5
馬車に乗り込むお母様について行き、動き出した。
「デンファレ、もう一度水鏡を」
「は、はい」
今度ははじめから空間魔法を見せる。
「遊びに来ているというより、ここに住んでいるように見えるわね。でもなんで……」
確かになぜここにいるのかは解らない。
しばらく走らせた馬車が止まる。
教会前と解り、お母様は飛び出していき、それに従者も付いて行ってしまうため私は馬車から出ずにお留守番。
これが良いだろう。
窓から覗くと母が男の子を抱きしめていた。
三十分ほどだろうか。
時間が幾分たったがお母様たちが現れる様子はなく、暇になってきた。
ヒロインの姿も見えないため馬車の外へ出てみると
「危ない!」
なんて声がした。
気が付けば目の前は何かの液体。
服から焦げる匂いとともにうめき声が聞こえる。
「お貴族様がこんなところになんのようだ!」
バケツを持った男が走り去りながらそんなことを言っている。
私の足元では子供がうずくまる。
子供の肩を掴み、顔を見るとひどく様に代わっていた。
急ぎ治癒を施したところでこんなこと、思いついてしまう自分が恐ろしいが
「イヤァー!」
と、悲鳴を上げる。
治癒前の子供の顔にあった傷を私の顔へ複写。
子供にも付けた。
「あれ、傷が、なんで?」
「悪いようにはしないわ。少し、協力してくれる?」
そう聞くと子供はうなずいた。
「デンファレどうしたの⁉」
お母様が急ぎ出てきた。
私の顔や服を見るなり、従者に病院へ行かなくてはと焦った様子を見せ、私は一緒にいた子供も一緒にと腕を引く。
馬車に揺られながら考えること十分少々、やってきた国立病院。
貴族を見るのは貴族の医者。
私と子供はならんで治癒魔法を受けるが子供の顔はじわじわ治るように複写を消していくが私の顔は変わらない。
ここで役立つゲームの知識。
扉別ルートの分岐が六つになった際、後から現れる病弱な攻略キャラは学園内にある王立病院にずっと入院している。
自身の闇属性が強く、闇を引き寄せてしまい、体に溜められる要領をオーバーすることでずっと体調が悪いのだが、ヒロインに出会い、聖女の祝福があれば闇を払い、病院の外に出られる。
ヒロインが病院に行くきっかけがケガをしたから。
一般にケガは治癒魔法で簡単に治るが稀に光属性が強すぎることで受け付けず、跳ね返してしまう。
同じ属性だから起きること。
結果自然治癒のためヒロインは入院する。
これを使う!
光属性ということはお母様も知っている。
ステータスにも属性に光を入れておいた。
なので、私のレベルでは治癒魔法を跳ね返してしまう。
私の治癒をしている看護師のステータスを盗み見すれば私よりもはるかにレベルが低い。
子供は私から離れない。
変な液体がかかり、服は溶けたので入院着になっているが髪は縮れている部分がある。
そこに修復呪文をかけると
「僕ずっとあなたの側にいる!」
いきなりなんだろうか、急な宣言を始めた。
少し協力してほしいと言ったがここまでしなくてもいいんだぞ。
と、思いつつ、その頭をなでる。
私の治癒が全く進まないということでレベルの高い医師・治癒師が呼ばれた。
「これは…… ここは私に任せ、母親の方へ、彼女も倒れそうだ。」
こんなにアクティブに動いたのは何年ぶりだろうかというお母様だ。
倒れてもおかしくない。
医師は私の顔に触れる。
痛みがある風に装うが
「これは魔法だ。どういうつもりだ?」
大人をからかうな。
そういった様子だが目の前の人物の名札にはリコリスとある。
「リコリス侯爵家前当主様ですか?」
「いかにも」
複写を治りかけの顔に幻術で変化させる。
「いつまでやっているつもりだ。公爵夫人がそれを見てどう思うか。」
「奥さまや現当主、孫のネリネ様があなたの現役時代の汚職について知ったらどう思うか。」
と、返すとその顔は少し変わる。
何を知っているのかという顔になる。
ここで再びゲーム知識。
ネリネルートにてバッドエンドの際にアマリリスを尋問、その中に祖父の汚職問題が出てくる。
これにより、階級を下げられ、ネリネが当主に引き上げられる。
その汚職について口を開けばどんどん医師の顔は悪くなっていく。
「私の望みは二つ、私の顔の傷は治らないことにしてください。」
「なぜ、殿下との異例の婚約が決まっただろう。」
そう、異例なのだ。
婚約者候補ならまだしも、せがんだわけでもなく婚約者になってしまった問題があるのだ。
「私は婚約者になりたいわけではありません。領主になりたいのです。なので、婚約解消のためにも正式決定の前にこんな顔の婚約者、将来の王妃なんて外交に影響しかないと陛下に思っていただかなくてはいけません。」
医師は考える。
「そういうことならまあいい。孫娘を候補にできないかとも考えている。」
「アマリリス様でしたら気品もあり、最適ですわね。二つ目にこの子を養子にしてほしいのです。」
