ルーナリアは思案する
魔法理論の授業には遅れることなく教室に着き、ルーナリアは無事に授業を受けていた。
魔法理論は、その名の通り、魔法の理論を教える授業だ。
魔法はどうやって成り立っていて、どうやって発動させるのかだったり、攻撃魔法の展開方法だったり。その攻撃魔法のくだりで、ルーナリアに対して悪意に満ちたクスクス笑いやらなんやらが向けられたが、こんな一庶民に構うことなく、真面目に授業をしてくれと心の中で悪態をついておいた。表向きは俯いて落ち込んでいるように見えるようにはしておいたが。
魔法理論自体は、大体理解している。それこそ入学前に、父が噛み砕いて教えてくれていた。それを堅苦しく難しそうにしたものが魔法理論なのだと、入学してすぐに理解したものだ。
だから、ルーナリアは攻撃魔法の理論だって理解している。理解しているのだから、悪意を持って笑われたところで、どうしろというのだとしか思えなかった。発動しないだけなのだから。
それより、さっきの結界は対人不可侵と防音の二重掛けだったな…と、ルーナリアはぼんやり思い出す。
殿下が去っていくときに消えたのだから、きっと茶色い髪の青年がかけた魔法だったのだろうとは思うけれど、結界が張られたことに気づかなかった自分に驚いていた。錬金に夢中になりすぎていたのだろうか…。そして何故結界が張られたのだろう。誰かと対峙する度に結界を張っているわけではないと思うのだが。
まさか庶民に気を遣われたとか?いや、高貴な人物がそこまですることはないだろう。自分で考えておきながら、あり得ないとルーナリアは首を振った。
しかし、王子殿下は一体何を考えているのか…。
赤は虹の世代だからという事もあり、そもそも生徒数が多いから庶民の人数も他より多い。青はそうでもないから、庶民が物珍しかったのか。しかし、庶民がいないわけではないのだから、違うだろう。
錬金だろうか。そもそも魔石を錬金していたら話しかけられたのだ。しかしあの魔石はごくごく一般的なもので、なんの特徴もない。
そういえば魔石を返してもらっていないことに今更気づいた。また作ればいいから、なくて困ることはないが…。
まさか、魔石を賄賂に補習を免れようとしたことが問題!?いや、それも他の生徒たちだってやっているし、学園では暗黙の了解だ。学園外でも、大なり小なり金品のやりとりで、自分たちの都合の良いように物事を進めようとすることはあるはずだ。
しかし、貴族が賄賂を渡して都合をつけることはあっても、庶民がしたら問題になる…とか?貴族だからこその暗黙の了解だったのだろうか。稀にいる裕福な庶民もやっているのを見たことがあるが、裕福な庶民は普通の庶民とはまた待遇が異なるようだし、そこが問題だということはありえる。
赤の王子はさておき、青の王子殿下は正義感溢れる潔癖なのかもしれない。そうだとしたら、実はすごく面倒くさいことになるのではないだろうか。これを機に学園内の賄賂やあれこれを一掃しようとしている…とか。
あり得ないか。一王子にその権力があるとは思えない。…もしかしてあるのか?
貴族を断罪するのは色々なしがらみもあるだろうが、庶民相手となれば遠慮は無用。証拠も言質も既に手の中にある。その場で切り捨てられなかったのは、学園に蔓延る悪を全て断つため、とか。
いやいやいや、一庶民の賄賂の証拠だけで学園をひっくり返すなんて無理でしょう。
一番考えられるのは、フォルマの娘だから…か。すぐに私をルーナリア・フォルマだと見抜いたわけだし。学園内において、異端として目立っているとは思っていたけれど、王子殿下にまで知られているのだから相当なのだろう。
フォルマの娘。
それはルーナリアにとって最上の誉め言葉であり、心を惑わす言葉。