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第7話 「再会の理由」

今回は2500字程度です。

「ガノン!? どうしてここに……」


 当然の疑問にそう投げかける僕だったが、それに答えたのは彼ではなく、いつの間にか僕の後ろに立っていた師匠だった。


「私が呼んだんだ」


「えっ? それって……」


「まあ、立ち話もなんだ。中で座りながら話そう」


「お邪魔します」


「え、ええ!?」


 この中で唯一状況を把握できていない僕は取り残され、扉の前に突っ立ったまま二人の顔を交互に見ることしかできない。

 師匠はさっきの残り湯でお茶を淹れると、それをガノンの前に置き、席に着く。


「ほら、ハルもそんな所に立ってないで座れ」


「…………」


 僕は困惑しつつも、このまま立っているわけにもいかないので、師匠の言う通りにする。


「さて、役者が全員揃ったところで本題に入ろうか……と、言いたいところだが、まずはその前に、どうしてガノンがここにいるのかということを説明しておこう。このままだと、ハルが話に集中できないみたいだからな」


 師匠はそう茶化して笑う。


「もう分かりましたから、いい加減教えてください。どうしてガノンがここにいるんですか?」


「そう怒るな」


 彼女は言ってお茶を一口すすると、静かに深呼吸して体をテーブルに乗り出す。


 そして一言、

「ナイフの件だよ」

 そう言った。


「ナイフ? ナイフってさっき話してたことですか?」


「そうだ」


 僕は横目でガノンの方を見るが、彼は何も気にする様子もなく出されたお茶を美味しそうに飲んでいた。

 ガノンとナイフ。この二つがどう繋がるのか、さっぱり分からない。

 僕は師匠へと視線を戻した。


「今日の戦いを見て、私はハルのナイフを手入れした方がいいと思った。最初は王都に行こうかと思ったんだが、そのナイフは元々古種のものだ。人間に直せるかどうか分からない。どうしようかと思っていた時、ある噂を思い出したんだ」


「噂……ですか?」


 師匠は頷くと、楽しそうにニヤリと笑う。


「この魔樹海のどこかに、鍛冶を得意とする古種の集落がある、というものだ。その古種ものたちは偏屈で頑固だが、すこぶる腕が良く、材料さえあればどんな武器でも作ることができ、直せるらしい」


「その集落の話しが本当なら凄いですけど、それとガノンにどういう関係があるんですか」


 師匠は右の髪をかき上げて小さくため息を吐くと、話を続ける。


「私はその集落の場所を知らないんだ。かと言って、所詮噂は噂だ。この広大な魔樹海で、あるかどうかも分からない古種の集落を探すことなんて、不可能だ。そこで、知らないなら、知っている奴に案内してもらえばいいと思ったんだ」


「それがシーフ族ってことですか?」


 師匠は嬉しそうに、正解、と指を鳴らす。


鱗族かれらは狩りを生業としている。つまり、武器が必要だ。そこで噂の古種とシーフ族は繋がっているのではと思い、ハルが戦っている間に伝書烏でんしょがらすを使って手紙を送ってみたんだ。そしたら、案の定さ」


 師匠の話しが終わり、確認の意味も込めて僕が隣りを見ると、ガノンは小さく頷いた。


「俺は案内役として、ここに来たんだ。まぁ実際は、俺もあの集落に行くのは初めてなんだけどな」


「えっ?」


「そうなのか?」


 ガノンの言葉が予想外だったのか、僕だけでなく師匠も驚く。


「行ったことが無いなら、どうしてズーシャはお前を使いとして寄こしたんだ?」


「それは、あの集落に行ったことがある奴が、族長以外に生きていないからなんですよ」


「どういうことだ?」


 師匠の当然の疑問に、ガノンは何故かバツが悪そうに頬を掻く。


「ええっと、実はですね、昔はちゃんと交流があったらしいんですよ。鱗族われわれは肉を提供し、彼らは武器を提供するという協力関係が成立していたらしいんですが、先代の族長があちら側の族長と喧嘩してしまったらしくて、そこから交流が途絶えてしまったらしいです。今では、彼らの武器を持っているのは現族長のズーシャ様だけなんですよ」


 ここまでのガノンの話しを聞いて、ふと一つの不安が湧いてくる。


 そこは師匠も同じだったらしく。


「ということは、シーフ族である君がいたら、集落の中に入れてくれないんじゃないのか?」


 当然だ。ほぼ絶縁するほどの喧嘩をした種族のものをそう易々と歓迎してくれるとは思えない。

 しかし、ガノンは首を横に振る。


「その心配はないらしいです。ズーシャ様曰く、」



『俺の名前を出せば何の問題もねぇ。ドーンと任せとけ!!』



「だそうですから」


 それを聞いて、思わず親指を立てて真っ白な牙を光らせるズーシャさんを想像してしまう。


――本当に大丈夫だろうか…………。


 僕の胸中に得体のしれない不安がよぎる。

 ズーシャさんは間違いなくいい人だが、少しお調子者のようなところがある。

 師匠もそこが心配だったのか、顎に指を添えてしばらく考え込んでいたが、意を決したように頭を振ると、勢いよく立ち上がった。


「ええい! ここで考えていても埒が明かない! とにかく行ってみるぞ! ――ガノン、ここから例の古種の集落まではどれくらいかかる?」


「今出れば、夜までにはつけると思います」


 師匠はそれを聞いて決心したのか、よし、と頷く。


「それじゃあ、準備に取り掛かれ。今から三十分後に出発だ!」


 その掛け声で準備を始めるガノン。しかし僕はどうしても不安を拭いきれず、師匠に近づき、ガノンに聞こえないよう小声で質問する。


「もしズーシャさんの名前を出して敵対されたらどうするんですか? ガノンの話しを聞く限り、シーフ族と噂の古種は仲が悪いみたいですけど……」


「その時は……」


 師匠の顔に黒い笑みが浮かぶ。


「襲ってきた噂の古種を叩きのめして、無理やりにでもナイフを直させてやるさ。もちろん、その後にはズーシャで切れ味を試してやる」


――こ、怖い。


「まぁ任せておけ。追手が来ないように綺麗に片づけてやるさ」


――問題はそこじゃない! けど、怖くて何も言えない!!


「くく。くくくっ……」


――なんか笑ってる! 今までに聞いたことがない笑い方をしてる!!


 触らぬ神に祟りなしの精神で、僕は静かに師匠から離れる。


「くっくっくっ……。あはははは!!」


――怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!


 僕は師匠の不気味な笑い声を背に、急いで準備を進めるのだった。


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