12
オパールの加工ができたといわれ、ライト氏の宝石商へ向かった。
デンファレの姿に戻ったため、仮面をして歩くとやはり視線が集まるが、その私の仮面は白と黒のオパールで左右半分ずつ色の違う仮面で目を引くのは明らかだ。
「デンファレ様?」
声をかけてきたのは殿下により、王宮で私付きになったメイドの一人、確かモルセラだ。
「以前と仮面が違うので、不躾に聞いてしまい申し訳ありませんでした。王宮メイドのモルセラです。覚えていらっしゃいますか?」
この辺りは子供扱いだな。
いいんだけど
「もちろんです。モルセラ、殿下はお元気ですか?」
「はい。帝王学に剣術、乗馬とデンファレ様との婚約が正式になりましてから一層に取り組むようになられまして、最近はチマメがなかなか治らないと、でも、治癒者に頼りたくはないのだとおっしゃておりました。」
では、約半年後にある殿下の誕生日のプレゼントは回復系の付与を付けておこうかと考える。
モルセラと別れ、宝石商へ入る。
いつも通り商品を見て、価格を決める。
帰りに買い物をして、領地へ帰る。
「お嬢!」
スターチスの声に振り返り、仮面を外す。
「結構いいサイズが出ましたよ。」
両手で持つにも大きなサイズの金の塊を見せられた。
鑑定をすると
「密度もあって不純物も少ない。工房で加工してもらいましょう。」
「俺たち考えたんですが聞いてもらえますか?」
「何かしら? スターチスが言いに来るなんて珍しいわね。」
だいたいスターチス発案のことも弟や妻が伝えに来ることが多い。
「トロッコを引きませんか?」
「トロッコ?」
何があったのか聞くと、坑道があまりにも深くなってきたため移動だけに時間がかかり、最近はあまり採掘が進まないらしい。
「解ったわ。鉄の採掘量を私も加わって増やさせるわ。できるだけ早くトロッコの準備が整うようにしましょう。現場はやっぱり、スターチスやみんなの意見が一番ですもの。どんどん言って頂戴。」
「ありがとうございます。」
執務室へ向かい、鉄の採掘量を確認。
鉄は王都以外、工場を置くような領地へ売っているがそこまで利益もない。
加工に問題がないため祝福の必要もない。
これならば、領地内で消費してもいいかもしれない。
「鉄鋼関係の職人も必要ね。」
「ギルドへ求人を出しておきましょう。デンファレ様はそろそろお時間ですよ。」
「あら、もうそんな時間。」
アバターから保存している服装やヘアー、フェイスに着替える。
リコリス家へ戻る。
数日前にクレソンは泣くことはないが駄々をこねながらナスターシャム領へ帰っていった。
「お帰りなさいスカミゲラ」
「姉上、ただいま戻りました。」
「今日はギルドで何をしていたの?」
夕食までまだ時間がある。
アマリリスの部屋へ行くことになった。
最近は南の領地へ行き、魔獣討伐を行っていることになっている。
「今日も南へ?」
「はい。毎日転移魔法の使える方に送ってもらっています。」
「怪我の無いようにね。」
その後少しお茶をして部屋に戻る。
そんな生活を繰り返し、早いことに三か月がたった。
「では、予定通り、明日は王都店舗の開店日ということで」
「問題ないわ。みんなはどう?」
店員として王都へ出向くメンバーは毎日転移魔法で送り迎え付きで領地へ戻るため、店長をする男性パンパスに転移魔法を付与したルーペを渡してある。
元は王都で時計屋をしていたが息子の借金により廃業、そのことを聞き、装飾も美しい時計を提案し、店では当店の商品のみ修理を受けることにした。
息子の借金は肩代わりすることで、給料から生活に必要な金額を計算の上で返済していくことで決まった。
「女性たちは早めに寝るように伝えてあります。早朝に店舗へ向かうと言ってありますがどうやらまだ寝付けずにいるようですね。」
ここは二階の階段を上がった廊下。
下を見下ろせば店員として教育を受けるように声をかけた若い女性たちが落ち着きなく動いている。
「制服が楽しみなのかしら?」
制服は採寸の末、まだ見せていないがきっと気に入ってくれるだろう。
前世のできる女といえばスーツ。
タイトスカートに着られている感のない女性がカッコいいと思っていた。
特にジュエリーショップの女性は華美な物を付けていないがお店の商品を身に着けてもいた。
王都でも、今後の店舗でも店員には最新のジュエリーを身に着けてもらう。
シンプルが売りなため、店員が付けても華美ではない。
「貴族と接したことがありませんから、その緊張のが大きいでしょう。」
私も貴族。
と、言いたいが子供と大人では違う。
「しばらくは監視カメラを私がずっと見ているし、店舗には転移魔法の陣もある。いつでも飛んでいくから安心するように言っておいたのに」
つい先ほどの話だが、それでも不安かと考える。
「私が付いていた方がいいかしら?」
「それではお客様が落ち着きません。」
「じゃあ、スカミゲラとしては?」
「なんだこのガキと思われますよ。私が付いていますから明日の報告をお待ちください。」
「そうよね。仮面の子供に凝視も嫌だろうし、変な子供がいても嫌だろうし、私の心配はすべてローマンへ行ってしまうし、私って必要?」
「大事なファレノプシスブランドのデザイナーでございます。意見を聞くということでしばらくしたら店へ顔を出してください。さあ、お帰りの時間です。」
