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ここは貴族街の一角、入り口にはギルド派遣の門番が立ち、四方は結界で守られている。
入ってこられるわけがない。
さらにこの屋敷はお母様のことがあり、お父様が結界魔法師、しかも王宮に仕える人に頼んで厳重な守りとなっている。
家族使用人以外の出入りは許可なくできない。
「みんな中へ入りなさい! 早く‼」
ネリネにクレソンを押し付け中に入るように背中を強く推す。
「お前はどこへ行く⁉」
「いいから早く行きなさい!」
怖がられないように大型の使い魔は出さず、羊や猿、犬を出して逃げ遅れの子供を誘導する。
「デンファレ!」
バンダが走ってくる。
屋敷の中から数名大人も出てきた。
そこに地響きのようなうなり声がする。
「これは……」
キマイラ系魔獣。
複数の動物の複合体で大きさはゾウと同じぐらいだろう。
鑑定を開き、レベルを確認すると八十九と出た。
この場にいる貴族でも倒すのは難しいだろうレベルに
「デンファレ様!」
ローマンが駆け寄ってきた。
「問題ないわ。大人たちに手出しさせないで」
「さすがにできません。」
まず、レーザーで足を打ち抜き、動きを止める。
倒れこんだキマイラを結界で包むが四角い結界の上面は開けておいた。
「遮音処理は屋敷の中だけですからね!」
バンダとローマンが耳をふさぐのを見た大人たちが急ぎ屋敷内に戻っていく。
空も急激な雷雲に驚き、私たちが何をしようとしているのが気が付きやっと屋敷に戻る者を見て
「行きます!」
光の柱が結界の中へ落とされる。
放電は結界内にとどまるが音が空気を揺らし、窓が割れる。
地響きに屋敷内は阿鼻叫喚といった様子だろうかと思いつつ
「……手加減はしたわ。売り払えるかしら?」
「黒焦げですが大丈夫でしょう。」
耳から手を離したローマンがいう。
バンダはいつ用意したのか耳当てをしている。
「デンファレ!」
その声に驚かないわけがない。
お母様が走ってきたのだ。
「何があったの? 大丈夫?」
「何でもありませんわお母様。魔獣に雷が落ちただけです。」
お母様の後を追いかけてきたお父様にアイコンタクトをすると
「今日のパーティーはお開きにしょう。結界の修復も必要だ。お前も久しぶりの場に疲れただろう。デンファレ、一緒に部屋へ行っていなさい。」
「解りましたわお父様。屋敷の修復はローマンにお任せくださいな。」
お母様と手をつなぎ、会場を通って二階へ上がる。
お母様は部屋につくなり疲れたと眠るように気絶してしまった。
お父様の挨拶が終わってこの部屋へ来るまで出てはいけないだろうから本でも読んでいようと本棚を見るとアルバムがあった。
写真技術が進んでおり、カラー写真は鮮明な状態で数百年保存ができる。
バンダもアルバムを一緒にのぞき込んできた。
「これ僕だ。」
「そうね。去年の写真だからさすがにわかるわ。」
今日も何枚か撮られていた気がするからそのうち追加されるだろうが、昨年の分は少ない。
一歳、二歳のころに比べ外出が増えたせいだろう。
私たちが産まれる前にたくさんの赤子の写真があった。
これがデンドロお兄様だろう。
三か月で誘拐されるまでのたくさんの写真があり、そこに写るお母様はとても元気だ。
デンドロの写真以降、私たちが産まれる写真までの間、パーティーの集合写真や親戚の集合写真しかない。
お母様への配慮だったのだろうか。
ページをさかのぼり、お母様とお父様の結婚式の写真や国王陛下の継承の儀、数々のパーティーや旅行、学園の卒業式、校内での生活の様子に入学式などなど数冊に渡るアルバムはお母様が中心のようでお父様もしっかり写っている。
もちろん幼馴染であるため一緒にいてもおかしくないがお父様とお母様の距離は近い。
結婚のきっかけは王位継承後だと聞いていたが昔からそんな雰囲気はあったのではないかと思ってしまう。
別のアルバムを取り出すとそこにはやはり、お父様もしっかり写っていた。
現在五歳だろうデンドロのバトルカードにあった幼少期とお父様の幼少期はよく似ている。
これは使えるな。
「どういう理由でお兄様を見つけたことにするかよね。」
「場所知っているの?」
「当り前でしょう。じゃなかったら領地の計画前に探しているわ。問題はそこにヒロインもいるはずだから遭遇したくないのよ。」
「ヒロインて、ゲームの? 名前は?」
名前。
なんだっただろうか。
冒頭ですぐに名前を聞かれるため変更してしまっている。
デフォルトの名前が何だったか全く記憶にない。
「わからないわ。」
「情報なし」
「そうでもないわ。学園に入ればわかるもの。ヘデラ男爵の養女よ。」
「養女? ヘデラ男爵って神官の家系だよね。養女なんて取る必要ある?」
「彼女は聖女候補なのよ。もちろん、ゲームの流れによっては聖女になったりならなかったりするわ。」
ふ~ん。
なんて気のない返事が来た。
「でも、なんで兄様に会うとヒロインにも会うの?」
「お兄様は誘拐後に何らかの理由で孤児院へ置き去りにされるわ。その孤児院の娘がヒロインで、幼馴染枠がお兄様なのよ。ちなみに、お兄様と殿下はライバルキャラよ。ヒロインを取り合うストーリーなの。」
「その悪役がデンファレっていうのは何となくわかる。」
「そうね。」
婚約者と兄にちょっかいを出されたら普通の女の子でもむかつくだろう。
アルバムを開いたままデンドロお兄様を見つけたという理由を模索する。
そこに、お父様が入ってきた。
