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巨大生物の正体と、フォルマの怒りと

更新遅くてすみません…。

 フォルマのズボンの裾を上げることなく、何も見ずともどこを負傷しているのか分かっているかのように、ルーナリアは手をかざして治癒魔法をかけていた。当然のことのように、フォルマもそれを受け入れている。その異様な光景を、ウィルフレド達三人は呆然と見ていた。

 フォルマが怪我をしたところなど見たことがないから、おとなしく治療されている場面も見たことがない。治癒魔法を受けているのだから、本当に怪我をしているのだろう。それだけで衝撃が大きすぎて、金縛りにでもあったかのように、固まっていた。

 そしてその間に、治療は終わった。


「どうかしら?」


 手を下ろし、ルーナリアはフォルマに尋ねた。


「ん、問題ない」

「良かった」


 ほっとして嬉しそうにルーナリアは笑った。そしてすぐに、くしゃっと顔をしかめ、泣きそうな顔になる。


「父様、ごめんなさい…」

「お前が気にすることなど、何もない」

「…ごめんなさい…」

「いいんだ」


 涙をこらえるルーナリアに、フォルマは無表情のまま、頭を撫でた。


「…ありがとう…」


 目をぎゅっと閉じ、消えそうな声でルーナリアは言葉を紡いだ。フォルマはそれに、軽く頷いて答えた。


「しかしお前はまだあれが苦手なのだな」

「山ならまだしも、学園ではあれが出ることなんてないもの。しかもあんな大きさよ。私じゃなくたって、レディなら誰でも震え上がるわ」


 フォルマにからかわれ、ルーナリアは口を尖らせる。


「あれが巨大化したのはこいつのせいだろう」

「これは…」


 ルーナリアの頭から手を離し、フォルマはその手に親指の先ほどの大きさの石を出した。


「魔石…?」


 緑黒い色をしたそれからは、魔力が感じ取れた。

 ルーナリアの言葉に、ウィルフレド達三人も魔石に目をやり、各々顔を顰めた。


「大方、どっかのバカがあれに仕込んだんだろう。そうじゃなきゃあんな巨大化するわけがない。まぁ、この森で、わざわざここまできて魔石を落とす阿保がいないとも限らないがな」

「意図的に…っていうこと?」

「それはお前らが調べるんだろう?」


 ルーナリアの問いに答えることなく、フォルマはレイアードに向けて魔石を指で弾いて飛ばした。魔石を受け取ったレイアードは、ますますその眉間のシワを深くした。


「誰のものか分かったか」


 レイアードの反応で答えを読み取り、フォルマはフンと鼻を鳴らした。

 魔石は魔力を持つものが自身の魔力を込めて作り出すもの。普通の魔法使い程度なら分からないが、魔力の多い者がそれに触れれば、誰の魔力が込められた物なのかは大体わかる。それを隠す術もあるが、レイアードにそれは通用しない。フォルマにはもっと通用しないだろう。


「俺はその問題に巻き込まれはしない。お前達で勝手にどうにかしろ」


 フォルマはどうでもいい事のように言ってのけた。しかし、フォルマから発せられる怒気のこもった低い声が、そうではないのだとウィルフレド達三人に知らせている。


「ただし、我が娘に害をなした事だけは絶対に許さん。お前達で始末をつけられないのなら、後悔することになるのだと心しておけ」


 帝国の終焉を予告されたのだと、フォルマからの鋭い視線を受け、三人は今日何度目になるのか分からないまま背筋を凍らせた。

 フォルマは調べることを放棄したのではなく、犯人が誰かを分かった上で、猶予という慈悲を与えたに過ぎない。今すぐ犯人を消し去ってもいいのだが、幸いルーナリアは無事だ。帝国の第二皇子と一緒にいた場での出来事で、しかも学園敷地内での出来事であるから、ウィルフレド達三人にこの件を収めるチャンスを与えたに過ぎない。フォルマがウィルフレドと旧知の仲でなければ、とっくに犯人はこの世を去っているだろう。更には関係者全てを問答無用で葬り去り、帝国を揺るがす事も考えられる。


「当然だ。リアを巻き込んだことを許すわけがない。必ず見つけて処分する」

「ルーナリアの心優しさに感謝するがいい。これは血を嫌うからな」


 フォルマから放たれる凄まじい冷気にどうにか立ち向かったウィルフレドは、心の中でため息をついた。帝国王である父と対峙するよりも精神を削られることに、頭痛さえ感じる。

 しかし、これは帝国の危機だ。戻り次第早急に対応しなければならないとレイアードと目配せをした。レイアードは既に犯人が誰か分かっている。その上で対応を練っているだろう。

 頭をフル回転させようとしているウィルフレドとレイアードの元に、さらにフォルマの低い声が落とされる。


「して、お前達はルーナリアが魔法を使うところを見たのだな」

「……!」


 次なるフォルマの言葉に、フォルマ以外の全員が息を飲んだ。

 ルーナリアの肩を抱きながら問いかけたフォルマに、全員がなんと言葉を返そうかと口ごもる。当のルーナリアも気まずそうに目を伏せた。


「見たのか見ていないのか、どちらかと聞いている」


 答えのないことへの苛立ちを隠すことなく、フォルマは畳み掛ける。


「…見た」


 先に答えたのはウィルフレド。次いで残り二人も見たことを告げた。ルーナリアはそっと下唇をかみしめる。


「何を見た」

「…リアが、無詠唱で、攻撃魔法を放ったところを、だ」


 自分の方を見ないルーナリアに気まずく思いながらも、ウィルフレドは自分が先程目にしたことを告げた。

 攻撃魔法を使えないルーナリアが、攻撃魔法を使った、そのことを。



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