日常
駅前には忙しそうなサラリーマンや楽しそうに歩くカップルが闊歩していた。
土曜の昼頃である現在、その人ごみの中に敬之の姿もあった。
敬之は人ごみに慣れていないせいか、人の波に乗りきれていない。
それでも、目的地である駅前の広場に到着することが出来た。
「あいつ、何処にいるんだよ」
「まだ来ていないのか?」
広場の中心に置いてあるベンチに座りながら独り言を言う。
すると突然。
「いますよ!」
敬之は驚いて地面に転げながら顔を向けると、
髪と同じ薄茶のコートの中に白いニットと灰色のスカートが見えた。
「敬之さん驚きすぎですよ」
ツボに入ったのか、周りを気にせずに爆笑している。
「普通、驚くだろ!」
「敬之さんは普通の中には入りません」
「 ・ ・ ・ 」
敬之も自覚しているため、その一言に何も言い返せない。
しかし、イライラを発散しようと無言の威圧だけは美優に浴びせた。
「そんなに怒らないでください」
敬之は美優の謝罪を無視して周りを見渡すと、野次馬が騒ぎを見物しようと
集まってきている。
敬之は視線を無視して人の壁を縫って歩いて行く。
美優も敬之が離れていくことに気が付いて走って追いかけた。
「本当に、すみませんでした」
「あの~。反省しているので、無言で離れないでください」
美優は敬之に追いついてから平謝りしている。
「気にしてない」
「ウソです」
「本当に気にしていないって」
美優は白状しろという目を向けてきた。
「なら、何でいきなり離れたんですか」
「騒ぎになって警察でも来たら面倒だから」
敬之の隣に?マークが浮かぶ。
「そんなに騒ぎになっていました?」
「なってた」
敬之は歩きながら隣を歩いている美優を軽く見た。
美優は一般的に見て美少女の枠組みに入る部類である。
正確も明るくて取っ付きやすい性格である彼女は、
数時間の付き合いしかない敬之からしても、決して無視できるような存在ではない。
そんな彼女は、いつも周りに多くの人間が居るのだろう。
そのため、自分に対する多少の注目や騒ぎでは気が付かないのだと敬之は考えた。
〈これだから、こういう奴らには関わりたく無いんだ〉
「本当にウザイ」
敬之は無意識に発したことに気付き、隣を歩く美優の様子を窺った。
「どうしたんですか?」
少し戸惑ったが、聞かれなかった事に気が付いて安堵する。
「いや、昼食を取りたいと思って」
「ああ、私もご飯食べたいです」
「どこで食べますか?」
「ここら辺で昼食を取りたい」
「なるほど。なら、あそこにしましょう」
彼女の白魚のような指が、真正面にある店を差している。
「今日はハンバーグの気分なんです」
「私は300gにしますけど、敬之さんはどうしますか?」
「150gで」
敬之は呆れてため息も出ない。
その間も、優香は店員に注文し続けている。
「おい、さっきから気になっていたんだが」
「何で俺を下の名前で呼んでいるんだ」
注文を終えた優香が此方を向く。
「私は『おい』じゃありません」
「意味の分からないこと言うな」
目の前の女の子が少し膨れっ面になって怒っている。
「私のことを名前で呼ばない限り、何も言いません」
敬之は面倒だとも思ったが、仕方がないので呼ぶ。
「何でですか、笹木さん」
すると、美優は苦虫を噛みつぶしたような顔に成ったが、
直ぐに膨れっ面の膨れ具合を増して起こり始めた。
「もー。普通この状況だったら下の名前を呼びますよ」
「仕方ないだろ。俺は普通じゃないんだから」
美優がゲッという顔に成りながらも言葉を返す。
「そういう所、女の人に嫌われますよ」
「ああ、そうかい」
「それよりも、情報交換の続きをしよう」
美優は周りを見渡すと小声になった。
「人が多すぎます。話は違う場所でしましょう」
目の前の女の子が笑顔になると、声のボリュームが戻る。
「それに料理が来ましたよ」
店から出て隣駅に歩いて行くと、大きな庭園が見えて来た。
道中でも美優の雑談を長々と聞いていたため、敬之はあまり長距離を歩いた感覚が無い。
庭園について軽く周囲を窺うと、美優は敬之に尋ねた。
「これからの計画を決めて置きましょう」
しかし、敬之が話を遮る。
「その前に、聴きたいことが有るんだが」
「何ですか?」
彼女は首をかしげる。
「これに参加した日、緊張して説明の記憶があまりないんだ」
「敬之さんも緊張するんですね」
美優はクスクスと笑った。
「それで、何を聞きたいんですか?」
「能力は三つあるが、他の能力を知っているか」
「知りません。ただ、能力によって渡される凶器も異なるらしいです」
「ということは、相手は拳銃以上の物を持っている可能性があるということか」
美優は頷く。
「次だ。これを着けないと如何なる?」
敬之は手首にまかれているデバイスを指で差した。
