支えてくれるもの
夕暮れの住宅街に銃声が響き渡る。
しかし、体の何処にも鮮血は無かった。
「危なかったです」
美優は明後日の方向に声を掛ける。
「投石の事。それとも、状況の事か?」
美優が軽く笑う。
そこには先ほど家に帰ったはずの敬之が立っている。
「美優、気を抜くな!」
赤髪の男は拳銃のグリップで美優に殴り掛かる。
それを両腕で受け止めると、手に持っているスプレーを
離れ際に相手の顔へと吹き付けた。
「うぁああああああ」
男は目を手で覆って痛みに叫び声をあげる。
そして、手の奥に潜む真っ赤な瞳が獲物を狙うかのように覗いていた。
尋常じゃない程の威圧に美優だけでなく敬之さえも委縮して手が出せないでいた。
ただ睨まれただけだが美優は無意識に敬之の元へと下がってしまう。
「お前らの尾行は気づかれていたんだよ」
「自販機の時に距離を確認して、後はこの通り」
敬之は説明しながらも、頭の中ではもう一人の動向を探る。
〔全員、死にやがれ〕
少し離れた家からナイフが地面と平行にして飛んでくるのが見えたと同時に敬之は叫ぶ。
「美優、ナイフを避けろ」
敬之はタイミングや方向を超能力で知り得ていたが、体が思うように動かない。
美優も同じで思考が付いて行けずに体が硬直している。
それを横目で確認した敬之は倒れ込もうとしている体を無理やり起こし、ワンステップで美優の方に駆けて行った。
彼女を抱きかかえ、自分を壁にして地面に倒れ込む。
地面に頭を打って昏倒しながらも拳銃を抜いて、影に打ち込む。
家から簡素だが男の悲鳴が聞こえてきた。
敬之は幾つかの刃に刺さっていたが意識はある。
反撃が来ないうちに立ち上がろうとしたが、その必要は無かった。
美優と向かい合っていた男の体中は、大量の痛々しい擦り傷によってボロボロだ。
「逃げるぞ!」
ナイフの飛んできた家から叫び声が聞こえると、
男は壁で体を支えながら夕暮れの暗闇へと逃げて行った。
美優は数秒間だけ意識が飛んでいたが、直ぐに状況を理解して敬之を揺する。
「痛い」
敬之は反応するが、それでも叫びながら揺すり続けた。
「敬之さん。死なないでください」
「痛い。痛いって」
「痛いって言ってんだろうが!」
敬之は痛みに耐えかねて、頭を叩く。
「痛いですよ。何するんですか」
「女の子を叩くなんて最低ですよ。敬之さん」
美優は頭を擦っている。
「おまえ、俺が無事だって最初から知ってただろ」
「はい、プロテクターを着ていることは知っていましたよ」
敬之は数日の間に、薄手のプロテクターを買っていた。
そして、この日にも服の下に着ていたために助かることが出来た。
「それでも、最初は心配したんですよ」
美優の目は真剣そのものだ。
「何で、知り合ったばかりの私を助けたんですか」
「私を庇わなければ危険な目にも合わなかったのに」
「 ・ ・ ・ 」
敬之は自分でも驚く行動を取ったため、それを人に説明できる訳もなく無言で返す。
「私は貴方の役に立てるのか分かりません」
「私を見捨てても何てことは無いのに」
美優はそれを言うと泣きだしそうになっていた。
敬之は後頭部を掻きながら頭の中を整理する。
「俺にも分からないが、今は協力者が必要だと思ったんだと思う」
「お前を利用してやるためにな」
敬之はもう一つの考えに恥ずかしくなり、そっぽを向く。
〈こんな恥は、直ぐにでも忘れよう〉
〈そうしよう〉
「だから助けたんだ。ちゃんと役に立てよ」
美優は涙を手で払い、顔をゆっくりと近づけて耳元にささやく。
「それに」
「いちから隠れ蓑を見つけないとって思いました」
「本音は包み隠せ!」
スパンと音を立てて頭を叩くと
美優は嬉しそうにしながら頭を手で擦っている。
敬之は彼女の冗談でリラックスできたが、
緊張が解けたために、体に刺さったナイフの痛みを強く感じた。
それを感じ取り、美優は敬之の体を触って傷の具合を見た。
「このナイフだけは、プロテクターの隙間に刺さっています」
「これは直ぐに治療した方がいいです」
「その後に、病院に行きましょう」
敬之は首を横に振って提案を拒否した。
〈病院に行ったら警察に通報される〉
〈それはヤバイ〉
天気予報では晴れとなっていたが小雨が降っている。
そして、その冷たさが傷にしみる。
「すまないが、今日は家に帰らせてくれ」
敬之は帰宅しようと立ち上がろうとするが傷が痛む。
「もう、一人で帰ろうとしない」
「私が支えるので手をかしてください」
雨に濡れた服が体に纏わりついて気持ち悪い。
体も雨で冷えて凍えそうに寒くて体が震える。
そして、ナイフの刺さった腹部は燃える様に熱い。
今日という日は今までで最も不運だった。
何もかもが最悪の日だ。
痛いし、寒いし、気持ち悪い。
力も入らないし体が重い。
そんな日だった。
俺は誰も助けられない。
それどころか助けようとも思わない。
誰かに支えてもらえるような人間じゃないんだ。
体が重く歩くことすらできない敬之の目に映る風景は少しづつだが変わっていく。
長い間、一人で歩いて来た敬之には違和感が残る。
信用も信頼も出来ない。
それでも一人で歩けない事もあると今日、知ることが出来た。
自分はただ利用しようと助けただけなのに心配してくれる。
怒ってくれる。
泣いてくれる。
笑ってくれる。
「一人で歩くのも疲れた」
「少しだけなら誰かと歩くのも良いかもな。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
コメントとか欲しいな! なんてね。
最近はPVを見てくれる人も多くなってきましたが、本文を見てくれる人は未だに少ないです。
PVが酷いんですかね?
もし宜しければ誰かカッコイイPVを書いてくれると人がいてくれると嬉しいな。




