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転移魔法で戻ると屋敷の中には騎士団と魔術騎士団の隊長がいた。
「お疲れ様です。」
隊長が団長二人に駆け足で寄ると
「その子がデンファレ様から多くの付与を得ている少年か?」
「そうです。デンファレ様は?」
「まだ体調が優れないそうだが二~三日中に城へ向かわれるそうだ。報告を」
「はい」
時間の関係、魔獣の鉱物武装、さらに奥へ進むとレベル五百を超える魔獣もいると子供たちから報告があったと説明する隊長だが、団長たちは子供たちの報告なんて信頼できるのかという顔をしている。
「スカミゲラ君により、五百超えの魔獣には服従の首輪がされています。この目でも確認しました。」
ダンジョンを出る前に鳥の姿に変身し、隊長だけを連れて、魔獣の確認を行った。
まるで青光りするガラスの宮殿で丸まって眠る姿はラスボスの様だが、他のダンジョンの魔獣はレベル千を超えるラスボスがおり、聖女の祈りを使うことでレベルを下げて数回に分けて挑み、何とか討伐するのだが、僕は一発討伐もできている。
ゲームならば楽勝だ。
「……本当に五百を超えていたか? 五十の間違えじゃ?」
「疑うのなら自分の目で確かめればよろしいでしょう。後援隊は明日朝一で入るのでしょう。」
子供だからと馬鹿にいた言い方をしてきたのはこちらも攻略キャラの父、ドラセナ魔術騎士団長である。
こちらも将来、昇格で騎士団を離れ、王都や王宮を守るための魔法官になる人物で、その子供は平民生まれでも貴族学校に通う。
兄はネリネと同い年で弟はクレソンと、間の娘は悪役ポジションでヒロインの友人になるが兄弟と仲良くなっていくことに不安や焦りでデンファレにそそのかされる。
どんだけデンファレはヒロイン嫌いなんだよ。
と、思ってしまう。
ローマンに目配せをし、
『状況は?』
『大きな変化はございません。魔獣の活動が少し活発ですが、鉱山夫たちのレベルならば問題なく、屋敷周辺も採掘場周辺も問題ありません。』
『エキナセアは?』
『反省のためにタウンハウスへ行かせています。デンファレ様のやられるはずの仕事のチェックをするように言いつけてあります。』
『僕の仕事が減っていく。』
『忙しい身ですから分担は大事ですよ。』
まあ、変わりがないならいいだろう。
団長たちを無視して二階へ上がり、執務室へ入る。
「それで、街の計画は?」
「ダンジョンの噂が広まっていますゆえに出店や宿屋を開きたいという者から手紙がいくつか」
渡された手紙の束を開いて行く。
「ギルド出張所の予定は?」
「マスターから許可が出ました。この辺りの領地から依頼も受け持てるようにしてくださいますし、お話にあった情報屋などの計画も順調に進んでいます。」
「街の一番良さそうな場所にファレノプシスブランドの店舗と出張所と情報屋の間には絶対に武器屋と宿は置かないで、行動範囲が狭くなる。その代わり、領地の名産品のお店をいくつか置きましょう。」
しゃべりながら服装をデンファレに戻していく。
最近は子供らしい服は着なくなり、淑女として大人しい色のドレスを着ているがその分、仮面や装飾品、髪型に付けるヘアパーツなどに華のある物を、と、王妃教育で言われたため私としてはありがたい。
最近、ファレノプシスブランドに合わせてドレスもシンプルな物が増えてきた。
今となっては時代を替えた一人といわれている私だが、ほかに数名上げられた名前は何もしていない人もおり、適当だなと思ってしまう。
「街の計画は出店店舗がそろってからにしましょう。」
「建売で安価するか、時間はかかるけどオーダーで建てるのかも相談ね。」
「魔法があればそのあたりもなんとかなるでしょう。コランダムともう少し相談しましょう。」
計画は今後の出店希望にもよる。
ひとまず、実家に帰り、お父様に陛下への謁見予定を立てなくてはならない。
資料を整えた頃には夜明けの時間。
