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さて、誕生日プレゼントはバンダ経由でデンドロに聞き、いくつか原石を持って行くことになった。
なんでも、収集癖があるようで、魔獣の角や毛皮をもらったことが始まりだったらしく、草木や昆虫の標本などもたくさん持っているそうだ。
見たことはないと言いながら興味はあるようでデンドロはパーティー後に見せてもらう約束をしているという話だ。
その収集癖の方向が私がダイヤモンドの原石を渡してしまったことで鉱物へ向いているらしく、他領の鉱物の収集をしているというはなしだ。
プレゼントボックスに入りきる量を詰め込み、店売れ筋の天然石のブレスレッドを添えておく。
魔法文字を梵字風に掘り、一周で魔法が成立するようにした。
ここは殿下の誕生日パーティー会場。皆が仮面を付けている。
しかも、目元だけでなく、フルフェイスが多い。
バイクのヘルメットのようなフルフェイスではなく、お祭りのお面のような顔がすっぽり隠れるタイプで私の仮面が目立たず、何だったら霞んで見える。
時々、以前の私のように仮面の上からクッキーを食べようとしているのを見て、笑いそうになる。
「デンファレ嬢!」
人込みの中、まっすぐ殿下がやってくる。
なぜ解ったのだろうか。
今日の仮面は銀製で特別にチューベローズの花が彫刻されている。
確かにわかりやすいと言えばわかりやすいのだが、
「よかったらこちらで一緒にどうだ?」
こちらとは誕生日プレゼントを受け取る傍ら挨拶をする机のことだ。
毎年の私が嫌いな立ち位置だ。
「申し訳ありません殿下。本日はあまり体調が良くなく…」
「大変だ。椅子を用意させる。」
手を引かれ結局プレゼントの山ができている机に椅子が置かれ、そこに飲み物と茶菓子が置かれたが、仮面があるため食べないし飲まない。
「そうです殿下、こちらを、六歳のお誕生日おめでとうございます。」
ここに呼ばれているのは主に七歳以上の子供、デンファレが異例の出席なため、知り合いはほぼいない。
座っているだけでいいならまあいいかと殿下に声をかける。
重みのある箱を渡すと
「開けてもいいか⁉」
私の答えを聞かずにリボンをほどいていく。
ラッピングも外され、箱を開けると
「これはっ! いいのか? こんな貴重な物を!」
興奮した声に周りで順番を待っている貴族の令息たちが集まる。
「我が領では貴重な、と、言われても誰もピンときませんわ。ですがその中でも一層美しい物を選んできたつもりです。以前の持ち運びやすいようにカットした物ではない地中から出た姿の物をお持ちいたしました。」
「ありがとうデンファレ嬢、とても、とてもうれしい。」
笑った顔は年相応。
話をしている時の力んだ顔とは違う。
王子というのはやはり疲れの出る物だろう。
「…ん? これは?」
ブレスレッドを箱から出す。
「肉体的、精神的疲労を和らげる効果のあるアメジストについ先日採掘ルートを見つけた輝石の一種でクンツァイトとロードクロサイトを合わせてみました。色合いがお好みに合えばよろしいのですが」
殿下のキャラカラーは男性の中では赤、全キャラクターで見ればオレンジがかった赤だった。
それに比べてデンファレは深紅。
少し深み、暗い赤だった。
ロードクロサイトは赤というよりもピンクだし、アメジストは濃い紫を選んでいる。
間に入るクンツァイトは透明にしたためどうしても二色が目立つ。
「いい色だ。気に入った。」
そう言って腕に付けてくれる。
今日の服装とも偶然合っていることもあり、誰も今日貰ったものをこの場で付けたとは思わないだろう。
なんせ、大人の多くが天然石のブレスレッドをしているのだ。
殿下が付けていてもおかしくない。
その後、パーティーが夕方には終わり、
「デンファレは行かないのか?」
いつの間にか近くに椅子を運び、座っているだけだが近くにいたデンドロが聞いてくる。
「まだ少し体調が…、申し訳ありません。」
「いや、元気になってからその姿を見せてくれ。」
「ゆっくり帰って休むんだよ。では、殿下行きましょうか。」
と、いうことでデンドロに殿下を任せ、私はそそくさと帰ることにした。
一つ終わるとすぐにやってくるのが今度はデンドロの誕生日。
プレゼントは領地経営の勉強中ということもあり、財務整理の見本や領民登録簿制度の見本など、全くもってもらってもうれしくない産物にした。
「デンファレ、それはさすがに」
なんて、バンダにも言われるがこれでいいと私は思っている。
そうそう、運のいいことに一か月違いの誕生日のため兄弟三人そろっての誕生日パーティーとなる予定を聞き、当日、風邪をこじらせたことにすることを決める。
度々、体調が悪いと言っておけば病弱キャラで切り抜けられることが増えるだろう。
そんなこんなで一週間前、幻覚魔法でかぜっぴきを装い、診察にはリコリス前侯爵が診察に来てくれる。
「少し長引き添いうですね。パーティーには出席できないでしょう。絶対安静でお願いします。」
と、言って帰っていった。
これにより、しばらく自宅生活になった。
スカミゲラとしてはデンファレが風邪を引いたため、領地の手伝いでしばらくシンビジュウム領へ泊る。
自宅にいるとバンダが同室のこともありべったりが再会され、なかなか領地の書類に目を通すこともままならない。
「バンダ、眠いなら布団に入りなさい。肩が重いわ。」
「…寝てない……」
「もう寝ているでしょ。」
そう言っていると部屋がノックされる。
仮面を付けてから返事をするとデンドロが入ってきた。
「デンファレ、殿下から手紙だよ。」
「ありがとうございますお兄様。ゴホッ、ゴホッ!」
咳をして、鼻をすする。
「バンダも調子が悪いのか?」
「この子は眠いだけですわ。風邪知らずですから、お兄様に移してしまうとお母様にまた心労がかかってしまうわ。早くお戻りになっては?」
「デンファレは僕のこと嫌い?」
嫌い。
嫌い?
