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二章、四歳編始まりです。
予定では一週間ほどで書き終わるつもりが二週間弱かかってしまいました。
これもクーラーガンガンの部屋で、仕事に行くときしか外に出ない私がいけないのですが体調を崩しました。
皆さんもクーラー病には気を付けて!
始まります!
お兄様には関わりを持ちたくありませんので領地経営に専念します。
誕生日まであと一か月、お父様に欲しい物はないか聞かれました。
「ほしい物は自分で手に入れられますのでお気遣いいただかなくて大丈夫ですわ。パーティーを開いていただけることが一番のプレゼントです。」
なんて言ってしまうとお父様の顔は明らかに怪訝な顔になる。
娘にそんな顔しないでほしい。
「あ! そうですわ。鉱山夫の子供たちがたくさんいるのですが皆手持無沙汰に狩りへ行くんです。農作業を手伝ってもくれるのですが何分人数が多くて、今、学校を作る予定を立てていますの。」
「平民に学校か?」
「はい。識字率が上がれば良い就職先もございます。計算ができればなおさら、魔力は少ない分、そういったところで他と差が付けば有利です。領内の学力が上がればそれだけ領の評判にもつながりますわ。税を納める家庭の子供は無料で授業を受けられます。」
「鉱山夫から税を取っているのか?」
気になっているのはそこか!
「もちろん。給金を払う際に領民税を養っている人数分、十五歳未満・八十歳以上は半額ですが」
平民でも魔力が多少あるためかこの国の平均寿命は長い。
さらに亡くなる寸前まで元気な姿であることが多く、八十でも若いと思われるかもしれない。
「領民税の他にも医療保険・終身死亡保険・就業中の事故死亡に関する保険などもあり、個々に必要な物と組み合わせ、給金から差し引いています。今のところ領地に娯楽地もないため給金は皆、たまる一方ですが」
「その給金は?」
ギルド貯金の形式で通帳管理を財務部署で行っていると説明する。
ギルドに貯金することは冒険者にとってはあたり前のことで特に王立ギルドはつぶれる心配が戦争がない限りはあり得ないため貴族の利用も多い。
「領主としてちゃんとやっているようだな。教師が欲しいということだが、アップル領主に相談するといい。あそこは今のお前と同じように領民の識字率を上げる政策をしている。教師に向いている者も多いだろう。」
「ありがとうございますお父様。」
朝食の席での会話。
バンダは寝落ちしそうになっているのをエリカに支えられ、カルミアが口元に食事を運んでいる。
食事を終わらせ、お母様の部屋へ行く。
今日は私室で食事をとっているため挨拶を兼ねて部屋へ行く。
「おはようございますお母様。お食事は終わりましたか?」
「おはようデンファレ、今日も可愛い髪飾りを付けているわね。」
「ありがとうございます。ファレノプシスブランドの新作なんです。」
領地の職人が作った商品は在庫もいくつか用意ができてきたが店舗を持つにはまだまだ足りない。
すべてが一点もので少しずつデザインも色合いも変わる。
今日の私の髪飾りは蝶とデンファレの花が色見の薄いサファイヤとルビーでできている。
色が薄いため主成分はダイヤモンドに近いと鑑定が出たが前世では見たことのない色見で私は気に入っている。
「お母様、何か欲しい物はございませんか? ネックレスとか、指輪とか」
「もうすぐあなたの誕生日でしょう。デンファレはねだる側よ。」
「いいえ、体を壊してまで産んでいただいたのです。お母様にも、お母様を支えるお父様や使用人たちにも感謝をする日だと私は思うのです。使用人たちには蘭の花のブローチをあげようかと思っていまして、お母様はあまり外出ができませんからアクセサリー以外でも何か欲しい物はありませんか?」
「ありがとう。そうね……鏡が欲しいかしら。手鏡が少し大きくてここまで持ってこられないの。」
サイドチェストに置かれた卓上の鏡。
確かに大きい。
「解りました。素敵な物を用意いたします!」
と、いうことで領地へ向かう。
「ってことなんだけど、私でも作れるものってないかしら?」
