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こっちのお話の書き方をすっかり忘れてしまったようです…。リハビリせねば…。

「殿下は、時々すごく鋭い事を言いますよね」


 口にしていた最後のサンドイッチを嚥下し、ルーナリアは包んでいたハンカチを移動魔法で消した。


「父の前で怯えて見せていた姿は演技なのかなぁと思う程、カチッと切り替わりますよね。そしてちゃんと物事を見ている」

「確かに、切り替えは分かりやすいかもしれない。…が、フォルマの前で演技をするとしたら、自分は怯えていないと強がる方だ。情けないが」


 ウィルフレドは射抜くような目でルーナリアを見ていたが、思いがけないフォルマの話で少し気が揺らいでしまった。そんなウィルフレドを横目に、ルーナリアは一度空を仰いだ後、ウィルフレドに体ごと向き直り、頭を下げた。


「申し訳ありません。殿下のことを試してしまいました」

「気にしていないから頭を上げて、リア」


 そうは言われても即座に頭を上げられないのが庶民だ。王族相手にそれなりのことをした自覚があるゆえに、ルーナリアは頭を上げなかった。


「僕達は知り合ってまだ浅い。心から信頼を置けないのは当然だ。けれど、リアが何を思って僕達を試し、信じる材料を得ようとしたのかは分かっているつもりだ。だから、頭を上げて欲しい」


 フォルマの前で虚勢を張っていたのは誰だったかと思う程堂々とした言葉に、ルーナリアはゆっくりと頭を上げた。ウィルフレドの顔つきは王子殿下のそれで、ルーナリアは目をそらすことができず、じっと見つめる。


「そもそも無詠唱を隠し通す気はあったのか?」

「学園内では、隠し通すつもりでした。ですが、殿下と一緒にいるようになってからは、難しいだろうと思っていました。学園内に魔物が現れるようでは、ますます無理だろうと…」

「それは、僕を守る為?」

「はい。授業であったり演習であったら、相手は人間ですし、詠唱魔法で対応できます。私は補助魔法の成績はいい方ですが、それ以外はさほど良くはないのでごまかすことも難しくありません。ですが、何が起きるかわからない魔物相手に、不慣れな詠唱をする方が危険だと思ったのです。不測の事態になれば、私は慣れている無詠唱を選択します。ですから、いつかは知られてしまうだろうと思っていました」


 学園内で魔法を使う時は、詠唱をしたり、詠唱をしているふりをするのが常になっていた。誰もいないとわかっている時は無詠唱だが、気配には気を払っていた。だから、ルーナリアがウィルフレド達の前で無詠唱魔法を使ったのは、意図的だったのだ。先ほどの巨大生物のことを除いては。


「リアは、どうしてそんなにしっかりしているんだ?まるで、貴族教育や騎士の教育を受けた者のようだ。ここまで忠誠心に厚い庶民など初めて見る」

「そんなことはありませんよ。目にすることがなかっただけで、私程度の思いを持った庶民はたくさんいるはずです。殿下の盾になりたいと思う者は、たくさんいますよ」

「盾……、盾…か。リア、頼むからフォルマの前でそれは言わないでおいてくれよ」


 ウィルフレドの顔が、一気に王子殿下からウィルフレド個人の顔に戻った瞬間、ルーナリアは思わず笑みをこぼした。


「言いませんよ。ですが殿下、そんなに気にしなくても大丈夫じゃないですか?」

「いや!フォルマは見逃さない。聞き逃しなどしないはずだ。リアが俺の盾になるなどと聞いたら、絶対に殺される」

「そう…ですか…ね?」


 ルーナリアが首を傾げると、ウィルフレド達3人は何度も首を縦に振った。それを見て、ルーナリアは苦笑するしかない。フォルマはルーナリアにとっては強く優しい父だが、他の者にとっては恐怖の対象だ。それは理解しているつもりでも、ここまであからさまに恐れられると、やはり苦笑してしまうのだ。


「リア、僕は君を大切に思っている。君が僕を守るというのなら、僕は僕なりに君を守りたい」


突然真剣な表情に戻ったウィルフレドに、ルーナリアは驚いて言葉を失った。いつの間にか左手を握られ、唇を寄せられている。


「で、殿下っ!?」


ウィルフレドの唇の感触に、ルーナリアは一気に顔を赤くした。逆隣にいるマルクランはニヤニヤ楽しそうに笑っているが、ルーナリアの死角にいるために気付かれていない。レイアードはやれやれという顔で2人を見ていた。


「リア、俺だって守られるばかりでいるつもりはないんだ。自分だけ安全圏で高みの見物をしているのは嫌だ。俺には国民を守る義務だってある。リアのことも守りたい」

「殿下…」


大切なことを言われているのは分かるが、左手に口付けたまま話されているために、ルーナリアは全く集中できていなかった。

何故口付けるんだ!王族貴族にはそんなマナーでもあるのかと言いたくなるほどだったが、動揺しすぎていて声も出ない。とにかく心臓がドキドキしていてうるさかった。


「で、殿下っ!もう殿下が何を言っているか分からなくなりそうなので、手を離してくださいっ!」

「え?」

「もうっ!そのスキンシップは私には過剰なんです!」


顔を真っ赤にしたルーナリアが力を振り絞って左手をブンブン動かすと、ウィルフレドは目を丸くし、レイアードとマルクランは吹き出した。


「言いたいことはなんとなく分かったので、取り敢えず手を離してください!」


その後しばらく恥ずかしがって顔を隠していたルーナリアを、ウィルフレドは嬉しそうに、残りの2人はニヤニヤ眺めて、今度は全員怒られたのだった。








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