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ルーナリアのお昼ご飯

 びしょ濡れのまま、呆然としていた…ように見えたルーナリアは、演習場から他の生徒がいなくなったのを確認し、フルフルと大きく全身を左右に振った。途端に大量の水滴がルーナリアの周りに落ちる。

 髪にはまだ少し水滴が残り、陽の光を浴びてキラキラと輝いていたが、しかし髪の毛はおろか、服も体もびしょ濡れではなかった。


「攻撃魔法が使えないだけで、防御魔法は得意なんですけどね」


 いい加減誰かしら気づいてもいいと思いますけど。誰に聞かせるでもなく、ルーナリアは呟いた。


「ま、気づかなくていいんですけど」


 先程の令嬢が魔法詠唱をしている最中、ルーナリアは水の落ちてくるだろう場所を特定し、少しばかり前にずれた。それと同時に、ずぶ濡れになったと見える程度の水滴が残るよう計算した防御魔法を展開した。

 仕方がないので水は体で受け止めたが、衝撃が減るようにと少し前に出て、後頭部にかかるようにしていた。水量の予想も付いていたので、防御魔法には衝撃緩和も増やされていたけれど。


「大体、この制服防水ですからね。水で攻撃を仕掛けるなら、上からじゃなくて横とか下からでしょうに。バケツよろしく濡らすだけで喜ぶなんて、ホントどこの三文小説よ」


 仕上げにパパッと手で制服の水を払い、悪態をつきながらルーナリアも歩き始めた。


 この学園の制服は、防水だけでなく、防炎、防塵など様々な防御魔法が組み込まれている。実技演習時にいちいち着替えなくていいように、全て制服でまかなえるようにと考慮されているのだ。

 その他不慮の事故、不測の事態に備え、生徒達の安全を守れるよう、制服だけでなく様々な事に気を配っている。全寮制の上、貴族の子を多く預かっているのだから、用心に用心を重ねているのだ。

 その反面、さっきのような貴族の子女が庶民に嫌がらせを行なっていても、対応されることはほとんどない。在学中は家名を伏せ、生徒皆平等と謳いつつ、実際は身分差がモノを言う。上級貴族の不興を買いたくない教師は多いし、将来的な結びつきを考えて、媚を売っておこうと考える生徒も多い。所詮は身分社会だ。学園に入ろうと、出ようと、身分がモノをいうのだ。


「さ、お昼ご飯にしましょ。びしょ濡れの設定だから食堂には行けないし。どこで食べようかしら」


 この学園には大きな食堂があり、貴族の舌を満足させるレベルの食事が提供されている。

 しかし、嫌われ者のルーナリアは、小競り合いを避けるためにもあまり食堂は利用していなかった。弁当を持参することは許可されているので、大体人気のない裏庭で食べていた。

 特に今日のような実技演習のある日は、貴族に攻撃を仕掛けられることが多い。攻撃されている程を取るためにも、食堂には行けないのだった。理由が何であれ、そもそも食堂には行かないのだけれど。


 裏庭の、さらに人気のない木陰を選び、ルーナリアは腰を下ろした。敷物を敷かなくても、防塵加工をされている制服は汚れることがないので楽チンだ。

 こういうところを貴族に見られると、汚らわしいものを見るような目で、吐き捨てられるようにこれだから庶民は、などと言われるが、そんなことはいちいち気にしていられない。程よく空腹を訴えるおなかに、食べ物を入れることの方が先だ。空腹でお腹を鳴らせば、また貴族達にうるさく言われるのだ。それもまた面倒臭い。

 貴族達は自分達をいかに美しく見せるかに心を砕いている。それが一生の仕事のようなものでもあるのだから、そのことに苦情を申し立てるつもりはないが、こちらは庶民なのだから放っておいて欲しいとルーナリアは常々思っていた。


「私のサンドイッチちゃーん」


 今朝方作っておいたサンドイッチを思い浮かべると、ルーナリアの広げた両手の中に、ポスンっとサンドイッチの入った包みが落ちてきた。

 せっかく作ったお弁当を教室に置いておいて、誰かにいたずらされないとも限らないので、ルーナリアは作ったお弁当はいつも寮の自室の日の当たらないところに置いていた。そして食べる時に魔法で呼び出していた。


「今日も美味しい」


 食前のお祈りをし、サンドイッチにかぶりつく。そしてルーナリアは今日一番の笑顔を浮かべた。


「余り物とはいえ、お貴族様が利用する食堂の食材は最高級品よね。焼いてはさんだだけでひたすら美味しいわ」


 ルーナリアのお弁当は、寮の食堂の余りをもらって作っている。今日はチキンのソテーとレタスを挟んだものと、ハムとチーズをはさんだものの二種類。食堂に行く時間すら惜しんで勉強をしたり、実技訓練をする庶民のために、食材の余りは無償で提供されているのだ。

 ちなみに、貴族は食堂に行けないほど余裕のないスケジュールを組むなんていう、優雅と程遠いことをすることはまずない。気分を変えて食堂ではないところで昼食を食べたくなった場合は、わざわざシェフにそれ用のメニューを作らせて、お付きのものに日当たりの良い場所にテーブルから椅子から何から何まで準備させ、仰々しいランチタイムを過ごす。庶民には全くもって考えられない贅沢だ。


「私はこれで満足なんですけどね。むしろ、これが最高ですから」

 

 誰に聞かせるでもなく、ルーナリアは満足げに言って、サンドイッチを食べ終えた。


なかなか話が進まない・・・。

攻撃魔法以外は色々魔法を使えるルーナリアさんです。

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