「銀引き鏡をアルミのフレームに入れて、お嬢様のシンボルを入れてはどうでしょう。鏡は試作品でいくつか用意がございます。」
「鏡できているの! 早かったわね。」
少し前に日用品に宝石をちりばめられないかという相談をしていた。
職人は男性が多い。
でも、身に着けるのは女性だ。
女性目線で言えば日常的に使う物こそ、マイノリティーや美意識を上げるものへつながると思っている。
その第一歩が鏡だ。
鏡は女性ならば毎日見るはず。
私は見ないけど
「手鏡は二つ。裏面に溶接で台座を付けてデンファレの花やバンダの花を付けてはどうでしょう。」
「デンドロビウムの花も用意して、胡蝶蘭と蝶とバラの花も」
「家族全員分ですね。蝶は何ですか?」
「王妃様が蝶のデザインをとても気に入ってくれてお母様とも仲がいいから付けた方がいいかなって思って」
「かしこまりました。最優先でおつくりします。」
「ありがとうよろしくね。パーツができたら教えて」
工房を出る。
加工場には見習いも含め三十人ほどが在籍、作業は順調だ。
鉱山夫として雇い入れた元浮浪者も向き不向きで部署移動を度々行い、最近やっと落ちついたところだ。
ちらほら、村娘といい雰囲気の者がおり、このままいけば領出身者一号も来年あたりに会えるかもしれない。
領館に入り、ローマンの執務室へ入る。
「お疲れ様、採掘量はどう?」
「デンファレ様。採掘は順調、多種多様な石が出てくるため価値を付けるのが難しいですね。」
「判断は任せるわ。皆を養える十分な収入はあるのだから無理な価格設定じゃなくていいからね。」
「とは言っても永続的な収入になるのかも分からない状況です。利益のある販売価格で攻めていかなくてはなりません。」
執務室の私の机に座り、置かれた収支報告書を見る。
給金と食費での出費が主で、収入はライト氏の宝石商へ卸した分しかない。
記録は点けやすいが数字がはっきりと出てくる。
雇った人数も保険や保証などなどの貯金もある。
領地もろもろの経営を考えるとぎりぎりともいえる。
「店を持ったとしても一時の流行りじゃ収入にならないものね。」
「そうですよ。デンファレ様は今が良ければそれでいいとは思っておられないでしょう。」
「その通りよ。私の将来の安泰も領民の安定的収入も補償しないといけないわ。突然の破産なんて笑い事にならないわ。また浮浪者に戻すわけにもいかないものね。もっとしっかりしないといけないわ。」
「それにはもっとデザイン画が欲しいとトリトマは言っていましたよ。」
先ほど会ってきたのはクルクマだった。
ちょうどライト氏の元へ現在販売する物の相談へ行ってもらっている。
「デンファレ様のデザインは今までにない物で斬新で芸術的だといつも心待ちにしていますよ。」
「ローマンはトリトマと仲が良いわね。」
「年齢や出身が近いのもあります。」
「あら、ローマンはこの国の出身じゃないわよね?」
魔獣討伐中の会話でそんな話をした。
この国は帝国の属国の一つで、帝国が同性愛を認めているがためにこの国でも同じ風習が流れた。
帝国は神が守る国であり、神の妻の女神の守護を持つのが属国。
神が一夫多妻なことから属国のほとんどがその制度を取り入れている。
聖女は特別な存在で女神の力を借りられる唯一の存在といわれている。
神の使いである神官は必ず帝国で修行をしてから属国に入る。
ローマンの父はその神官で、王宮に仕える小神官の一人だったという。
「トリトマは帝国の辺境地の生まれだそうで、都市へ出るよりもこの国の方が近かったそうですよ。」
「そうなのね。この国にない技法を持っていると聞いたからどこかに修行へ行ったのかと思っていたけどこの国へ来てくれたのね。私の作りたいものにとても役に立つ技術で助かるわ。」
この国にはガラスビーズはあるがどれも小さく、ドレスの刺繍に混ぜて飾る程度しか使い道がない。
でも、私はゲームの他にも刺繍やビーズ工芸が趣味だった。
ビーズでスイーツや動物を作り、フリーマーケットに出す。
だいたいはその場のノリで買ってくれることが多く、完売もよくあった。
