襲撃と襲来
ブックマークありがとうございます。
遅め更新ですが、頑張ります。
「いやぁーっ!」
「リアっ!」
湖から這い出た何かがルーナリアの両足に絡みついて、引きずり込もうとしている。不意のことに足を取られ、ルーナリアは尻餅をつきながら、蛇にしては大きすぎる何かへの恐怖で悲鳴をあげた。
そう、蛇ではない。突然湖の中から現れ、ルーナリアを襲った何かは、蛇のような、鰻のような形をしているのだが、細くないのだ。太くて長い、赤褐色に近い色をした、見たことのない生き物だ。その太さは人の体ほどある。その太さでルーナリアの足に絡みつき、さらに膝から上に絡み付こうと頭を動かしていた。
少し後ろにいたウィルフレドは瞬時に剣を抜き駆け寄る。
さらに離れたところにいたレイアードも剣を抜き駆け出し、マルクランは魔法の詠唱を開始していた。
「ヤダヤダヤダっ!」
しかし、誰よりも早くその何かに反応したのは、他ならぬルーナリアだ。
絶え間無く悲鳴をあげながら、左手を何かに向け、素早く腰に下げていた短剣を手にし、蠢く何かを自分の足より下の部分で真横に切り裂いたのち、自分の足を避けて頭と思われるところに突き刺した。
「うぅっ!」
何かが動かなくなった事をしっかりと確認は出来なかったものの、恐怖に囚われたルーナリアは、その場を離れようと両手を付いて踏ん張るが、全く動かない。足に絡みついた何かは自分の力では払えず、動けなかったのだ。
「リア、掴まれっ!」
「殿下、来てはダメですっ!」
「いいから!」
ウィルフレドは持っていた剣を投げ捨て、ルーナリアを抱き起こすと、右足でその何かを蹴り上げたのち踏みつけ、ルーナリアの足から引き剥がしにかかる。しかし、一巻きは絡みついており、なかなか離れない。
「レイ!」
「任せろっ」
駆けつけたレイアードが、炎を纏った剣を振りかざし、ルーナリアからその何かを引き剥がすように剣を横向に突き刺して引っ張った。
少し隙間ができたところで、ウィルフレドがルーナリアをさらに引っ張り上げ、何とか蛇のような巨大な生物はルーナリアから完全に離れた。
「レイも離れてー」
マルクランの声に反応し、レイアードは剣を抜き、素早く後ろに飛んだ。それと同時に、バリバリっと音を立てて雷が巨大な生物に落ちた。巨大な生物はまっ黒焦げになり、動かなくなった。恐らく絶命しているであろう。ところどころ、プスプスと音を立てながら煙を上げている。
「ご、ごめん…なさっ…」
「大丈夫だ。もういない。大丈夫だ」
足から巨大な生物がいなくなり、ルーナリアはホッとしてウィルフレドの胸で涙を流していた。カタカタと体を震わせ、ウィルフレドの背中をぎゅっとつかんで離さない。見たこともない巨大な生物に襲われたのだ。恐怖に震えるのは当たり前だ。ウィルフレドは、できる限り優しく背中を撫で、ルーナリアを慰めた。
触り心地の良い紺色の髪を撫でながら、ウィルフレドは思う。魔物に襲われた時は全く怯えた様子はなく、勇ましく立ち向かっていたけれど、正体不明の生き物にここまで怯えるとは、やはり女の子なのだなと。あの時も本当は怖かったのかもしれない。使命感からそんな様子は全く見せなかっただけとも。剣を振るえても、自分で自分の身を守れても、守ってやらねばならないと強く思った。
「これ…なんなの。魔物じゃないよね」
「しかしこんな獣も見たことない」
少し離れていたレイアードとマルクランが、巨大な生物に近寄り、観察を始めた。
体の半分以上は湖に浸かっており、全体像は見えない。加えて雷魔法を受けており、焦げているためになんだかよく分からない。とにかく大きく、蛇のような形をしている。
「何があった」
「「え?」」
突然レイアードたちの背後から、この場にいる四人以外の声が発せられた。
「まさか…フォルマ?」
「何!?」
振り返ったマルクランが出した言葉に、ウィルフレドは慌てて顔を上げた。
声のした先、レイアードとマルクランの背後にいたのは、この国最強の魔法使い、ダンテ・フォルマその人に間違いなかった。




