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苦手なものと大切なもの

体調を崩していました…。

更新が遅くてすみません。

「殿下、先程は助けて頂いてありがとうございました」

「ん?…あぁ、あれは僕が助けたというより、レイとマルの方だろう。僕は何もしていないよ」


 改めてお礼の言葉を述べたルーナリアに、治癒魔法ではなく巨大な生物とのことだと気付き、ウィルフレドは苦笑しながら言った。本当に何もしていないのだ。ウィルフレドはあの巨大な生物に指一本触れてはいないし、魔法も打っていない。


「いち早く助けに来てくれました。本来ならば、殿下に助けられることなど、あってはなりません」

「…後から説教が待っているだろうな…」

「すみません。でも、本当に怖くてたまらなかったので、心強かったです」


 王族は護られるべき対象であり、その王族に助けられることなどあってはならない。しかも、王族が率先して救助に向かうなど、ありえないことだ。その対象が庶民となれば、なおのこと。

 しかし、ウィルフレドは自分の本能のままに動いてしまった。ルーナリアを助けなければと、それしか考えられなかった。人間としては当然のことで、誇らしい行動かもしれないが、王族となれば正反対だ。

 国民を守ることは王族の務めだ。貴族の務めでもある。しかし、王族が国民を守る方法は、身体を張ることではない。政で国民の生活を保障し、豊かにし、生命を守ることがその務めであり、国民が脅威にさらされぬように治安を維持するのだ。物理的危機から守ってやるのは、騎士、衛兵の仕事だ。絶対に王族がすべきことではない。

 王族の手本となるべき行動と正反対のことをしてしまったウィルフレドは、後でレイアードから長々と説教を受けるだろう。それは決定事項だった。

 それを分かった上で、ルーナリアは謝罪とお礼を告げていた。


「それにしても、反撃が速かったな。あんな速さで攻撃できる女子は学園にいないだろう」


 説教のことをなるべく考えないように、ウィルフレドは話を変えた。


「…ダメなんです。ああいう生き物が」

「ん?」

「あの、手足がなくて、にょろにょろ動く生き物が、どうしても苦手で、見るのもダメなんです。それなのに掴まれたりしたから、もう気が動転してしまって」


 思い出したくないと言うようにぎゅっと目を閉じ、ルーナリアは両手で頬を抑えながら訴えた。

 ルーナリアは山育ちながらも、蛇が大の苦手だった。アレだけはどうしても慣れることができず、見かけた瞬間全速力で逃げるか、即座に始末するか、フォルマにしがみつくか、とにかく少しでも自分の視界に入らないようにしてきたのである。それなのに今回はあの大きさだ。そして絡みつかれたのだから、人生最大のパニックに陥ったと言っても過言ではなかった。

 思い出しても震えてしまいそうで、ルーナリアは自分の体をぎゅっと抱きしめた。


「アレは女子で得意なものは少ないだろう。…あぁ、だからフォルマは消したのか」


 ルーナリアの言葉を得て、先ほどのフォルマの強力な魔法の理由をウィルフレドは理解した。すでに絶命している巨大生物を、態々消し炭にしたのは腹いせか何かかと思っていたが、娘が苦手とするものを消し去るためだったのかと思えば納得がいった。


「いくら苦手とはいえ、しがみついてしまってすみませんでした。私が触れていい方ではありませんのに…」

「何言ってるんだ。リアなら大歓迎だよ。寧ろラッキーだったくらいだ。リアならどんどん触ってくれていいんだよ」

「それはおかしいですよ、殿下。私は庶民ですし」

「庶民だからなんだっていうんだ。僕はリアのことを本当に気に入っているんだよ。リアの可愛いところを見られて、浮かれているくらいだ」

「なっ…。もう、恥ずかしいから忘れてくださいっ」


 ニコニコ笑顔で告げるウィルフレドに、耐えきれなくなったルーナリアは両手で顔を覆った。恥ずかしさで顔が赤くなっていた。


「僕はね、リア、自分が大切だと思うものは自分で守りたいと思っているんだよ。王族としてそれは良くないことだと分かっているけれど、それをしない自分にはなりたくないんだ」

「国民を守りたいという気持ちは大切だと思います。それがなければ国を治められませんから。私は、一国民として、そんな殿下をお守りしなければなりませんね」

「堅っ」


 ウィルフレドの言葉にパッと顔色を変え、表情筋を引き締めて真剣に見つめ返してきたルーナリアに、守りの堅さを思い知る。


「リアは十分に僕を守ってくれているよ。さっきだって自分のことそっちのけで僕に防御魔法を使っただろう?」

「…気づいていましたか」


 バレていたのかと、ルーナリアは目を丸くした。


「気付くよ。まさかあの状況であの魔法が飛んでくるとは思わなかった」

「私だってまさか殿下がいらっしゃるとは思いませんでした。アレがどんな攻撃をしてくるかも分からなかったので、念のためにと思いまして」


 パニックの最中、助けようと近づいてくるウィルフレドに、ルーナリアは最上級の防御魔法をかけていた。自分が最も苦手な生き物に襲われ気が動転していても、護るべき対象が誰であるかを忘れることはなかったのだ。


「つくづくリアは規格外だなぁ。でも、ありがとう」

「殿下は、この国にとって大切なお方ですから。どんな状況でもお守りします」

「国じゃなくて、リアにとっての大切な人になりたいんだけどなぁ」

「お戯れはご遠慮ください」

「せめて、大切な友人だから、くらい言ってくれてもいいんじゃないかな」

「……殿下は大切な友人ですから、お守りするのは当然のことです」


 少し考えた後、ルーナリアはにっこり笑ってウィルフレドに告げた。その言わされている感に、ウィルフレドはただ苦笑するしかなかった。やはり、ルーナリアは一筋縄ではいかないとため息をこぼしながら。






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