そろそろいいかと下に下りていく。
「…デンファレ様……?」
「はい。急ぎの事態だというのに私事で来るのが遅れてしまい申し訳ありませんわ。現状はスカミゲラより報告を受けております。私は王都へ戻り、陛下へ報告してまいります。隊がダンジョンに入っている期間の見込みは?」
「はい! 約二十四時間、二十五日前後の予定でいます。」
ドラセナ団長が答える。
殿下の婚約者だからとはいえ、一介の貴族の娘、爵位を継ぐわけでもない者への対応とは思えない。
愛妻家なのはゲームで知っていたが、子供への対応が悪いと思っていたらこいつ、もしかして子供が嫌いなんじゃないか? もしくは苦手。
「解りました。そのあたりの報告は私からしておきましょう。食糧などの確保は?」
「魔獣を狩って食べれば問題ありません。」
「話で聞く魔獣が食べられるとは思いませんが」
そういうとドラセナの肩眉が上がる。
「鉱物鎧の魔獣という話、スカミゲラが討伐した際魔獣からは血が出なかったという。つまりは体内も鉱物で埋めつくされている可能性があります。念のためこちらの食糧袋をお持ちください。」
バイオレット隊長に袋を渡す。
「食糧袋?」
「はい。時空間魔法で屋敷の食糧庫とつなげてあります。二十四時間とは言え、この人数です。食糧は豊富な方がいいでしょう。」
「ありがとうございます。」
素直に受け取るバイオレット隊長は魔獣を数体倒しているから納得しているようだが、団長たちはいぶかしむ顔をする。
それを無視して、
「ローマン、スカミゲラが工房に頼んだ物はできているの?」
「こちらに」
まとめて付与を行ったことはないが指輪を十個ほど持ち、手のひらに包む。
転移魔法の付与をするがダンジョン内の移動のみにしておく。
数回繰り返し、人数分あることを確認し、
「帰宅時に回収いたします。領外への持ち出しは禁止です。持ち出してしまった場合、爆発しますのでご注意ください。」
「威力は?」
騎士団長が聞く。
「悪意のレベルに寄りますわ。」
ふふふッと笑っておく。
軽くお辞儀をして転移魔法で実家に向かう。
実家に戻って早々、お父様の迎えにあった。
「バンダから報告は受けている。追加の報告は?」
「執務室でもよろしいですか? そのバンダは?」
「手紙通り罰に出している。リコリス家のネリネ令息の元へ送った。スカミゲラはまだ領か?」
「今はタウンハウスで私ができなかった仕事の手伝いをさせていますわ。そろそろ、経営の手伝いもしてもらうつもりでいましたから」
そういいながら執務室へ足を進める。
「お母様とお兄様はどちらへ?」
少し早い時間のため、起きているのはお父様だけかと思ったが、家の中に二人の気配はない。
使用人の数も少し少ない。
お母様は妊婦のためこんな早朝から出かけるとは思えない。
「アップル領へ戻っている。お前の出産の時は双子だったこともあり、移動の負担も考え里帰りはしなかったがデンドロの時も出産は里帰り中だった。あと三か月ほどは戻ってこない。」
出産予定はデンドロの誕生日の一月前、間もなく建国記念日の今、式典や領地、財務官の仕事のあるお父様は残ったのだろう。
お母様が大好きな割に送り出すのかと思うが、一緒にアップル領へ行ったところでお爺様に気を遣うだけなのだろう。
「そうですか。バンダは何も言ってくれませんし、最近体調不良で家に戻ってきていなかった私も悪いのですね。」
「いや、お前もアップル領へ行くと言い出すことはないだろうと思ったが、さすがに行っていたらとんぼ返りになっていただろう。」
そんなころの出現か。
ならば魔法馬車で二日かかるアップル領だがとっくに到着し落ち着いているころだろう。
戻ってくるのは遅くてデンドロの誕生日当たりか。
執務室に入り、軽食が出された。
メイドに礼を言って、お父様だけとなったことだし、仮面を外す。
「少し良くなったか?」
「あまり変わりませんわ。」
この顔でいると素顔がどういう風に変わって大人になっていくのかという経過を見ない。
