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読み始めていただきありがとうございます。
冒頭説明ばかりですのでできたらしばらく読み進めていただけると嬉しいです。
楽しんでいただけるとありがたいです。
殿下と結婚したくないので男装して破滅ルート回避したい
1、悪役令嬢に転生したけど、私のスキルがチートすぎてやばい……
朧げな記憶は年月を重ねるごとにはっきりとし、物心つくには少し早い、二歳の終わりごろには前世の記憶とこれから起こるであろうゲームのシナリオ、そして自分の置かれている状況に、私、デンファレはため息しかでない。どうしてこうなった?
よくあることだ。
小説では悪役令嬢転生なんてホットワード、出版されれば飛びつく人は大勢いるし、漫画化されれば電子書籍でも何でも見られる世の中で、でも、まさかそんなホットワードな世界に自分が転生するとは思わない。
しかも。
私が五年以上泥沼ではまりにはまってやり込んだ女性向けゲームの黒幕悪役令嬢なんて聞いていない。
ゲームははじめ、普通に男女の恋愛とちょっとしたバトルゲームから始まる。
バトルの混ざる恋愛アドベンチャーゲームなのだが、バッド・ノーマル・ハッピーのほか、
バッドより悪いデッドや、ハッピーよりもいいがR指定のある続きが読めるスペシャルエンドも用意され、
さらにさらに、ヒロインがノーマルエンドで終わらせると攻略キャラとのBLルート・悪役令嬢との百合ルートも解禁されため、度々、長いアップデートが待っていた。
そのほか眼鏡キャラのみハッピーエンドで終わらせると特別ルート解禁で各ルートでは交流の少なかったキャラ同士が仲良く話をしたり、ヒロインを取り合ったりする話が読める。
ほかに成績上位組みに勉強を教えてもらったり、爵位別で社交界に呼んでもらったりなどイベントは盛りだくさんであった。
そもそも、このゲームはほかの女性向けゲームとは違う。
ゲーム開始時の攻略キャラは六人。
キャラ紹介やバトルの紹介、ミニゲームやアバターの着せ替えの説明をサポートキャラがしてくれた後、学園内のマップが出る。
校庭や校舎裏、寮などの選択肢で攻略キャラや悪役令嬢にどこに行っても会うことになる。
ここで初期の好感度上げの選択肢がある。
悪役令嬢相手にも好感度があり、デッドエンド回避のためにはここを上げるのが重要だ。
その後、各キャラと交流し、夏休みを誰と過ごすかという分岐ルートへ入るのだが、ここを扉別ルートと呼ばれ、現れるのは三つの分岐。
攻略したいキャラと当て馬役の二人一組のルートに分かれる。
問題は『今日はどの扉へ行く?』と、サポートキャラに聞かれることだ。
このゲーム、二股三股だけでなく、六股もそれ以上も可能なゲームである。
そもそも、この国は一夫多妻制ではなく、一主多妻(夫)制。
王族、貴族は一人の主人に複数の妻、夫を持つことができる。
だからBLルートも百合ルートも存在するし、スペシャルエンドでR指定の家族子作り子育てルートが解禁されるのだが、全員スペシャルエンドを勝ち取ると逆ハーレムエンドも解禁される。
ヒロインが女王になり殿下をはじめ幼馴染や先生、先輩後輩同級生とのハーレムが出来上がる。
前世で五年もこのゲームをしていたのはそういったルートがどんどん追加されるせいだったのもある。
最終的には攻略キャラ同士でのBLや百合ルートも出てくるためリリース当初から始めていない人は、これはどういった趣向の女性向けゲームなのか意味が解らないだろう。
ちなみに、当初の六人中、三人をハッピーエンドで終わらせると追加キャラが解禁され、合計で十二人を攻略することになる。
さらには全キャラハッピーエンド後に出てくるストーリーを終わらせるとヒロイン義父ルート解禁にはウハウハした。
だって、サポートキャラにはヒロインの義兄弟が一つ上と一つ下におり、義妹や義姉が義母になるのだ。
現実的でないことにだいぶ浮かされた記憶がある。