「そんなものを見ていたのか。」
なんだか恥ずかしそうにアルバムに目をやるがお母様のベッドへすぐに行ってしまう。
寝ているということを確認し、私たちの元へ来た。
「あの魔獣を倒したのはデンファレと聞いた。ステータスを見せろ。」
ああ、どうしようかと固まる。
たくさんのスキルやポケットがあるということはばれているがレベルまでは話していない。
「見せなきゃいけませんか?」
「ローマンに聞くだけだ。」
ローマンも素直に話してしまいそうだから怖い。
いくら主人が私でもその父親が心配して聞いてきているのだと解ればきっと話しかねない。
ここは素直に見せるかとステータスを開くとお父様の眼は飛び出すのではないかというぐらい開かれたのを一瞬見てしまった。
「……私の知り合いにステータスを偽造できる者がいる。その者に一般よりも少し優れている程度に偽れるように頼もう。今日のお前を見た貴族たちはすぐに陛下へ婚約破棄を説得へ行くだろう。」
「私としては願ったりかなったりですわ。私は領主になりたいのです。殿下の妻になりたいわけではございません。」
私の言葉は王家への侮辱だ。
だが、お父様はお母様の方へ目を向け部屋を出ていった。
誕生日から一か月経った。
ステータスの偽造ができる人が屋敷に現れたが、その人は
「ギルドマスター?」
でした。
緊張して損した。
マスターなら私のステータスも知っているだろう。
なんせ鑑定スキルの持ち主なのだから
「さて、偽造と言葉は悪いが身分を隠すために行うことがほとんどで元貴族の子や聖女候補だった娘に行うことが多い。」
「そうなのですか。ところで、私は自分で調整したい面がございますのでマスターのスキルを模倣させていただいてもよろしいですか? 悪用は致しません。自分自身にしか使いません。」
「スキルの模倣?」
模倣について説明する。
ただ単にコピーするだけのことで産まれながらに持っているというと精霊王の寵愛からくるギフトということになった。
隣で話を聞いているお父様ももう一度私のステータスを見ながらなにか考えている。
結論から言うとステータス偽造のスキルを手に入れた。
この偽造、ステータス以外にも使い道があり、注意して使うように言われる。
ひとまず、バンダをもとにステータスを書き換え、落ち着いた。
マスターが帰った後、メイドが手紙を持って来た。
「王宮より、謁見の日取りについてのお伺いが来ています。」
「そうね。お父様にご相談して、私が合わせますので、ご一緒してくださいと」
「かしこまりました。」
今日の明日というわけにはいかないためおそらく一週間ほど先になるだろう。
その間に『お兄様五年早いけど帰宅作戦』の実行をしようと手元に作り出したのは水と光に転移魔法の派生の空間魔法を使った鏡もどきだ。
これを持ってお母様の部屋へ向かう。
最近は近年まれにみる体調のいい日が続いている。
食事の量も増え、ベッドから出て庭にソファーを出していることも多い。
今日はテラスで読書中だった。
「お母様!」
「どうしたのデンファレ。お客様が来られていたのではないの?」
ソファーに座るように手招きされる。
「はい。ギルドマスターにステータスを見てもらっていましたの。この年にしてはレベルが高いということをお父様が心配してくださって」
「そう。でも、デンファレは魔獣討伐もしていたというからレベルが高いのは仕方ないことなのに、お父様ったら心配性ね。」
ふふふっとお母様は笑うが私のレベルなんて想像の範囲を超えているなんて思いもしていないからだろう。
お母様はサイドチェストに置かれた私の送った手鏡と櫛を見せる。
これはちょうどいいと
「お母様、私水鏡を作れるようになりましたわ!」
「まあ、すごい。光と水の属性があるのね。」
属性は遺伝しない。
なので家族でも全く違う属性ということはよくあることだが、家族だから全員同じ属性ということもよくある。
この国では最大三つの属性が使える。
それなのに、私は13個すべての属性を持っているのはすべてのキャラを攻略したためだろう。
水鏡を出しながら髪をとかしてもらう。
鏡越しにお母様と目が合い、今だと思い、空間魔法を発動させる。
「あら?」
先にお母様が声を出す。
「時々なるのです。練習不足のせいだと思うのですが……」
水鏡には孤児院のある教会が映った。
そこを男の子と女の子が駆け足で通りすぎる。
「今の方、昔のお父様みたいでしたね。」
「え? よく見せて」
焦ったような口調で鏡をのぞき込む。
「デンファレは昔のお父様なんて見たことないでしょ?」
「アルバムを見させていただきました。」
「ああ、そうね。最近よく見ているわよね。」
「はい。お兄様の写真がありますから、お兄様は殿下と同い年ですからこの男の子と同じくらいでしょうか。」
鏡に映る男の子の後を追う女の子は私と同じぐらいの年に見えるし、その容姿は間違いなくヒロインだ。
柔らかなピンク色の髪に金色と若草色のオッドアイ。
前世でゲーム漫画に高確率で存在していたオッドアイだが、日本人からすると珍しく、採用したい設定の上位だろう。
次ぐらいに双子が来るのではないかと思うぐらいよくいる。
私の友達には双子なんていなかった。
次に男の子が映ったときはしっかり顔も写った。
それを見てお母様は立ち上がる。
「王都南、教会孤児院……」
なんだ急に、そう思い鑑定を使うと位置情報測定中と出た。
GPSか!
ついでで模倣し、ステータスから隠す。
「馬車を用意して出かけるわ!」
はじめてお母様の強い言葉を聞いた。