そう言って、隣に座る、私にしがみついている子供を見る。
「この子を養子に取ることで君に利益があるのか?」
「私はこの顔が理由で領地へ引きこもりますが外部の情報が必要です。もちろんこの子本人ではなく、この子に扮した私がリコリス家で生活します。契約を立てましょう。」
そう言って私は魔法陣を宙にだす。
「私の汚職を、口外を許さず」
「私の望みを、叶えたまえ」
契約が成立する。
「息子に養子の件は速やかに手続きするよういっておく。」
「お手間かけますわ。心労が大きいでしょうから奥様にファレノプシスブランドのジュエリーを送らせていただきます。」
「なんでもお見通しか。その情報も踏まえ、どこから手に入れた。」
医師は尻に敷かれている。
妻の機嫌がいい状態で居たいのだ。
「そのあたりは企業秘密です。さあ、お母様に説明をお願いいたします。」
傷はふさがったがゆがんだ顔は治らない。
シナリオはそんなところでいい。
家に戻った。
お母様は病院で気絶。
お父様が迎えに来てくれた。
子供、スカミゲラは女の子かと思ったら男の子だった。
ちょうど紫の瞳に銀色の髪をしており、私にとっては理想的だ。
髪や眼の色は統一するが顔までは同じにはしない。
全く一緒ではバンダや事情を話すローマンが困惑するだろう。
スカミゲラは私をかばったせいでケガをしてしまった。
だからしばらく家においてあげたいというとお父様も私の状況を見て許してくれる。
この日の夕食は別に取った。
バンダは私の顔を見て、誰?
なんて聞いてくるため夕食を一緒に取りがてら説明する。
翌日、荷物を簡単にまとめる。
もともと領地の荷物と一緒にシンビジュウム領タウンハウスへ運び込んではある。
「デンファレ、その顔は……」
顔とは傷のことではない。
お面のことを言っている。
私は今、ふざけたピエロの面を付けている。
「見苦しい顔ですもの。この方が使用人たちも驚かないわ。お父様、時々は帰って着ますが私は領のタウンハウスに暮らします。」
「そんなことしなくてもいいんだぞ。」
「いいえ、昨日はお話そびれてしまいましたらがお母様と外出した理由はお兄様を見つけたからですの。ですから近いうちにお兄様が戻りますわ。慣れない環境にこんな顔の妹では逃げ出してしまうかもしれません。ですから私はこの家を離れます。私も領地の経営に専念できますし」
お父様は言葉が出ない様子でしばらく私を見つめ
「解った。だが、最低でも月一回は戻ってくるように、本当なら毎週、毎日どんな顔でも娘のお前に会いたいんだ。陛下に会う日取りが決まったら手紙を出す。」
「ありがとうございますお父様。近いうちにお母様にもご挨拶に伺いますわ。」
転移魔法でこの場から消える。
シンビジュウム領タウンハウスへ到着すると仮面を外し一息つく。
「お嬢様!」
嬉しそうな声のする方向を見るとスカミゲラがいた。
ずっと待っていたのか階段には本が置かれている。
「デンファレ様、急なお話、何事かと思いました。」
スカミゲラの声に奥からローマンとカルミアが出てくる。
「内容は昨夜の手紙通りよ。明日にはリコリス家への養子に入る手続きが終わるそうだから、ローマンはこの子を領地へ連れ帰って教育をお願い。協力してもらっているとはいえ、貴族になりたいわけでもないようですし、将来の就職のためにも」
「僕はここにいたい!」
昨日もだが、この子を引き付ける何かがあっただろうかと首を傾げる。
「名前を借りるけれど、その代わり、私の領地で新たな領民として登録をするから、その際は違う名前になるけれど好きに生きて良いのよ。教育が終了するまでの衣食住は提供するって昨日も言ったわよね?」
うん。
と、大きく首を上下する。
「だから、お嬢様の近くにいた。だから、いっぱい勉強する。ローマンやカルミアのいうことも聞くし、お嬢様に恥じないような人間になる。だから!」
そんなに切望されるとは思っておらず、困惑する。
ローマンを見ると
「しばらくはそれでいいのではありませんか? 何か好きなことが出来たらやらせればいいのです。近くにいたいという者をすべて撥ね退けてはいけません。」
まあ、事情を知る人は近くにいる方が安心する。
「じゃあ、いつまでもスカミゲラとは呼べないから名前を考えないと、何か好きな名前はある?」
「お嬢様が考えて!」
しゃべる忠犬の様だなんて言ったらしょんぼりするだろうか。
その顔も犬に見えるかもしれない。
名前なんて簡単には思いつかない。
この世界の名前に多いのが植物の名前だ。
しかもだいたいが英名なため、簡単に出てこない。
そうだな……
「エキナセアなんてどう?」
「僕エキナセア、お嬢様の従者、よろしくね!」
順応が早い。
あと、なんだかロボットみたい。
このまま領地へも行ってしまおうと転移魔法を使う。