「他のデバイスに名前と顔写真が載ります」
「時間が経てば、無抵抗の状態で狩られるということか」
「しかし、制限時間がある以上はフィールドが限定される」
「それならば、他国に逃げればいい」
美優は首を横に振る。
「もう一つ枷があります。開催者は参加者の内情を調べてますから」
敬之はため息をつく。
「人質を取られているも同然だな」
「最後の質問だ。ゲームの開催者は誰だ?」
「分かりません」
そう答える美優だったが、ベンチに座ってメモ帳を取り出た。
そして、メモ帳に何かを書き始めた。
『敬之さん。参加者が集められた場所を覚えていますか?』
『覚えていないな』
敬之は眉をひそめながら筆記で否定する。
『私達は移動の時に眠らされていましたが、私は少しだけ意識がありました』
『それで』
『体感時間から、あまり遠くない場所です』
『もう一つ、私はアイマスクの下からビルに入っていくのを見ました』
「分かった」
「すみません。あまり役に立てなくて」
「いや、別に平気だ」
美優は自分で誇るぐらい情報収集に自信があった。
また、情報の提供によって敬之を手助けしようと考えていたと思われる。
そのため、敬之は少しだけ落ち込んでいるように見えた。
〈少しは気を使ってやるか〉
「敬之さん。あそこにクレープ屋さんがありますよ」
そのように見えたのは敬之の見間違えだったらしい。
呆れて溜息も出てこない敬之は、美優を追ってクレープ屋に歩いて行った。
「これから、如何します?」
クレープを美味しそうに食べながら、話しかけて来た。
「どれだけ食べれば気が済むんだよ」
敬之は小声だから聞こえないだろうと思って口に出すと、
「スイーツは別腹なんです!」
クレープのクリームが口元にベッタリと付いている。
敬之は口元を指で差してからティッシュを手渡す。
「ありがとうございます」
美優は受け取ってクリームを拭った。
「それよりも、次やることは二つだ」
「一つは信用における仲間をもう一人見つけること」
「もう一つは、他の敵を確認して安全な場所を確保すること」
「そうですね。私もそれでいいと思います」
美優がクレープを食べ終えると立ち上がる。
「食後の運動がてら、池の方へ行ってから帰りませんか?」
彼女は返事も聞かずに池に歩いて行くので、敬之は諦めて付いて行く。
池を覗くとデカイ鯉が泳いでいるのが見えた。
〈キモイ〉
敬之は反射的に目線を池から外すと、美優が懐かしそうな目をしている。
美優は敬之の視線に気づいたのか、池の底を見ながら口を開く。
「小さい頃、よく此処に来たんです」
「それで、兄と一緒になって遊んでました」
敬之は無言で美優の話を聞きながら、後について行く。
少し微笑んでから口を開く。
「こんな事してると平和そのものって感じしますね」
「殺し合いをしているなんて、夢でも見ているようです」
二人の間に無言の時間が流れるが、直ぐにそれは破られた。
「それじゃあ、駅の方に帰りましょうか」
夕日の光が水面に反射してキラキラと光っていた。
駅へと続く真っ赤な住宅街を二人で歩いていく。
住宅街には人が全くいない。
敬之は自販機に近づくと財布を取り出した。
「アンタ、小銭を貸してくれないか」
敬之は自販機の方を見たまま、美優に頼みごとをする。
「えー。何でですか?」
「札しか無いからだよ。いいから貸してくれ」
「敬之さんは仕方ないですね」
家の隙間に潜む二つの影は、敬之たちの様子を暗闇に溶け込みながら窺っている。
片方が日の出に出ようとするが、もう一方が袖を掴んで止めた。
「もう少しすれば、単体になるはずだ」
「焦らずに追い詰めていこうぜ」
男は袖を離すと壁に寄りかかってニタリと不気味に笑った。
「やっぱり、最初は女を始末するに限るぜ」
敬之と美優は分かれ道に差し掛かると簡易的な挨拶をして別れた。
「今日はありがとうございます」
「ああ」
敬之が消えるまで手を振った後、美優も駅へと続く道を歩き始めた。
しかし、歩いていた足が直ぐに止まる。
「おい、そこで止まれ!」
家の影から現れた男は、彼女の真後ろから声を掛ける。
美優は振り返って確認をしようとしたが、男の怒鳴り声が制した。
「振り返るな!」
「手を頭に付けてから膝をつけ」
美優は真後ろからの殺意を感じ、その要求に従うしかなかった。
姿が見えなくても、足音で近づいていることが分かる。
「何が要求ですか?」
既に、頭へ銃口が押し付けられるまで近づいている。
「姑息な手でスマンが死んでくれ」
「せめて、苦しまずに殺してやるらよ」
拳銃の引き金が引かれ、バレルから二つの閃光が瞬いた。
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