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第三章始まります。
時期としては五歳中頃から六歳ごろになりました。
よろしくお願いします。
領地拡大って簡単に言わないでください。しかもドラゴンまでいるなんて…
王妃教育は順調です。
当初の予定を書かれた年間のスケジュールをもらっていたものの、気が付くとどんどん先に進んでいく。
私の記憶力がすごいなと思いつつ、こんなペースで進めてどうなるんだと、どこまで教えるつもりだと、思う日々を一年過ごした。
その間にオーキッド領の店舗は予定通りに開店。
王都店舗ほどではないが開店日は列ができたらしい。
店長・グロキシニアには開店までの間王都店で修業もしてもらい、接客も慣れた状態でオーキッド領へ行ったため、その分気持ちに余裕があっただろう。
週間で報告書をもらうがうまくやっているようだ。
月に一度の視察も問題は見られない。
領地のことといえば、出生率が順繰り上がってきている。
元浮浪者と村娘が結婚したり、職人としてギルドから派遣された女性と結婚したり、村ですでに結婚していた夫婦の元に新たに子供が生まれたりとおめでたい話が続く。
そのため出産を控える女性が増えたことで屋敷の一角に病院を作った。
王都の産婦人科医を一時的に派遣してもらい、しばらく滞在してもらった。
魔法があるため難産や帝王切開なんてことはなく、魔法の使い方を教えてもらい、何度か出産に立ち会い、領地に助産師という職業ができた。
実は実家でもお母様が妊娠している。
検査で女の子だということが解っているため名前の候補がいくつか上がっているがどれも蘭の花だった。
その中からバニラに決まったのだが、バニラって蘭だったんだという私の感想はバンダの耳に入ったはずなのに何も戻ってこなかった。
私たちはもうすぐ六歳になる。
間もなく殿下が七歳になる。
そのためか毎月のようにガーデンパーティーやお茶会を開いている。
それを領地を理由に不参加を貫いている。
先に七歳になっているネリネやアマリリスは必ず参加しているためスカミゲラとして情報収集は怠らない。
そんな私の日常ですが、王妃教育を終えてエリカとタウンハウスに戻り、急ぎ姿をスカミゲラに替えてから領地へ向かう。
「それで、ダンジョンが出現したってどういうこと?」
教育が終わってすぐにエリカが私の部屋に置かれた転送機に届いた手紙の内容を聞き返す。
「バンダ様が発見され、クレソン様が急ぎ報告に来て下さったのですがその後二人で入っていかれてしまいまして」
「なんで止めないんだ!」
「エキナセアに行かせたのですがどうやら一緒に行ってしまったようなのです。」
「あいつら本当に馬鹿なのか? まだ探索隊も出してないところに入るかよ。」
「口が悪いですよ。王宮にはダンジョンの報告を速攻で上げましたので明日には探索隊が到着するでしょう。」
「悪いがあの三人がそこまで持ちこたえるとは思えない。僕も先に中へ入る。ペンキをあるだけ用意して」
「すでに」
領地に到着してすぐ、エリカに仕事を頼んだつもりだったが事前準備のいいローマンがすでに準備を終え、荷物を四次元巾着に詰め込んでくれていた。
領地の物は基本僕のアイテムには入れていない。
ローマンたち使用人に管理を任せ、領館地下に保管されている。
持ち出す際は記録簿に使用量と目的を記載する手間を取らせている分、事前準備はできているだけありがたい。
巾着を受け取り、ダンジョン出現地近くまで転移。