いつも通り姿を戻し、転移魔法でリコリス家へ帰った。
翌朝、気になりつつ目を覚ますと
「スカミゲラ!」
母上の声に驚く。
まだ起きたばっかり、早起きな方だと思っていたためこんなに早くから母上に起こされるとは思っていなかった。
「どうされました母上?」
廊下に顔を出し、ドアを閉める。
待っていたとばかりに母上は笑みをたたえ
「おはようスカミゲラ、今日の予定は? ギルドへ?」
「はい。そのつもりです。おはようございます。」
どうしたのだろうと思っていると後ろから肩を掴まれた。
振り返ると嬉しそうな、ちょっと怖いような顔のアマリリスがすでにドレスを着ていた。
起きるのが姉弟の中では遅い彼女がもう起きている。
何があったのかと思っていると
「お父様がオーキッド侯爵から今日、王都の店舗がオープンするという情報を入手してきたと昨日の食後のお茶でおっしゃっていたの。先着で予約できないということですから早くいかなくてはならないわ。スカミゲラも急ぎの用でなければ、一緒に行くわよ。」
「…はい……。」
拒否できない様子。
その後、ネリネも起こしに行き、すぐに馬車が出発した。
この親子、基本低血圧で寝起きが悪い。
馬車に揺られながらネリネは二度寝に入りそうになっている。
噴水広場から大通へ曲がる。
さすがにまだ開店時間には二時間あるためメイドが店頭に立つ。
胸にはリコリス侯爵家の家紋の入ったブローチがしているため、いちゃもんを付けてくる家は無いだろう。
そもそも、侯爵なんて地位の家が並んでいるのだ。
ほかの家も並ぶべきだろうと思う。
店のドアが開き、パンパスが出てきたのを馬車から見ている。
「恐れ入りますが開店まで今しばらくお待ちください。」
そう言って椅子を取り出す。
座るように促すがメイドは馬車に夫人や僕たちがいるため座れない。
そのため、
「母上、彼女に許可を」
母上も少し眠たそうだ。
声をかけるとすぐに窓の外へ目を向け、
「二時間も立たせてしまうのですから座っているように伝えてください。」
そう言ってもう一人のメイドが馬車を出る。
二時間。
その間、馬車の後ろにも馬車が止まり、店の前に使用人の列ができる。
「お待たせいたしました。」
メイドが呼ばれるためドアを開け、外に出るとパンパスは驚いた顔を見せつつ、
「リコリス夫人とご令嬢、ご令息様でございますね。どうぞ中へ」
店内へ入り、サロンのような部屋へ案内される。
予定通りだ。
ソファーに座り、テーブルには紅茶と菓子が出される。
このために領館にパティシエも呼んだ。
元は王宮に仕えていたパティシエで腕はいいが口が悪い。
でも、なぜかバンダとは仲が良い。
「おいしいわね。さすがデンファレ様のお店ね。スカミゲラも将来仕える方だというのなら彼女の力になれるよう、もっと強く、もっと賢くならなくてはなりませんよ。」
「はい。」
笑顔で答えると近くにいた店員が少し笑い出しそうになってしまう。
なので、
「笑わないでください。デンファレ様との魔法勝負で負けてしまったのを見てましたね!」
アッと、言う顔をする。
そこにパンパスが戻って来、
「スカミゲラ様、店員が何か?」
「パンパスさんもいつも通りでいいですよ。母上や姉上がいるからと気を使わなくてけっこうです!」
拗ねたように言うとネリネが頭をなでてきた。
パンパスは言葉の意味を理解したのだろう。
「ですがここは領地ではありませんし、私たちは店員とお客様です。店の中でその関係が変わることはありません。」
その先は念話で、
『咎めはしない。僕が相手なんだ。仕方ないこと、今後はないように』
『招致しております。』
「お求めの物は何でしょうか?」
お母様に話を振る。
「息子と親しいようで何よりですわ。以前、パーティーで蝶のブローチをいただいたのですが、お揃いの物や王妃様が付けていらしたような物が欲しいと思いまして」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
パンパスが部屋を出る。
その間も屋敷のメイドのように部屋の隅で控える店員たち。
腰のくびれがはっきりとわかるようにジャケットの裾に二段のフリルを付けた。
スカートもタイトだが、バックのスリットを隠すようにフリルが数段付いている。
正面からのシルエットはおとなし目ではあるが後ろ姿は可愛い。
ガーターで釣られた靴下のラインが見えないようにこの世界には無いタイツは仕方なく僕のアバターから出した。
伝線しないように結界魔法の派生、保護魔法をかける。
洗濯用に数枚用意してある。
店員の女性は特に見た目もスタイルもいい者を選んだ。
特に王都の店舗では店員の女性目当てで入店する男性も多いためだ。
女漁りで来てほしくはないが高級店になれてもいないのに入店する勇者はいないだろう。
入ってきてもパンパスがいるため問題はない。
戻ってきたパンパスが開けたドアの先に一瞬、ローマンの姿が見えた。
僕がいると聞いて見に来たのだろう。
「お待たせいたしました。」
「楽しみだわ。」
アマリリスが浮かれて少し跳ねた。
その反動が隣に座る僕にも届く。
同じようにネリネにも振動が伝わったようで目を擦っているためその手をつかんで止める。




