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隠された理由は

「私は、虹の魔法使いは、その力を使った後、命を落とすのではないかと思っています」


 ルーナリアの真剣な瞳と、その言葉に、3人は返す言葉を見つけられなかった。それほど、衝撃的だったのだ。

 正直に言って、虹の魔法使いのその後など、考えたことがなかったのだ。虹の魔法使いによってこの国に安寧がもたらされ、穏やかな時が流れていく。虹の魔法使いはその功績を称えられ、丁重に扱われる。それくらいだ。そうではないことなど、考えたことがなかった。


「命を…落とす…?」


 鸚鵡返しながら、なんとか言葉を返したのはウィルフレドだ。


「国から魔物を一掃するほどの魔法ですから、きっとものすごく強大な力がいるでしょう。その代償が命だとしても、何もおかしくありません。むしろ、しっくりきます。虹の魔法使いの詳細が一切分からないことも、納得がいきます。亡くなっているのなら、その後の足取りが一切分からないことも、説明ができますから」

「存在が保護されているだけかも…しれない」

「本当にそう思いますか?国に保護されているのなら、その存在が明かされていいはずです。ですが、そうではない。そもそも、魔物を一掃するほどの力を持つ魔法使いならば、保護などされずとも自分の身は自分で守れるはず。その後に明るい功績を挙げていてもおかしくないのに、それもない。虹の魔法が特別なもので、魔物を一掃した後に魔力を失うのかもしれないとも考えました。でも、魔力を失った魔法使いの価値はそこまで高くない。悪用しようと考える人はそこまで多くないと思います。魔力がないのならやはり保護をすればいいだけの話で、存在を隠す必要性を感じません。むしろ、国のために魔力を投げ打った英雄だと、一生讃えられ、国からも民からも守られるはず。でも、そうではない。…なんの痕跡もないなんて、不自然だと思いませんか?」

「……」

「お勤め後に死ぬと分かっていれば、魔力を隠して逃げるものがあるかもしれないし、家族がその存在を隠すかもしれない。いくら忠誠心があったとしても、子供を生贄に差し出すのは躊躇するでしょう?騎士でもないのに、躊躇いなく命を投げ出せる人間なんて、いないでしょう?だから、虹の魔法使いの話は、都合のいいことだけを触れ回り、肝心なことは何も明かされない。そう…思ったんです」


 ルーナリアは、自分の考えにはそれなりの自信を持っていた。けれど、それを家族以外に話すのは初めてだったため、最後の方は尻すぼみになってしまった。

 王家を貶める発言もした。ウィルフレド自身を貶めるようなことも。

 だが、ウィルフレドは不快感を表に出さなかったし、従者であるレイアードもルーナリアを処罰しようとしなかった。それは、ルーナリアを思う気持ちがあるから故だろうと予想した。もしくは、ルーナリアを害せばフォルマが出てくることを懸念したのかもしれない。それでも、酷い言い回しをしたルーナリアを唯の一度も責め立てはしなかった。

 だからこそルーナリアは、言いすぎたのではないかと思い始めていた。

 言い分は唯の予想ではない。物証こそないものの、間違ってはいないことだと思っている。けれど、物証がないのは事実だ。ただの夢物語だと思われても何も言えないのだ。


「言葉が過ぎました。皆様が優しいのをいい事に、申し訳ありません」


 ルーナリアが言葉を紡ぎ終わって暫くしてもなお誰も口を開かない様子に、ルーナリアは深く頭を下げた。


「リアが謝る必要はない。少し考えていただけだ」


 すぐに肩に手を置かれ、頭をあげるとウィルフレドが渋い顔をしてルーナリアを見つめていた。


「リアの言っていたことは、なかなか興味深いよ。証拠が何もないから仮説として扱うしかないけど、調べてみる価値はあると思うな」

「マルク様…?」

「僕は偉大な魔法の使い手となるより、研究に身を置きたいんだよね。魔法を展開するのも嫌いじゃないけど、調べる方が性に合ってるからさ」

「そうだな。調査はマルに任せよう。それで構わないな、ウィル」

「あぁ。俺も調べてはみるが、マル主体の方が捗るだろう。父と仲のいいフォルマでも掴めない事実を俺が掴めるかと言われると何とも言えないからな…」

「確認だけど、ウィルはリアに言われるまでこの話を知らなかったし、何も知らないと思って…いいんだよね?」

「…残念ながら。何も知らなかった。疑問に思った事さえなかった」

「それは僕たちだって一緒だ。ウィルが自分を責める必要はないよ」

「あ、あの…」


 自分中に進んで行く話に、ルーナリアはただ目を丸くしていた。

 3人は、自分の話を検証しようとしている?何の証拠もなく、ただの妄想と言われてもおかしくない話を、信じている?


「リアの話は、検証の余地がある。だから調べたい。他にもリアが考えていることがあるのなら、聞きたいんだが」

「でも、殿下、私の話はただの想像でしかないのですよ」

「リアがどんな覚悟でこの話をしたのかは分かっているつもりだよ。確かに僕たちは当事者じゃない。虹ではないからと、何も考えていなかった。助けてもらう側の当事者であるはずなのに、全てを委ねているだけだった。そのことを猛省している」

「殿下…」

「リアが当事者であるということはもちろんだけれど、この国の国民がその役を担ってくれる事は確かだ。虹の魔法使いが、どんな顛末を辿るのか、王族として知っておく必要はあると思う。それに気付かせてくれたことに感謝している」


 ウィルフレドの真摯な言葉に、ルーナリアは驚きを隠せない。


「君は、リスクを承知で僕達と一緒にいることを選んでくれた。僕達といることを大切だと思ってくれているからだろう?僕達だって同じだ。リアのことを大切だと思っている。リアと過ごす時間を大切だと思っている。だから、リアの言うことを信じる。そして、リアが虹の魔法使いである可能性も含めて、虹の魔法使いについて調べたいんだ」


 ぎゅっと、真剣な表情のまま、ウィルフレドはルーナリアの手を握った。

 ルーナリアが虹の魔法使いである可能性を考慮するということは、ルーナリアの考えに基づけば、ルーナリアが命を落とす可能性があるということ。それを思うと、ウィルフレドはじっとしていられなかったのだ。

 ざわざわする心を、必死に抑えていた。


「君が知っていることを、君が考えついたことを、教えてくれないか」

「……分かりました」


 ルーナリアはその手を握り返し、答えた。






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