
「あら、エキナセア。出発前には会えなかったけれど――」
「反省してます!」
直立で返事を返した。
足元の書類の束を拾い上げ、内容を確認。
「これはあなたの仕事?」
「はい。ローマンからお嬢様のお仕事の一部を手伝うように言われまして、何か不備はありますか?」
「……いいえ、大丈夫よ。よくできているわ。」
体の年齢がバンダと同じでも、精神年齢がローマンの育てのせいか前世の記憶を引き継ぐ私並みに成長しているエキナセア。
そういえば、
「その顔は何?」
顔を半分覆う仮面。
まるで私の真似をしているようだ。
「あ、えっと、そのですね……」
少し照れている。
やはり真似なのだろうか。
「タウンハウスの訪問者がデンファレ様との面会を所望で、なかなか追い返せずにいたときにみんなで仮面をしたら気持ち悪いと帰っていかれたので、ここ数日は皆仮面をしています。」
「あら、迷惑かけたわね。そういう時は実家に帰っているとでも、領地にいるとでも適当に言っていいわ。どうせどこにもいないのだから」
書類を拾い終わり、エキナセアに持たせると
「デンファレ様。」
ローマンが階段を下りてきた。
「なぜここに? 何かございましたか?」
「確認したいことがあったのよ。私がダンジョンに入って何日経った?」
「はい。十二日目が終わるところです。」
そうか。
予定通り時間が過ぎている。
「何かございましたか?」
「時間の封印を壊したのよ。それで、外と中の時間の経過を確認したかったの。一日経ったらまた来るわ。念のため食糧庫の補給をお願い。」
「かしこまりました。」
「エキナセアも仕事よろしくね。」
「はい!」
要件も伝えたことだし転移ですぐにダンジョン前に戻り、中に入った。
時間の経過が外と同じになったため急ぐことなく、何だったら団の半分を一端領地に戻して休ませることにしたり、追加の後援隊が到着したりと規模が大きくなる。
私は前と同じく、ダンジョンの終わりまで進むつもりで飛んでいるが全くと言っていいほど氷の城は近づいてこない。
どういうことだろうか。
その間もどんどんレベルの高い魔獣が現れる。
もう既にレベル千は超えている。
これ以上上がるとさすがにつらい。
「デンファレ様、今日はここで休みましょう。」
「解りました。テントを出しますね。」
さすがに千越えを一人で倒したというわけにはいかず、現在後方支援に回り、主な攻撃は追加の隊で来た飛行能力のある魔術師とともに進んでいる。
隊を組んで三日が経っている。
この生活にも慣れ、騎士団ということで顔に傷が有る者もいるといわれ、言葉に甘える形で仮面を外している。
そのおかげで幻術を常時使用中のため、ドロップペンダントに付与を施し、術が解けないようにした。
昼食が食べやすくなった。
少し離れて机とイスを出しているが隊のみんなは適当にラグを敷いて座っている。
砂漠のエリアが終わり、多肉の森へ入った。
その多肉の森ももうすぐ終わりそうだ。
風景が少しずつ変わり、どうやら次は少し乾燥気味でも育つような植物の森の様だ。
綿の花の草原を越えたところにある、まるでミステリーサークルのように押しつぶされたイネの上で休んでいる。
なぜ、こんなことになっているのか調べてから進むかという相談中の声も聞こえてくる。
その間に食事を終わらせ、ずっと飛んでいるため背筋をよく使う。
それを伸ばしたり、軽くストレッチをしたりしながら気配感知の範囲を広げてみる。
すると、
「ヘレボルス様、問題が発生しました。」
「何かありましたか?」
少し焦ったような声でこの隊の隊長、ヘレボルスが聞き返す。
「視線を向けないで、真上にレベル1384、クモ型の魔獣がいます。どうやら、この平地はその子のベッド、あのまま飛んでいたらおそらくクモの巣に捕まっていたでしょう。」
「さすがにそんなレベルでは我々も苦戦します。さらに昆虫型の魔獣は厄介です。服従の首輪が使えない。」
そうなのだ。
服従の首輪は獣類に使用できるが甲殻類、魚類には使えない。
鳥類は大きく分類して獣類に入る。
「ですが冒険者の安全のために討伐してしまうか使役しなくてはなりません。」
アイテムを開き、何か良い物はないかと探すと虫取り網はあった。
魔獣系昆虫採取バトルのイベントで使う道具でこのイベントのランキングも一位になった。
でも、これは捕まえるだけで捕獲は虫籠、もちろん籠もあるが、入れたところで使役はできない。
さて、ほかにはないかとスクロールしているとヘレボルスが覗いてくる。
「さすがデンファレ様、珍しいアイテムを多く持たれていますね。」
さすがってなんだろう。
私の評判が気になる。
「この中から使役関係のアイテムだけ検索出来ればいいのだけど」
そう言った瞬間、画面に検索バーが出て驚く。
「こんなこともできるんですか?」
「私も神の申し子としての能力には不思議ばっかりで何ができて、何ができないのかはまだ未知ですの。」
「聖女の祝福に神の申し子、精霊の寵愛とデンファレ様がいかにこの国に重要な人物であることは王宮に仕える者なら皆周知のこと、わからないことがありましたら専門的な知識の有る者に聞くことも大事ですよ。殿下の婚約者であるあなたを邪険にする者はいませんから」
邪険にはできないだろが、仕事の迷惑などもある。
それに簡単にスキルを見せるわけにもいかないため相談はできない。
そんなことを思っていると見つけた。
順応の入れ墨。
バイオレット隊長の次男のライバルキャラのデッドエンドを迎えた場合に入れられる入れ墨で命令に従う以外の行動がまずできなくなるためできたら使いたくないが、魔獣相手ならいいかと踏ん切りをつける。
