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優しい選択

 あの時、巨大な生き物がルーナリアを捉えたあの時に、ゾクリと皮膚が粟立つのを感じるとほぼ同時に、反射的に右手をかざした。その右手から放たれたのは、上級の雷魔法。それは光の矢のように巨大生物に突き刺さり、そして突き抜け、致命的なダメージを与えた。

 しかし、パニック状態だったルーナリアは、魔法の程度を誤り、絶命させるには至らなかった。そしてパニックながらもこれ以上魔法を使ってはいけないと悟り、剣を手にしたのだ。

 その素早すぎる動作に、自分たちが目にしたものは幻だったかと思ったウィルフレド達だったが、そこに漂う残された魔力の流れに、ルーナリアが攻撃魔法を使った事が現実のことだと思い知らされたのだ。

 そして思い出す。

 ルーナリアは攻撃魔法を使えないとは言っていない。攻撃魔法を使いたくないと言っていたことを。


「ルーナリアが攻撃魔法を使えると知られた以上、そのままにはしておけん」


 フォルマの言葉に、ルーナリアは肩を震わせた。それは肩に手を置くフォルマにわかりやすく伝わったろうが、フォルマはそれを感じさせない。

 ウィルフレド達も次にフォルマが放つ言葉に備えるべく、息を飲んだ。


「俺とお前達の仲だ。特別に選ばせてやろう。ここで死ぬか、記憶を消されるか、どっちがいい」


 楽しそうに笑みを浮かべて言ったフォルマの言葉に、ウィルフレド達三人は数秒息を止めた。

 まともな選択肢はないだろうと思っていたけれど、まともじゃなさすぎる。しかも王族と上級貴族相手に、躊躇なく死を告げるとは反逆罪ものだ。そしてそれを惑うことなく実施するのがフォルマだ。

 ウィルフレド達は一気に緊張に包まれた。


「記憶を消すなど…禁術だろう?」

「だからなんだ。消されてしまえば誰にも分からん」

「禁術を使えるのか」

「さぁ、どうだろうな。俺に使えない魔法などこの世に存在したか」

「……っ」


  フォルマは魔王のような雰囲気を漂わせ、さらにニヤリと笑った。

 前者を選ぶことはできない。フォルマと争ったところで勝てる見込みはない。ものの数秒で三人まとめて殺されてしまうのが目に見えている。

 後者は…想像もつかない。記憶を操る魔法は禁術とされており、その術式は王宮の書庫の奥、王のみが鍵を持ち、他は立ち入り禁止となって厳重に管理されている。


「俺達からリアの記憶を全部消そうというのか」

「その方が手っ取り早いだろう」


 やはりフォルマは禁術を使えるということか。ウィルフレドは顔を顰めた。いつの間にかフォルマの左手には、黒い杖が握られている。少しばかり難解な魔法でも、杖を用いることで魔力の流れが安定し、展開できるようになるのだ。

 レイアードとマルクランはウィルフレドの判断に従おうと、言葉を発せずに後ろに立っている。

 命を落とすわけにはいかないが、ルーナリアの記憶を消されることは簡単には了承できなかった。後でレイアードから説教をされるかもしれないが、それでもルーナリアを失うのは嫌だとウィルフレドは思っていた。先程、巨大な生き物に襲われた後、抱きつかれたルーナリアの温もりをまだ覚えている。震えていた体に、涙に濡れた瞳。守りたいと思ったのは、つい先ほどのことなのだ。


「それではリアが一人になってしまう」

「なんだと?」


 ウィルフレドの言葉に、ルーナリアは伏せていた目をあげた。フォルマはさらに目を細める。


「リアは学園で一人だった。それでいいと思っているのかもしれないが、寂しいだろ。俺達といることで面倒なことも確かにあるだろう。でも、また一人に戻るよりはいいと思っている。リアは成人もしていない女の子なんだぞ。フォルマもいない学園で一人寂しくしているとは思わなかったのか」

「なんだ。俺を責めているのか」

「そんなつもりはない。ただ、リアがどう思っているのかを知った上でどうするか決めてもいいではないか、と言っている」


 ウィルフレドは視線をそらすことなく、フォルマに言い放った。心臓がバクバクしていたが、それを悟られないのが王族だ。そのための教育を幼少の頃から受けてきたのだ。

 ウィルフレドの言葉を経て、フォルマはルーナリアに視線を落とした。信じられなかったのだろう、目を丸くしてウィルフレドを見ている。


「リア、僕達は君の秘密を誰にも言わない。誓いを立ててもいい。リアが思っている以上に僕達は君を気に入っているし、大切だと思っている。だから、どうか僕達を信じてほしい」


 ルーナリアの前に進み、片膝をついてウィルフレドは語りかけた。その瞳は澄んでいて、偽りは見えない。

 戸惑いながら視線を巡らせると、ウィルフレドの後ろに立つレイアードとマルクランが真剣な瞳でルーナリアを見つめ、頷いた。


「父様…、あの…」

「信じるか?」


 おずおずとルーナリアが父を見上げると、真剣な顔のフォルマが尋ねた。


「信じて…みたい」


 その言葉に、ウィルフレド達三人はほっと息を吐く。


「分かった」


 フォルマはルーナリアの頭を優しく二回ポンポンとし、少しだけ微笑んだ。ルーナリアは泣きそうな顔で笑い、それに応える。


「ただし、約束を違えた場合、お前達の存在は消されると思え。俺は躊躇しない」

「もちろんだ」


 恐ろしい脅しをかけられたにもかかわらず、ウィルフレドは清々しい笑顔をルーナリアに向けた。それに救われるかのように、ルーナリアも少しぎこちないながらも笑顔を返した。





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