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それから数時間、女性の買い物は長い。
僕は即決派なため数時間悩むなんてことはない。
でも、アマリリスはこれのこの色はないか、あれのこのデザインはないか、などなど、母上もそこそこ悩んだものの、決まっている。
ネリネは興味なく、近くに陳列されたガラスペン形状の宝石ペン、殿下へのお礼の品にした物と同じ物で、さらにデザインを変更し、数パターン用意。
ペン置きやインクボトル、文鎮が用意されている。
「兄上はペンに興味があるのですか?」
「そうだな。最近殿下と手紙のやり取りをしていて、きれいな文字の練習に付き合っている。」
ネリネの方が殿下よりも一つ年上ということもあるのだろう。
ただ文字を書き続けるよりも手紙でのやり取りの方が文章を書くのだから飽きることもないのだろう。
「殿下との手紙ですか。お城の勉強も大変そうですね。」
「スカミゲラもどうだ?」
「嫌です。書く内容もありません。」
デンファレとして接するわけではないが学園に入るまでは接触したくない。
「内容のほとんどは殿下からの質問だ。僕から聞いた質問の答えもあるが最近よく聞かれるのはスカミゲラのことが多い。」
「…僕、ですか……?」
なぜ?
そう思っていると母上が僕の背後に立っていた。
「あなたたちはペン一式にしましょう。旦那様にも選んで差し上げなさい。」
そう言ってソファーに戻る。
店員の一人が僕らに付いて、ペンを見せてくれるがどの商品も見たことがあるため
「僕はこれにします。」
薄紫のペンを選ぶ。
ペン先へ行くほど色の濃くなるペンにはバラの花が掘られている。
「じゃあ、僕はこれ、父上はこれにしよう。」
真っ赤なルビーのペンだが、若干透き通った色でリコリスの花のようできれいだ。
殿下に差し上げた物が発色の良い赤で同じルビーでも濃さも色合いも違う。
アマリリスがやっと選び終わり、店を出た。
商品は家に直接届けられるため馬車で揺られて帰ることになった。
さて、月日が経つのは早く、建国記念日。
婚約者として式典に参加しなくてはならない。
仮面は前と同じ半分ずつの白黒オパールで、王妃様や側妃様、姫夫様達は珍しく、今まで出回ることの少なかったブラックオパールでできたジュエリーを付けている。
これはファレノプシスショップでの販売商品ではない。
ライト氏の宝石商から買ったものだ。
貴族の経営店舗を贔屓にはできないのが王族だ。
それが解っていて今でもライト氏に原石を下ろしている。
「デンファレ嬢」
名前を呼ばれたから振り返る。
殿下が嬉しそうな顔をしている。
「君の従者希望のスカミゲラは優秀だな。」
結局、スカミゲラとして少しだけすることになった手紙のやり取りはネリネの手紙と一緒に自室の転送機から殿下の部屋へ送られる。
内容はほとんどが私に付いての質問。
「そう言っていただけると嬉しいですわ。でも、あの子はものぐさですから定期的な手紙は大変だと言っていましたよ。」
「そうだな。手紙ばかりでなく、会ってみたいのだが、なかなか彼も忙しいようで、予定を聞いても私と合わない。」
そうなるように組んでいるのだから当たり前だ。
「スカミゲラはあまり殿下に興味はないようですよ。」
「手紙を読んでいてわかる。彼が七歳になるまでにもう少し心開いてもらいたいものだ。」
「私の話をやめてみては?」
式典が終わってからの移動中の王宮内の廊下だ。
聞いている人はメイドのモルセラとフクシアだけだ。
「だが、デンファレ嬢の話を聞く機会がない。こうして会うのも久しぶりだ。」
「そうですが、根掘り葉掘り聞かれるのは恥ずかしいですわ。あと半年もしない間に私は王妃教育が始まりますので、王宮へこうやって来る機会も増えるでしょう。少しは会う機会も増えますわ。」
全力で回避しますが、モルセラは今日王宮に来たときから気を使ってくれている。
きっとこの後の控室で適当な理由を言えば何とかなるかもしれない。
殿下と別れ、控室に入る。
「疲れたから少し休むわ。」
「お茶をお持ちします。」