スカミゲラとして生きることも当たり前のようになってきた。
ダンジョンの資料をお父様に見せる。
熟読してから
「お前もダンジョンに入る気か?」
「そのつもりです。時間の間隔が違うのでそのことも調べないといけませんし、ラスボスの確認も必要ですわ。」
「……まあ、お前のレベルならば問題ないか。」
「一様、聖女の祝福も使えますから長期戦に持ち込むこともできますわ。後援隊は先ほど出発しましたから私も同じ時間でダンジョンにいるつもりです。期間は二十五日前後です。」
「それを陛下へお伝えしたいと?」
「そうなります。そろそろお目覚めのお時間でしょうか?」
「バンダが戻ってきたときにお前が戻り次第報告に行かせると言ってある。いつでもいいだろう。転移魔法でいく。」
陛下に寝起きドッキリでもするつもりだろうか。
急ぎ、いいドレスに着替え、転移魔法を使う。
王宮は朝でも静かで寝静まっているという様子はなく、寝泊まりで仕事をしていたのだろう政務官や雑用員がせわしなく動いているここは殿下や陛下の生活空間とは違う区画だからだろうか。
「皆さま早起きですわね。領では今頃のんびり朝食の準備中ですわ。」
「そうだろうな。」
「就労環境を比べるほどの規模はありませんがもう少し人員を増やし、仕事の分担をされてはいかがですか? もちろん、増員の教育も、増員の仕事能力もあるでしょうが」
「今は教育する人員が少ない。増やしたところで人手がなくては無駄な給金を払うだけで、さらに、貴族はずるがしこいからな。教育を受けず、王宮で働いているという身分欲しさに何もしないやつも多い。」
「どこにでも不正を当たり前にする人がいるのですね。」
前世でも何かと不正でニュースになっていた人物たちは私たち平民よりも身分以外で上にいる職業の人間だった。
お父様の執務室から向かったのは別の塔。
お父様も転移魔法が使えるとは思わなかった。
誰かの付与だろうか?
お父様自身が付与を使えるためどうなのかわからない。
仕事や軍事の施設とは別の棟にある王族の建物。
入るのは初めてだが、ゲームでは何度か入った。
今思うと、婚約者でも入らないここに、恋人でもないヒロインが何度も入るというのは問題ではないのだろうか?
「デンファレ⁉」
階段を上がったところで聞こえた声に視線を向けるとそこには楽な服装の殿下がいた。
「あ…失礼した。おはようデンファレ嬢、オーキッド侯爵。」
「おはようございますわ殿下。」
私に合わせ、お父様もお辞儀する。
「こんな朝から、なぜこんなところに?」
そういいながら、殿下はお父様の顔を見る。
「陛下に朝のご挨拶を」
よくあることなのだろうか。
殿下は聞き返すことなく、
「そうですか。デンファレ嬢の領地のことは聞いています。その報告か?」
私の顔を見ながら言うが手は目を擦っている。
寝起きなのだろうか。
「よくご存じですね。ダンジョンの調査に出るため体調不良に続き、もうしばらく王妃教育をお休みさせていただくという旨のお話をしにきましたの。」
「そうか。久しぶりに顔が見れたと思ったのだが、またしばらく会えないのか。怪我無く、戻ってくるよう願っている。」
ありがとうございますとお礼を言うがここでふと、誰から聞いたのかと思い
「ダンジョンのことはどなたからお聞きになられたのですか?」
と、聞く。
「ああ、スカミゲラが戻らず、クレソン令息から事情を聞いたということだった。それをつい昨日、王宮図書室に用があったらしいネリネに聞いたんだ。」
この口ぶりだとバンダの話には触れなかったようだ。
ネリネのところでバンダが何をさせられているかも知らないが
「そうでしたか、その際のクレソンは何かおっしゃっていませんでしたか?」
「父様に怒られるとおびえていたらしい。」
それを聞き、お父様がかすかに鼻で笑う音がした。
自分もバンダを思っただろうから想像したのだろう。
殿下と別れ、慣れた様子で奥の部屋のドアを開ける。




