追いかけっこ
不良は逃走を試みているが、敬之も『病院へ行かない理由』を如何にか逃がすまいと
必死に追いかけた。
敬之は傷の痛みに耐えながら全力疾走を続ける。
しかし、体力が少ない二人は不良との距離が次第に開きはじめた。
そして遂に姿形を見失ってしまう。
「見失って間もない」
「まだ、何処か近くに居るはずだ」
「でも、見つけ出す方法がありません」
「あれを使うしかないだろ」
ポケットから注射器を取り出すと自分の胸元に針を突き刺した。
敬之の頭に複数の声が流れ込んでくる。
その感覚は脳が誰かに侵食されているようで気分が悪い。
それでも薬を使用したからには絶対に見つけ出さなければならないため集中する。
幾つもの声の中に聞き覚えのある声を見つけた。
「向こう側の通りを走っている」
「行くぞ!」
走って追いかけると直ぐに見つけられた。
そのまま尾行すると、ある家に入っていった。
〈ついに、ボロが出たか〉
〈俺を疲れさせやがって〉
敬之と美優は肩で息しながらも家の扉を開けた。
「家というかボロ屋だな」
「でも、生活していた形跡はありますよ」
「あそこの机にコップが置いてあります」
一階は壁が無く吹き抜け状態になっている。
ガスボンベのようなモノが奥に幾つか転がっている様に見えるが、
他には二階へ続く階段と四角い机しか無い。
「ここにいないってことは上に居るみたいだな」
階段を上がると、此方も吹き抜けになっている。
そこには、不良風な男が仁王立ちしていた。
「隠れてないで、こっちに来いや」
敬之たちは階段を背にするように対峙する。
内装は窓に太い格子が付けられていて、鉄の板などが転がっていた。
〈なんで、こいつが待ち構えてるんだ?〉
そんな疑問に答える様に男は口をひらいた。
「先に謝っとくわ」
「何をだ?」
「罠にかけた事だよ」
不良男は手に持っていたスイッチを押す。
「美優、警戒しろ」
「はい」
しかし、時間が経っても何も起きない。
不良男も計画と違う状況に戸惑っているような顔をしている。
「おい、罠はどうしたんだ?」
「うるさい!本当は此処以外の全てが崩れるはずなんだよ!」
先ほどから下の階で気体が漏れている音がする。
そして、敬之はおおよその見当がついて苦笑いした。
「お前さ。裏切られたんじゃないのか」
「ウソをつくな!」
「多分、下の階で罠の装置が起動した」
「直ぐに、家中にガスが満るだろう」
不良男は血相を変えながら敬之のことを睨んで銃を突き付ける。
「多分、扉もロックされているだろう」
「これだと、直ぐに全員が死ぬぞ」
「助かりたいなら、3人で無事に脱出するしかない」
突き付けられた拳銃へと敬之は近づき、鉄筒を胸元に付けた。
「冷静になって匂いを嗅いでみろ」
不良は未だ反発しているが、銃を下ろした。
「お前も協力しろ」
「でないと、死ぬぞ」
男は近場に有ったイスに座る。
「何をすればいい?」
「お前の能力で壁を壊してくれ」
男は鼻で笑う。
「それは無理だ」
「俺の能力はモノを動かす能力だ」
「しかし、壁を壊すほどの力は無い」
「これで万策尽きたな」
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