フクシアがすぐに部屋を出る。
「こんな顔だから殿下も気を使ってくれるわよね。」
「そんなことはないと思いますよ。」
「でも、そうでなくても、私が気を遣ってしまうわ。こんな姿だし」
「デンファレ様、見た目と中身が違うと思いますよ。殿下もそれをわかっておられます。」
以外と強情だな。
もっと簡単に行くと思っていたのに、モルセラの性格を甘く見ていた。
だが、
「教育の予定時間を把握しておきます。殿下も毎年お勉強の内容が変わりますがデンファレ様よりも先に誕生日も来られますから行動範囲も把握しておきますので、教育をおろそかにするようなことはなさらないでください。」
私の気を組んでくれる意思を見せてくれた。
心強い仲間だ。
この日、この時間、王宮内では問題が起きていたらしい。
帰り際に聞いた話ではスライム系の魔獣が出現し、王宮魔術師により討伐されたらしい。
レベルは高くないが数が多く、取り逃がしがないかと捜索中を開始したことに帰ることになった。
帰り道の途中、話を聞いた直後、茂みに隠れるスライムを発見。
モルセラがすぐに兵に伝えてくると行ったがスライムは水属性。
雷一撃で消え去る。
人体に影響がないように地面を這うように雷を起こし、スライムは跡形もなく消え去った。
スライムは特に報酬を残していくことがないため冒険者もスルーしてしまうことが多い。
だが、そんなにスルーしているとしても王宮に現れるわけがない。
ここは領には劣るが実家以上の結界がある。
いったい、とこから入ってきたのか。
さて、建国記念日が過ぎれば殿下の誕生日がすぐに着てしまう。
女性相手ならばジュエリーでいいが、男性、しかも子供相手だと何を送ろうか悩む。
王都の店舗は順調だ。
順番待ちができないような貴族は出禁、ギルドから警備を雇うことにもなった。
店内にはパンパスがいるが外のお客様に何かあっては困る。
ギルドの派遣の人が着るスーツ、黒服のような衣装も用意し、なんだかおもしろい。
見慣れた燕尾服でも、おしゃれなジャケットでもない。
真っ黒なジャケットはあまりいいイメージの無いこの国ではいい威圧になる。
それでも中身はギルドの人間、気さくに列に並ぶメイドと話をしている。
順調にいけば、私の誕生日にでもオーキッド領の店舗が開店できそうだ。
「デンファレ、殿下から招待状だ。」
お父様に呼ばれて屋敷に戻ったこの日、話の内容が殿下の誕生日パーティーということは解っていた。
仮面をずらし、食事していたのをやめ、メイド伝えで手元に来た手紙を見る。
【我 最愛の婚約者 デンファレ様】
殿下が書いたのは明らかな少し不器用な文字。
スカミゲラとして手紙のやり取りをしていて解ったが丁寧に書こうすればするほどペン運びがゆっくりとなり、紙にインクがにじんでいる。
ペンが走るときは書きたいことがたくさんあるときでその時は字が崩れやすい。
「読まないの?」
隣に座るバンダから聞かれ、デンドロの視線にも気づき、封蝋を開ける。
ご機嫌伺いの言葉の後、書かれていたのは
「仮面舞踏会?」
「殿下が、デンファレも参加しやすいように全員仮面を付けてはどうかと提案されたんだ。」
デンドロが言う。
「お兄様もスカミゲラのように、殿下と文通を?」
「そうなんだ。スカミゲラにはあったことはないが、デンファレとも仲が良いと殿下が書かれていた。孤児院にいた頃に近くにそんな名前の子がいた気がする。」
「ええ、お兄様のいらした孤児院の近くで巻き込んでしまいましたから」
スカミゲラの顔を覚えているわけではなさそうだな。
「仮面舞踏会ですか。そんな気を遣わずとも、王族という自覚がないと思われてもおかしくありませんわ。」
「それだけ、デンファレを大事にしてくれているのよ。このまま、婚約を続けてもいいんじゃない?」
お母様には顔を理由に婚約を解消できないか、それとなく王妃様に話をしてくれないかと相談したことがあり、この話がお父様も知っている。
バンダはもちろん周知のことで、何か言ってくることはないが、デンドロが何も言ってこないことに不思議に思い、視線を送ると
