第十四話 密命
結局ギルマスとの話し合いでは、ヒポガントの事はそっちのけで魔法剣について延々と根掘り葉掘り質問責めにされてしまった。
まさかこの世界で魔法剣が未発見のスキルだったとは思いもよらなかった。
肝心のヒポガントについてはろくに話せず、翌日、もう一度ギルドに足を運んで話をすることになった。
討伐報告の説明だけで2日目突入とか意味わかんないんですけど。
そして、今日はその2日目。
「だから私が倒したって事は最後に話した方がいいって言ったのに」
「いや、だって、今にも領主様に派兵を頼みそうな感じだったし・・・」
私は今、《黒猫の集会》のメンバー全員で再び冒険者ギルドに向かっている。
「それにしても、ジョブシステムか。ナナのデタラメさにも、ちゃんと理由があったんだな」
「そうね。まさかそんな仕組みになってたなんて驚きだわ」
「驚きなんてもんじゃねーよ!実際にナナの戦闘を見てなかったら、とても信じられねーよ」
「まあ、そうだよね」
昨日は大変だった。
ゲームのシステムを説明するのがあれほど大変だとは思わなかった。
まず、この世界がゲームの世界だとはとても言えないし、私も言いたくない。
そもそも、ここがどういった世界なのか、私の中でもまだはっきりとしていない。
そして、誰も私のようにステータス画面を出せる人はいないので、レベルの概念やジョブの切り替えなんかの説明が出来ない。
魔法剣士が上位職だとか、その習得条件やその職の特徴、得られるスキルなんかの説明にかなり苦労した。
「たしか、剣術と魔法術の両方をある程度極めると、魔法剣を使える魔法剣士になれる、だったか」
「まあ、そんな感じ」
クロイスが昨日の話を思い出しながら聞いてくる。
ある程度極めるってなによ。って自分でした説明に思わずツッコミを入れたくなる。
でも、「両方をレベル30以上に上げた上で、魔法剣士習得クエストをクリアすると、メニュー画面のジョブ一覧に追加されるよ」なんて言えない。
これを、「レベル30」「習得クエスト」「メニュー画面」「ジョブ一覧」のワードを使用せずに説明せよ。出来るか!!
いや、したけどさ。ちょー疲れたよ・・・。
◆
「待たせたな」
そう言って部屋に入って来るギルマス。
今日はギルマスの部屋ではなく、同じフロアにある会議室だ。
先に通されていた私達は、ギルマスが来るのを待っていた。
ギルマスは私達の向かいの席に座り、部屋の隅で待機している職員を退出させると、真面目な顔で話し始めた。
「まず最初に、ヒポガントの件についての話をする前に言っておくが、昨日話した魔法剣やジョブシステムについては他言無用だ。誰にも言うな。俺以外のギルド職員にも、例え領主様であってもだ」
真剣な顔で私達の顔を見ながら言うギルマス。
「それは構わないけど、どうして?」
「こんな事を公開できるわけがないだろう。仮に公開するにしてもどう説明するんだ。異世界人が教えてくれましたとでも言うのか?」
「めんどくさい事になりそうだね」
主に私が。
それは困る。
「アホか。めんどくさいで済むわけがないだろう。これは冒険者のあり方さえ変える衝撃的な事実だ。間違いなく大混乱が起きるぞ」
「例えば?」
「まず、前衛職がこぞって魔法職に転職して、魔法職は前衛職を始めるだろう。特に高ランクの冒険者がな」
「あー・・・」
そりゃ新ジョブが実装されたら誰よりも早く手に入れたくなるよね。私もそうだったよ。
「慣れない職で魔物なんかと戦ってみろ、間違いなく死者が続出するぞ。そうなると町から高ランクの冒険者がいなくなり、高ランクの依頼が消化されなくなる。それは町の周囲の魔物を倒すものがいなくなるという事だ。こんな小さな町なんてあっという間に魔物に占拠されるぞ」
「「「「「「・・・・」」」」」」
そうだよね。
ゲームの時みたいに町の中は安全って常識は通用しないよね。
町に逃げ込んでエリア切り替え逃げなんて技は当然使えない。
「こんな革新的で自動発火装置みたいな扱いに困る事実、出来れば知らないでいた方が幸せだったかもしれないが、知ってしまった以上はそうも行かん。とりあえずこの事はギルドの方から噂という形でそれとなく広げていく。だからお前らは俺に協力しろ。特にナナ、お前は絶対にだ」
「えぇ~」
最高にめんどくさそうだこれ。
そういうのはそっちで勝手にやってほしいなあ。
「って、なんで私を名指しなわけ?意味分からないんだけど」
「俺はお前が分からない意味がわからんがな」
「えー」
まあ、実はわかるけどね。
多分、自動発火装置って私のことだ。ちくしょー。
「で、協力ってなにするのよ」
「取り敢えずおまえら、全員、上級職になれ」
「「「「「「は??」」」」」」
他言無用とは一体?