その間、手元は作業しながらこのゲームのオープニング・エンディング映像やルート別紹介映像などをエンドレスで見ていたのは懐かしい。
この国にはないが、天然石のブレスレッドは年齢的に身に着けている人が多かった。
本物かどうかは知らないが、この世界でも石にはそれぞれ石言葉がある。
その組み合わせでオリジナルが作れるとなると、妖精の祝福もあり、お守りとしても効果があるように魔力付与を施せば価値も出るのではないかと相談したところ、半円のカボジョンカットではなく、球体カットが出来るとのことだった。
今までは半円を二つ合わせて球を作っていたのが正円になるのだから価値は十分にあるはずだ。
平面をいくつも組み合わせた円もある。
ドロップカットもその技法だ。
つるんとしたものはそれだけ価値があるはずだと、現在大量生産もお願いしている。
「デンファレ様はお誕生日前に油を売っていて大丈夫なのですか?」
「逆にここ以外にいたくないわ。」
家にあまり長いしたくない。
アポあり、アポなし訪問が後を絶たず、使用人たちも対応に困っている。
ファレノプシスブランドは王妃様のおかげで貴族夫人のみならず、王都の金持ちの間でも手に入らないかとあの手この手を使ってライト氏に接触してくるが今は王家優先で卸している。
貴族の手に渡るにはまだまだ品数が足りない。
王妃様も側妃や姫夫とお揃いにすることにはまってしまったようでドレスなどの衣類もそろえた物を身に着けているという噂だ。
それだけ王妃様に気に入ってもらっている商品の原料ともいえる石が採掘される領を持つ私は婚約者もいない優良物件。
なんとかお近づきになりたいということもあり、三歳児にお茶会やガーデンパーティーの誘いが着たり、婚約者候補に名乗りを上げたり、ひとまずお友達になりつながりからジュエリーが欲しいという大人の思惑に子供が使われるのだ。
殿下は私の一つ上。
殿下ご懐妊の発表により、我が家にも子供をと子作りする貴族は多い。
同年代となれば学友から妃・姫夫候補にもなれる。
そのため私の前後の年齢は出生率が、特に貴族は高い。
「旦那様は奥様お一人ですが、領主ともなれば正妻の他に姫夫を数名持つのが常識です。」
「私にも姫夫、もしくは候補を持てってこと?」
「姫夫は貴族のステータスですから幼少期から候補を持つのは当たり前です。デンファレ様の場合、領地経営は勉強でもお遊びでもありません。」
「なんだかローマンが口うるさくなってきてしまったわ。一年前はもう少し…」
いわないでおこう。
私をにらむその顔は一年前の物腰柔らかな紳士ではない。
「さあ、タウンハウスへお戻りください。あと一か月ですよ。」
「解ったわ。もう少しみんなに会いたかったのだけど」
「毎週皆と食事をしているではないですか。領主と領民の距離も近ず離れずがよろしいですよ。先日、ここからあまり離れていない領地にドラゴンが飛来したそうです。」
その話はお父様から聞いた。
貿易港がオーキッド領と隣接していることもあり、ドラゴンの被害を多少受けた。
飛来地点の領地海岸は壊滅状態で領主は立て直しに大分出資したはいいが、再びの飛来でさらに被害を出してしまったらしい。
他人事ではないのだが、自領ではなくてよかったと皆が口をそろえる。
領民のために早く建て直したいと急いだこともまた出費が増えた原因だとお父様が言っていた。
「でもね。領民が困っていれば手を差し伸べるものでしょう?」
「やり方があります。デンファレ様の場合、すべて自分で行いかねない。今現在の領民と呼ばれるのはコランダム氏のみです。労働者を助けるのは就労形式をとっている現在は当たり前ですが、管理を離れた場合、それはもう個人の自由、それなのにあなたは介入しそうで、旦那様は遠巻きに注意喚起をされたのでしょう。」
解らない。
実感がないというのもある。
「デンファレ様にもだんだんと解ってくるでしょう。」
「ローマンなら私が間違ったことをしていればちゃんと言ってくれるから助かるわ。バンダと二人だったらこうもいかなかった。ありがとう。」
「もったいないお言葉です。ですからすぐに帰ってください。」
言い方が酷いと思いつつ、ローマンに付与した転移魔法で屋敷に飛ばされた。