それに唯一の近親相姦ルートでもあるため一部のコアなファンの飛びつきがすごかった。
さらにこのルートはデッドエンドがなく、ノーマルで終わらせると今までできなかった義兄弟・義父もBLルートに入ってくる。
私の記憶する最終の大きなアップデートはかなりの衝撃だった。
なんて言ったってBLルートに悪役令嬢が参入。
もちろん性別変換された状態だ。
もともと、ノーマルエンド後にヒロインの性別変換が可能になる。
これはBLルートで自分と攻略キャラで話を進めるのに必要だからだ。
この性別変換、百合ルートでも同じで攻略キャラが女の子になって可愛い系からキレイ系に変身して現れたときは鼻血が出た記憶がある。
思い出しただけで興奮が止まない私の脳天に分厚い本が落ちてきたのは言うまでもない。
目の前の人物が同い年にも関わらずさげすんだ眼を向けてあきれている。
「そんな話信じると思う?」
私と向かい合って座る男の子、バンダは脳天に落としてきた日記帳を開きなおし、メモを再開する。
「信じてくれなくて結構よ。私はこのゲームで魔王の器になる闇魔術師になってどのルートでもデッドエンド以外では死ぬ運命。一人で何とかして見せるわ。」
「は?」
間もなく三歳のはずの弟であるバンダのあきれ顔を笑いそうになると再び日記帳が脳天に落ちてきて、私は座り込んでいる床に頭を抱えて突っ伏した。
「どういうことさ。なんでデンファレが死ぬの?」
「……殴ったことに対する詫びは何もないのね。いいけど」
そういいながら座りなおした私は、
「私は四歳で殿下の婚約者になりたいとせがむ。家柄的にその希望は通ります。」
「それで?」
メモが再開される。
「ヒロインがどのキャラとどんなエンドを迎えても裏の首謀者として私は良くて極寒の修道院、もしくは離れ小島の監獄。」
「どっちも一年たたずに死んじゃうって話のところじゃないか!」
次に飛んできた日記はちゃんとよける。
先ほどの脳天の痛みは早々になくなった。
「ほんとうよ。ひと思いに処刑される方がどんなにいいか。」
首切られるの痛いだろうな。
と、思いながら話を戻す。
「だから、まず、婚約者になりたいといいだすことはしないけど、ゲームの強制力がどんな方向に働くかわからないからちょっとずつ変えていこうと思うからバンダも協力してほしいな?」
可愛く首を傾げるデンファレだが、バンダは呆れた顔を見せる。
「僕だって、デンファレが出てくるならゲームにいるんでしょ。そんな人間に手助けさせてその、強制力? なんかに引っ張られたらどうするの?」
「大丈夫、ゲームではバンダ、産まれてすぐ死んでるから」
「は?」
もう頭はよけると思ったのだろう顔面目掛けて日記が来るため後ろに倒れるようによけると、もそもそとバンダが上に乗っかってきた。
三歳前とは言え、重いぞ。
毎晩同じベッドで寝ているが起きるとこんな風に上に乗っていることがよくあるため慣れている私は気にすることなく苦しいが話を続ける。
「デンドロルートで言っていたのよ。産まれてすぐに誘拐され、その後すぐに後継ぎを産まなくちゃと焦った母親だったが精神的な疲労が強く、出産が双子だったこともあり、肉体的疲労も相まって自分が実家に帰る前に亡くなったって」
「母様死ぬの?」
「このままじゃね。バンダがいるから少し良いようではあるけれど油断はできないわ。リミットは私が六歳よ。」
上からどいたバンダは腕を組んで悩む。
自分の死に関してスルーの様だ。
「兄さんを探し出す。」
「まだ早いわ。その前に基盤準備をしないと」
デンファレはドレスのポケットから紙を出す。
「……何このチラシにこの金額?」
「今売り出し中の領地よ。私はお母さまにそっくりということもあって死後それはそれは甘やかして育てられるのだけど九歳でお兄様が帰ってくると周りはお兄様ばかりで私はお父様にわがままを言って構ってもらうようになるの。そのまま成長するともちろんわがまま、さらに侯爵令嬢なんて地位があるものだから何でも思い通りになると思っているわ。そこで、誰も甘やかさない自分の家を手に入れます!」