キャラクターとしては好きだ。
お兄ちゃんわんこ系。
なかなかの矛盾だと思っていたら外見にマッチした性格設定で追加ルートを楽しみにしていた一人だ。
でも、今はこの状況から好きだとはいいがたい。
「お兄様が殿下と親しくされるのは構いませんが、私のことなどはお話にならないでください。スカミゲラにあれだけ聞いているのですからお兄様も聞かれているのでしょう?」
不愉快な思いをしているといわんばかりの声を出すが、
「僕はバンダのことならまだしも、デンファレのことなんて何も知らないからな。領地経営がすごくうまくいっているから父様は僕にもさせようとしているけどデンファレほどの能力は無いし、バンダみたいに魔獣討伐が好きだからレベル上げがしたいわけでもない。レベル上げが必要ってことは知っているけど、もともとの暮らしがあるからまだなじめてないよ。」
まあ、十歳で家に帰ってくるよりかはあまり深刻ではなさそうだ。
ゲームで過去が少し映る中で、努力してもデンファレにはかなわないという姿があった。
子供の脳みそは柔軟だ。
この一年で十分貴族らしくなった。
その辺の、バンダみたいに好きなことだけしている貴族の子供に比べたら優秀だろう。
「お兄様は自信が足りないようですね。お誕生日のプレゼントに追加をつけましょう。」
「追加?」
「あとのお楽しみです。相談はお父様が聞いてくださいますわ。親子なのですから無理にでも時間を作っていただきなさい。ケホッ」
最後に咳をするとデンドロは部屋を出ていった。
と、いうことでデンドロの誕生日当日です。
予定通りベッドの上で、誰も着ません。
好都合。
時々窓の外から子供の元気な声や音楽も聞こえてくるが溜まりつつある確認書類に目を通していく。
主役はデンドロでも、共同のパーティーということでバンダも今日は拘束され、強制的に参加させられている。
一段落付いたころ、ベッドを抜け出し、デンドロの部屋へ向かう。
使用人も忙しく、廊下はガラガラ、デンドロの部屋の机にブレスレッドの入った箱と領地の資料の入った封筒を置いて、すぐに部屋に戻った。
今頃、殿下と親睦を深めさせられているだろうなと思いつつ、日ごろの徹夜もあったため昼寝をすることにした。
枕元の声で眼を覚ます。
目の前には見慣れない服装の子供とよく知る服の子供が二人。
やばいと思い、起き上がると
「デンファレ、まだよくなっていないのに、そんな風に起き上がるとまたふらふらするよ。」
バンダがいう。
そういう設定なのだ。
運よく、慣れてしまっている仮面を付けたまま寝ていてよかったと安堵しているが
「仮面は寝るときもつけているのか?」
と、見慣れない服装の子供、殿下に聞かれる。
「い、いいえ。今日は偶然付けたまま、寝てしまっただけですわ。」
それよりも、なぜここに?
サイドチェストの上には三人分の飲み物も置かれているし、何だったら離れたローテーブルにはお菓子とティーポットがある。
ソファーで待ってろよ!
メイドたちは忙しく、治りかけの私なんて構っていられない。
モルセラとフクシアのやさしさが胸にしみると思いつつ、この状況なんなんだ!
と、言いたい。
「お二人方、淑女の部屋に押しかけるとは何事ですか? 一様、回復傾向にありますが私は病人ですよ。」
「病人だと聞いたから様子を見に来た。すまない。嫌がられるとはわかっていたのだが」
殿下が言う。
わかっていたなら
「解っていての行動とは、どういった経緯でこのようなことになったか説明願いたいものですわ。バンダは同室ですからまだしも、お兄様は日ごろからこの部屋にはあまり立ち入らないにもかかわらず、急にどうされまして?」
「あ、いや、その……」
歯切れの悪いデンドロ。
そこに
「僕がお願いしたんだ。数少ないデンファレに会える日、顔だけでもと思い、無理やり誘ったのだ。兄を責めないでほしい。」
嘘かほんとか知らないが、そのあたりはバンダにでも後で聞こう。
「でしたら、早めの退室を願いますわ。早く回復して我が屋敷に戻らねばならないのです。この数日でだいぶ仕事も溜まっているとスカミゲラから手紙も着ています。ですから、私は回復に専念したいのです。よろしいですか?」
そういうと、殿下はすぐに立ち上がり、
「すまなかった。また後日、詫びをしに来る。ゆっくり休んでくれ」
足早に部屋を出ていくのを見送った。
王妃教育の日程が届いたのは誕生日の一週間前。
モルセラがぎりぎりまで調整をしてくれたようで、そのことについても手紙があった。
王妃教育には服装が大事ということで前々から準備している大量のドレスを数日中に王宮の私の部屋へ移動させる話もある。
「王宮へ行くときはエリカが同行。カルミアはその間領地から来る資料で急ぎがあった場合はすぐに知らせて」
「かしこまりました。」
二人がきれいなお辞儀をする。
今日は何回目かというため息をつき、王宮の私室へもっていく物を見繕う。
これにて二章は完結です。
次、三章は少し飛んで六歳辺りからのスタートです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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