遠目で様子をうかがうが魔獣が出てきている様子も気配もない。
ならばまず、ダンジョンに結界を張り、魔獣が出てくるのを防ぐ。
次に、出入り口に転移魔法の魔法陣を描いて行く。
「それじゃあ、中に入ってすぐにも描いてくるし、数百メートル置きに描くけど、そんなことしてたら三人を探せないからほどほどにしかできないし、地図を作る時間なんてないから」
「解っております。どうか三人をよろしくお願いします。」
「少しは僕の心配もしてよ。」
そうつぶやきながらダンジョンの入り口へ入る。
出現地は先日来たときには休憩にちょうどいい草原で、近くにはトロッコのレールも置かれている。
レールを製造後、いちいちふもとまで下りる手間があったため一時置き場にも使っている。
そこに突如遺跡のような大きな石をつみかさねたストーンヘンジのような物ができていた。
昨日まではなかったという話だから本当に突如現れるんだなと思ってしまう。
ダンジョン。
魔獣が産まれる場であり、貴重なアイテムの原料の宝庫。
ダンジョンのある領は無限ともいえる資源を手に入れたといっても過言ではない。
現在、国内のダンジョンは六つ。
最後の一つから今日出現したダンジョンまでの間に三十年あった。
ここは新たなダンジョンとして七つ目となる。
だが、こんなダンジョン、ゲームには無かった。
六つどれも特色があり、薬草や魔石、特殊魔獣、鉱物、植物、宝と別れている。
ここは何があるのかと思いつつ、踏み出した一歩。
地面がない。
まさかそんなことはあるのか
「うっそ~!」
声が響く、思いのほか深いようで
「これ、戻り道あるの?」
転移魔法陣をいそいそと描き、歩き出す。
ちなみに、ダンジョン内から外へ行くための陣は特殊で僕が日常的に使っている物とは違う。
ゲームではアイテムとして“抜け出しの魔法陣”というものを消費して外に出る。
あとは転移魔法陣までさまよいながら行くしかない。
ダンジョン内移動用の魔法陣を描きながら進むこと数時間。
人の姿がないのは当たり前、出てくる魔獣は見たことがない種類が多く、鉱物なのか、魔石が露出しているのか、そんな鎧のような物を身に着けていることが多い。
拾うアイテムも今まで無いものでどんな効果があるのかもアイテム説明に乗らない。
まっすぐひたすら歩いてさらに数時間。
陣を描くのも疲れたため、やめて三人を探す。
ここで使い魔を出して探すと使い魔も迷子になる可能性もあるため出せない。
「あ、僕が鳥になればいいんだ。」
大きな鳥の姿に変身し、千里眼も駆使して三人を探すと奥の方へ進んでいるようで羽ばたき速度を付ける。
上空から見つけるとバンダの口が
『見つかった…』
と、動いたことが解り、急降下。
逃がす前に
「何三人で勝手なことしてんだ!」
目の前の降り立った人間に急にそんなこと言われたらだいたいは驚くだろうが、この三人はそんなことはない。
バンダは言わずもがな、エキナセアも褪せる様子なく、クレソンは五歳にして脳筋に片足突っ込みつつある。
三人の様子はボロボロ。
エキナセアの執事服は乱れ、土埃が付いている。
バンダとクレソンは魔獣討伐用に丈夫な服を着ているがそれでもところどころほつれている。
「何体ぐらい遭遇したんだ?」
「え……逃げた数の方が多いかも」
バンダはエキナセアを見る。
エキナセアには鑑定魔法付与のピアスを渡してある。
危険と分かったら逃げてきたようだ。
「討伐三体、回避二体、避難が十五体です。」
「なんで引き返さない!」
「だってあの入り口だよ。進むべきでしょ。」
クレソン!
脳筋にはまだならないで!
