王子殿下
眩しいほどの金髪に金色の瞳。それを持つ人間は、イングラム帝国には数えるほどしかいない。その人が学園の青いタイをしているとなれば、それが誰かはさほど考えなくとも分かる。
さらにはそれを裏付けるかのように、きらびやかに装飾された剣を帯剣している。これがその人でなければ、誰がその人なのだと言いたくなる。
「失礼を承知で申し上げます。ウィルフレド・イングラム王子殿下でいらっしゃいますよね」
学園内での最敬礼は禁止されているので、せめてもと、視線を合わせないように俯き加減でルーナリアはその人の名を呼んだ。庶民である自分がもてる、最高の言葉使いを以って。
「なんだ。私が誰か分かっていたのか」
ウィルフレドはいたずらがバレた子のように、わざとらしく両手を胸のあたりまで上げ、とぼけたような顔を見せた。
「金色の髪に、金色の瞳は王家の人間に語り継がれるものと聞いております。変化の魔法で金色の瞳を用いるのは禁じられていますから、この学園内でその容姿をされるのは王子殿下以外おりませんかと。帯剣されているのも、王家に伝わる宝剣ではないか、と。それから…、お連れの方はスナイデルとお見受けします」
「分かっていてその反応とは、なかなか肝の座ったレディだな」
ふむ。と値踏みするような目つきで、ウィルフレドはルーナリアを見る。
大体の者は、ウィルフレドを見ると慌てて礼をとったり、ご機嫌伺いをする。特に庶民であれば、普通ならばその姿を目に写すことすら許されない存在に、動けなくなったり、顔色を失う者すらあるのだ。
恐れるでもなく、気を張るでもなく、しかし王家の者を前にして最低限の礼儀はわきまえ、声を震わすことなく淡々と意見を述べる。それが簡単ではないことだとわからないルーナリアではない。
「魔法を習うに当たって、感情の乱れは一番の敵であると学びました。それに……学年カラーは赤ですから」
「…あぁ」
察しろとばかりに最後まで述べなかったルーナリアの言葉の意味を、ウィルフレドは的確に汲んだ。
「赤には我が弟がいたね」
あれ、なんか短い・・・?