「どういうこと?」
「つまりは引きこもるわ。表向きは」
領地を持つ令嬢、令息は多い。
親の領地の一部だったり、こうやって売り出し中の領地だったりを売却して勉強させるのだ。
失敗しても親が何とかするため問題はない。
「ここって、こんな小さな領で山しかないのに、どうやって暮らしていくのさ?」
「問題ないわ。なんて言ったって、私には未来の記憶があるんだもの。」
と、言って、デンファレは近くにあるクローゼットから少し汚い服を取り出した。
「これから資金を稼ぎにギルドへ行くわよ。」
「僕ら三歳にもなっていないのにどうやって?」
なんて言いながらも服を受け取り着替える準備を始める。
「浮浪者にお金を渡して仕事を取ってきてもらうわ。」
「金のある子供なんて狙われるよ。」
「相手は選ぶわ。子供二人で歩いていても見向きしないようなやつはだめよ。人身売買よりも面倒だわ。二人歩きの子供を注意して路地から出るようにいうタイプの人よ。」
そんな都合よく見つかるだろうか。バンダはそう思いながら庶民の服に着替える。
屋敷を抜け出すのは簡単で、馬小屋の荷運びのロバがつながった部屋の奥に壊れた壁があり、ただの板で塞いであるだけなのだ。
馬小屋の左右は後付けの外壁があり、小屋の後ろには無い。
そこを通ってデンドロ誘拐も行われた。
町に出て、浮浪者の多い場所を目指す。
途中、素敵な紳士が子供二人は危ないと声をかけてきたが求めているのはあんたじゃないとバンダと無視して進む私たちは薄暗い一角に入っていく。
少し進めば物乞いや薬物で潰れている人、もう死んでいるだろう人、餓死した子供に母乳を飲むように言うがりがりに痩せた女。
こんなにひどいとは思わなかった。
この国は豊かだ。
庶民でも勉学に励み、仕事も多く、安定した国家は戦争もなく、浮浪者となるのは不正を働いた貴族が爵位を取り上げられ、財産を没収されたことで仕事を失った使用人が多い。
多くは次の仕事先に貴族の屋敷へいく者が多いが仕事にありつけなかった者がこうして路地へ溜まる。
「嬢ちゃんたち、ここで何してんだ?」
浮浪者の一人が話しかけてくる。
人身売買か、手助けしたいのか、どちらかわからないため
「お父ちゃんとはぐれたの。」
そういうと
「さっき、あっちで子供を探している奴がいた。一緒に行こう。」
アウトだ。そう思っていると
「こっちだ早く来い!」
男が急に転んだ。
その後ろにいた埃っぽい燕尾服を着た男が私たちに来いと言いながら抱えて走り出す。
路地を出て、人通りの多いところまでくるとおろされた。
「あいつはああやって声をかけて子供をさらっている。と、言ってもまだ理解できないか。お父ちゃんはどんな服だ? 探してくるからここでおとなしくしく――」
私は万遍の笑みでバンダを見たあとに
「合格!」
と、大きな声で言うため助けてくれた男も近くを通る人も驚く。
「失礼、私はデンファレ・ラン・オーキッド。こっちは弟のバンダ。あなたを雇いたいわ。給料は要相談でどうかしら?」
「……何を言ってんだお嬢ちゃん?」
家を出たときと同じ場所を通り、家に帰る。
「本当にあの、オーキッド侯爵家ですか?」
「そうよ。これで信じてもらえた?」
ドレスに着替え、部屋の外を通るメイドにお茶を三人分頼むとなぜか聞かれるため人形を連れてくる。
おままごとかと、快く引き受けてくれた。
バンダにリネン室にある執事服の予備を取ってきてもらう間にやさしい男ローマン・カミツレに親に内緒でお金を稼ぎたいから協力してほしいというとその理由を聞かれる。
ゲームには登場しないローマンだからいいかと先ほどバンダにした話をしているとバンダの声が部屋の外でする。
どうやらメイドのお茶と被ったようだ。
始まりました。
もりもり設定なので好き嫌い別れるかと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。