「二人は親に、エキナセアはローマンに報告します。国兵もまだ入っていない未開のダンジョンに入るには国の許可が必要です。それを破ったという意識を持ちなさい。しばらく、お勉強をしてもらいます。」
「いやだ!」
一目散に逃げたのはバンダだった。
それを見て、クレソンは逆方向へ逃げる。
「エキナセア。わかっているな?」
「クレソン様を追います。」
ローマンからのお勉強なんて今現在でも厳しいようだが、
報告後にどうなるか、
エキナセアの判断は正しいだろう。
余計なことをして刑が重くなるようなことの無いようにすぐにクレソンの捕獲へ向かった。
僕といえば、バンダの行動判断はすぐにわかる。
少し離れた木々生い茂る森の中、木の皮が少し剥がれた木を見つけ、周りにアイテムからわらしべ長者イベントで使った藁を敷いて行く。
そして、火をつけた。
「デンファレ非道!」
「そう思うならば早く下りて着なさい。」
「下りられないよ!」
「下りないと死ぬわよ。」
そう言ってやっと下りてきたバンダに使い魔の蛇を出して体を拘束させる。
「ひどいよ。最近全然かまってくれないのに、この仕打ち…」
「自業自得だ。」
少しだけ素が出てしまったがすぐにスカミゲラとしての僕に戻り、森を出る。
クレソンはすぐにつかまったようでエキナセアの小脇に抱えられている。
エキナセアが思いのほか身長が伸びるのが早く、筋肉の付いたクレソンでも軽々持っているのは恵まれた体格だからだろう。
「スカミゲラ様、どうやって戻るおつもりで?」
「魔法陣をいくつか置いてきからそれで帰れる。少し待ってろ。」
ペンキを出して、石畳の上に魔法陣を描いて行く。
少しして書き終わったというところで
「スカミゲラ!」
バンダの声に顔を上げた。
森の奥、小高い丘やがけなどがある風景の先にはるかに大きな魔獣がいた。
「レベル599。闇属性の魔石の鎧を着た魔獣です!」
エキナセアが速攻で鑑定をかける。
「三人はこのままダンジョンの入り口まで飛べ。」
「スカミゲラは⁉」
クレソンが驚いた声を出す。
「時間を稼いだ後自力で離脱する。この程度なら問題ない。」
「え⁉ 三桁どころか五百越えだよ! この国では誰も敵わないレベルだよ!」
クレソンが焦った声を出す。
脳筋的考えではなくてよかった。
「でもこれがダンジョンから飛び出てきては困る。エキナセア行け!」
渋る顔のエキナセアの背を押して、陣の上に立たせる。
バンダも心配気な顔ではあるがすぐに転移魔法を発動させ、三人の姿が消える。
「さて、久々に腕が鳴る。」
考えてみれば魔獣討伐は最近していない。
何かと定期的にやってくる王都へ侵入する魔獣も以前よりも弱く、ギルドメンバーで何とかなる場合もあり、マスターからの呼び出しも少ない。
クエストも魔法に寄る助けが欲しいということばかり回ってくるため戦闘はしていない。
アイテムから闇夜を切り裂く光の剣を取り出す。
闇属性耐性のある光属性の剣はゲームでも使い慣れた武器ではあるが、この世界に産まれてから剣を持ったことは今のところない。
貴族の男児ならば剣術と馬術は必須だといわれているが今のところ僕の習い事に増える様子はなく、ネリネは殿下の相手をするために習われて、チマメができたと言っていた。
面倒ごとは一撃で仕留めよう。
そう思い、魔力を体内で練り上げ、剣へ送る。
刀身にメーターのように僕の魔力が注がれるにつれ、光り輝く溝があり、それが剣先に到達した瞬間、
「ブレーキングダウン!」
自分が技名を口に出す日が来るとは思っていなかった。
こっばずかしいと思いつつ、放った一撃は二回攻撃のため胸に十字の切り傷を作り、背後へ向かって魔獣が倒れていった。
殺したわけではない。
ここで殺してしまえばダンジョン攻略の目玉が無くなるし、このレベルではギルドも買い取ってくれない。
アイテムから服従の首輪を取り出し、魔獣の首にかける。
魔法印という文字を使い、強制的な契約を結ぶ。
決してレベル五十以下の冒険者に攻撃しない。
決してレベル百以上の冒険者以外との戦闘はしない。
決してダンジョンの外には出ない。
主人を領主デンファレ並び、仮の姿スカミゲラとする。
こんな物だろう。
魔獣が目を覚まし、契約が正式に発動していることを確認し、少しだけダンジョンの中を見て回る。




