第十六話 残党探索
翌日。
私達はヒポガントの残りがいないかを確認する為、前回訪れた森へと再びやってきている。
今の私のジョブは「忍者」。
盗賊の上位職の一つだ。
忍者の持つ索敵スキルを使って、この森にヒポガントがいないかを調べている。
「ねえ、ナナちゃん。その索敵スキルって、私の持ってる気配察知スキルとは違うの?」
森の中を探索していると、盗賊のマリが私に声をかけてきた。
「うん、違うよ。索敵スキルは魔力を消費するタイプのスキルだし、気配察知スキルみたいに常時発動出来ないんだよね。そのかわり、索敵範囲はかなり広いし、索敵で見つかった対象の情報もある程度わかるの」
「へえ。魔力消費以外は完全に上位互換なのね」
「ま、その魔力消費がわりとネックなんだけどね」
魔力の消費量は特別多い訳じゃないけど、でも、少ないわけでもない。
忍者はほかの前衛職に比べて魔力消費の技が多い為か、前衛職の中では魔力は多い部類に入る。
だが、それでもやはり、それなりに負担が大きい。
「それで、ヒポガントはまだいそうなの?」
「とりあえずもういないかな。さっきので最後っぽいよ」
ヒポガントの探索を始めてから約5時間。
ようやく町の周辺と森の全域の探索を終え、結局3体の通常種と、1体の上位種のヒポガントを倒し、帰路につく事にした。
「疲れたー!マジキツすぎんだろ、マジで!バカじゃねーの!?」
「全くだ。ヒポガント4体と連戦とか意味がわからん」
ファイとクロイスがなにやら騒いでるけど、私に言われても知らないよ。
私だってまさかまだそんなにいるなんて思ってなかったし。
別に4体を同時に相手にしたわけじゃないんだから、そこまで過酷なわけでもなかったと思うけど。
まあ、今回は私の強化魔法は無しだったから大変だったとは思うけどね。特に上位種は。
「うるさいわよ、二人とも。私達はレベルを上げなきゃいけないんだから仕方ないでしょ。ロイドとミランダは弱音も吐かずにいてるのにみっともないわよ」
「いやいや、二人はグロッキーで無口なだけだろ」
「え?そうなの?」
「す、すみません・・・出来れば少し休憩を・・・」
「俺も・・・少し休みたい・・・」
確かに、休みなしの強行軍だったしね。うん。ちょっとやり過ぎたかな。
だって、倒し終わるくらいにちょうど索敵範囲内に反応が出てくるんだもん。連勝ボーナスの経験値を狙いたくなるじゃない?
「つーか、ポーションをガブ飲みとか、そんな戦闘初めてだぞ」
「ポーションは傷は癒えるが疲れは取れないんだな。初めて知ったよ」
それは私も初耳だ。いいこと知ったね。
ステータスにはHPとMPしかないから気にもしなかったよ。
ドンマイドンマイ!