さっぱり話が見えないんですけど。
「もちろん誰にも知られないようにだ。ジョブシステムの話は理解したが、それが本当かどうかを確かめる必要がある。異世界から来たナナだけのものだという可能性もあるからな」
たしかに。
メニュー画面やステータス画面を出せるのは私だけみたいだし、敵や仲間のHPゲージを見れるのも私だけだ。ストレージ空間への収納というファンタジー機能も私だけかと思いきや、これはこの世界の人でも使えるらしい。ただし、容量は部屋の押入れくらいの容量で、私のは無制限だ。むしろスタック上限の99個の縛りも無くなっているようで、ゲームの時よりパワーアップしている。おかげでヒポガントみたいな大きな魔物を持ち帰ることができて、メンバーみんな大喜びだったけど。なるほど。ジョブシステムが有効なのは私だけという可能性も確かになくはない。
「取り敢えずそういう事だ。進捗報告は書面で定期的にするように。頻繁にお前ら達とだけ面会するのも目立ってしまうからな」
「まあ、そういう事なら」
「よし。じゃあ、そろそろ今日の本題に移ろう」
そう言ってギルマスは机の上の呼び出しベルを鳴らすと、ギルド職員の1人が部屋に入って来る。
「失礼します」
「連れてきてくれ」
「かしこまりました」
そう言って再び部屋を出る職員。
誰かを呼びに行ったみたいだ。
「誰か来るの?」
「ああ。このギルドの職員で魔物の解体を担当している奴だ。しつこいようだが、ギルド職員でも今の話はするんじゃないぞ」
しばらくすると先程の職員が1人の男を連れて部屋に戻ってきた。
「わざわざすまないな」
「いえ。今はそれほど忙しい時間ではないですから」
「そうか。ならさっさとはじめよう。そこに掛けてくれ」
「失礼します」
そう言って勧められた席に着くと、男は居ずまいを正し、こちらを向いて話しはじめた。
「はじめまして、《黒猫の集会》の皆さん。私はこのギルドで主に魔物の解体と素材の買い取り査定をさせて頂いております、ノーグと申します」
「ど、どうも」
なんかすごい腰の低い人だ。
気のせいか、私たちに一目置いているような。
見定めるのは解体素材だけにしときましょうね。
「で、挨拶が済んだなら早速話を聞かせてくれるか」
「はい」
ノーグは頷き、持っていた袋から拳くらいの大きさの黒い石を2つ取り出し、机の上に置いた。
「昨日、そちらのナナさんから受け取ったヒポガントの魔石です」
「ふむ。流石に大きいな」
机の上の置かれたそれは、ヒポガントの体内にある魔石というもので、魔物の心臓にあたるものらしい。
「そして、これが上位種と思われるヒポガントの体内から取り出された魔石です」
ノーグはそう言って袋からもう一つ、先程の倍くらいの大きさの魔石を取り出し、机の上に置いた。
「ほう、これが上位種の・・・ん?3つ?」
あ、最初に1人で倒したやつも一緒に渡しちゃってた・・・。
どうしよう・・・・。
・・・あれ、なんかギルマス超睨んでるんですけど・・・。
いつもご覧いただきありがとうございます!
GWも終わって皆さまいかがお過ごしでしょうか。
私はGWとともにストックが尽きましたので楽しく続きを書いている次第でございます。
いまだに考えていたプロットのメインストーリーに入れず脇道それスギ問題発生中ですが、今後も楽しく書いていきます!!
今後ともお付き合いいただければ嬉しいです!