「母様から理由は聞いている。殿下にもこれからそれとなく話すつもりだ。」
子供の考えが混ざるのは予定が狂う可能性もある。
「お兄様は殿下と仲良くされることに専念してください。私のことはもう少ししたら自分の口で殿下に伝えますわ。殿下にはもっと見目の良い、優秀な方がよろしいです。この国の女性は皆、気品があり、静粛で、美しい方が多いです。私のように領地へ引きこもっているような者よりも社交的で明るく元気のある方の方がこの国を支えるにふさわしいわ。」
ヒロインを想像してしまったがヒロインを選ばれては困る。
「殿下はまだ未来を見据えていない。それがわかるまでもうしばらくかかるだろう。自分の相手に、王家の行く末にふさわしいのが誰なのかもわかってくるだろう。」
「お父様はデンファレを取られたくないだけよ。」
ヴンッと咳払いをするお父様。
お母様はそう言うがゲームの中でもお父様は王妃へおしおしだった気がする。
なんせ、デンファレの悪行を隠蔽していたぐらいだ。
お母様が楽しそうに笑う。
領地へ帰ると言ってリコリス家へ戻る。
「あ、兄上!」
廊下にネリネを見つけ声をかける。
「どうした?」
「殿下っていったい何人と文通されているんですか?」
「気になるか?」
廊下で立ち話は行儀が悪い。
部屋に入って話の続きをする。
「殿下は今のところは僕とオーキッド家の嫡男、あとはスカミゲラの三人と文通をしている。年齢として前後同い年として選ばれた。この意味わかるか?」
ここで解るとは言えない。
おそらくお友達候補なのだろう。
ネリネが筆頭ということは効いているが面倒くさい。
バンダでもいいのではと思いつつ、バンダの性格では無理だと解っている。
打倒なところだとほかの侯爵家にまだ子供がいなかったり、もう学生だったりと適正年齢ではない。
「殿下に何度も王宮へ来ないか誘われてはいるんですが乗り気になれず、ほかに文通をしている人がいれば、もっと親しくしてほしいと思ってしまって」
「僕らは将来、殿下に仕える。姉上のように女性ならば、仕事での関わりはないが、貴族の男児の道はほぼ決まっている。それを拒否することはできない。それにスカミゲラ、お前はデンファレ嬢の従者になりたいのならなおさら殿下は避けられない。」
いわれればそうなのだが、実際の予定が違うから何とも言えない。
「それに」
ネリネはため息交じりに言う。
「それに友人の関係にもいろいろある。父上の話では僕はお目付け役、オーキッドの嫡男」
「デンドロ様です。」
「彼は親友枠だ。」
「親友?」
確かにゲームでは親友というポジションにいたがそれも大人が決めたことだったのか。
「殿下の興味は庶民の生活にあるし、嫡男も貴族に付いてもっと学ばなければならない。貴族と平民で考えることも違う。それだけ衝突も話す話題もある。剣術や乗馬も同じ教師にならうことになっている。喧嘩しつつも仲良く成長することだろう。」
「そうなんですが、もっぱら僕は弟枠ですか?」
予定ではもう産まれているはずの第二王子なのだが、王妃様が卵を産んだという話のみで、その後の経過は何も聞かない。
年齢的に学園在学中の入学がないためゲームではシルエット。
殿下の話でドラゴンの血が強い弟で王位継承の意思がないということだった。
まあ、年下との接し方を学ぶための年下枠ということかもしれないが、
「殿下の行動力ならばクレソンでも会うのではありませんか?」
「行動力?」
あ、しまった。
度々王宮を抜け出していることをネリネは知らないんだった。
「あの、いえ、えっと……」
「殿下のことで、何を知っている?」
ちょっとネリネが迫ってくるその顔が怖い。
「あの……殿下は時々王都をお忍びで出歩いているとギルドで聞きまして…本当に出歩いているのかは僕は見たことがないので解りませんが!」
でもゲームでは三歳のころからよく抜け出していたという話だった。
「そうか、僕の方から探りを入れよう。父上の話では時々抜け出し、姿が見えない時があるらしい。だいたいが勉強の時間だという。」
完璧抜け出してますよそれ。
夕食だと呼ばれたため話は終わった。