「てかお前、なんでこんなにポーション持ってんだよ。こんな使っちゃって良かったのか?」
「大丈夫。まだいっぱいあるし、その気になればすぐ作れるから気にしないで」
「すぐ作れるって・・・」
「ん?」
「調合スキルまで持っているのか・・・。ナナ、その事は迂闊に口外するな。またギルマスから説教食らうぞ」
「わ、わかった」
危ない危ない。
ジョブ関連の事以外は気にしてなかったよ。
ギルマスに説教されるのは嫌だから、今後は何かあったらまず、クロイスに確認してからにしよう。
「じゃあ、ちょっと休憩しよう。ミランダやナナの魔力も回復させておきたいしな」
「あ、ならマジックポーション出すよ。一人一本でいい?」
「ナナお前・・・」
「え、え?」
マジックポーションはかなり高価でハイポーション以上に貴重なものらしい。
ギルマスに説教される前にクロイスにこってりと説教されてしまった。なによ、結局説教されるんじゃん。
そしてその後、少し休憩をしてから町へと戻り、一度ギルドに報告へと向かった。
クロイスが頭を抱えながら報告書を書き、ギルドの受け付けに森の調査の結果報告とクロイスの報告書を渡すと、程なくギルマスから呼び出しがかかり、なぜか再び説教をされる事になった。解せない。
結局この日はそのまま解散となり、ゾッテ村へは翌日から向かう事になった。
◆
「それで、今のうちにその剣を返しに来たと」
「うん、そう。ちょっと遠出するからね」
ここは例のお人好し店主のいる武具店。
約束どおり、借りていた業物の剣を返しに来た。
本当はもっと早く返す予定だったけど、色々とバタバタとしてしまったせいで今になってしまった。
「だったら返すのはその依頼が終わってからでも別にかまわんぞ?」
「ううん、結局またバタバタして返せなくなりそうだし」
「ふむ。まあ、そういう事なら」
そう言って私から剣を受け取る店主。
そしておもむろに鞘から剣を抜き、具合を確認する。
「やはりこの剣の出番はなかったようだな。刃こぼれは勿論、何かを斬ったような痕跡もない。うむ。確かに返してもらったぞ」
実はその剣でヒポガントを2体斬ったんだけど、まあ、わざわざ言うこともないか。
とりあえずちゃんと返せて良かった。
「それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「聞きたいこと?なんじゃ?ワシで分かることなら構わんが」
「魔法剣士って、実際どれくらいいるの?」
「魔法剣士の数か?」
ギルマスやクロイス達からも聞いたけど、いろいろ事情通っぽいこの店主さんにも聞いておく事にした。
ギルマス達の話によれば、強いかどうかは度外視すればそれなりにいるらしいけど。
「それなりにいる事はいるが、多分お嬢ちゃんの思っている魔法剣士ならおらんよ」
「どう言う事?」
「お嬢ちゃんの言う魔法剣士というのは剣を振るいながら魔法を使う者の事を言っておるんじゃろ?」
「まあ、そうだね」
あと、魔法剣を使えたりとかね。ギルマスに怒られるから言わないけど。
「それなら無理だ。魔法剣士とは言っても、単純にそれぞれの職を別々に修めているに過ぎないからな。スイッチを切り替えるように、どちらにでもなれる者を魔法剣士と呼んでいる。同時にというのは無理じゃな」
なるほど。「魔法剣士」はジョブではなくて称号のようなものなんだね。
「なら戦闘中にこまめに切り替えるとかは?」
「それが出来れば一番良いが、そんな器用な真似ができる者はおらん。過去に試した者もおるが、一度の戦闘で一度か二度が限界だ。そうそう頻繁に自分の中のスイッチを切り替えるのは難しいらしい」
なるほど。まあ、そうだよね。
私も戦闘中にいちいちジョブ変更とかしてられないし。
それに、自分が今、なんのジョブなのかを自覚する為に、そのジョブを象徴する装備も必要らしい。
剣術士なら剣や盾や鎧。魔法術士なら杖やローブといった物を付け替える事でスイッチの切り替えをしやすくするんだとか。
装備まで変えないとうまくジョブチェンジ出来ないとか、めんどくさすぎる。まあ、慣れなんだろうけど。
要するに、この世界では「魔法剣士」という固有のジョブがある事をみんなが知らないから、剣術士や魔法術師と言った複数のジョブを使って強引に「魔法剣士」を再現しようとしてる状態なんだろう。
魔法剣士というジョブが、剣術士や魔法術師と同じように固有のジョブとして存在すると理解すれば、習得することは出来そうだ。
これなら魔法剣士以外の上級職もいけそうだね。
じゃあ、クロイス達は何のジョブにしようかな。
本人達の意見も聞きたいし、とりあえず何にでも対応できるようにしておかないとだね。
なんか育成ゲームみたいで、ちょっと楽しくなって来たぞ。
「店主さん、この店にある全職業の武器と防具、それぞれ3セットずつちょうだい!」
「・・・は?」