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ルーナリアの動揺

「ねぇねぇリア、さっきのアレってどうやってるの?剣じゃないとできないもの?」


 魔物撃退後、遅れて駆けつけた教師にマルクランが掻い摘んだ説明をした。その後午後の授業は休みになると告げられ、2人は秘密の部屋にやってきていた。ウィルフレドがいないのに勝手に入っていいのかと戸惑ったルーナリアに、どうせ後から合流するんだからとマルクランは気にした様子もなく魔法で解錠し、中に入ったのだった。


「私は杖よりも剣の方が使い慣れているので剣を使っていますが、それなりの魔石があれば剣でなくとも可能だと思います」


 いつもお茶の準備をしているレイアードがいないため、ルーナリアはお茶を淹れながらマルクランに返事をした。

 お茶を淹れること自体は普段からやっていることなので問題はないのだが、いかんせん、この部屋にある茶葉は高級すぎる。普通の淹れ方で問題はないのだろうかとドキドキしながらカップに注いでいた。


「うまく淹れられたか自信がないのですが、どうぞ…」


 色味はいつもと変わらないように見えるお茶と茶葉の隣にあった茶菓子を揃えてをマルクランの前に置き、ルーナリアもマルクランの前に座った。家族と同じテーブルにつくことに戸惑いがなくなっている自分に苦笑しながら。


「美味しいよ。少なくとも僕が淹れるよりは美味しい」

「ありがとうございます」


 一口飲んだマルクランの言葉に、やはりルーナリアは苦笑した。

 レイアードの淹れるお茶が異常に美味しいため、叶わないことは分かりきっていたのだ。


「さっきの話だけど、魔石に魔法を纏わせればいいってこと?」

「簡単に言えばそうですね」

「でもそれ、口で言うほど簡単じゃないよね」

「そう…ですね」


 吸収するでもなく、跳ね返すでもなく、意識的に放たれた魔法を留めて纏い、それを自由意思で放ち返す。それは上級魔法をいくつも組み合わせた難しさなのである。それを使いこなすルーナリアを、マルクランはジト目で見つめるから、ルーナリアは目をそらして茶菓子に手を伸ばしていた。


「マルク様ならコツさえつかめばすぐに使いこなせますよ」

「じゃあリアが教えてくれる?」

「う…まぁ…、私で教えられることならば…」

「僕は剣は使えないから杖にしよう。慣れたら魔石を埋め込んだバックルとかでも汎用できるかな」

「なるほど、確かに装飾品だと普段からつけていられるから、咄嗟の時にも使えますね。指輪も良さそうです。私は装飾品をつけないので気がつきませんでした」

「そういえばリアは女の子なのにそういうのつけていないね」

「貧乏庶民はそんなものにお金をかけていられないのですよ」

「錬金出来るくせにねぇ」

「無駄なものは作らないんです」

「無駄って…。リアは面白いなぁ」


 そう、庶民でもアクセサリーの一つや二つは身につけている。自分の見栄えを良く見せようと思うのは、年頃の女子として当然のことだろう。だが、貴族の令嬢ほど艶やかなものを身につけると、目をつけられてしまう。それは面倒なため、ささやかなものをつけるのだ。

 だが、ルーナリアはそれを一つも持たない。興味も、持っていなかった。目立つことも良しとしなかったし、山で生きてきたからか、着飾るということに興味が湧かなかったのだ。

 

「お、おでましだ」


 二人の会話が盛り上がっているところで、部屋の隅に魔力反応が現れた。


「魔物が現れたって!?」


 淡い光とともに現れたのは、ウィルフレドとレイアードだ。慌てた様子で現れた2人は、ルーナリアとマルクランのまったりとした雰囲気を見て、ホッと息を吐いた。


「僕達が一緒にいて、魔物1匹なんてどうってことない事くらい分かるでしょ?」

「お前の心配なんてしていない。リアを心配したんだ」

「はいはいそーですか。それこそ不要な心配だと思うけどね。リアの剣技は聞いていた通りすごかったよ」

「リアを戦わせたのか!?」

「ダメだった?なんの問題もなかったけど」


 呆れた顔でウィルフレドは迷う事なくルーナリアの隣に座った。


「殿下、私、戦うのは結構好きなんです。剣を振るうのはストレス解消になります。しっかり防御魔法もかけていましたし、問題ありませんでしたよ」

「いや、うん。分かるんだけどさ。リアの強さは知ってるし。でも、心配なものは心配なんだよ」


 ポンっとルーナリアの頭に手を置き、ウィルフレドは困ったような顔をした。

 側にいる事ができなかった間に起こった出来事は、ウィルフレドを思った以上に心配させていた。王宮でそれを知った時、慌ててしまってレイアードを呆れさせたほどに。


「リア…?」

「…あ、えっと…」

「ん?」


 いつものような反応をしないルーナリアを不思議に思い様子を伺うと、何故か黙ってうつむいていた。


「服が…いつもと違うなと思ったものですから…」


 ちらりと視線を上げ、ルーナリアはウィルフレドを見て、すぐに目を逸らした。


「ん?あぁ、王宮に行く時はいつもこんな感じだ。急いでいたから着替えられなかったんだ。おかしいか?」

「いえ、素敵なお洋服です。すごく…似合っています」


 ルーナリアは落ち着きなくお茶を飲み、もう一度ちらりとウィルフレドの姿を見て、またすぐに目を逸らした。その様子を真ん前からマルクランは楽しそうにニヤニヤを眺めている事に、2人は気づいていない。

 ウィルフレドは王族の正装である白い礼装で、学園の制服とは雰囲気が全く違っていた。ルーナリアはそれに緊張し、まともに顔を見られなくなっていたのだ。


 おかしい。なんでこんなに緊張しているんだろう。ちょっと服が違うだけなのに、ここにいるのは殿下で間違いないのに、どうして顔すら見ることができないんだろうと、ルーナリアの頭の中は軽くパニックになっていた。そのため、ニヤニヤするマルクランにも、驚きながらお茶の準備をしているレイアードの視線にも気づいていなかった。


「リア、マルと何を話していたの?」


 残念なことに、動揺しているルーナリアに気づいていないウィルフレドは、レイアードからお茶を受け取り、話し始めた。


「えぇと、相手が放ってきた魔法を跳ね返す方法について…ですかね」

「あぁ、この間リアがやっていたやつか」

「リアがやり方教えてくれるって言うから、その話をね」

「そういう話なら、俺は無詠唱を教えてもらいたいな」

「え?」


 マルクランの隣に座ったレイアードからの予想外の言葉に、ルーナリアは目を瞬いた。


「リアはほとんどが無詠唱だろう?そのコツを聞きたい」

「え、えぇ?私が…ですか?」

「それいいね。みんなでお勉強会しちゃう?魔物のせいで授業もなくなって時間はあるし」

「そうだな。こうも頻繁に魔物が襲ってくるようなら、自分達で対応することも増えるだろう。ここの実力の底上げを図っておいて困ることはないだろう」

「えぇ〜〜〜、殿下までそんなことを…」


 私は2学年下の小娘なんですけど…と心の中でつぶやき、決定事項になっているらしい勉強会とやらを思い、ルーナリアはため息をついた。そして、頭の中の動揺が小さくなったことにこっそり胸をなでおろした。



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