もちろん、命令の内容は今までと同じく冒険者へ危害を出させないことと私の命令を聞くこと。
それ以外では今まで通りの生活をするように、何か生活に変化があればそれに順応していくように契約を組みながら魔法陣を作成、入れ墨の図柄はデンファレの花と蝶にしておいた。
魔術師の避難を完了させ、クモ魔獣を目視する。
するといくつかの目で私を確認したようで一直線に落ちて、いや、糸を吐きながら降りてきた。
その体が地面に触れた瞬間、魔法陣を発動させる。
普通ならば、レベルの違いでまずできない。
だが、偽っているとはいえ私のレベルでも問題ないと言い張るには女神の祝福を常時展開させながら陣を発動させているからだと説明した。
少し時間をかけ、入れ墨をクモの臀部に彫っていく。
時間の流れを気にしなくなったことも、ギャラリーがいることも気にしなくて良くなったのはありがたい。
だが、そこに
「デンファレ様、またも遺跡を発見しました。急ぎ戻ってきていただけますか?」
タイミング悪く魔術団長の呼び出しがきた。
仕方なく、急いでいる風に魔力を微量強め、入れ墨を完成させる。
「さすがですね。」
「ラグを持って先に進むなり、もう少し休憩するなりしていてくださいな。戻るときはまた通信機で知らせます。」
転移の陣を開いてすぐに向かった。
遅い。
そんな顔をされるため
「レベル千四百となると時間がかかりますし離脱するにも祝福が無くなれば隊の命に関わります。急な呼び出しも構いませんが、この地域よりも魔獣のレベルが高い地にいるということを忘れないでいただきたいわ。」
喧嘩を売るから買ってみろ。
そう思ったが
「…申し訳ありません。以後気置付けます。」
なんて言われ、拍子抜けする。
遺跡に入る。
中には太陽の遺跡(先日名前が付いた)とあまり変わりなく、海の図柄が広がっていた。
その先にあった石板もそれに合わせてか蛍光色で青かった。
「我々にも解読できるように一覧が欲しいのですが」
「申し訳ないけれど二つの種類までしか教えられないわ。この密集した文字は私も読めない物や言われないと書けない、見ないと読めない物も多いから」
漢字すべては把握できない。
そもそも漢字が苦手だ。
読めるけど書けないなんて数えたらきりがないほどある。
そもそも、ワレが必ずカタカナの理由がわからない。
漢字でいいじゃん。
面倒くさい。
カエラレず、も、意味が解らない。
漢字わからなかったのだろうか。
パソコン作業だから変換ミスだろうか。
新たな石板の文字も我はカタカナのワレだし、そのほかにもなんだか混ざっている。
【太陽ナキ夜に輝く真珠。涙のように流れる雫に口を付け、赤く染まる弧が血を垂らす。】
今回が短いようだ。
さらに言うと台座には何もなかった。
まあ、簡単に月の話なのだろうが、月から何か垂れてくることはない。
赤く染まるのは月食だろうが、弧を描いている間が赤かっただろうか?
さらにここから血も垂れてこない。
「ここは月の遺跡にしましょう。」
「そうですね。読めたのならもう大丈夫でしょう。お戻りいただいて結構ですよ。」
「そうさせていただきます。」
仕返しだろうか。
用済みだから帰れと言われた。
言われた通りに帰りますが後で何かさらなる仕返しをしてやろう。
クモの使役は問題なく、ヘレボルスは先に進まずに待っていてくれたようだ。
「お待たせしましたね。」
「いいえ、団長と何か?」
たった数日で私と魔術団長の関係が悪いことはばれている。
大人げないという雰囲気ではあるが、ここにローマンが居れば私も大人げないといわれてしまう。
「新たな遺跡にあった石板を読み上げたら帰れと言われましたの。同い年の娘がいる方とは思えませんわ。」
毒は吐いてすっきりしてしまう。
「ああ、団長は娘さんとはあまりいい関係が築けていないんです。奥様のこともありまして」
「確か上の子二人と下の子では母親が違うのでしたね。ですが、貴族では一般的なことで王宮務めなら爵位がないとは言え、団長の地位にいる方ですから本妻の他に数名囲っているぐらいでなくては建前が付かないのではありませんか?」
「それもそうなのですが団長は前の奥様とは喧嘩別れ、さらに今の奥様はほとんど家に帰られないようで」
そりゃあ、魔女だからな。
そう簡単に戻ってこられないだろう。
出発する準備が整い、飛び立つ。
「なかなか、城までたどり着きませんね。」
「見た目の大きさが一切変わらないことを考えるとあの場に到達する前に時空間魔法の壁を突破しないいけなさそうですね。」
「ですが、そう簡単に時空間魔法を通り抜けることはできません。」
「穴をあけることができます。ですが、私でも現在のボスのレベルを考えると使役できるかは難しいでしょう。」
アイテムに時空の抜け穴というフラフープがある。
これがあればHPを減らさずに時空間を抜けられる。
だが、現在で千四百。
千を超えてからは二百事上がったボスが出てくる。
飛行時間も長くなっていることも考えると、この距離の間にレベル上げをしろということだろう。
一定以上を超えるとさすがに上がりにくくなる。
そのことを考慮しての距離だろうか。
しばらく進み、黄金色の麦の海から南国な花が目立つハイビスカスの木とその木に絡みつくブーゲンビリアの蔓が見える。
「下りるのは危なそうね。」
「そうですね。あ!」
ヘレボルスが何かを見つけたような声をだすため皆が止まる。
「どうかした?」
「あそこに何か光りました。」
光った。
と、いうのはこの飛行中にはあまりないこと、魔獣はだいたい気配で解るため光ったというよりも感知したといった感覚だ。
「行ってみましょう。」




